第1章 その16 『遠足 その6』
後半は急ぎで書いたので、変なところあるかもです……すみません。中途半端なところで終わってしまっていますが、続きはなるべくはやく投稿したいと思っています
「えっちょっ!!輝跡サン!?茂サンが危ないっていったい……輝跡サン?輝跡サン!?ってもう切れてるじゃないッスか!!ったく……」
急な輝跡からの指示に対して志狼が詳しく聞き返そうとしたときには、すでにその通話は終了していた。
輝跡の行動の速さと焦りようからも、事態は一刻を争うものと考えられる。
そう判断した志狼は、即座に再びハイエナの能力を身体に付与する。
(たしか輝跡サンは『来た道を引き返せ』って言ってたッスね。てことは普通に考えて茂サンと別れたところあたりにいけば……)
動物園のマップにて目的地を確認した志狼は、さっそくスタートダッシュの体勢に入る。
しかし周りには人も多い。いきなりフルスピードで飛び出せば、能力をそこいらの人々、運が悪ければプレイヤーに見られてしまうかもしれない。
そんな考えが志狼の頭をよぎる。
しかし。
(まぁ、そん時はそん時。仕方ないッスよね。もしもプレイヤーに目をつけられた時は、輝跡サンにでも協力してもらうッスかね)
今優先すべきは、一刻もはやく茂の元に到達すること。
多少のデメリットを覚悟で、志狼は思い切り地を蹴った。
**********
「おや?榎下くんはどこへ?」
飲み物を買うためにほんの数秒その場を離れていた勉が、同じ班の男子生徒に炭酸飲料を渡しながら尋ねる。
男子生徒は志狼が走っていった方角を指さすと、
「あっちに走っていったよ」
と一言静かに呟き、受け取った炭酸飲料を喉に流し込む。
「電話はつながったようでしたし、班のメンバーと合流しに行ったんでしょうかね?無事に合流できるといいのですが……」
「…………」
「どうしました、霧切くん?なにか気になることでも?」
「…………いや」
なおも志狼が走っていった方向を見つめ続ける霧切と呼ばれた男子生徒は、勉の呼びかけに対し、少し間を取ってから、しかして視線をそらさずに応じた。
「なんでもないよ」
「……?」
明らかになにかを気にしている様子であるのにそれを否定した霧切雅也に対して、勉が疑問を感じていると、その間に満足したのか、霧切がパーマのかかった黒髪をなびかせ、勉の方へ振り向く。
そして一瞬ニコリとほほ笑むと、そそくさとあと二人の班メンバーがいる方へと歩き始めた。
「……なんだったんでしょう……」
勉は解決しない疑問に気持ちをモヤモヤさせたままであったが、他の班メンバーを待たせるわけにはいかないといったん気持ちを切り替え、雅也の後を追うのだった。
**********
(くそったれェ……)
輝跡と志狼が走り出してからも、分かれ道にて、電撃男と武器男の戦闘は続いていた。
しかして戦況は輝跡の想像とはまったくの真逆。電撃男である雷人が武器男である茂に押される形となっていた。
「……こんなものか」
ふと、猛攻を続けていた手を止めた茂が、それまで硬く閉ざしていた口を開く。
「……どォいう意味だァ……」
「そんままの意味だ。たしかに碇雷人、お前は今までに俺が戦ったプレイヤーに比べれば強かった。だがそれでも、俺が少しばかり力を出せばこういった結果になる。所詮こんなものなんだなってな」
挑発だ、と。
最初、雷人はそう考えた。
今の茂の言動は雷人を煽るもの。戦術でいえば、雷人の頭に血を登らせることでむやみな攻撃を誘うものにもとれた。
しかし違う。
茂の表情から、雷人は違和感に気づく。
自らの左拳を強く握り見つめる茂の顔に浮かんでいたのは、安堵の表情だった。
命のやりとり――雷人に殺す気はないが――の最中というこの状況において、不気味とも思える異質さをかもしだす茂に対し、雷人はただ体勢を立て直し、警戒することしかできなかった。
そんな雷人を傍目に、茂は言葉を続ける。
「……通じる。俺の力は通じるんだ!これでまだ、俺は輝跡をプレイヤーから守るために戦うことができるんだ……!」
嬉しさからなのか、茂の身体や声は震えていた。
「……おい……一つ聞かせろォ……」
喉を一度鳴らしてから、雷人は嬉しさに打ち震える茂に問いかける。
「どうして……そこまで金城にこだわる……?」
「…………」
茂は雷人の問いかけに、徐々に表情をどこか哀愁ただようものへと変化させていく。
そして、完全に茂の雰囲気が変わりきったとき、彼はただ一言、呟いた。
「輝跡は、俺が守ってやりてーんだ」
雷人は茂の言葉から、なんらかの事情があることを感じとった。
おそらくこの件に関して、茂は追究されることを嫌がるのだろう。
気にはなった雷人だったが、追究することはなかった。
しかしそれは、なにも茂が嫌がるから追究しないなどといったような優しい考えが浮かんだからではない。
できなかったのだ。
なぜなら茂は雷人の問いかけに答えた直後には、またしても戦闘モードへと気持ちを切り替えていたのだから。
「というわけで、だ。碇雷人。お前に個人的な恨みはないが、輝跡に害をなすヤツは生かしておけないんだ。ここでトドメを刺させてもらう」
茂が木にもたれかかっている棺桶の方に右手のひらをむけた直後、棺桶の中から鎖が飛び出す。
その鎖は非常に長く、棺桶からすべて出きらない段階で茂の手元に届き―――――
棺桶が、跳んだ。
正確には、茂が手元に届いた鎖を勢いよく引っ張ったことで、それにつられて棺桶も引っ張られ、跳んできたのだ。
しかも、雷人の方に。
「は?」
思いがけないことに対して一瞬唖然にとられた雷人は、なおもハンマーのように上から迫りくる棺桶を、またしても茂がひとつの攻撃方法として用いたのだと理解し、間一髪で横に逸れて避ける。
「テメッ、だから武器庫を武器として使うんじゃねェ!!」
「なんでだ?戦闘で使えるものはなんだって『武器』だろ?」
茂が今度は鎖を引っ張ったまま、身体を横にねじり、その場で回転する。
すると、瞬く間に棺桶は横に跳び、茂を中心とした円を一度描いてから再び雷人へと襲い掛かる。
雷人はそれを、回転を続ける茂めがけてダッシュすることで回避し、そのまま茂への突進を試みる。
しかし。
その試みは、唐突に横から雷人に直撃した物体によって阻まれた。
大きな力でふっ飛ばされた雷人は、木に激突して止まるまでに、自分を吹っ飛ばした物体の正体が、自分がいた場所のはるか外側で円を描いていたはずの棺桶であることを認識した。
(リーチは自由自在ッつーことかよォ……!!)
今度は逆に、最初よりも大きな半径で茂を中心に円を描く棺桶が、木にもたれかかる雷人に迫る。
雷人はすんでのところで前にでることによりそれを回避したが、棺桶はそのままの勢いで雷人のもたれかかっていた木やその周辺の木に激突し、静止した。
棺桶大回転攻撃が停止しているこの隙にと、雷人はすかさず再び自らにブーストをかけ、一気に茂との距離をつめる。
だが茂は特に焦る様子もなく、未だ手に握っている鎖を思い切り引っ張る。
すると、それとタイミングを同じくして、雷人の後方でなにかが崩れる音が響いた。
倒れた木々の下敷きになっていた棺桶を引き抜いたことで、上積みになっていた木々が崩れた音だろうと判断した雷人は、棺桶が茂の手元に戻る、あるいは自分に直撃する前に茂をいちはやく感電させようと考えた。
だが、後ろから聞こえてくる風切り音が先程の棺桶のソレとは違うこと、そして想像よりも速度が速いことに雷人は気づく。
嫌な気配を感じた雷人は、惜しむことなく直前に考えた作戦を捨て、走りながらも体勢を低くした。
するとはっきりと、頭上で『刃物』が通過したような風切り音が雷人の耳に届いた。
直後、顔を上げた雷人の目の前では、鎖しか持っていなかったはずの茂が大きな鎌を携え、その黒光りする『刃物』を雷人めがけて振り下ろしているところだった。
どこにそんな鎌を隠し持っていたのかなんてことは考えるまでもなく、鎌には先ほどから茂がずっと握っていた鎖が繋がっていることからも、鎖と鎌は一帯の武器であり、先程頭上を通過したものの正体こそ鎌であるということが、雷人には瞬時に理解できた。
(くそっ……よけらんねェか……!!)
ブーストによる突進でスピードに乗っていたということもあり、目前に鎌が迫っているという状況下でありながらも雷人は、うまく回避できずにいた。
完全には避けられないながらも、なんとか致命傷は避けようと雷人が苦し紛れに身体を逸らした、その時。
「そおおおおおおおおおこおおおおおおまあああああああでええええええええええッスウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
『ソレ』は、高速で飛んできた。
突然の横からの衝撃に謎の浮遊感を感じた雷人は、本日二度目となる木への直撃を味わうことで、自分が吹っ飛ばされたことに気づく。
しかし今回は茂の攻撃ではなければ例の棺桶でもない。あの場面で雷人を吹っ飛ばす理由が茂にはないからだ。
では誰の仕業か?なにが自分を吹っ飛ばしたのか?
疑問に思った雷人が即座に周りを見回すと、その原因兼正体は、すぐ傍で変な体勢でうずくまっていた。
「……榎下、かァ……?」
「うぐぅ……痛いッス……。いろんなところぶつけたッス……」
雷人の呼びかけに気づいていないのか、雷人を吹っ飛ばした物体の正体である志狼は、なおもうずくまったまませわしなく体のあちらこちらを押さえていた。
(状況から察するに、榎下が弾丸のように飛んできたんだろうがァ……)
雷人は、痛みを紛らわすことに忙しそうな志狼から、視線を茂に切り替える。
茂は、雷人に追い打ちをかけるどころか、雷人のいる方に視線を向けることもなく、むなしく鎌を空振りした体勢のまま、『志狼が飛んできた方角』、つまりは雷人のいる方向とは逆の方を見つめていた。
「まァ……榎下がいるなら……アイツもいるわなァ……」
舌打ちをする雷人の、そして表情のうかがい知れない茂の視線の先では、真剣な表情をした金城輝跡がこちらへと歩みを進めていた。
**********
ほんの少し前。
目的地に到達したとき、輝跡はその状況を見て目を疑った。
輝跡は、プレイヤーである雷人になすすべなく痛めつけられた茂が人質とられている状況を想像していた。
しかし現実はその真逆。なにやら物騒なものを携えた茂が、輝跡と志狼の2人がかりでも敵わなかったプレイヤーである雷人を追い詰めていた。
わけがわからなかった。
茂はプレイヤーだったのか?俺たちがプレイヤーであることを知っていたのか?その上で黙っていたのか?
同時に浮かび上がった多くの疑問が、輝跡の脳内を侵食する。今、何をすべきなのかがわからなくなる。
ただひとつわかっていたのは、このままだと雷人は茂に倒されるということ。
それは、輝跡の親友である茂が輝跡らの敵でないならば、当面の脅威が去るということ。
だが。
(それで、いいのか?)
混乱する思考の中で、輝跡は森沢先生の話を思い出す。
―――――雷人クンは友達という存在が嫌いなんじゃなくて、友達という存在を作ることが怖いんじゃないかな
輝跡は、それまで考えもしなかった可能性を先生の口からきいた時、たしかに感じたのだ。雷人が自分と似ているという感覚を。
だからこそ抱いたのだ。放ってはおけないという気持ちを。
(俺は―――――)
輝跡がどうすべきか決めかねていた、その時。
「えぇ!?なななななななんスかあれ!?どどどどどどどどどうなってるんスか!?うぇえ!?うぇえええ!?!?!?茂サンが戦ってるッスよ!?ほぁ!?!?」
輝跡の隣では、いつの間にか到着していた志狼が、目の前の状況を見て輝跡以上に狼狽していた。
「……いつからいたんだよ……」
「いやいや今着いたとこッスよ!!輝跡サンが茂サンの危機とか言うからかけつけたンスよ!!」
「あ、ああそうか。ありがとう」
と、そこで、輝跡は自分が先ほどとは見違えるほど落ち着いていることに気が付く。
緊張している人が自分よりも緊張している人を見ると緊張が解けるというのはよくある話だが、どうやら輝跡は志狼の狼狽する姿を見ることで、冷静さを取り戻すことができたようだった。
ならばと、輝跡はもう一度考えをまとめる。
碇雷人は、友達を作るのが怖いと思っている可能性がある。だからこそ、自分に近しいかもしれない彼を、放ってはおけないと思った。
茂と戦った目的、茂が戦えることを知っていたのか、友達という存在に対する本心。
それらについてはまだ不透明で、不明確で。
雷人の返答によっては、その先に待っているのは、やはり雷人は倒されていた方がよかったという後悔かもしれない。
それでも。
可能性があるのなら。
「榎下、頼みがある」
「ふぇ!?」
なおも隣であわあわしながら輝跡の背中を叩いている志狼にむけて、輝跡が真剣な声色で呟く。
時は一刻を争う。すでに輝跡たちからは、棺桶から手繰り寄せられた鎌が見えていた。
雷人も気づいて身を低くしていたが、あのままでは鎌を手にした茂の一撃をよけきれないのは一目瞭然だった。
だから、輝跡は志狼に向けて、短絡的に告げた。
「碇の脇腹に、思いっきり突進しろ!」
「ええ!?なんでッスか!?」
「急げ!!後で話す!!」
先程までバシバシと輝跡の背中を叩いていた志狼に対し、今度は思い切り一度だけ輝跡が背中を叩く。
意図をはかりかね、納得のいかない様子だった志狼だったが、輝跡の真剣さは伝わったようで、いくつかの動物の力を用いてスタートダッシュからものすごい速さで雷人に突っ込んでいった。
なんとか志狼の突進は間に合い、向かい側の木々まで自分事雷人を吹っ飛ばしていた。
茂はいちはやく志狼の射出位置、つまり輝跡のいる方へ視線を向けている。
「さて」
輝跡は一度、自分の両頬を叩くと、木の陰から茂たちのいる方へと歩みを進める。
そして、一言。
輝跡は、驚愕とも絶望ともとれる表情を浮かべながら視線をむけている茂と、体勢を立て直している雷人に向けて、言い放った。
「話をきかせてもらおうか!!」




