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Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
3/29

第1章 その2 『ゲームの内容』

現在訂正中です!!(2018年8月3日現在)

セリフや地の文がかなり変わりますが、展開に大きな差異は生じませんので、読んでくださっても大丈夫です。

ご迷惑をおかけします!!

 「……神……?」


 輝跡が、信じられないといったような声色で、神と名乗った少年の言葉を反復する。

 対する自称神は、未だに乾ききっていない金髪をバスタオルで拭きながら、


 「そう、俺は神だ。さすがにそこまで察せないような馬鹿だとは思っていないが、念のために言っとくと、漢字で書けば“しめすへん”に“申す”。英語で言えば“ゴッド”の神だ」


 などと軽い口調であしらうように、再度名乗る。

 自称神からしてみれば、雰囲気を柔らかくするために多少シャレを利かせてみたつもりだったのかもしれないが、今の輝跡にはシャレを笑い事として受け取れるだけの余裕はない。自分にとってもっとも大事な日における記憶の欠落に混乱している最中、突如として自分を神などと名乗る初対面の少年が部屋に現れたのだ。無理もない。


 「……ふざけるな! 真面目に名乗れよ! 警察を呼ばれたいのか!?」


 輝跡が声を荒げながら、自称神の少年をにらみつける。

 輝跡から向けられているのが明確な敵意であることは察せたようで、自称神の少年は少し残念そうな表情を浮かべる。

 しかし、それも一瞬の出来事。

 自称神の少年は、直後には真剣な目つきで輝跡を見据えていた。

 先程の輝跡の言葉に、自称神が言い返す。


 「なるほど? お前は俺を警察に引き渡すことで、今抱いている不安を払拭してくれる存在をみすみす手放すと?」

 「……ッッ‼」

 「よく考えてみるといい。安直な判断は己が未来を食い潰すぞ。今おまえが知りたいのは、俺の素性じゃあないはずだ。そんでもって、お前が本当に知りたいことは目の前にいるこの俺が教えてやるときた。あとは……わからないお前じゃあないだろ?」

 「……お前は、本当に知っているのか……? 俺の、記憶に無い……空白の時間の出来事を……」

 「先ほどからそう言っている。まぁ、信じるかどうかはお前次第だがな。しかし、俺が語ることが真実であろうがなかろうが、ここで『聞かない』という選択肢を選ぶのは愚の骨頂だぞ? 真実かどうかは後々自らの頭で吟味し判断すれば良い。大事なのは『聞く』ということだ。聞くことすらしなければ、そもそも判断するための材料が得られないのだからな」

 「……確かにそうだな」


 自称神の言うことは理にかなっている。

 たしかに輝跡にとって、空白の時間になにがあったのかを知ることは優先事項だ。

 たとえそのために怪しい初対面の人物に頼ることになったとしても、その人物からきいた情報が正しいのかどうかを判断するのは輝跡自身だ。

 代償に何かをやらされるわけでもない。聞いておかないのは損以外の何物でもない。

 少し落ち着きを取り戻した頭を回し、そう判断した輝跡は、先程まで向けていた敵意を消し、改めて自称神を見据え――。

 そして、頭を下げた。


 「話を、聞かせてほしい。よろしく頼む」

 「そうこなくてはな」


 かくして輝跡は、自称神に自分の記憶が欠落している期間の出来事について教えてもらうため、自分の部屋がある二階からリビングのある一階へと自称神を連れて移動したのだった。



**********



 リビングに到着すると、輝跡は円状テーブルを囲う椅子の一つに自称神を座らせ、キッチンに向かった。

 飲み物を持ってくるためだ。

 冷蔵庫を漁り、適当に目についたアイスコーヒーを手に取る。


 「アイスコーヒーでよかったか?」

 「ん、わざわざ悪いな」


 アイスコーヒーを注いだ二つのカップをテーブルに持ち寄り、輝跡は自称神と対面する形で席に着く。

 自称神が、渡されたアイスコーヒーを見つめ、軽口をたたく。


 「出してもらってなんだが、そういえば現在は深夜帯だな。深夜帯にコーヒーというのもどうなんだろうな? カフェイン云々で、眠れなくなるぞ?」

 「状況に適してないってか? いいや、適してるよ。これから大事な話をするんだからな。万が一にも、眠くなったら困るだろ?」

 「なるほど。そんなところにまで配慮を回せるほどにまで落ち着いた、というわけか」

 「ああ、なんとかな」


 輝跡の落ち着いた様子に対し、なにやら頬を緩めた自称神だったが、その口元は次の瞬間にはコーヒーのカップによって隠されてしまった。

 次に輝跡の目に映った自称神の口元にはすでに笑みはなく。

 真剣な面持ちで、自称神は告げた。


 「さて、本題に入ろうか。これから話す内容は、非常に突飛で衝撃的な話だ。理解が追い付かないこともあるかもしれないし、信じたくないこともあるだろうが、なんとかついてこい」

 「あぁ、わかった」

 「まず第一に、おまえは死んだ。原因はおまえの母親同様、急な心停止だ」

 「……は?」


 輝跡の顔が、いきなり呆ける。

 たしかに自称神は、これから話す内容が突飛で衝撃的だと言っていた。

 しかしそれにしても、自称神の話は初っ端から、あまりにも突飛で衝撃的すぎた。


 「いや、ちょ……ちょっと待ってくれ‼ 死んだ? 俺が? いやでも俺は今も生きていて……。変な冗談はやめてくれ‼」

 「冗談じゃないさ。この程度でたじろいでいたら、話が終わる頃には日が昇ってしまうぞ? ……と、言いたいところだが……。まぁ、普通はそういう反応になるよなぁ。オーケーオーケー。大丈夫だ。順序立てて説明する」


 自称神が、さっそく混乱し始めていた輝跡を手で制してから、説明を再開する。


 「まず、お前は死んだ。これは確実だ。あの墓場で急に心停止したのさ。だが、ここが死後の世界……いわゆる天国だとか地獄だとかかと言われれば、それは違う。ここはまぎれもなく現世。魂と肉体の両方を保持する者が住まう世界だ」

 「じゃあ、今の俺はなんだってんだ? 俺は死んだんだろう? なら、この現世に残留しているのはおかしいじゃないか。……もしかして、幽霊だとでも?」

 「いや、幽霊でもない。確かにお前は死んで死後の世界にいたが、現在“形式上は”生きている。仮の身体を以てして、生の世界へと戻ってきているんだ。死してなお、もう一度生きる権利を勝ち取るためにな」


 『転生』というよりは『蘇り』といったほうが、意味合い的にはしっくりくるのだろう。

 しかし、自称神の言い方にはどこか思わせぶりな表現が使われていた。

まるでこれが、正式な蘇りではないような……。

 そして、それを輝跡は聞き逃さなかった。


 「『仮の身体』……?権利を『得るため』……?言い方が妙だな。ただ生き返ったってわけじゃないってことか。あくまでもこれは生き返るためのきっかけってことなのか?」

 「いい洞察力をしているじゃないか」


 自称神が、感心するようにヒューと口笛を鳴らす。おそらく、先程の混乱していた輝跡と現在の輝跡を見比べているのだろう。


 「その通りだ。これはあくまできっかけ。おまえは生き返りをかけたゲームのプレイヤーになったってわけだ。」

 「ゲーム?」

 「ああ、ルールは簡単だ。この世界にはおまえ同様、プレイヤーとして日々を送っている連中が多く存在している。プレイヤーは他のプレイヤーを百人退場させることができて初めて生の世界を再び謳歌する資格を得る」

 「……退場? まさか……つまりは、人殺しをしろと……?」

 「理解が早くて助かるよ。ただ、そう気負うことはない。殺すのはただの人間ではなく、互いに殺すか殺されるかの関係で結ばれたプレイヤーなんだからな」

 「いや、そういう問題じゃ……」

 「金城輝跡、これはルールで定められた正当な殺し合いだ。お前がこのゲームの参加者であるプレイヤーを殺したところで、誰もお前を咎めることは出来ない。むしろ、殺らなければ殺られるのはお前だ。お前だって、このままあっさりと死にたくはないだろう」


 輝跡の顔に、動揺の色が浮かぶ。今まで、人の生き死にが繰り広げられるような血なまぐさい現場とは程遠い場所で生活してきた輝跡にとって、“人を殺す”という行為はそう簡単に割り切れるものではない。

 しかし、自分が生き残るためには覚悟しなければならないのだ。

 “人を殺す”という行為を“プレイヤーを殺す”という行為に言い換えて、自分のなすことを正当化するしか、道はないのだ。

 輝跡には、覚悟を決めるという道しか残されていない。


 「でも、そんなの警察が黙ってないだろ? すぐにバレて刑務所送りに……」

 「さっきも言ったが、プレイヤーはこの世界に多く存在しているし、今も増えている。当然それだけの数の戦いが起こるし、それだけ死者もでる。だが、おまえはそんなに大量の殺人事件に関する報道を見たことがあるか?」


 たしかに殺人事件の報道は、テレビのニュースや新聞、ネットのニュースでも、すべてを取り上げられているわけではない。場合によっては権力者からもみ消されることだってあるし、見向きもされないものだってある。

 しかしそれでも、全国で大量のプレイヤーが殺しあっているのであれば、報道や記事が少なすぎるのではないかと輝跡には思えた。


 「今やSNSなんかでもそういった事件が拡散される時代……。すべての死亡事件がネット上にあげられるわけじゃないとしてもやっぱり少ない……」


 ブツブツと呟きながら、少し思考を巡らせた輝跡は、自称神に問いかける。


 「具体的なことはわからないが、ゲームが世間に露見しないような工夫はされてるってことだな?」

 「まあ、そんなところかな。実際にその目で確かめる日も近いと思うよ」

 「ここらへんにも、そのプレイヤーはいるってことだな」

 「まあ、そうなるな」


 いつからこのゲームが始まっていたのかは輝跡の知るところではない。

 だが、自称神の口ぶりからすると、すでに長い期間行われているという解釈ができた。

 なにげない日常を送っていた輝跡の周辺で、彼の知らぬところではそのような物騒なことが起こっていたという。

 そのような事実に直面し、輝跡は少しばかり恐怖を覚えていた。

 そして、さらに輝跡の恐怖を追い立てるのは、これから自分がその渦中に飛び込んでいくのだという事実。

 輝跡の腕には、鳥肌が立っていた。

 そんな輝跡の様子には気づかず――いや、あえて無視しているのか、自称神はなおも続ける。


 「そして肝心の戦う手段だが、プレイヤーにはひとつ、能力が与えられる」

 「……能力?」

 「あぁ、異能とかスキルとか、そんな言い方をした方がわかりやすいか? とにかく、常人ならざる特異な力というわけだ」

 「……なるほど」

 「そして、能力は人によって異なるものが与えられる。まぁ時々被ることもあるんだが」

 「今、俺の身にも能力が身についてるってことだな?」

 「そういうことになるな」


 能力。または異能。漫画のような空想上の世界でしか聞かないような力。そんなものが輝跡の、いや、全プレイヤーの身体に備わっているという。

 先程自称神が言っていた『仮の身体』というのも、その能力を用いるための特別仕様なのだろう。

 しかし、特に身体に変化を感じられない輝跡には、イマイチ実感がわいていなかった。


 「能力ねぇ……。どうやって使うんだ?」

 「能力は身体の機能の一部だ。手を動かしたり、声を出したりするのと同じようにすればいい」

 「といっても、自分の能力が何かわかっていないと使いようがない。俺の能力はなんなんだ?」

 「それは――」


 と、輝跡の能力を言いかけた自称神が、急に口を閉ざす。

 そして、次に開かれた自称神の口から告げられたのは、輝跡の期待したものではなかった。


 「自分で確かめろ。しかし、お前の言い分もごもっともだ。ヒントくらいはくれてやろう」

 「いや、そんなこと言わずに能力を教えてくれても……」

 「すまないな。こちらにも事情があるんだ。……“どちら”が出てくるのか、見させてくれ」

 「……?」


 自称神の言葉尻は弱く、「事情があるんだ」の後の言葉は輝跡には届かなかった。

 いや、或いは自称神自身も、輝跡に聞かせる気はなかったのかもしれない。


 「さて、話を戻すぞ。お前の能力のヒントは、そうだな……。“イメージをしっかりと持て”。そうすれば自ずとわかる」

 「……は、はぁ……」


 自称神の出したヒントは、やはり直接的に答えへとつながるものではなさそうだった。

 故に、輝跡はヒントの意味を考察しようとした。

 が、そこで。

 自称神が立ち上がる。


 「……どうした?」

 「ん? そろそろ去ろうかと思ってな。話すことは話したしな」


 そう言うやいなや、玄関へと向かおうとする自称神。

 案内はなくても良いのかと心配になった輝跡だったが、思い返せばこの自称神は他人の家でありながら輝跡が眠っている間に勝手に上がり込んで風呂まで借りていたのだ。今更いらぬ心配だろう。

 そう判断した輝跡だったが、ひとつ聞き忘れたことがあることに気づき、自称神を呼び止める。


 「悪い。ひとつ聞き忘れていたことがある」

 「なんだ?」


 歩みを止め、自称神が振り返る。


 「どうやってプレイヤーと一般人を見分ける? 姿かたちは人間となんら変わらないんだろう?」


 質問に対して、自称神は口を開かない。

 その代わりに、輝跡の右手の甲を指さした。

 つられて輝跡も自らの右手の甲を見る。するとそこには、身に覚えのないエンブレムが刻まれていた。


 「なんだ……これは……」

 「気づいてなかったのか。とっくに気づいて勝手に解釈してるのかと思ってたよ。悪いな」


 本題に入ってからというもの、輝跡はたしかにだいぶ落ち着いていた。

 しかしとはいえ、自称神の話が気になるあまり、自らの身体に生じた見てわかるような変化にまで気づけていなかったのだ。


 「それはプレイヤーの証だ。場所や模様は違えども、プレイヤーの身体には必ず存在する」

 「……わかった。呼び止めて悪かったよ」

 「ああ、健闘を祈る」


 再び踵を返し、玄関へと歩き出す自称神。

 しかし、今度は輝跡に呼び止められたわけでもなく、自ら足を止めた。

 そして、振り返る。

 その瞳には、なにか先程までの他人行儀なものとは異なった、どこか親しみや懐かしさといったような色が浮かんでいた。


 「死ぬなよ、輝跡」


 自称神は最後にそう言い残し、輝跡の前から姿を消した。

 リビングにはすでに輝跡一人しか残っていなかったが、すぐに移動することは出来なかった。

 無理もない。頭の整理が必要だ。それほどまでに、自称神からきいた話の内容は濃密だった。


 「……つまり、空白の時間に俺は死後の世界にいて、こっちに戻ってきた後はずっと眠っていたのか……」


 輝跡は、椅子の背もたれに身を預け、ポツリと呟く。


 「『死後の世界』……か」


 そこで、輝跡の頭になにかが引っかかる。

 しかし、喉に刺さった魚の小骨のようなその引っかかりは、この時とれることはなかった。

 


**********



 「輝跡いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 1月2日 午前9時の金城家に、結夢の怒号が響く。

 次の瞬間には、いつも以上の勢いで毛布をはぎ取られたということもあり、ベッドから床に転落後に相応の距離を転がる輝跡の姿があった。


 「……いてえ……」


 目を覚ました輝跡が、頭に大きなたんこぶをつくりながらつぶやく。


 「いてえ……じゃないわよ!なにこの返信!!!」


 そういって、怒った結夢が輝跡に問題のメール画面を見せつける。

 メール本文には簡単にこう記されていた。


 【金城輝跡 : ごめん、死んでた】


 「あ……」


 寝ぼけた頭を少しずつ覚醒させながら、輝跡は夜中の出来事を思い出す。


 (そういえばあの後、落ち着いたら眠くなって寝たんだっけ……。そんで寝る前に言い訳を思いつかずありのままのことを書いて返信した……)

 「少しくらいひねった言い訳をしなさいよおおおお!!!」


 なおも結夢は怒り狂っている。

 輝跡にとっては事実とはいえ、常人には冗談としかとられないこの返信は、たしかに心配してくれた結夢には失礼だったと、輝跡は反省する。

 だが、事実は信じてもらえないことで、だからといってしっくりくる嘘も思いつかない。


 (なんていえば許してくれるんだろうか……)


 いつの間にか正座で座らせられていた輝跡が、この状況の打開方法を考えていると、そこに救世主が現れた。


 「まあまあ、もういいじゃねーか。輝跡もなにかどーしようもない事情があったんだろ?」

 「茂!!」


 輝跡の目が輝く。

 そこからの輝跡は速かった。


 「な!茂もそういってることだしよ!それよりもケーキ食べようぜ!持ってきてくれたんだろ?」

 「ちょ、まだ話は……」


 結夢に静止されるよりも速く、輝跡は部屋をでてリビングへ向かった。

 誤魔化す形になってしまったことに罪悪感を覚えつつ、輝跡は茂や結夢との一日遅れの誕生日パーティを堪能した。



**********



 一月二日 十四時

 午前中に誕生日パーティを済ませて結夢や茂と解散した輝跡は、ひとりで墓場へと訪れていた。


 「……まさか一年に一度来る場所に、新年二日目にして2回も来てしまうなんてな……」


 さっそく輝跡は、記憶をたどり、記憶が途切れる寸前にいた場所へと向かった。

 しかし、輝跡が死んだと思われるその場所には、なんの痕跡も残されていなかった。


 「まあ、当たり前か……。自称神は急な心肺停止って言ってたしな」


 吐血のような、いかにもなものが残っていれば、自分が死んだという話にも実感がわいたのだろうが、それは叶わなかった。

 その場所で実感をつかむことを諦めた輝跡は、母親の墓石に向かった。


 掃除は昨日済ませたため、墓はきれいな状態であり、掃除の必要性はないと判断した輝跡は、そのまま母親の墓の前で手を合わせると、いつものように目を閉じて呟き始めた。


 「母さん……。どうやら俺は死んだらしいよ。でも、生き返るチャンスを貰えたんだってさ。信じられるか?」


 当然、答えが返ってくるはずはない。死人に口なしとはこのことかな、などと輝跡がくだらないことを考えていた時、


 「信じられるっスよ」


 背後から、男の声が聞こえた。

 このゲームについて、信じられるという声が。

 夜中の、自称神との会話を思い出す。


 —————ここらへんにも、そのプレイヤーはいるってことだな。

 —————まあ、そうなるな。


 (プレイヤーか!?)


 危険を察知した輝跡は、いち早く横へと転がった。

 転がりながら彼は見た。先ほどまで自分の首があったあたりの(くう)を、大きな刃物のようなものが切るのを。

 ある程度の距離をとった輝跡が起き上がり、体勢を立て直す。

 目の先には彼と同じくらいの年齢の男が立っていた。その男は、一部人間と異なった形をしていた。


 「つ……爪……?」


 思わず輝跡の口から声が漏れる。

 突如として襲ってきた男の右手には、大きく長く鋭い爪が生えていたのだ。


 「あちゃー、なかなかの反応速度っスね」


 確実に殺すつもりだった。

 そう思わせるようなセリフだった。


 「なぜ……俺を殺そうとした……?」


 おそるおそる輝跡が尋ねる。そんなことを聞かなくても、輝跡の頭はこの男が自分を殺そうとした理由を理解していた。しかし、彼は実感が欲しかった。敵に答えさせることによって、また自分と自称神以外の他人が答えることによって得られる、『自分もプレイヤーなのだ』という実感が。

 輝跡の質問を受けて襲撃者は、なぜそんなことを尋ねるのか?というふうに首をかしげ、答える。


 「そんなもん、アンタがプレイヤーだからに決まってるっス」


 その返答に、輝跡は息をのむ。実感が、身体に緊張を走らせる。

 これは紛れもなく、殺し合いのゲーム。そして自分はそのプレイヤー。

 輝跡は、死んだという実感よりも、プレイヤーになったという実感を先に味わうこととなった。

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