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Second Life  作者: 永澄 拓夢
第1章 『Game Start(進帝高校編)』
15/29

第1章 その14 『遠足 その4』

すごく急いで書いたので変なところあるかもです・・・・・・。もし変だなって感じたら感想等にてご指摘ください。本当にすみません

 「輝跡サン……どうするッスか……?」


 すぐさま輝跡の傍に駆け寄った志狼が、視線は雷人から外さないまま、輝跡に小声で語り掛ける。

 対して輝跡は、なおも苦虫を嚙んだような顔で答える。


 「茂にも危険が及ぶ可能性が絶対ないとは言い切れなかったから極力この状況は避けたかったが、これまでの碇のスタイルを信用するなら非プレイヤーの茂がいる時点で下手に能力による攻撃はしてこないはず……。ちらつかせている電撃はあくまでも脅しで、俺たちが先に茂を逃がすことで全力を出せる状況を創り出すことを狙ってるんじゃないか……?つまり、ここでの最適解は……」

 「『茂サンを抑止力として傍に置いておきながら、なんとか人混みに戻る』……ッスか?」

 「まぁ、そんなところだな。茂を盾に使うみたいで嫌だが、それが一番全員にとっての平和につながるなら仕方が……」


 その時だった。


 「いつまでこそこそ喋ってんだァ!?行くぞォ!」


 雷人のそんな宣言とともに、輝跡と志狼の間を、電撃の槍がかすめる。

 しばしの空白。

 認識を、改める必要があった。


 「にっ……逃げるぞ!!」


 叫んだ時には、輝跡はすでに進行方向に突っ立っていた茂の手を引いて走り出していた。


 「誰ッスか!!茂サンがいれば能力は使ってこないって言った人はァ!!」


 遅れて輝跡の後を走り出した志狼が、文句を叫ぶ。

 しかしこれは想定していた範囲内であっても、『もしも』の場合の範疇で『いちおう』考えていただけのものだったのだ。

 輝跡や志狼の中ではその確率は最も低かった。

 なぜなら、これはもう前提の問題。

 数日の検証で得た『雷人は非プレイヤーの前では能力を使おうとしない』という結果。それを前提としていたのだ。

 その前提にもはや当てはまらない場合の状況のことなど、想定したうちの十パーセントにも満たないのだ。


 「くそっ!!茂!!なにが起きてるかわからないだろうが、今は全力で碇から逃げてくれ!!」

 「……ああ、わかった」


 茂はこのような状況においても落ち着いている。

 輝跡はそれを、茂には特に危険なことが起きているという実感がないものと解釈し、念のため全力で逃げることを促したのだった。

 輝跡はチラッと後方を確認する。

 雷人は余裕のある走りでなおも輝跡たちを追って来続けていた。

 ここでちょうど、道が二つに分岐する地点が前方に見えた。


 (茂だけを片方の道に逃がした場合、碇はどう動く?獲物である俺と榎下を追うか?それとも茂を追って人質として使うか?今までの認識なら間違いなく前者だが…………。どちらにせよこのままじゃ追いつかれる。茂が俺たちと一緒にいるのは得策じゃない。いったん茂だけ逃がすか。碇が茂を追ったら、仕方ないが、引き返して茂の前で戦うしかないな)


 考えた末、そう結論づけた輝跡は、棺桶を紐で肩からさげていることで走り辛そうにしている茂に向けて短く指示する。


 「茂!!おまえは左にいけ!!」

 「いや、でも……」

 「いいから!!あとで合流しよう!!」


 渋る茂を押し切る。

 分岐点にさしかかり、茂は指示通り左の道へ、輝跡と志狼は右の道へ分かれて走る。

 雷人は輝跡と志狼が入った右の道に進み、二人を追う形をとっていた。


 「よし!」

 「いやよしじゃないッスよ!これどうするんスか!?多分まだ碇サンには俺ら勝てないッスよ!!」

 「ひとまず逃げるしかない。このままじゃ追いつかれるのも時間の問題だし、できる限り早く人混みにまで戻りたいが……!」

 「人混みまで戻ることで、あの人が能力を使ってこないって確証はあるんスか?」

 「それは……」


 輝跡が言葉に詰まる。

 今の雷人が、一人の非プレイヤーの前では能力を用いて輝跡たちに攻撃を行ったあの男が、大量の非プレイヤーの中でなら能力を使わない、と。

 確証をもって言えるのかと、志狼は問いかけたのだ。

 輝跡にだって、そんな質問にはそう易々と答えられない。いや、答えられなくなったが正しいか。それは質問をした志狼だって同じことのはずだ。

 だが、それでも。


 「……多分、大丈夫だ」


 輝跡は、そう答えた。

 というのも、輝跡には引っかかるところがあったのだ。


 「さっきの碇のセリフ、覚えてるか?」

 「セリフゥ?どっ……どれのことッスか!?」

 「ほら、『本当に夢中になって自分たちからこんな状況をつくり出してくれるとはな』ってやつだ。あの後、碇はなんて言った?」

 「ああ……そんなこと言ってたッスね……。その後……?その後……、たしか、『一番可能性の低い手だった』とかそんな感じッスね」

 「それだよ。気づかないか?なぜ俺たちが人込みから離れてしまうことをやつはひとつの手として考慮していた?」


 志狼もハッと気づく。

 これが、雷人の『非プレイヤーの前では極力能力を使いたくない』という気持ちの表れであることに。


 「……気づいたようだな。だが、もちろん確実に襲ってこないとは言えない。現に茂の前では能力を使ってるからな。用意された他の手では、多数の非プレイヤーを巻き込むといったものもあるかもしれない。この間のくそったれ針野郎が言ってた通り、『故意に殺そうとした攻撃ではなく、巻き添えであれば罰則の対象にはならない』し、見てた非プレイヤーの記憶も改ざんされるんだからな!」


 でも、と。

 輝跡は雷人との初対面からこれまでの生活を振り返りながら、続ける。


 「その場合、なぜわざわざ今を選んだんだって疑問が湧いてくる。もっとやりやすい時は今までにもたくさんあった。よりにもよって今までとははるかに人口規模が違うこの遠足を狙う意味が分からないんだ」


 学校では、とにかく輝跡や志狼は非プレイヤーと一緒にいることを心掛けていたが、その規模は特に気にしていなかった。非プレイヤーが傍に『一人でもいれば』雷人は襲ってこないと考えていたから。

 決して多くない非プレイヤーが傍にいるだけで油断している輝跡たちを手にかけるチャンスを、雷人は何度も見送ってきているのだ。


 「それは、俺たちが大勢の非プレイヤーの中で手が鈍るのを狙ったとかじゃないッスか?」

 「いや、それならクラスの中でも、あるいは全学年の集会でも事足りたはずだ。それに、それを狙ってるなら入場後に最も人が密集してるところでやるはずだし、そもそも俺たちが人気ひとけのないところに勝手に行くことを良しとした手なんて考えないだろ」


 あ、そうかと志狼が納得する。

 以上を踏まえ、人混みの中に戻れば今の状況を打開できるという結論に至った輝跡と志狼は、人混みを目指しながら走り続ける。

 しかし、なんとも不思議なことに人混みはまったく輝跡たちの前に現れない。

 さすがに異変を感じた志狼が、いっとき閉じていた口を開く。


 「なんでこうも人がいないんスか!?ここ動物園ッスよね!?」

 「わかんないよそんなことは!!というか今どこ走ってるのかもわかんないんだよ俺は!!おまえ地図持ってるだろ!?」

 「今のんきに地図広げてる余裕はないッス!!追いつかれるッスから!!」


 輝跡と志狼がごちゃごちゃと言い争っている間にも、雷人は着々と彼らとの距離を縮めていた。

 と、そこで、またも大きな分かれ道に差し掛かる。

 片方はまっすぐ、片方は右に、それぞれ道が伸びている。


 「どっち行くッスか!?」


 志狼の質問に対し、ほんの少し考える素振りを見せてから、輝跡は提案する。


 「この際、二手に分かれよう。二人そろっても勝てないなら、どのみち二人で固まるメリットもない。各々自由に逃げた方が、多分逃げやすいだろ」

 「俺はそうッスけど……」

 「俺もそうだ。余計な気遣いをしなくて済む」


 渋る志狼を安心させるため、輝跡が即座に言葉を返す。

 その言葉を受けた志狼は、一瞬の空白の後、


 「了解ッス。でも万が一戦うことになったらちゃんと呼ぶッスよ!」


 と輝跡に念をおしてから、さっそくそのまま右の道へと逸れていった。

 別れ際にチラッと見えたが、志狼はなにかしらの動物の能力で走力を強化したようで、今までよりも格段に速く走っていった。


 (さて、普通に考えれば俺の方にくるよな……)


 輝跡が、追ってきている雷人の動向を調べるため、ちらりと後ろを振り向く。

 一度戦い、志狼の能力を知っている雷人からしてみれば、すばしっこい志狼を追うよりもそういった身体能力向上系の能力ではない輝跡を追う方が確実なのは明らかだ。

 しかし、二方向への分かれ道のうちまっすぐに伸びている方をしばらく進んだ輝跡の後ろには、追跡者の姿はなかった。


 (いない?……いや、姿を隠してなおも追ってきている可能性も……)


 輝跡の入った道は、両側を木々によって覆われた一本道となっている。

 雷人がその木々に姿を隠したままなおも追ってきており、輝跡が足を緩めた瞬間に仕留めようとしているという可能性を考慮した輝跡は、人混みに戻るまではなんとか走り続けることにした。



**********



 「見たところ、追って来てる雰囲気はない……というか、完全に突き放した感じッスかね?」


 輝跡と別れ、二方向に分岐した道のうち、右に伸びている方へと入った志狼は、素早く自らに『ハイエナ』の走力を付与し、一段階速度を上げていた。

 ハイエナは百メートルをトップスピード約七秒で走る。現状人間の中で最も速い部類が約九秒と、比べてみるとこれだけでもハイエナが飛躍的に速いのはわかるが、さらなる強みはハイエナがこの速度を約二時間も維持していられるという点にある。

 しかしてなにも志狼は四足歩行で走っているわけではない。

 志狼の能力『動物図鑑アニマルマスター』は、あくまでも志狼の頭の中にある動物の特性を身体に付与するものであり、その動物がそれありきでその特性を可能としているような身体のシステム自体を志狼自身の身体に付与するものではない。(ただし爪の長さなど、任意で形状自体を変化させる場合もある)

 故に、志狼は二足歩行でハイエナ並みのスピード、そして持久力を可能としているのだった。


 「追ってきてるようなにおいも特に感じないし、これはやっぱり輝跡サンの方を追ったってことッスかね……」


 ハイエナの嗅覚を用いて、念のため追手のにおいを探るが、そのようなにおいは感じない。

 自分が現在進行形で追われているという考えをひとまず捨てて、足は緩めないまま輝跡のいるであろう方角に目を向ける。

 電話はまだ鳴らない。

 輝跡と志狼は、別々に行動する際に何かあったときの合図として、携帯電話を用いてコールを二度だけ鳴らすという風に決めている。

 雷人が志狼を追っていないとわかった今、その合図がないということは無事に輝跡が人混みまで逃げ込んで、かつなにも起こらなかったことを意味する。


 「さすがに前回も合図は使ってくれたし、輝跡サンがたとえ危ない状況になっても合図を使わないなんてことはないと思うッスけど……」


 別れる際に念押しもしたし大丈夫だと、志狼は再度自分に言い聞かせ、輝跡からの合図がないことを祈りながら走り続ける。

 と、ハイエナの走力もあって、しばらくすると、やっとのことで志狼の前に人混みが広がった。

 それも、相当な人口密度の人込みである。

 志狼はそんな人込みに突っ込んでしまわないよう少しずつブレーキをかけながら、人混みに近づく。


 「なんでここにこんなに人が……」


 まずそんな疑問が浮かぶ。

 志狼がたどり着いた場所は、来園客のほとんどが集まっていると言っても過言ではないほどにぎわっていた。

 志狼がここら一帯の状況に圧巻されながら歩いていると、目の前に見覚えのある顔を見つけた。

 志狼と同じ進帝高校のジャージを身にまとい、眼鏡をかけ、キリッとした顔つきのこの七三分け男はたしか—————


 「真締まじめ……つとむサン……?」


 なんとか志狼の頭に思い浮かんだ名前が、思わず口から声として発せられる。

 それに反応した真面目そうな生徒は、自分の名前を呼んだ男の顔を数秒眺めると、そのまるでひらがなの『へ』のような口を静かに開いた。


 「君は確か、同じクラスの榎下志狼えのしたしろうくんではありませんか。実際に話をするのは初めてですね?」

 「え、ええ、覚えてくれてたんスね」

 「当たり前ですよ。入学式当日にはクラスメイトの名前と顔はすべて覚えさせていただきました。万が一にも名前を間違えてしまっては失礼にあたりますからね。親しき中にも礼儀ありというやつです」


 勉が誇らしげに口角を上げながら、右手の中指で眼鏡のちょうど鼻にかかっている部分をくいっと上げる。

 と、ここでなにかに気づいたような表情を浮かべた勉が、志狼に尋ねる。


 「ところで、あなたの班の方々はどこにいらっしゃるのでしょうか?」


 そこで志狼は、この遠足は四人の班で行動しなければならなかったことを思い出す。忘れていたのも無理はない。なぜなら逆に志狼たちは班のメンバーから今の今まで逃げていたのだから。


 「い、いや……ちょっとはぐれちゃったんスよ~ハハハ」


 志狼は苦笑いを浮かべながら、すぐに理由を取り繕う。

 そんな中、当初の疑問を思い出した志狼は、ちょうど話をはさむには(都合が)良いタイミングでもあったので、「そういえば」と話を切り出してみた。


 「この、人の集まりようはなんなんスか?これからなにかあるんスか?」


 それに対し、勉はきょとんとした表情を顔に浮かべると、逆に質問を志狼に返してきた。


 「あなたもこれが目的でここにいらっしゃったわけではないのですか?」

 「え、いや、違うッスけど……」


 志狼の否定に、少しばかり残念そうな表情を浮かべた勉が、説明を始める。


 「ここではこれから、サーバルジャンプイベントが行われるのですよ」

 「サーバルジャンプっていうと、サーバルキャットがジャンプするイベントッスか。こんな盛り上がるイベントだったッスかねこのイベント?」

 「いえ、サーバルジャンプイベントがここまでの反響を見せているところを、私は見たことがありません。いったいなにが話題を呼んだのでしょうか……」


 勉が驚きを隠しもせず、この集客率の原因を考え始める。

 対する志狼もこのことに関しては非常に驚いていた。

 これまでの道のりでまったくといっていいほど客が見当たらなかったのは、このイベントが原因であることは目に見えて明らかだ。

 しかし来園者のほとんどすべてを集めてしまうような話題性をもつ動物のイベントなど、志狼はきいたことがない。

 自らもこの謎の究明に挑もうかと考え始めたところで志狼は、そんなことをしている場合ではないと気持ちを入れ替える。

 自分たちがどこを走っていたのかが気になった志狼は、慌ててポケットに突っ込んだことでぐしゃぐしゃになった動物園の園内マップを広げると、地図上にて自分が走ってきた道を逆走する。

 すると、自分たちが雷人に襲われた位置が動物園の端っこであり、そこから楕円状になっている動物園の敷地を時計回りでほぼほぼ円周にそるように走っていたことが判明した。

 また、輝跡と茂の現在地を考えると、最初の分かれ道で左に進んだ茂は直接動物園の外枠に面する道のどこかにおり、さらにその後の分かれ道でまっすぐ進んだ輝跡はなおも動物園をぐるぐるまわるルートで逃げていることが予想できた。

 しかしサーバルジャンプのこの集客率で、はたして輝跡の走るルートに人混みはあるのだろうかという疑問が志狼の頭に浮かび上がる。

 いまだに輝跡からの合図はない。

 志狼の胸に、不安が生まれる。


 「輝跡サン、ほんとに大丈夫なんスよね……?」



**********



 走り始めてから約七分。

 輝跡はいまだに人混みを見つけられずにいた。

 しかし、雷人が姿を現さないどころか気配をも感じさせないことに違和感も感じていた。


 (さすがにこれはそろそろ、碇は俺じゃなくて榎下を追ったって風に解釈してもいいよな?)


 試しに足を少し、しかしすぐにまた全速力で走り出せる程度に緩める。

 スピードを落としても、雷人が物陰から姿を現す気配はない。

 ここでやっと輝跡は、雷人が追ったのは志狼だと判断し、少し上がった息を整えながら歩き始めた。

 自分よりも圧倒的にすばしっこい志狼を輝跡は特に心配してはいない。

 志狼ならば絶対に逃げ切っていると確信するほど、輝跡は志狼の能力による速さを信用している。

 それは実際に戦い、その身をもってあの速さを体感したからこそ言えることなのだ。

 歩き始めてからも念のためにしていた警戒をやっとこさ解き、前方を見据えた輝跡の目には、見覚えのある人物が映り込んだ。

 その人物も輝跡が歩いてくるのに気づいたようで、輝跡に向けて右手を振っている。

 サルの入っている檻の前でくつろいでいたその人物は、輝跡たちのクラスの担任である森沢先生だ。


 「先生。こんなところでなにしてるんですか?」

 「なにしてるって……見てわかる通り、サルを見てんのさ~」


 駆け足で近寄ってきた輝跡の質問に、きかなくてもわかるだろ~といったような呆れを含んだ返答をする森沢先生。

 輝跡がけっこうな汗をかいていることに気が付いた森沢先生は、予備のタオルを輝跡に渡しながら尋ねた。


 「ほかのメンバーはどうした?」

 「あーー、はぐれちゃいました」


 苦笑いで誤魔化す輝跡。

 そんな輝跡の様子をみてなにかを察した森沢先生は、視線をサルに移してから輝跡に尋ねる。


 「碇雷人くんとは、仲良くなれそうか?」

 「え……?」


 予想していなかった質問に、輝跡が答えあぐねる。


 「その反応を見るに、まだ無理そうだね」


 笑う森沢先生に、輝跡は前々から抱いていた率直な疑問をぶつけてみた。


 「その……、碇はどうしてあんなに『仲間』というのを嫌っているんですかね……」


 雷人の発言を思い返してみると、仲間といったものを毛嫌いするものがいくつかある。

 生徒のことならあるいはと思い、輝跡はダメもとで森沢先生にその理由を尋ねてみたのだった。

 森沢先生は輝跡の質問を受け、少しの間口を閉ざしていたが、やがて静かに、驚くべき事実を口にし始めた。


 「彼は—————」


**********


 輝跡と志狼がそれぞれの道を進み、見えなくなったところで、雷人は足を止めた。

 というのも、なにも追いつけないからと諦めたわけではない。

 追跡者であるはずの自分をさらに追跡しているものの存在に気づいていたからだ。

 雷人にはその正体がわかっている。

 容易に想像がつく。


 「でてこいよォ。暁茂ゥ」


 木の陰から惜しむことなく姿を現したのは、雷人の読み通り棺桶を担いだクラスメイト、暁茂だ。


 「よく気付いたな」

 「当たり前だろォ。ってか、俺が今日一番話をしたかったのはテメェだ」


 視線がぶつかる。

 両者は互いに、相手の瞳の中の覚悟をヒシヒシと感じていた。

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