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Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
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第1章 その24 『アイドルコンサート その2』

遅くなりまして申し訳ありません

 「わかってると思うがいちおう言うぞ。動いたら殺す」


 その声は、鳥肌が立ってしまいそうなほどに冷酷で、輝跡には喉を鳴らすことさえもためらわれた。

 突きつけられた刃物にも引けを取らないほどに輝跡に冷たさを感じさせる男性の声は、なおも続く。


 「口を動かすことは許可する。答えろ。おまえがここにいる目的はなんだ?」


 輝跡の後頭部へと突きつけられる殺意と敵意がさらに増す。

 返答次第によっては、輝跡の首元は一瞬にして切断されてしまうだろう。少なくとも輝跡にはそう感じられた。

 ではここでの正しい切り返しとはなにか?輝跡の背後に立つ男の真意は?

 まず、なぜ輝跡はいきなり刃物を突き付けられたのか?普通の人間同士ならば、初対面の相手にいきなり刃物を突き付けるなど言語道断な行いだろう。野蛮もいいところだ。

 しかし現実にそれが起こっている。輝跡の喉元に突きつけられた冷たいソレは、視線を動かすだけでは視界にとらえることができないが、間違いなく刃物であると輝跡には言いきれる。

 ともすれば、やはり輝跡の後頭部に突きつけられている殺意や敵意というものは、輝跡の勘違いではなく本物であるということで……。

 輝跡には、それらが向けられる原因に心当たりがあった。

 その心当たりが正しいのならば、つまりは――――


 (この男も、プレイヤー……?)


 そういった結論へとたどり着く。

 つまり、輝跡の背後に立つ男はプレイヤーであり、輝跡がプレイヤーなのかどうかを図っているということになる。

 背後の男性は、コンサート中であるにも関わらず公演中のアイドルの控室の前に佇む怪しい男――――輝跡に対し、先手をとっただけという可能性もないわけではない。

 しかしやはり、輝跡に向けられている殺意や敵意などというものは本物だ。到底、非プレイヤーが向けるようなソレではない。

 雰囲気から察するに、背後の男は輝跡がプレイヤーだとわかった途端に、すぐさまその刃物で輝跡の喉元を切断することだろう。

 それは一瞬の出来事であり、輝跡が抵抗する余裕なんてものはほとんどないとも考えられる。

 かといって、殺られる前に殺るという戦法も、”少しでも動いたら殺す”と言われている状況下においては意味をなさない。輝跡の背後の男は、いつ輝跡が動いても殺せるように気を張っているだろうから。

 ならば、輝跡が返すべき答えの方向性というものは、自ずと決まってくる。

 と、そこまで考えを巡らせたところで、再び輝跡の背後から、凍えそうなほどに冷たい声がかけられる。


 「おい、なにを考えている?さっさとこちらの問いに答えろ。おまえの目的はなんだ?」


 輝跡の返答を急かすその声には、若干のいら立ちがみてとれた。

 それに応じてか、輝跡の喉元に突きつけられた刃物に込められる力も強まる。

 これ以上の返答の引き延ばしは、むしろよりいっそうプレイヤーであることを怪しまれる原因となりかねない。そうなってしまえば、せっかく右手の甲にあるエンブレムを指だしグローブで隠しているというのに、意味がなくなってしまう。

 そう判断した輝跡は、自分がプレイヤーであることを隠しながら質問に答えるという方針のもと、口を開いた。


 「い、いやぁ、実はですね、さっき外の扉からコソコソとここに侵入していった怪しい人影を見ましてね。つけてきたんですよ。まさかこんな控室に面した通路に出るだなんて思っていなくて……」

 「……怪しい人影だと……?それは本当のことか?」

 「ええそりゃもう!!本当のことですとも!!自分がこの部屋の前に立ってたのも、その人影がこの部屋に入っていったからなんです!!」

 「遊歌の控室に……怪しい人影……」


 冷たい声が止まる。

 おそらく声の主は考え込んでいるのだろう。ユカリンの控室に怪しい人影が入っていったというのは、輝跡の背後に立つ男性にとっては重要な案件であるのかもしれない。また、ユカリンのことを遊歌と呼んだことからも、この男性が彼女の関係者であることがうかがえる。

 一旦訪れた静寂であったが、それも十秒と続かず、輝跡の背後に立つ男性からは続いての質問が発せられた。


 「そもそもおまえはどこから入ってきた?」

 「どこから……と言われましても……。外から直通の通路がこのユカリンの控室からえーと……。あの、指さしていいですか?このままだと説明がしずらいんですよね。指さした方が早いかと」

 「……まぁ、仕方ないか。余計なことはするなよ」


 そうして、指をさす許可をもらった輝跡は、早速自分が怪しい人影を追って通ってきた道の入り口である扉を指さす。

 しかしその通路及び扉は、輝跡の見た限りではプレイヤーと思われる怪しい人影が作ったものだ。

 それが正しいのであれば、もともとこの通路は存在しないということになる。

 案の定、輝跡の背後に立つ男性は、疑問を発した。


 「……こんなところに通路なんざあったか……?」

 「あったか?と言われましても、あったから俺と怪しい人影は入ってこれたわけでして……」

 「いや、だがそんな通路があるなら事前に把握して――――まてよ……?」


 そこで、背後の男性が何かに気づく。

 背後の男性は数秒なにかしらを考えると、これまでの慎重さが嘘のように思える程、輝跡への対応の仕方を激変させた。

 と、言うのも――――。


 「単刀直入に聞こう。おまえはプレイヤーだな?」

 「……ッッ!!」


 いきなり核心に迫る質問――――いや、”確認”を、輝跡へと投じたのだ。

 この時点で、輝跡の背後にたつ男性がプレイヤーであることが確定する。

 それはつまり、やはりこれまで輝跡の背後にたつ男性は、輝跡がプレイヤーであるかどうかを図っていたということを意味する。

 しかしそれは輝跡も予想していた。だからこそ、プレイヤーであることを気づかれないよう慎重に言葉を選んできた。エンブレムもしっかりと隠している。プレイヤーであることを怪しまれることはあれど、断定されるような行動をとった覚えは輝跡にはない。

 或いは、背後の男性が投じた確認は、ただのカマかけだったのかもしれない。

 しかしどのみち、このような大胆な確認を取られることなど、輝跡は微塵も想定していなかった。

 故に、動揺してしまった。

 それが、命とりとなった。


 「だーもう、メンドくさいな!!」


 じれったいと言わんばかりの呟きと同時に、スパパパッと、輝跡の右手付近でなにかしらが切断される音が生じる。

 思わず音のした方へと顔ごと視線を向けた輝跡の目に映ったのは、指だしグローブで隠していたはずの自分のエンブレムであった。

 右手の真下の床には切断された布の切れ端が落ちており、輝跡は、背後の男性が輝跡の右手に装着されていた指だしグローブを一瞬にして切断したのだと理解した。

 それはつまり、輝跡がプレイヤーであることが確実に背後の男性に知られてしまったということであって――――。


 「マズ――――」


 輝跡は、背後に立つ男性に自分がプレイヤーであることを断定されてしまえば、一瞬で喉元を切断されて殺されてしまうものと考えていた。それは背後の男性からの敵意と殺気を後頭部にひしひしと感じていたからであって。

 だからこそ、なんとか死を回避するために輝跡は、振り向きざまに反撃に移ろうとした。

 が、しかし。

 次の瞬間に背後の男性から発せられたのは、またしても輝跡の予期せぬ言葉であった。


 「やっぱりか……。まぁ落ち着けよ」

 「……は?」


 輝跡があっけにとられる。

 数秒前まで輝跡に刃物を突き付け、敵意や殺気などという物騒なものを放っていた男性は、あろうことかそんなことをのたまうと、輝跡の喉元を切断するどころか、刃物を輝跡の喉元から引いたのだった。

 先ほどからの予期せぬ事態の連続に困惑する輝跡は、やっとのことで自分の喉元に刃物を突き付けていた男性の姿を視認する。

 耳から下の後ろ髪のみが黒色でそれ以外の部分が金色の短髪を逆立て、右目の下に一枚の絆創膏を貼るスーツ姿のその男性は、荒々しく右手で髪をかき乱しながら言葉を続ける。


 「おまえの言う”怪しい人影”の存在をとりあえず信用することにした。そんで、ここからはおまえがプレイヤーであることを隠したままだと正しいことが聞き出せないと判断した。つまりはそういうことだ。全て話せ」

 「な……へ?殺さないのか……?てっきり、プレイヤーだとバレた瞬間に殺されるものと……」

 「最初はそのつもりだったよ。刃物やら殺気やら突き付けてんのにやたら落ち着いてるし、服装と不似合いな指だしグローブをしかも片手だけになんていう、なにか隠してるのがまるわかりな程怪しい姿だし、プレイヤーなんだろうなとは思ってたから、プレイヤーだっていう証拠さえ得られればすぐさま殺す予定だった。でも、おまえの言う怪しい人影ってやつがプレイヤーかもしれない疑惑が浮かび上がってな。そうもいかなくなった」

 「……なるほど」

 「さぁ、プレイヤーとして話せることがあれば話せ。おまえはあの通路がどうやって現れたかを見たのか?」


 輝跡の背後に立っていた男性が、輝跡の通ってきた通路について尋ねる。

 やはり男性も、あの通路はプレイヤーの能力によって現れたものと考えている様子だ。

 輝跡は男性の質問に応じ、扉が現れたときのことや怪しい人影の能力に関する考察を隠すことなく語った。


 「という感じですね」

 「……なるほどな」


 一通り輝跡が語り終えると、男性は一言納得の言葉を呟き、しかして今度は自らが語り始めた。


 「まずひとつ、前提から訂正するところがある。おまえの言う通路のことだ。おまえ曰く”突如として現れた”その通路は、実はもともと存在している通路なんだよ。地図には表記されてるんだ。しかし俺が事前に下調べをしたとき、あの通路は確かになかった。だからこの通路は、表記ミスなんだと思ってた」

 「それは、つまり……」

 「ああ。つまり考えられるのは、通路が”隠されていた”という可能性だ。おそらくはその怪しい人影――――不審者のプレイヤーとしての能力によるものなんだろう。通路の現れ方からしても、おまえが言う通りソイツがプレイヤーであることは間違いなさそうだからな。相当腕の立つマジシャンでもない限り」


 輝跡は最初、通ってきた通路はもともと存在しないもので、不審者がプレイヤーの能力で創り出したものであると考えていた。

 しかし違った。

 逆だった。

 輝跡らが通ってきた通路はもともと存在するものであり、隠されていただけで、おそらくあの時不審者は能力を解除しただけだったのだ。

 ならば不審者の能力は輝跡が予想した『通路作成』ではなく――――

 

 「不審者の能力は……『隠蔽いんぺい』……?」

 「話を聞く限りではそれが妥当だろうな。確証を得ているわけじゃないから過信はできないが、それが正しいのであればひとまずは肩の荷が下りる。不審者の能力が『隠蔽』であり、つ狙いが遊歌か俺なのだとしたら、対応は可能だからな」

 「ユカリンが狙いとは?」

 「ああ。最近いるんだよしつこいストーカーがな。そのストーカーが実はプレイヤーで、能力を駆使して遊歌を手に入れようとしてるって可能性。どうだ?なくはないだろ?単純にプレイヤーとして俺を狙ってるってのだったら話が簡単で済むんだがなぁ……」


 言いながら男性は、スーツの胸ポケットよりスマートフォンを取り出し、どこかへと電話をかけ始める。

 目的がわからず首を傾げる輝跡に対し、「念のためな」と一言言うと、通話相手が応答したのか、男性は輝跡に背を向け電話の向こうの人物にいくつか質問し、通話を終了した。


 「どこにかけていたんですか?」

 「遊歌のコンサートを見守ってるスタッフの一人にだよ。念のためって言ったろ?万が一、不審者の能力が『隠蔽』じゃなくてここからでも舞台上の遊歌に危害を加えられる能力だったら後悔してもしきれないからな。それに俺は、お前の言う”怪しい人影の存在”を信用するとは言ったが、”おまえ自身”を信用するとは言ってないからな。おまえこそストーカーの可能性もあったし、或いは二人組の犯行でおまえが俺の足止めをしてるって可能性もあったし」

 「なっ……いや、ここまでの展開が急だったこともあって聞きそびれてましたが、そもそも俺はあなたがプレイヤーであるということ以外なに一つ知らないんですよ!?何者かもわからない人物を足止めしてどうするんですか!!」

 「まぁ、おまえはそうだよな。会場にいる味方になにか伝える素振りもなかったし、プレイヤーだと判明した瞬間なにか反撃しようとしたあたり攻撃の術は持っているはずなのに隙を見せてもなにもしてこなかったし、連絡がこないってことは相変わらず会場じゃなんも起こってないってことだし、そもそも時間稼ぎだとしたらその方法がリスキーすぎる。言葉に混ぜた”引っかけ”にも引っかからなかったから別目的の線も消えたし、あとはその不審者が控室の中にいれば、晴れておまえの無実が証明されるな」


 どうやら最初輝跡を殺すつもりだったというこの男性は、この短時間の間にいくつもの思考を巡らせ、輝跡を見定めていたらしい。

 結果、輝跡はほぼシロとなっているという。輝跡からしてみれば当然のことなのだが……。

 しかし、自分で口にしてみて輝跡は改めて疑問に感じた。この男性がいったいどういう立場の人間なのか。

 とはいっても、輝跡にも大体の察しは付いている。だが男性の口から直接素性を聞きたかったのだ。

 しかしこの時、男性が話の流れで自らの素性を明かすことはなかった。

 

 「さて、そんじゃあ、なにがあるかわからんからとりあえず遊歌はこの部屋にれないとして……」


 呟きながら、男性が首を回す。

 雰囲気が、再び変異する。

 次の瞬間、そこに立っているのは紛れもなく、先ほどまで輝跡の喉元に刃物を突き付けていた”冷酷な男性”だった。

 彼は、凍えてしまうほどの冷気をまとう声で、続ける。


 「害虫退治といこうか。少年」

初対面同士のお互いの考察とか、信用する理屈とか、とにかく難しいですね……

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