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百二話 驚きの再会

 宝剣の持ち主ということはすなわちち──目の前にいる美貌の男は珊瑚の元主人メリクル王子ということになる。


 絋宇は一度会っていたが、星貴妃は初対面であった。

 なるほどと思う。

 男嫌いの星貴妃でも、見惚れてしまうようなかんばせの持ち主であったからだ。

 絋宇がメリクル王子に嫉妬の念を向けるのも無理はない。


 そんなメリクル王子の視線は、宝剣に一点集中していた。

 無理もない。

 珊瑚に渡したはずの剣を、見ず知らずの者が持っているのだから。

 足を捻って動けない星貴妃に、ぐっと接近する。宝剣を見るためだ。

 腕の中にある宝剣は、布が解けて柄が見えている。

 鞘はないので、布の下はむき出しの剣だ。


 剣に触れようとするメリクル王子の手を掴み、星貴妃は言った。


「私はこの剣の持ち主を知っている」

「コーラルをか!?」


 コーラルというのは、珊瑚の本当の名だ。一度、聞いたことがあったのだ。

 聞きなれない響きだが、美しい名前である。

 汪永訣が華烈風に「珊瑚」と変えるよう命じたのだ。


「コーラルはどこにいる?」

「すまぬが、ここでは話せない。どこか、別の場所で話したいのだが」

「実は私も人を待っていて、ここを離れるわけには──」

「ごめん、待った?」


 メリクル王子の背後から、彼の待ち人が現れる。


「あれ?」

「ん?」


 顔を見合わせた二人は、互いに驚きの表情となった。


「あ、あんた、なんでそんなところに!?」

「お主こそ!」


 メリクル王子の待ち人は、煉游峯だったのだ。


「バ、ババア、こんなとことで何をしてんの?」

「誰がババアだ。それに、同じ言葉を返す」


 二人のやり取りに、メリクル王子は小首を傾げていた。


「ババアとは?」

「この人のこと。見た目は若いけれど、意外と年だから」

「煉游峯。あとで、覚えておけ……痛ッ」


 動こうとしたら、捻った足が痛む。顔を顰めると、ふわりと体が宙に浮いた。

 メリクル王子が、星貴妃の体を抱きかかえたのだ。


「なるほど。游峯がババアと言った意味を理解した」

「なんだと!?」


 星貴妃を近くで見たら、意外と年を取っているように見えたのだろう。

 言葉の意味をそういう風に受け取っていたが、違った。


「あなたは、女性だったのだな」


 どうやら、メリクル王子は游峯の呼びかけていた「ババア」を名前だと思っていたらしい。


「すまない。故郷の女性は、男性用のはき物を纏わない故に」

「それは、私の国でも同じだ」


 理由わけあって、男装しているのだ。

 そんな話をしているうちに、游峯の先導で宿に向かう。

 腰を落ち着かせて、互いの近況を語り合うことになった。


 宿は寝台のない、古びた部屋だった。

 天井はかびがきていて、壁は黒ずんでいる。床は歩くたびに、ギシギシと軋んだ音を鳴らしていた。

 劣悪な環境であるが、身を隠すのにはうってつけらしい。


 床の上に直に座り、話を始めた。


「もう、大変だったんだよ!」


 憤りながらそう話すのは游峯だ。

 メリクル王子と出会うまでは順調だったが、以降は困難な旅路だったらしい。


「この王子様、賞金首になっていたみたいで、次から次に命を狙われて──」


 景家の領土である島に滞在していたが、島から一歩出た途端に襲われたようだ。


「最初は客船で行こうと思ったんだけど、襲撃に遭って海に飛び込んで、近くの島まで泳いで行って──」


 幸いにも、周辺には人の住む小さな村がぽつぽつと存在していたらしい。


「そこから漁船に乗って島から島へと乗り継いで……今に至るみたいな。いや、話したらそこまで大変には聞こえないだろうけれど、とにかくきつい旅だったんだ」

「游峯、すまなかった」

「別にいいけどね。終わったことだし」


 これで牡丹宮にメリクル王子を連れ帰ったら游峯の任務は完了である。

 そう思っていたのに、新たな問題が浮上した。


「異国人への差別意識が高まっていて、悪評を垂れ流している役人をこらしめたまではよかったんだけど、今度は別の問題が浮上して──」


 役人の悪評を信じた港の者達が、船でやってきた異国人を捕らえたのだ。


「なんでも、兵士の格好をしていたらしい」

「戦争の影響か?」

「たぶん」


 戦争が起きたのはその兵士のせいだと主張し、捕らえたのだという。

 だんだんと、市民の怒りの矛先は歪んできている。

 罪のない兵士を、公開処刑しようと言っているのだ。


「メリクル王子は、その兵士を助けたいって言いだして」

「それは奇遇だな。実は珊瑚……コーラルも、同じように捕らわれてしまって」

「なんだと!?」


 処刑は黄昏時。

 すでに、時間は迫っていた。


「私は珊瑚を助けたい。だから、協力してくれぬか?」


 星貴妃の言葉に、メリクル王子は力強く頷いた。


 ◇◇◇


 同時刻──珊瑚は地下にある牢に連行されるようだ。

 手は背後に回され、きつく縄で縛られていた。


 急な階段を下り、石造りの牢屋の前に出た。

 薄暗くてよく見えないが、中には先客がいた。

 珊瑚は、その人物も気になっていたのだ。

 もしかしたら、メリクル王子かもしれないと。


 牢の中に突き飛ばされ、ガチャンと重たい鍵が閉められる音がした。

 転倒した珊瑚に、先客は声をかける。


「うわっ、転んだ時ゴキッて変な音したけれど、君、大丈夫? 歯とか、折ってないよね?」


 それは、メリクル王子の声ではない。

 しかし──聞き覚えのあるものだった。


「あなたはもしや、ヴィレですか!?」

「え、コーラル?」


 捕らわれていたのは、かつてメリクル王子の近衛部隊で同僚だった少年である。

 互いに姿も見えないような中での再会となった。


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