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Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
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第1章 その26 『先生 その1』

今回は学校内でのお話です。

 「例のブツだ」

 「……ありがとう。毎年すまないね」

 「金を貰ってるからな。払ってもらった額に見合う仕事はきっちりさせてもらうさ」

 「今年は……現時点で五人か。上の追加は無しと……」

 「ああ。今年も私が全員を診たから、間違いはないはずだ」

 「そうか……」

 「……相変わらず、浮かない顔だな。この方法をこれから先も続けていくなら、そろそろ慣れるべき頃合いだと思うが?」

 「……わかってはいるんだけどね……」

 「…………」

 「…………」

 「……あまり固定客にこんなことは言いたくないんだが、その連中を標的にするのではなく、仲間にすればいいんじゃないのか? アンタの評判を聞く限り、可能だと思うが」

 「……無理だよ。それは君もよくわかってるだろう?」

 「……そうだな。訊くだけ野暮だったか。それじゃあ、私はこれで失礼させてもらうよ」

 「来年も……よろしく頼むよ」

 「互いに、生き残っていたら、な」



**********



 四月二十五日 月曜日

 ユカリンのコンサートの翌々日。

 土曜日の疲れを癒すために日曜日をまるごと眠りに費やした輝跡は、休み明けの憂鬱さに苦しみつつも、なんとか学校へと登校していた。

 というのも、強引に結夢に起こされたからなのだが……。

 この日は途中で茂も合流したことで、久々の三人での登校という状況になっていた。


 「ねぇ、そういえば先週、健康診断があったじゃん? お医者さんが来てくださって、全校生徒を診てくれたアレ」

 「あー? ……あー」

 「あったなー。すげーよなぁ。普通は何人かの先生が分担してやる作業だろうに、ひとりでやるなんて」


 結夢の提示した話題に、輝跡は気だるげに、茂はしっかりと応じる。

 進帝高校では、毎年四月中に健康診断が行われる。

 敏腕の医者であるのかどうかは輝跡たちに知る由もないが、毎年進帝高校から依頼される医者は決まっているそうで、今年もその医者がひとりで全校生徒の診断を引き受けていたのだ。

 話題の核は、その医者にあった。

 結夢が健康診断の話題について続ける。


 「その健康診断に来てくださったお医者さんの視線、気にならなかった? なんかやけにジロジロみられていたような感じ。女子の間では視線が気になった人多くてさ。男子はどうだったのかなーって」

 「んー、別にそこまで気にはならなかったけどなぁ」


 輝跡は健康診断の時の状況を思い出しながら、それでもピンとこないようで、結夢に否定を返す。

 毎年進帝高校の健康診断を引き受けているその医者は男性である。異性ということで女子からしてみれば、同性である男子よりも、よりいっそう医者の視線に敏感であっただけとも考えられる。

 しかしここで、輝跡よりも長い時間、当時の状況を思い出していた茂が、輝跡とは反対の意見を述べる。


 「いや、でもたしかに、結夢ちゃんの言うこともわかる気がする……。俺もあの、全身をなめまわすような視線は少し気になった」

 「おまえの筋肉に医者が見とれてただけじゃないのか? けっこうガタイいいんだし」

 「いや輝跡……。さすがに医者なら俺よりもすごい筋肉は経験上見てきてると思うぞ?」

 「それは大人の話だろ? 高校一年生でここまでガッシリしてるヤツは珍しいってニュアンスの視線ならわからなくもないんじゃないか?」

 「うーん、言われてみれば……。でもその医者が女子をジロジロ見る変態なおっさんだったとして、俺の筋肉をマジマジと見つめるかぁ? ホモホモしい」

 「馬鹿か茂。趣味をこじらせた視線と感心の視線。客観的には同じでも、主観的な意味合いが違ったりもするだろ」

 「……一理あるなぁ」

 「まぁもちろん、この世界には両刀……つまりどちらもイける人だっているわけだから、女子に対してもおまえに対しても、同じく趣味をこじらせた視線を向けていた可能性はあるわけだがな?」

 「おいおいよせやい。俺はいたってノーマルなんだから、そんなんごめんこうむる……。って、それなら輝跡‼ おまえや他の男だってそんな視線で見られてたってことになるんじゃねーのか!?」

 「考えたくないな。今の説は無しということで」

 「ったく都合のいいヤツだなこんにゃろー」


 そんなこんなで脱線した話題を繰り広げる男子高校生二人組。

 未だにこういった話で盛り上がれる男子の子供っぽい部分を朝から見せつけられた結夢は、二人の会話に割り込む気にもなれず、溜息とともに呟いた。


 「この二人に訊いたのが間違いだったかなぁ……」



**********



 「進路相談がありま~す」


 朝のホームルームにて、それは担任の森沢先生の口から告げられた。

 他校よりも比較的自由な校風から、内情を知る者からすると忘れてしまいそうになるが、進帝高校はその名を全国に知れ渡らせるほどのれっきとした進学校である。

 そのため、進学について生徒には早いうちから意識を高く持ってほしいという方針により、進帝高校在校生は一年生の頃から、数年後を見据えて進路を考えることとなる。


 「そんなわけで、早速君たち一年生にも五月の第三週あたりで放課後に数人ずつ話を聞いていきたいんだけど、進路とか考えてきてくれるかな? もう自分の進みたい大学が決まっている人はそれを言ってくれればいいし、まだ決まっていない人はこれを機にちょっと集中して考えてみてね~。どんな大学があるのかを調べて、興味がある大学をいくつかチェックしてくるとかでも全然いいよ~」


 進路について意識を高く持つとはいったものの、なにも最初から、「一年生の頃から〇〇大学に行くと決めて三年間勉強に打ち込め!」などと厳しいことを言う気は進帝高校サイドにはさらさら無い。

 たとえ全国に名を知られた進学校とはいえ、入学したての一年生全員が、最初期から目指す大学を決めているということはあまり無いのだ。

 進帝高校教師は、そういった生徒事情までしっかりと考慮している。


 「実は僕が進路相談の担当で、毎年全校生徒の話を聞いてるんだよね~。だから君たちはいつも通り気楽に、僕に相談してね~。相談の日程等のプリントは後日配りま~す」


 こうして朝のホームルームは〆られ、先生は教室を退室していった。

 一時限目までの束の間の休息時間に突入した教室は、普段は生徒のまとまりごとに各々違った話題が展開されるのだが、本日はやはり『進路相談』の話題一色。

 自由な校風とはいえ、全国に名を知らしめる進学校。そこに入試を乗り越えて入学した一年生。そんな彼らの中に、進路についておろそかにする者は誰一人としておらず、その様子を眺めていた輝跡は素直にクラスメートたちを尊敬した。


 「……進路かぁ……」


 周りに感化されたように、自分の行く末に思いを馳せる輝跡。

 とは言っても、輝跡が現時点で知っている大学といえば、東京大学や京都大学なんかの超有名大学くらいだ。おそらくは進帝高校の今年度新入生の中で最も知識が少ないだろう。

 だからといって、輝跡は特に危機感を覚えているわけではない。しかし、いい機会だとは思った。


 「ちょっと調べてみようかな。セカンドライフを勝ち抜き、正式に生き返ってからのこともきちんと考えなきゃだしな」


 最悪、なにかわからないことがあれば先生に相談すれば良いのだ。

 進路相談の担当であり、全校生徒の進路相談を受け持つという担任の森沢先生は、在校生だけでなく卒業生からも人気のある先生だという。

 そもそも、信用と実績がなければ全校生徒の進路相談を受け持つなどという大きな仕事を課せられることすらないだろう。

 そんな先生ならば、きっと力になってくれる。輝跡はこの時、そんな風に思っていた。



**********



 朝のホームルームにて進路相談のことが告げられてから数日後。

 目元まで伸びた金髪をかきあげ、ハチマキのように頭にタオルを巻きながら、碇雷人はその鋭い視線を自宅のパソコンのディスプレイに向けていた。

 ネットサーフィンである。

 実はこの碇雷人という男は、基本的にはインドア派に属する人間なのである。

 休日にすることといえば、ゲーム、読書、ネットサーフィン、そしてアニメの視聴。

 友人と呼べる存在をほとんど持たないため、雷人がこのようなオタク趣味を持っているという事実を知る者は少ない。その上、口調や目つきからして周りからは『怖い人』というレッテルを貼られることが多いため、趣味を勘付かれることも少ない。

 数年前、雷人の友人になってくれた『例の男』も、雷人の趣味を知った時には驚いていた。


 「ァ?」


 と、そんなぼっち系インドアオタクの男が、今日も今日とて趣味の一つであるネットサーフィンを楽しんでいると、なにやらとある記事に目が留まる。

 タイトルは『恐怖!進帝高校は呪われている?』。

 入学シーズンということで、なにかと進帝高校について調べることも多かったため、パソコンがそれを学習し、『進帝高校』というキーワードで注目されている記事をオススメ欄に表示していたのだ。

 ふと気になった雷人が、興味本位でそのページへと跳ぶ。

 書かれている内容を、実際に口に出して、読み上げる。


 「なんだァ? 『進帝高校は呪われている。呪われたのはほんの数年前だが、私は確信をもってそう言える』だァ?」


 最初、この記事は進帝高校のアンチによるあてつけではないかと雷人は思った。

 しかし記事を読み進めるごとに、雷人の脳裏には別の可能性が浮上する。

 呪いなどという不確かなものではなく、もっと現実味を持った、雷人のような人物だからこそ気づける可能性が。


 「こいつァ……臭ェな」


 不確定要素は排除しておかねばならないだろう。

 雷人は、『進帝高校の呪い』とやらについて、詳しく調べてみることにした。



**********



 迎えた五月の第三週。

 五月二十日 金曜日。

 輝跡たちが進路相談について告げられた週に三年生の進路相談、ゴールデンウィークを挟み五月の第二週に二年生の進路相談が行われたという。

 そして今週はついに一年生の進路相談。月曜日からせわしなく行われているが、輝跡や茂、志狼の番は最終日である今日にまわされていた。

 今年も森沢先生が敏腕を振るったらしく、進路相談を終えたクラスメートたちは非常に満足している様子。

 別クラスの結夢の話では、そちらのクラスでも森沢先生の進路相談は評判が高いという。

 輝跡はそんな事実を加味しながら、やはり森沢先生が人気たる所以はここにあるんだろうなぁと一人納得しつつ、自分の番がまわってくる放課後を待っていた。


 そして放課後。

 この日の進路相談の最初の番であった輝跡は、帰宅前のホームルームを終えた後、そのまま森沢先生と共に進路指導室を目指していた。


 「……やっぱり評判いいですね、先生の進路相談」

 「そうかな?」


 進帝高校は敷地が広く、校舎も大きい。それ故に、移動に時間がかかるのがネックだ。

 教室から進路指導室へと向かう道中、森沢先生と並んで歩いているにもかかわらず無言なのも気まずいと考えた輝跡が、森沢先生に話題を振る。


 「ええ、そりゃもう。うちのクラスでもかなり好評ですよ」

 「え~、担任補正かかってない?」

 「違うクラスに幼馴染がいるんですが、そっちのクラスでも好評らしいですし、そんなことはないと思いますよ」

 「それはうれしいね~。先生照れちゃうなぁ~」

 「先生は、卒業生からも人気の先生だとか。そんな噂を耳にしたことがあります」

 「慕ってくれる子は多いね~」


 苦笑しながらも真面目な声色で、森沢先生は続ける。


 「まぁ僕は、生徒がかけがえのない青春をおくり、立派に巣立っていくのを見届けたいだけさ。それだけでこの進路相談の仕事をやらせてもらってるようなものだからね~」

 「やらせてもらって……ってことは、先生はこの仕事をご自身から引き受けたってことですか?」

 「そうなるね~。校長にかけあったよ。最初は当然、くすぶられたんだけどね。実績だして、コツコツとがんばったわけさ。僕に応えてくれた卒業生たちには、僕からお礼を言いたいくらいさ。僕は彼らを導いたけど、彼らも僕を、この仕事の定位置へと導いてくれたわけだからね」


 この先生は、生徒のことをきちんと考えている。

 先生という職業を、ただ金を得るための手段と割り切ることなく、『生徒を教え導くもの』と定義し、実行に移している。

 そして、それ自体が『自分のやりたいこと』なのだと語る。

 おまけにやさしく、生徒をあからさまに見下すなどということもない。

 こんなの、生徒から人気が出ないわけがないじゃないか。輝跡は改めてそう思った。


 「っと、進路指導室に着いたね~。それじゃあ、中に入ろうか」


 言いながら森沢先生は、進路指導室の扉を開き、輝跡に部屋の中に入るよう促す。

 進路指導室内は、壁一面が本棚であり、本棚には数多くの大学の資料が取り揃えられている。

 輝跡が資料の多さに圧倒されていると、先生はすでに進路指導室の中心に位置する対面式の席に座しており、輝跡を手招きしていた。

 それが目に入り、慌てて森沢先生に向かい合うように席に着いた輝跡は、改めて姿勢を正す。


 「そんなに緊張しなくてもいいけどね~」


 輝跡の様子を見て、苦笑しながらも輝跡に肩の力を抜くよう促す先生。

 輝跡は、先生が進路相談の話を持ち出した時にも「気楽に相談してね~」と言っていたのを思い出し、いつの間にか肺に貯めてしまっていた空気をゆっくりと吐いた。


 「それじゃあさっそく、進路相談を始めようか……と言いたいところなんだけど、ちょっとその前に違う話でもしようか~」

 「違う話?」

 「そう。最近、雷人クンとは上手くいっているかな?」

 「あー……」


 輝跡は、遠足の日のことを思い出す。

 そういえば、先生は輝跡達と雷人の関係性を案じている節があった。

 輝跡に雷人の過去を説いたのも先生だ。

 やはりクラスメート同士の仲というのは、そのクラスを受け持つ担任としては気になるのだろうか。それともやはり、雷人が孤立しているのを見逃せないのか。

 どちらにせよ、気になるのだろう。生徒のことを考えてくれている、この先生ならば。

 そう確信しつつ、輝跡は先生の質問に答える。


 「上手くいっているか、と言われれば、上手くいっていないと言わなきゃ嘘になります……。いろいろと試して、友人になろうとはしてるんですけど、なにぶん俺自身のそういった経験が少なくて。俺が『これでいける!』と思った手段も、友人の多い茂や人並みの榎下からしてみれば、『なんでそれでいけると思ったの?』って手段だったりもするわけでして……。呆れられるばかりです」

 「難しいんだね~。RPGで例えるなら、レベル1の勇者がいきなり敵幹部あたりに挑んでいるって感じかな? 雷人クンの壁は見るからに厚そうだもんね」

 「あー、まぁそんな感じですね」

 「まぁでも、君たちが彼と仲良くなる努力をしてくれているようでこちらとしてもうれしいよ。彼は一人でいることを好んでいるように振る舞っているけど、僕から見れば、その在り方には苦痛が付いて回っているからね~」


 そうして先生は一拍置いてから、真剣な表情で輝跡を見つめ、言った。


 「これからも諦めず、雷人クンをよろしく頼むよ」


 対する輝跡も、先生の真剣さを感じ取り、しっかりと先生の目を見て、応える。


 「ええ。もちろんです」


 と、そこで、輝跡の瞳に映る視界がグラつく。

 唐突な眠気。それも異常なほどの。

 思考がぼやける。世界が歪む。身体のバランスが保てない。


 「いったい、なにが……」


 輝跡の右半身に鈍い痛みが走る。気が付けば、視界が九十度回転していた。

 グニャリと歪み続ける視界の中で、なんとか輝跡は異変を探ろうと視線を動かす。

 すると、視線の先には、悲しげな表情の先生が佇んでいた。


 「……先……生」


 そこで、輝跡の意識は途切れた。

さて、輝跡に一体何が起こったのでしょうか。

森沢先生って誰だったっけ?と忘れてしまった方々は、「高校生活始動」や「行事」、「遠足その5」、「遠足その6」を読み返すと、思い出せるかもしれません。

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