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百十三話 ついに、再会

 騒ぎのせいで、見張りの男は目覚めてしまった。

 作戦を聞いていなかったのか、オロオロし始める。


 天幕の外を伺おうとしているのか、慎重な歩みで出入り口のほうを目指していた。

 珊瑚は素早く手足を縛っていた縄を解き、自由の身となる。

 懐を探り、作戦に使う道具を取り出す。

 見張りの騎士は、珊瑚の様子に気づいていない。外が気になって仕方がないようだった。

 野生の獣のように気配を殺し、足音もなく近寄ると──騎士の口元に薬品を沁み込ませた布を当てた。


「……はうん!!」


 短い悲鳴を上げ、見張りの騎士は倒れた。

 珊瑚はすぐに服を脱がせ、自分のものと交換させる。

 華烈の服を着せた見張りの騎士の手足を縛り、自らは騎士の制服を纏う。

 最後に黒髪のかつらを被せ、口には布を当てて縛り、寝転がせておいた。


 見張りの騎士も珊瑚と同じ金髪で、背格好も同じだった。この暗さでは、味方の騎士も見分けがつかないだろう。


 珊瑚は息を大きく吸い込んで、吐いた。


 ついに、絋宇のもとへと行ける。

 絋宇に会えるのだ。


 失敗はできない。気合いを入れて外に出る。

 華烈軍の襲撃を受けたからか、見張りの数は二人減っていた。


「おい、どうした?」

「すみません」

「ん、なんだって?」


 珊瑚は言葉を返さず、騎士の腹部に拳を沈めた。

 一発で、騎士の体は沈んでいく。どうやら気を失ったようだ。


 珊瑚はもう一度謝り、今度は背後を振り返らずに走り出す。

 華烈軍はまだ駐屯地の中へは辿り着いていないようだった。

 騎士達は戦闘態勢で待ち構えている。

 珊瑚はそんな中を全力で駆け抜ける。

 騎士の装いなので、呼び止める者はいない。


 これ幸いと、頭の中に叩き込んでいた絋宇の捕らえられた天幕まで走る。

 そしてついに、ヴィレが調べ上げた天幕まで辿り着いた。

 はあはあと肩で息をしながら、拳をぎゅっと握りしめる。

 珊瑚はすうっと息を大きく吸い込み、叫んだ。


「伝令! 伝令だ!」


 よく通る声に、天幕の見張りをしていた二名の騎士が珊瑚のほうを見た。


「レノン隊長より、緊急通達だ!」

「なんだと?」

「報告しろ!」


 ヴィレが偽造した手書きの命令書を見せた。


「南に配置してある第五部隊が劣勢にある。レノン隊長が今すぐ支援に行くようにと。ここの見張りは、私がするようにと言われている!」


 無防備なことにレノン隊長の机の上に騎士隊の承認印が置いたままだったので、この作戦をヴィレが思いついたのだ。

 騎士達は薄暗い中、角灯で書面を照らしながら内容を検めている。


「レノン隊長自らが助けを求めるなんて」

「緊急事態だ」


 騎士達はまんまと偽造した命令書を信じてしまった。


「ここは任せたぞ」

「了解です」


 珊瑚はびしっと敬礼を返し、騎士達を見送った。

 そして──。

 珊瑚はそっと、閉ざされていた天幕の布を捲った。

 天幕の中は薄暗い。しかし、人の気配は確かにあった。

 なんと声をかけていいのかわからず、入るのに躊躇っていたら鋭い声が奥から聞こえてきた。


「誰だ!?」

「あ、わ、私です」

「は!?」


 今まで聞いた中で、一番迫力のある絋宇の「は!?」だった。


「こーう、こーうは、いますか?」

「珊瑚か? 珊瑚なのか?」

「はい、そうです」


 そういえばと思い出す。外に、角灯が置きっぱなしとなっていた。

 珊瑚は一度天幕の外に出て角灯を手に取り、内部を照らした。

 捕虜だった珊瑚同様、絋宇の手足は縛られた状態だったが、服などは身綺麗だ。

 シャツとズボンを着ており、長い髪は三つ編みにしている。


「──っ!」


 いきなり照らしたので、絋宇は眩しそうに目を窄める。


「あ、ご、ごめんなさい」

「いい。それよりも……本当に珊瑚なのか?」

「はい。こーうを、助けにきたんです」


 珊瑚は感極まって、絋宇のもとへと駆け寄って抱き着いた。


「こーう! 良かったです。生きていて、よかった」


 珊瑚の眦に熱いものが溢れ、頬を流れていく。

 絋宇はいまだ、信じられない気持ちでいると呟いていた。


「夢のようだ」

「現実ですよ」


 珊瑚は絋宇の胸に頬を寄せ、「よかった」と喜びの気持ちを伝えた。


「珊瑚、すまなかった」

「い、いえ」

「また、会えてうれしい」

「私もです」


 身を寄せたままでいたかったが、そうもいかない。

 次なる行動に移さなければならないのだ。

 珊瑚は絋宇の拘束を解きながら事情を話す。


「すみません。ゆっくりしている時間はなくて……今からここを離れます」

「何が起こっている? いつもより騒がしいが」

「華烈軍に協力を頼み、メリクル王子の生存を伝えるための作戦が実行されています」

「そうだったのか」


 少ない情報で事情を把握した絋宇は立ち上がり、腕を回す。


「こーう、怪我は?」

「腕の良い医者のおかげで、ほぼ完治している。体は鈍っているが、極めて健康だ」

「よかったです」


 天幕の外にでると、戦場独特のピリピリとした雰囲気になっていた。

 珊瑚は周囲の様子を伺いながら、絋宇を誘導する。


 近くにある厩まで走る。幸いにも、見張りはいなかった。

 悪いと思いつつも、繋げてある馬を拝借した。


「こーう、行きましょう」

「ああ」


 あとは華烈軍と合流するばかりだ。

 だがここで、想定外の者が現れる。


「お前、そこで何をしている!?」


 それは、一小隊を率いるレノン隊長であった。


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