プロローグ
プロローグ
やっとたどり着いた静かな夜。魔王になって743年目のことだった。
これまで様々なことを行ってきた。幾つもの失敗と幾つもの成功、その積み重ねがこの最良の夜を生み出していた。
「これから千年の繁栄が始まる」
ぽつりとつぶやいた。
親しい友人や親しい仲間はすべて死に絶えた。そして最愛の姉をこの夜に失ってしまった。
私は一人だ。
この国を作り上げたのは私の意地だったのかもしれない。一人になった私の意地だったのだ。私しか覚えていない約束に義理を通したのだ。
私は流した涙を親指で拭った。
そして一息ついてから静かにこの城を抜け出した。
ふらふらと歩きたどり着いたのは街の見下ろせる丘の上だった。なつかしき丘。街が輝いていた。この場所は昔、何もなかったのだ。私が全てを作った。
この夜にも負けぬ輝く街、ひときわ高いあの城。私は今日捨てるのだ。それが必要なことだった。
振り返り全力で駆けた。
この先はいまだ森だ。
暗く湿った森を抜ける風は魔物の声
深い谷を飛び越えた。
底なしの闇は魔物の瞳
大河の合流地点までたどり着いた。
流れる水は魔物の腕
息を切らしていた。私は夜の魔物だ。だが何の因果か光は私にも祝福を与えてくれていた。
光の中も生きられたのは私だけだった。
太陽が昇ろうとしている。
私は呪文を唱えた。繭化の呪文だ。
金色の糸が幾つも地面から生えてくる。私に優しく覆いかぶさってくる。
「この場所で千年後目覚めよう」誰もいないのにぽつりとつぶやいていた。