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Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
21/29

第1章 その20 『遠足 その10』

遠足回終了です!!

 「第二の理由は、『死体数が把握できねェから』だァ」

 「死体数が把握できない……か。たしかにテレビでも報道されていたな。なんでも、死体の損傷が激しすぎるとか」


 ニュースでは最終的に『生存者は一人』と言う風に報道されたが、なにも最初からそう報じられていたわけではない。

 爆発事件が起こった当初は『正確な死亡者数および生存者数は不明』とされていた。

 しかし現場で保護された雷人を除き、現場には生存者がおらず、また数日経ってもその学校にいたであろう人物が誰一人として見つからなかったことから、『生存者は一人』という最終判断が下されたのだった。


 「そうだなァ……ヒデェもんだったァ」

 「でもさ、爆発で、死体数が把握できないほどほとんどの死体がぐちゃぐちゃになるか?」


 爆発の影響で身体の一部が欠損することがあるというのは、輝跡だって重々承知している。

 それでもさすがに、死体数が把握できなくなるという事態はいまいち想像できていなかった。


 「たしかに校舎をまるごと吹き飛ばすほどの大きな爆発だったっていうのはわかっているさ。でも爆発にだって起点があって、起点から遠ざかるほど爆発の影響っていうのは弱まっていくものだろ?」


 犯人が爆発を引き起こす能力者であるのならば、犯人が爆発の起点となっているはずだと輝跡は考えた。

 しかし、来々中学校とはけっこう広い校舎を持っていたのだ。


 「身体がぐちゃぐちゃになるほどの威力が校舎の外装にまで届くほどの爆発を犯人が起こしたとすれば、一見説明がつくようにも思えるが……。でもそれだとむしろ、外装近くにいた人たちは多少ダメージを負いながらも爆風で遠くに飛ばされる気がするんだよな……。それに……碇、おまえはその事件の時にはすでにプレイヤーだったってことでいいんだよな?」

 「あァ、そうだなァ。プレイヤーだったぜェ」

 「おまえは自分の能力かなにかを使って生き延びたのか?」

 「いやァ、俺はなにもしてねェ。なぜか俺だけが生き残った。そんだけだァ」

 「だったら、そんな広範囲かつ高威力の爆発が起こったとして、巻き込まれた人の中でも碇だけが生き残るなんて考えにくいんだよな……たとえプレイヤーとして普通の人より頑丈になっていてもな……」


 自分の考察に行き詰った様子の輝跡に、雷人はあまり乗り気ではなさそうに告げる。


 「正直、俺もテメェと同じように考えを巡らせたことがある。だがわかんねェままだァ。犯人がやったことに関してわかっているのは、『校舎をまるごと吹っ飛ばす程の爆発を起こした』ってことだけなんだからなァ。犯人の能力に秘密があるのかなんなのか。だから、なぜ死体数が把握できないほど死体の損傷が激しいのかについては今のところ考えるだけ野暮だぜェ」


 溜息をつきながら、やれやれと両手をあげて首を振る雷人は、過去の自分と同じ思考ルートを辿ろうとしている輝跡があまり面白くなかったようで、そこからさらに輝跡が考察することを制した。

 しかし、あくまでも補足といった形で、雷人が先ほどの志狼の疑問に答える。


 「ちなみに、瓦礫はすべてかなり細かく砕けていたァ。テメェらが想像しているようなゴロゴロと巨大なものじゃァねェぜェ。だから、足場の邪魔になることは特になかったし、つぶされることで死ぬようなものでもなかったァ」


 これもおそらく、犯人の能力に秘密が隠されているのだろう。しかしだからこそ、犯人の能力の情報が少ない今は、瓦礫が細かかったことに関して考えるのもまた野暮というものだ。

 雷人に言われずともそう判断した輝跡は、またしても話をわき道にそらしてしまったことを謝罪すると、話を元のレールに載せ直し、尋ねた。


 「第三の理由を聞かせてもらってもいいか?」

 「あァ、第三の理由、これは本当に推測の域を出ねェが……俺は犯人が『龍の胃袋に連れていかれたから』だと考えているゥ」


 と、ここで、またしても輝跡の知らない固有名詞が出現する。


 「『龍の胃袋』?なんだそれは……?」

 「俺も知らないッスね」


 しかしそれは珍しく、輝跡のみが知らない名前ではないらしい。

 正当な手順でプレイヤーになったわけではない茂が首を横に振っているのは当然として、正当な手順を踏んでプレイヤーになった志狼も知らないときた。

 つまりは、プレイヤーになるにあたって記憶に付与されない、ルール上では公開されていない情報ということになる。


 「なんだァ?聞いたこともねェのかァ?……さっきからなんか、流れで俺が説明しなくていいことまで懇切丁寧に説明しちまってる気がするんだがなァ?」

 「無知なのは本当に申し訳ないと思う。こっちにも事情があってな。でもそれを知らないと話が進まないのも事実だ。手間を取らせるが説明してほしい」


 自分が無知であることに対して開き直った様子の輝跡に頼まれ、呆れたように溜息を吐きながら、雷人が『龍の胃袋』についての説明を始める。


 「『龍の胃袋』っつーのはなァ、いわゆるプレイヤー用の刑務所だァ」

 「刑務所?」

 「ああ、俺も噂に聞いただけだがなァ。いくつかあるセカンドライフのルールを破ったプレイヤーが連れていかれる場所らしいぜェ。なんでも、どこぞの絶海の孤島にあるらしく、外界とは隔たれ、一度そこに入れられれば二度とセカンドライフに復帰できないヤツもいるとかいないとか言われてんなァ」


 ルールといえば輝跡自身すべてを把握しているわけではないが、とっさに彼の頭には『プレイヤーは故意に非プレイヤーを殺してはならない』というルールが思い浮かんだ。

 それは以前戦った針男、結夢を『故意にではないが』狙ったというクソ野郎が、その許容される範囲について熱弁していたルールだ。


 「そうか……さすがに学校の校舎が吹き飛ぶほどの爆発を起こしたのなら言い逃れはできないよな」

 「あァ、おそらくなァ。ただ俺も犯人が連れていかれるところを見たわけじゃァねェ。推測の域を出ないって言ったのはそういうことだァ。だが、あれだけのことを起こしておいて、その後誰一人としてヤツの姿を目撃したヤツがいないことからも、『龍の胃袋』行きになった可能性は充分高ェと言えるなァ」


 そして、静寂。

 雷人が考えていた三つの理由が、ついにすべてその口から語られた。

 輝跡、茂、志狼は、『来々中学爆破事件』の真相を知った。

 その真相は、セカンドライフのシステム上では間違いなく改ざんされる真相であり、雷人はそれをこの一年間ずっと一人で抱え込んできたのだ。

 それは、常人ならば耐えられないほどの苦痛だっただろう。

 そう思ったからこそ、輝跡は一言、こう言った。


 「辛かったな」


 しかし。

 その一言は、むしろ雷人の癪に障ったようだった。


 「違ェよ。そうじゃァねェ。俺はテメェにそんな言葉をかけてほしくて……そんな哀れむような瞳で見つめてほしくて事件の真相を話したわけじゃァねェ!!」


 雷人は、語気を強めながら、続ける。


 「ここまでは大前提だァ。テメェならこれで察してくれるかと思ったが、なるほどテメェはそっちの方に焦点を当てんのかよォ!!ったくめんどくせェ!!そっちがそれなら話はまだ終わんねェ!!いいか?事件の真相を語る前に、俺がテメェの考えを『勘違いだ』と否定したのを覚えているかァ!?」

 「……ああ」

 「『勘違い』に気づいてほしかったんだよ俺はァ!!ったく全然わかってねェじゃねェかよォ!!」


 雷人のイライラが加速する。乱暴に髪をかき乱す。

 と、そんな様子は思いのほかすぐにおさまり、今日何度目かの溜息を吐くと、雷人は落ち着いた様子で、輝跡をまっすぐに見据える。


 「……ずいぶん話がわき道にそれちまったのも原因ではあるかァ?……まァ、素直に話してやるゥ。どうやらその方が早そうだァ」

 「……ああ、よろしく頼むよ」


 そうして、雷人の胸の内にある本心が語られ始めた。


 「まず、俺には特に友人なんざいなかったァ。……一人、『来々中学爆破事件』の犯人を除いてはなァ」

 「……犯人、だけ……?」


 少し驚いた表情で、輝跡が言葉を漏らす。

 つまり、輝跡も森沢先生も、前提からして間違っていたということになる。

 雷人には、一瞬で失うことで、作ることがトラウマにような友達がそもそもいなかった。

 

 「まァな。俺みたいなやつと友人になるようなもの好きはヤツだけだったってわけだァ。……いやァ、あるいはヤツも、物好きではなかったのかもしれないがなァ」


 一瞬、雷人の表情が寂寥感で曇る。

 輝跡はそれに気づきつつも、黙って耳を傾ける。


 「んで、ヤツは人気者だったァ。俺はどのみちヤツしか友人がいなかったから、ヤツをかけがえのない友人と思って信頼していたが、ヤツからしてみれば俺はおそらく、ヤツのたくさんいる友人のうちの一人にすぎなかったんだろうなァ。俺にそう思わせる程、ヤツの周りは常に人であふれていたァ。……にもかかわらず、事件は起きた。他でもない、ヤツがその全員を巻き込んだ」


 雷人の声が震える。

 それは、怒りからくる震えなのだろう。

 雷人は、両こぶしを今一度ギュッと握りしめ、続ける。


 「一瞬だったァ。気づけば俺は負傷した身体でうつ伏せに倒れていて、かろうじて顔を上げた先にはヤツが無傷で立っていたァ……。ヤツの顔には、その場にそぐわない笑顔があったァ。その時、俺は初めて知ったァ。ヤツがプレイヤーであることをなァ……。ヤツの去り際の独り言からして、来々中学にはどうやらプレイヤーが多かったらしいぜェ。だからソイツらを全員一気に一掃するためにやったんだとさァ」


 来々中学校は校舎が大きかった。つまりは生徒数も多かったのだ。

 犯人はおそらく、来々中学に通っていたプレイヤーのこともその人望で把握していたのだろう。だからこそ『来々中学にはプレイヤーが多い』などということを知ることもできた。

 把握しているプレイヤーだけを集めて殺すということをしなかったのは、おそらく『漏れ』を気にしたから。自分が把握していないプレイヤーもいると疑ったから。すべてを把握する前に、卒業シーズンが来てしまったから。

 しかし、だからといって、『龍の胃袋』に連れていかれるというハイリスクを犯してまで、学校ごとふっ飛ばすなどするだろうか?なにか他の目的があった?それともリターンに目がくらんだだけ?

 輝跡の頭の中では、数々の思考が交錯する。


 「だから俺は信用できねェのさァ、仲間なんてヤツはよォ。プレイヤーなんてそんなもんだとわかったァ。どんなに仲間を気取っていても、自分の利益になるとわかった途端に寝首をかくんだァ。……許せねェよ。プレイヤーだということを隠して仲間という懐に入ってくるやつだっているだろォしなァ。……だから俺は二度と仲間なんざ作らねェ。仲間なんていう不完全で、誰か一人の意思で簡単に壊れちまうような関係性は嫌いだァ。それなら一人の方がいいだろォ」


 雷人が、語り終える。

 輝跡たちに理解してほしかったことを。

 これからも、雷人が輝跡たちの敵でいようとする理由を。

 しかし、輝跡はなおも、こう言った。


 「でも俺は、おまえを信用できる。その犯人の行いを悪とし、誰よりも『仲間』というものに理想を持っている、そんなおまえだから信用できる」

 「……俺はテメェを信用できねェ」

 「残念だな。でも、やっぱりすべてが勘違いではなかったとわかったよ。やっぱりおまえは怖かったんだな」

 「……テメェ……ここにきてまだ……」

 「ここまできたからこそ、はっきりと出せた結論だよ」

 「……ッ……!!」


 輝跡のまっすぐな視線に、雷人は一瞬気圧される。


 「おまえも気づいているはずだ。この世界にはその犯人のような人間ばかりがいるわけではないことに。おまえの友達経験が少ないだけで、たまたま友人がそんなヤツだったから、『友人』や『仲間』といったものにそういった印象がついてしまっただけなんだ」

 「『友達経験が少ない』ってのはおまえが言えた事じゃないんじゃ……」

 「……そこは目をつぶれよ……」


 茂が痛いところをつく。たしかに輝跡も決して人のことは言えないかもしれない。

 しかし、輝跡にはかけがえのない、信用もできる良い仲間が今でもいる。

 それだけで充分ではなかろうか。


 「ともかく、だ。おまえは友達経験が少なかったからこそ、その少ない経験の中で出会った悪に恐れてるんだよ。次に仲間を作って、またそいつにも裏切られたらどうしよう、犯人みたいなやつだったらどうしようと怖がっているんだ」

 「……れ……」

 「さっきも言ったが、俺も気の知れた友人を作るのが怖い!気持ちがわかるんだよ!俺たちなら決しておまえを裏切ったりは」

 「黙れェ!!」


 その場に静寂をもたらすには充分すぎる電撃を、大声とともに雷人が四方八方へと放出する。

 これには輝跡も口を閉ざすしかなかった。


 「……テメェの言いてェことはわかったァ……。とんだ無駄足だったなァ。テメェにはなにを言っても無駄なようだァ……」


 うつむきながら、しかし口元には無理やりに笑みを作りながら。

 雷人は輝跡らに、今日何度目かはわからないが、背を向ける。

 そして。


 「テメェがなんと言おうが、これからも俺たちは敵同士だァ。じゃァなァ」


 そう言って、今度こそ雷人はその場を去っていった。

 最後、雷人を引き留めることができなかった輝跡の中には、やりきれなさが色濃く残った。

 こうして、輝跡の人生史上最も濃い遠足は、幕を閉じたのであった。


 「……ん??あれっ??ああああああああああああああああああああ!!!動物園全部周れてないッスウウウウウウウウウウウウウウウ!!」


 生徒一人の、悲痛な叫びとともに。



**********



 どことも知れない、絶海の孤島。

 セカンドライフにおいて、ルールを犯したプレイヤーが投獄される刑務所。

 『龍の胃袋』。

 そこの投獄者の中でも、ひと際スケールの大きなことをしでかして投獄された男が一人、今日も手錠をされて牢屋の中で暇そうに胡坐をかいていた。

 しかしその男は齢十七とは到底思えないほど小さく、青年と呼ぶよりは少年と呼ぶ方がしっくりときそうな外見をしていた。

 髪は赤く、比較的長めの髪が波のように放物線を描いている。

 彼は一年前に、とある中学校をまるごと吹っ飛ばした爆弾魔である。

 名前は、『野村爆のむらはじけ』。

 彼の能力であれば、一見ただの刑務所である『龍の胃袋』は吹っ飛ばせそうであったが、そうできない理由があった。

 手錠である。一見、ただの手錠に見えて、実はこの手錠には、『はめられたプレイヤーの能力発動を封じる』という力がある。

 故に、能力は発動できず、ここではプレイヤーは普通の人間も同然ということだ。


 「懲役五十年は長いなー。ま、これがプレイヤーじゃなくて普通の人間としての司法だったらさらにやばかったんだろうけど……」


 天井を眺めながらそうつぶやく爆の瞳には、しかしてしっかりと希望の光が灯っている。

 それは外への展望。それも、五十年後などという遠い未来に対しての物ではない。

 彼は『すぐ先』の外の景色を望んでいる。


 「さて、そろそろかな」


 そうつぶやいた爆弾魔は、クックックと静かに、不気味な笑い声を上げた。

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