表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
8/29

第1章 その7 『警戒』

 輝跡や志狼が雷人と戦った翌日。

 高校では、授業がはやくも本格的に始動した。

 輝跡の頭には、1つ不安があった。それは、雷人が授業中にも関わらず攻撃してくるのではないかというもの。電気系の能力者である雷人ならば、この状況下で他の人に気づかれず攻撃をすることも可能だろうと輝跡は考えている。

 ちなみに席順は男女別の名簿順となっており、列は男女交互となっている。また、雷人の席は廊下側から1列目の前から2番目、志狼の席は雷人と同列で前から5番目、輝跡の席は廊下側から3列目の前から3番目である。

 両者とも雷人から決して遠くないわけではない。午前中はとにかく警戒体勢であり、授業の内容はあまり二人の耳には届かなかった。



**********



 そして四限が終わり、昼休み。

 志狼と輝跡はさっそく教室の角へと移動する。


 「俺の方は特に攻撃されなかったが、そっちはどうだった?」


 輝跡が、自分の報告をした(のち)、志狼の報告を促す。

 志狼が答える。


 「俺の方にも攻撃はなかったッス。というか、振り向きもしなかったッスからね。電撃って視線で標的を定めずに正確に撃てるモンなんスかね」

 「どうだろうなぁ……。昨日のだけじゃやっぱ情報足りないよなぁ」


 昨日の戦闘内容では、輝跡サイドはいいようにやられていただけで、雷人の能力について詳しく引き出すことすらできなかった。


 「だが、昨日の茂が来た時の反応や、午前中全く俺らを気にとめなかったことから、アイツはプレイヤー以外の人間の前で能力を使うことはしないって考えられる」

 「俺たちを油断させるための罠とも考えられるッスけど、昨日のあの場では俺たちを殺せたわけッスし、わざわざ罠を貼る必要も油断を誘う必要もないッスもんね」


 実力差は歴然。さらに、このセカンドライフというゲームにおいては、何らかの形でこのゲームが露見しないような工夫がされている。昨日、雷人が茂に見られている状況でも輝跡たちにトドメをさしていれば、何らかの形で茂がこのことを口外できないような工夫がされていたはずだ。

 そのことを雷人もわかっていたはず。

 それでもなお、トドメをさすチャンスを躊躇なく捨てた。

 それほどのなにかが雷人にはある。


 「とにかく、プレイヤー以外の人間と一緒にいれば襲われないって推論を信じよう。今はそれしかない」

 「ッスね」


 結論としては、学校では二人きりもしくはどちらか一人きりで孤立してしまう状況を極力避けるようにするということになった。

 次に二人は、雷人に聞かれないよう気を付けながら、もう一度きちんとお互いの能力について確認することにした。


 「んじゃ、まず俺からッスね。俺の能力名は昨日言った通り『動物図鑑アニマルマスター』ッス。自分の身体の一部を特定の動物のものに変化させたり、身体の一部に特定の動物の能力を付与したりできるッス」


 おおかた昨日の戦闘寸前に志狼が言っていたことと同じ内容だった。

 シンプルだなあ……という感想を抱きながら、輝跡が尋ねる。


 「どんな動物の力が使えるんだ?」

 「基本的には、俺の知っている動物であればなんでもできるッス」


 輝跡が、なんでもという言葉に反応する。


 「え……、なんでもって……知っている動物ならすべて可能ってことか……?」

 「……?……ハイ、そうッスけど」


 志狼が、もちろん限界はあるッスけど、と付け加える。

 輝跡は志狼に、気の遠くなる検証をしたんだろうなあ、と関心の念を抱きながら、志狼の後に続いた。


 「っと、俺の番だな。俺の能力は、『創造クリエイト』。おまえとの闘いが終わってから、思いつくものは一通り能力で創り出せるか検証してみたが、無生物においては特に創り出せないものはなかった。ただ、生物は無理だったがな。まだ試していないものもあるだろうけど」


 そこで、志狼がいぶかしげな表情を浮かべる。


 「そういえば輝跡サン。昨日から気になってたんスけど……」


 一通り自分の説明を終えた輝跡に、志狼が疑問を投げる。


 「ん?どうした?榎下」

 「昨日聞きそびれたんスが、輝跡サンが自分の能力のことを『おそらく』っていったじゃないスか。それに今の説明の仕方……。すごくひっかかるッス。もしかして……、もしかしてなんスけど、輝跡サン、自分の能力について『知らなかった』んスか……?」

 「え?」


 志狼がなにを言っているのか、一瞬輝跡にはわからなかった。

 志狼は輝跡に、『自分の能力を知らなかったのか?』と尋ねた。

 しかし、それは当たり前ではないのか?なにも知らない状況から、いろいろと試すことで自分の能力について知っていくのではないのか?

 そんな考えが、輝跡の脳内を駆け巡る。

 そして、とある答えに輝跡は行き着く。答え合わせのため、輝跡は逆に志狼に質問を返す。


 「……おまえは……いや、おまえらは……最初から『知っていた』のか……?自分の……能力について……」

 「当たり前ッス。能力の簡単な詳細は、セカンドライフの概要やルールとともにプレイヤーになるにあたって記憶にインプットされてるものッスよ。……その反応からすると、やっぱり『知らなかった』んスね」


 衝撃の事実に加えて、さらなる聞き捨てならない真実が、志狼の今の言葉には含まれていたことに気づいた輝跡は、さらに質問を続ける。


 「待ってくれ……。セカンドライフの概要やルールまで、本来なら最初から記憶にインプットされているってことか!?」


 「まさかそれも頭の中になかったんスか!?相当な欠陥ッスよそれ……。ん?じゃあどうやってセカンドライフについての情報を得たんスか?」

 「それは……」


 輝跡は思い出す。自分のことを『神』と名乗る少年のことを。セカンドライフについて語る、彼の姿を。


 「……自分を『神』と名乗る少年が、俺に説明してくれて……」

 「……は、はぁ……何者ッスかその人……」

 「そういえば何者だったんだ……?」


 思えば、輝跡が説明をうけている時には自称神の正体はうやむやにされていた。


 「まさか本当に神様だったりして……」

 「まさかぁ~。その冗談面白くないッスよ~」


 志狼が、輝跡の唱えた『自称神、本物の神様説』を冗談で流す。

 対して輝跡は、大きなため息を吐きながらその場にへたりこむ。自分が多大な時間をかけて検証した結果わかったことを、他のプレイヤーは最初から知っており、かつ他のプレイヤーには備わっている記憶が自分には備わっていないことがわかったのだから、そうなるのも無理はない。


 「てことはアレか……。簡単に言えば、俺はプレイヤーの不良品ってことなんだな……?」

 「うーーーん、まあ、性能次第で不良品かどうかは変わってくるッスけど、プレイヤーとして不備があるのは間違いないッス」

 「この三か月間の努力みたいなことは、俺しか経験していなかったってことだよなあ……」


 つまりは、先程志狼の言っていた『知っているすべての動物の力が能力によって使える』というのは、検証してわかったのではなく、最初から能力の説明として記憶にインプットされていたということになる。輝跡の関心は完全な的外れだったということだ。

 てっきり、プレイヤーは全員、自分自身の保有能力がどんなものかを知るために同様の努力をしたのだと考えていた輝跡は、この理不尽さに呆れすらしていた。

 だが、今となってはほとんど不備の埋め合わせはできているといっても過言ではない。全ては輝跡のこの3ヶ月の努力のおかげであり、結果オーライなのである。


 「まぁ、輝跡サンの努力は無駄じゃないッスから気にしない方がいいッスよ。これからの戦いの中で原因もわかるかもしれないッスしね」

 「まぁ、そうだな」


 当面の輝跡の目的に、『プレイヤーとしての不備』の原因を知ることが追加された。

 今日の話し合いはここまでとし、二人は昼食を食べ、午後の授業に挑んだ。

 ちなみに茂は今日学校を休んでいる。中学の頃からやっている『修行』とやらを続けていくつもりなのだろう。

 昼休みの話し合いで、雷人は授業中には襲ってこないという推論を提唱し、それを信じようとは言ったものの、一応午後の授業でも二人は警戒を解かず、そうこうしているうちに午後の授業も終わり、放課後となった。



**********



 「輝跡〜帰ろ〜」


 輝跡が帰りの支度をしていると、後ろから女生徒が声をかけてくる。

 振り向くと、そこには輝跡の幼なじみである神崎結夢が、帰りの支度を終えて立っていた。


 「結夢……早いな。そっちはこっちよりも少し早く終わった感じか?」

 「そんな感じ。逆にそっちのLHR(ロングホームルーム)長すぎない?」


 結夢は、茂同様一般入試で進帝高校に合格しており、輝跡の所属するクラスとは隣のクラスである1年5組の所属となっていた。

 ちょうど輝跡も帰りの支度を終え、カバンを持ち上げる。


 「んじゃ、帰るか」

 「ほいさ!」


 そして、輝跡は結夢と共に帰路についた。


 「そういえば、昨日は一緒に帰れなくてすまなかったな」


 自宅の近くまで来たところで、輝跡が昨日のことについて結夢に謝る。

 屋上での雷人との戦闘後、輝跡は茂に先に帰って欲しいと頼んだ。そのため、昨日は茂と結夢二人のみでの帰宅となったのだ。


 「うぅんいいよいいよ〜。茂くんの話からすると、なにか大事な用事があったみたいだし!仕方ないよね〜」


 進帝高校の合格発表の時に、輝跡、茂、結夢の3人は可能な時はできるだけ一緒に帰ろうという約束を交わしていた。ゆえに、初日から一緒に帰れなかったことが、輝跡は申し訳なかったのだ。


 「そ・れ・よ・り・も!」

 「な…………なに…………?」


 急に、結夢が輝跡にジト目を向ける。輝跡は知っている。これが、結夢が説教をする前触れであることを。


 「昨日……遅刻したってホント?」

 「…………」

 「私、ちゃんと言ったよね?『入学式の日は親と行く関係で起こしに行けないから、きちんと自分で起きてね』って……」

 「……ハイ」


 輝跡の額を、冷や汗が伝う。


 「弁解の言葉は……?」

 「……トクニハ……ナイデス」


 そして、ついに結夢の説教が始まろうとした、次の瞬間。

 ザコン!!!

 と、大きな音とともに、大きななにかが輝跡の1mほど左に突き刺さる。

 とっさに音のした方向に振り向いた輝跡の目に映ったのは……。


 「……針……?」

 「な……なに?今の音……」


 輝跡の右側を歩いていた結夢には、ちょうど輝跡に隠れて音の正体が見えなかったようで、輝跡に尋ねる。


 「いや……これは……」


 結夢が確認のため、音のした輝跡の左側をのぞき込む。


 「え!?なにこれ!?」


 結夢が、驚きの声を上げる。

 結夢は状況がよく理解できていないようだが、輝跡には瞬時に理解することができた。これがプレイヤーからの攻撃であることを。しかし、結夢にそのことをそのまま説明することはできない。

 輝跡が、どのように結夢をここから遠ざけようか考えながら、この針の主を探す。

 ここは住宅街であり、輝跡たちの歩いている道は決して幅が広いわけではない。周りは当然住宅である。


 (この針の角度なら……俺たちの左後ろにあった家の屋根から狙ったことは間違いない。撃った後すぐに移動したのか?)


 結夢を傍に寄せながら、輝跡がそんなことを考えていると、輝跡の耳になにかが空を切る音が届いた。


 「くそっ!」


 この際結夢に見られることは仕方ないと、輝跡は能力で金属の盾を創り出す。

 盾に少し動きを加え、左方から飛んできていた針を受け流すように弾く。

 二度目の針が飛んできたとき、輝跡は歩いていた方向と逆の方向を向いていた。つまり、針が飛んできた輝跡の左方向とは、結夢がいる方向だ。


 (プレイヤーじゃないやつがいようがいまいがお構いなしだってのか!?)


 この敵は、おそらく非プレイヤーの目など気にしていない。どうせなんらかの形でセカンドライフのことを公言できないような工夫がされるのだから別にどうでもいいという思考の持ち主だろう。

 そう。

 碇雷人とは真逆の思考の持ち主。

 とはいっても雷人が本当に非プレイヤーの目を気にするのかどうかは、今の輝跡には断言できないが。

 とにかく今の針の撃ち筋は危険だ。下手をすれば非プレイヤーである結夢が巻き添えになるような攻撃だった。

 敵はこの、周りが住宅に囲まれており、自由に屋根を飛び移りながら、道にいる輝跡たちを狙える地形を駆使して、輝跡に攻撃がヒットするまで攻撃を続けるつもりだろう。

 このまま結夢を守りながらこの場にじっとしていても埒があかない。

 かといって輝跡が敵を追うためにこの場を離れれば、結夢が人質にとられる可能性も充分考えられる。


 (どうする……)


 輝跡は考える。

 どうすれば、結夢に危害を与えず、この敵に勝てるのかを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ