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五十五話 星貴妃の新たな愛人? その三

大変ながらくお待たせいたしました。文字数少な目ですが、隔日更新でしばらくはお届けする予定です。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 珊瑚は游峯ゆうほうを引き連れ、牡丹宮へと戻る。

 十六歳と年若い少年は、多感な時期のようだった。果たして、仲良くやっていけるものか。


 玄関に入る前に、珊瑚は游峯を振り返った。


「えっと、ここが牡丹宮です」

「知ってる。毎日警備していたし」

「で、ですよね」


 游峯は紘宇こうう以上にツンケンしていた。

 珊瑚は引き攣った愛想笑いを浮かべ、中に入る。


 廊下を抜け、柱廊を通し過ぎ、星貴妃の待つ寝屋へと案内した。


「この先をまっすぐ行った先に、星貴妃様の寝所があります」

「ふうん。良い御身分だね。明るいうちから寝所で過ごすなんて」

「外に漏らしたくない話をする時は、寝屋でするので」


 暗に、星貴妃は一日中寝屋に引きこもっている場合ではないと伝えておく。

 寝屋の前で待機している女官達は、見目麗しい美少年游峯を見るや否や、目を輝かせていた。

 その反応を見た珊瑚は、良かったと口元に笑みを浮かべる。この閉鎖的な後宮内で、若く活発な游峯の存在は清涼剤となるだろうと確信していた。


 傍付きの女官に新しい愛人を連れてきた旨を伝える。すると、寝屋の中にいる星貴妃のもとへ報告に行った。

 それほど待たずに、中に入るようにと招かれる。

 帳が下ろされた寝台の前に膝を突き、声をかける。


「星貴妃様、閹官の煉遊峯を連れてまいりました」

「ごくろうであった」

「くうん!」


 星貴妃の返事のあとに、たぬきが鳴く。どうやら、ずっと一緒にいたらしい。

 帳より、白い手が差し出される。わずかに手を動かすと、隙間からたぬきが顔を出した。


「くうん、くうん!」


 戻ってきた珊瑚を見て、喜んでいる。


「な、何、あれ?」

「狸のたぬきです」

「は?」

「狸のたぬき」


 游峯は怪訝な表情で、珊瑚とたぬきを見比べる。


「なんでここに狸がいるの? 食材?」

「違います、食べません! たぬきは私のお友達です!」

「……」


 頭は大丈夫なのか。そんなことを言いたげな顔で、游峯は珊瑚を見ている。

 いつもツッコミを入れていた紘宇不在の中で、話はどんどん逸れたままとなっていた。


「くうん!」


 たぬきは寝台から跳び下り、珊瑚のもとへと駆けて来る。

 尻尾を振って、珊瑚に身を寄せていた。

 甘えた姿に心がキュンとなった。


「たぬき、いい子にしていましたか?」

「くう~ん」


 珊瑚はたぬきを持ち上げると、頬ずりした。隣にいる游峯は、「狸が人に懐くなんておかしい……」と呟いている。


「珠珊瑚よ、たぬきはそれくらいにしておけ」

「も、申し訳ありません」


 つい、仕事を忘れてたぬきを戯れてしまった。珊瑚は己を恥じる。


「二度と、このようなことはないようにいたします」

「よい、気にするでない。それよりも、報告を続けろ」

「はっ!」


 なぜ、游峯を選んだのか、紹介をしなければならない。

 珊瑚は言葉を選んで報告する。


「彼、煉雄峯は、見た目が華やかでとても可愛らしく、腕も立ちます」


 近接戦闘は珊瑚が勝ってしまったが、反応や受け身の取り方を見ていたら鍛え甲斐がありそうだった。


「それから、十六歳と年若く、素直な性格で……」


 生意気な性格を、珊瑚は素直だと説明した。物は言いようである。


「なるほど。どれ、近う寄れ」


 帳から突き出していた手が、游峯を招く。


「ね、ねえ」

「はい?」

「あの人、いきなり襲うわけじゃないよね?」

「お話するだけですよ」

「う、わかった」


 まず、珊瑚が入る。

 続いて、たぬきが寝台に跳び乗ろうとしていたが、首根っこを游峯に捕まれる。


「狸は僕のあとだ!」

「く、くうん」


 たぬきは申し訳なさそうにしていた。


「別に、わかればいいよ」

「くうん!」


 真面目にたぬきと話す男、煉游峯である。


「何をしておるのだ。さっさと来い」

「わかったよ」


 先に游峯が寝台に入り、次にたぬきが跳び乗った。

 薄暗い寝台の中で、游峯は突然手を引かれた。


「――は!?」


 あっという間に押し倒される。

 目をまんまるにして驚く游峯に、にんまりと口元に孤を描く星貴妃。

 対照的な反応をしていた。

 珊瑚は苦笑いを浮かべるばかりであった。


「なっ、や、やっぱり、こういうことをするんじゃないか! だ、騙したな!」

「もともと、後宮はこういうことをするところだ」

「僕は、武芸会に出るために、ここに来たんだ!」

「ふむ。そうであったか」


 星貴妃は返事をしながらも、馬乗りとなった游峯から退かない。

 額を押さえ、身動きが取れないようにしていた。

 これは以前、珊瑚が星貴妃に教えたのだ。こうしていたら、どんな大男でも起き上がれないと。


「珠珊瑚、これはすごいな、本当に動けないようだ」

「なんなんの、これ? 妖術でも使えるの?」

「ふふふ」


 星貴妃が否定をしないので、游峯は余計に怯えていた。


「さて、どうするか」

「うわ~~、ババア、何をするんだ!!」

「ババアだと?」


 今までにこやかだった星貴妃の表情が、怒気へ染まっていく。


「お前は、世の二十五歳以上の女を敵に回したな」

「うるさい、うるさ~い!! 僕からみたババアがババアなんだよ!!」

「生意気な奴め! こうなったら、こうしてやる」


 星貴妃は游峯の脇に手を伸ばし――思いっきりくすぐった。


「あはは、ははは、止め、あはははははは!!」


 游峯は涙を浮かべて笑っていた。


「おい、珠珊瑚、お主も手伝え」

「えっと、その……御意」


 星貴妃様の言うことが絶対である。珊瑚は命令に従い、游峯をくすぐった。


「ば、馬鹿! あんたまで、ははは、あはは、許さな、はははは!!」


 游峯をくすぐる星貴妃は楽しそうな表情をしていた。

 心からの笑顔に見える。


 新しい愛人がやって来て良かったと珊瑚は思った。

 同時に游峯の犠牲は忘れないと、心に誓った。


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