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Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
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第1章 その5 『仲間』

 「さあ、話とやらを始めようか」


 輝跡は志狼にむかって告げる。

 輝跡の脳裏に、初戦の痛い経験が浮かぶ。戦うための準備が前回よりはできているといっても、やはり多少の恐怖心はあるのだ。

 戦闘になったとしても3ヵ月前とは違うぞ、と自分に言い聞かせながら輝跡は心を落ち着かせる。


 「……」


 対して志狼は口を閉ざしたままだ。


 (……やはり話し合いとは名ばかりで、その実態はこの間の決着か?攻撃のチャンスを狙っているなら、残念だが隙は見せねーぞ)


 いつ攻撃がきても反応できるよう神経を張り巡らせながら、輝跡はなおも言葉を発さない志狼にむけてもう一度言葉を投げかける。


 「どうした?話し合いをするんじゃなかったのか?なんとか言えよ」


 そんな輝跡の言葉に対して、志狼は呆れたようにひときわ大きなため息をついた。

 志狼の反応を受けて、なんだよ……と言った輝跡に対し、志狼は頭を掻きながらついにその口を開いた。


 「あのお……なにを勘違いしてるのか……まあ想像はつくッスけど、この距離で話をするつもりッスか?」

 「へ……」


 言われてみれば、輝跡は屋上の扉のところから一歩も動いておらず、輝跡と志狼との間には5m程度の距離ができていた。


 「別にアンタにトドメを刺そうとか、そんなことは考えてないッスよ。せっかくクラスメイトになったんだし、共同戦線でも組みたいと思ったんス」

 「共同戦線だと……?ふざけたことを……。この戦いはプレイヤー個人の勝ち負けで成立する個人戦じゃないのか?」


 セカンドライフは自分以外のプレイヤーを100人殺すことで人間として再び蘇ることができる。

 プレイヤーになる前から友人同士だったとかならまだしも、そこに0から共同戦線を組めるほどの関係性が産まれるとは考えにくい、と輝跡は考えている。

 しかし。

 志狼の言葉は輝跡のそんな考えを否定した。


 「案外そうでもないッス。プレイヤーを100人殺さなければならないとはいえ、プレイヤーの数は少ないわけではないし、アンタがつい最近プレイヤーになったようにプレイヤーは今も増え続けてるッス。だから、この先ソロで戦っていくリスクを負うよりも、組むことで増え続けるプレイヤーを倒していくって方法をとった方が案外勝ち続ける確率もあがるんスよね。まあ、たしかに仲間になって油断させてから隙を見て殺すなんてのも手と言えば手ッスけどね」


 輝跡は、自分よりもプレイヤー歴の長い志狼の意見を受け止め、少し考える。

 静寂。

 しばらくして、考える際に顎においていた手をそっと顎から離した輝跡は、なるほどと小さな納得の声を漏らした。


 「たしかに理にはかなっている。それで?俺にお前を信用しろと言いたいのか?最初から信頼するのは難しいと思うが」


 仲間といえば信頼。そんなイメージは多くの人が持つイメージであり、輝跡もまた最初にそうイメージしたからこそこのように問いかけた。

 対して問に答える志狼が最初に発した言葉は「いいえ」だった。


 「見ず知らずどころか、一度殺しあった相手を最初から信用しろなんて無理な話なのは重々承知ッスよ。最初は俺にも警戒心向けてくれて全然かまわないッス。それに、仲間ってのはなにも信用がなければなりたたないってわけじゃないッス。例えば……」


 そこで、一瞬志狼の表情が曇る。

 しかしすぐに調子を戻し、話を続ける。


 「例えば、セカンドライフのプレイヤーのチームには、『ファクトリー』ってのがあるッス。そこはとあることで金儲けをしてるッスが、そこの社長はプレイヤーを従業員にして働かせる代わりに金を与え続けることで大きなチームを存続させてるッス」


 つまりはギブアンドテイクの関係ということ。


 「それにほら、漫画でも主人公と敵だったキャラが一時休戦して組んだりすることもあるじゃないッスか。とにかく、仲間として最も大切なことは、『利害が一致している』ことだと思うッス」

 「まあ、言いたいことはわかるが……。ひとつ聞かせてほしい。なぜそこまで俺を仲間にすることにこだわる?俺はおまえの知るとおり初心者だし、おまえへの敵意がなくなったかと言われればそうじゃない。お前が俺にこだわる必要性なんてないし、俺を言葉の通り切り捨てて他のアテを探す手もあっただろ」


 輝跡にとっても、たしかに共同戦線は悪い話でないことはわかった。戦うための手札が増えたとはいえ、セカンドライフにおいていまだ輝跡が不利であることには変わりない。ここで仲間の誘いを断るのはおそらく悪手だろう。

 だが、逆からしてみれば、志狼にとって輝跡はただのお荷物である。輝跡から仲間の話を持ちよるのはまだわかるが、志狼から仲間の話を持ち寄られることに輝跡は疑問を感じざるを得なかった。

 ゆえに尋ねる。

 なぜ自分にこだわるのか、と。


 「……」


 志狼は、ここまで饒舌だったのが嘘のように押し黙る。輝跡の目には、志狼がなにやら言葉を探しているように映った。

 そして数秒後、志狼は輝跡の問いかけに答えた。


 「いずれくる、俺の目的のためには、仲間が必要なんス」


 返答は曖昧な表現に包まれており、真意ではあっても詳細の見えないものとなっていた。

 しかし、その返答には重みがあった。成し遂げねばならないという、思いがのしかかっていた。輝跡にはそんな風に感じられた。

 だから輝跡は言葉を返す。感じ取った志狼の思いを、なりふりかまっていられないという叫びをくみ取って。


 「わかった。これからよろしく頼む」


 結局話し合いは五メートルの距離のままで行われた。

 交渉成立後,輝跡は歩み、その距離を縮め始める。そして、志狼の眼前に至る。

 あとはなにも言わず、そっと手を差し出した。

 志狼がその手を握り、二人は握手を交わす。


 「さっきは、信用は仲間になるうえではなくてもいいなんて言ったッスけど、俺はアンタとの間に信頼関係が生まれることを願ってるッスよ」

 「それはこれからの行い次第だな。お互いに」


 こうしてここに、また一つのチームが誕生した。

 輝跡の中の、志狼への敵意は少しずつ薄れつつあった。



**********



 「ほれ」


 屋上の自販機で2本の缶ジュースを買ってきた志狼が、そのうちの1本を輝跡に投げ渡す。


 「さんきゅ」


 それをうまくキャッチした輝跡は、屋上にひとつだけ置かれている三人掛けのベンチに腰をおろす。あとをおって、同ベンチに志狼も腰をおろし、一息つく。


 「それにしても、気が抜けたな。俺はここに来る間、おまえの攻撃からどう反撃しようかを考えてたってのに」

 「朝、アンタと出会った時点で、俺はアンタをどう説得して仲間にしようかしか考えてなかったッスよ。むしろ出会った瞬間攻撃されるんじゃないかとヒヤっとしたのはこっちッス……」


 輝跡の言葉に、志狼が切り返す。たしかに朝は一触即発の危険性も充分あったし、二人がそれぞれ思い描く『話し合い』という事柄に意味合いのズレが生じてもおかしくない間柄だった。


 「……おそらく、再会したのが学校以外だったら、また闘ってたと思うッス。でも、同じ学校、同じクラスだったことに、やっぱり縁を感じたッスよ」


 クラスメイトというきっかけがあるからこそ、仲間になれそうだと感じた、と志狼は語る。


 「目的のために仲間を増やしたいとはいえ、さすがの俺も仲間になる見込みのないヤツと無理に仲間になろうとはしないッスよ」

 「俺には見込みがあったってか?」

 「そんなところッス。まあ、勘ッスけど」


 勘とはいえ,仲間になる見込みがあったと言われて、輝跡自身悪い気がしなかった。しかし、自分の勘はよくあたると志狼は言う。それについては志狼にも思い当たる理由があり,後に輝跡も納得することとなる。

 ところで、と輝跡が朝からずっと聞こうと思っていた話をきりだす。


 「仲間を作りたいってーのはわかった。でもよ、この辺にはだいたいどのくらいのプレイヤーがいるんだ?おまえとの戦闘後から今日までの約3ヵ月間、俺は一度もプレイヤーと遭遇してないんだよ」

 「え……」


 志狼の顔に、驚きの色が浮かぶ。


 「いや、長くプレイヤーと出会わないことは時々あるッス。でも三か月は長すぎる……」

 「やっぱりそうなのか。ちょっとそこらへんのプレイヤー事情とかを教えてくれないか?」


 輝跡の頼みに対して、了解ッスと返答した志狼は立ち上がると、どこから取り出したのか眼鏡をかけ、説明を始めた。


 「まず、さっきも言った通りプレイヤーは今もどんどん増えてるッス。それはもう、敗北者が一人でたらプレイヤーが三人はうまれるような、そんなイメージッス。まああくまでイメージで、実際はプレイヤーがうまれるときや数にもムラがあるんスが。プレイヤーは全国に存在してるッス。さすがに外国はどうかわからないッスけど……」


 たしかに、日本国内のことならまだしも、セカンドライフのシステムによってこの戦いが表沙汰にならないようになっている以上、海の向こう側の情報は入ってきにくいだろう。


 「日本でみると、大阪、福岡、そしてここ東京の3都市は特にプレイヤーの人口が多いという調査結果がでてるッス。まあ、ちょっと前の情報なんで最新ではないッスけどね」


 個人でこのような広範囲にわたる調査を行うことは難しい。輝跡は志狼の説明を聴きながらも、志狼がそれを可能にする立場にいたが今はなんらかの理由でその立場にいないのではないかという仮説を心の中で打ち立てていた。

 そしてその仮説が正しいとすると、もしかしたら志狼の目的というのは……


 「まあとにかく、プレイヤー人口の多いここ東京において3ヵ月もプレイヤーと遭遇しないなんてのは相当稀なことなんスよ。現に俺はあの後3人のプレイヤーと戦ったッスから」

 「……3人もか……」


これ以上仮説に仮説を重ねても意味がないと考えた輝跡は、いったん志狼に関する仮説を頭の隅にしまい込み、思考を話の本題に100%向けることにした。


 「といっても、これでも少ない方ではあるッス。ここらへんのプレイヤー人口減ってるんスかねえ……」


 志狼がわからないことは当然輝跡にもわからない。

 だが、プレイヤーが少なくなっているということは、輝跡たちが住んでいる地域は比較的平和ということではないだろうか。

 そう考えた輝跡は、なおもプレイヤーに遭遇しにくくなっていることの原因を考える志狼に向けて、その思考を投げる。


 「プレイヤーと遭遇した時に備えて準備できるし、いいことなんじゃないのか?」


 対して志狼は微妙な顔で、


 「うーん、そうッスけど……」


 と唸る。

 と、そこへ。

 志狼と輝跡しかいなかったはずの屋上に、どこからか三人目の声が響く。


 「プレイヤーにもまだこんな平和ボケしてるボケがいんのかァ。笑えてくるじャねェか」


 声の発生源は……。


 「上ッスか!」


 志狼がバッと上を見上げると、逆光の中たたずむ人影の他に、迫るなにかが見えた。

 迫るものの正体を見極めている余裕はないと判断した志狼は、すぐさま輝跡の腕をつかみ、ベンチから離れるように走る。


 「え、ちょ」


 声の発生源を探してキョロキョロしていた輝跡は、急に引っ張られたこともあり脚がもたつく。

 と、その真後ろでバチィィッッという音をたてて、輝跡たちが座っていた木製のベンチが焼け焦げた。


 「輝跡サン!敵は上ッス!屋上から校舎内に入るための扉があるあそこの上!」


 進帝高校の階段と屋上を遮る扉の横にははしごがついており、さらにその上に登れるようになっているのだ。

 声の主はどうやらそこから登って輝跡たちの話を聴いていたらしい。

 元いた場所から充分に距離をとった輝跡と志狼は、声の主に向き直る。

 飛び降りたのか、すでに輝跡たちと同じ高さまで降りて来ていたその男が二人に歩み寄る。


 「ここらへんのプレイヤーが減ってんのは、だれかがここらへんのプレイヤーを狩ったからだァ」


 突然声の主が、輝跡たちの話していた内容に続ける。


 「アンタ……たしか……」


 先ほど志狼が上を見上げた時は逆光で誰かを判断できなかったが、同じ高さにいる今はその姿をくっきりと見ることができた。

 そして、その姿には輝跡も志狼も見覚えがあった。


 「おまえ、同じクラスの……碇雷人か……!」

 「名前覚えてたのかァ金城輝跡ィ。嬉しいねェ」


 雷人は、鋭い目つきをそのままに、輝跡に不敵な笑みを見せる。


 「こちらこそ……、覚えててくれて光栄だね……!」


 輝跡も負けじと同様に不敵な笑みを浮かべるが、すぐに横にいた志狼が雷人に言葉を投げたため、雷人の視線は一瞬輝跡を見た後志狼へと移った。


 「……俺がここに来る前から待ち伏せてた感じッスか?」

 「そりゃ朝に、参加証を隠すこともしないプレイヤーがわざわざ人目のつかない屋上に放課後行くっつってたのをきいてたのにこねェわけァねェわなァ」


 参加証とはセカンドライフの参加証、つまり輝跡の場合は右手にあるエンブレムである。

 聞かれていたのか……、と志狼が自分の発言を悔やみ、舌打ちをする。

 雷人は続ける。


 「さっきも言ったがよォ。最近ここらへんのプレイヤーは誰かにごっそり狩られちまって、俺も全然遭遇できねェんだよ。だからよォ」


 雷人の周辺が、バチバチと音を立て始める。


 「テメェらは、俺がる」


 稲妻が、走る。


 「どうするよ榎下。仲間になってくれそうにないヤツが現れたが?」


 そのように志狼に尋ねる輝跡の右手のエンブレムはすでに黄金に輝き始めていた。


 「これは……、戦うしかないッス!」


 志狼の右手にも、輝跡と戦った時に見せたものと同様の爪が現れる。

 輝跡の二戦目にして、初めての志狼との協力戦闘が、始まる。

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