第四十三話「『魂の収集者』アガレス」
「皆オイラの通ったルートから外れちゃ駄目だよ。ここを直角に曲がって……」
「よし……無事に通り抜けたぞ」
「それにしても不思議なトラップね。こんなものを作れる者は今の時代にも居ないわよ?」
3人はインプの通過したルートを正確に把握していたアモイの後に一列になり、広い廊下のテレポートトラップを通り抜けた。
後は階段を降りるだけである。
「よし、降りる前に……ここから先は人を避けて通るのが難しいだろうから看破の呪文をかけておこう。
壁の裏の人の存在を確認しながら、すり抜けて行かないといけないからね」
「体が大きいと不便ねぇ」
スヴェンとアモイは看破の呪文を自分に掛け、一行は階段を降りる。
階段を降りた先は黒曜石のブロック壁に挟まれた一本道の通路が伸びている。
通路は20メートルほどで終わり、右側の大きなホールへと繋がっていた。
ホールからは大勢の人々の話し声や足音、物音が聞こえる。
リンが先行して進んでホールの入り口からちらりと中を覗いた。
そしてスヴェン達の元へと戻る。
「中は大きな一部屋のホールよ。邪教徒達が大勢集まって集会をやってるわ」
「……アモイさん」
「最下層への入り口は大きなホールを抜けた先にある。リンちゃん、ホールには先へ続く通路は無かったかい?」
「あそこの入り口と並んで別の入り口があったわ。それともう一つ。邪教徒達は大きな飾り物を被った指導者のような人の説教を聞いてたように見えたけど、その教祖の立つ高台の背後にも通路の入り口があったわ」
「まずは行けそうな所から調べるしかないね。リン、アモイさんのバックパックの中に隠れるんだ。その集会に僕達は紛れつつ近い方の通路へ進もう」
リンはアモイが開いたバックパックの口に潜り込む。
そしてスヴェンとアモイは通路を進み、ホールへ踏み出そうとした。
だが中を覗いて二人揃ってUターンして通路に戻る。
バックパックの口から少しだけ首を出して周囲を見ていたリンが不思議そうに尋ねた。
「どうしたのよ?」
「……アモイさん……」
「……うん。全員悪魔の姿をしていたね。指導者として演説してたってリンちゃんが言ってたのなんか、全身が真っ黒の巨体、身長5メートルくらいあったんじゃない?」
「気が付かなかったわ。看破の魔法ね?」
リンも一旦バックパックから出ると、看破の魔法を自分にかけて再びホールを覗く。
「まずいわね……あれは深淵のロード級の悪魔よ。人間が軍隊を用いて何十人と死者を出してようやく対抗できる存在。私達だけでは手に負えないわ」
「つまり……ここには普通の人間は一人もいなかったという事か……。ちょっとまて、じゃぁイヴァリス達は大丈夫なのか?」
「縛り上げてるし……多分大丈夫じゃないかな。油断しなければ……。手が解放されなければ印も組めないから魔法も使えないし……」
「あ、さっきのインプが壇上に上がっていくわ」
ホールの中で、インプが邪教徒の指導者のいる壇上へ横の階段から登って近づいていく。
そして指導者の前で這いつくばる。
彼ら流の敬礼である。
「『魂の収集者』の称号を賜りし偉大なる深淵の王、アガレス様!」
「インプか、場をわきまえぬか!」
「申し訳ございません。しかし黄泉の勢力打倒の為、レリックを追うベリル様からの緊急の連絡です」
「ベリルか……」
「たった今ベリル様がこの島へ到着致しましたが、アモイ一行は先にこの島に来ているはずだとの事です」
「つまり既に上陸していると!?」
アガレスは邪教徒達の方を向き直り、大きな声を張り上げる。
「深淵の子達よ! すでにこの島にヘカトンケイルの目を持つアモイ一行が上陸している可能性がある! それらしきものや痕跡を見た者はいるか!?」
邪教徒達は左右で顔を見合わすが誰も答えない。
「ヘカトンケイルの目は黄泉の勢力を一網打尽に出来る切り札、戦局を買える重要なアイテムだ! なんとしても手に入れなければならぬ!
明日、この時の為に組織した捜索隊を島中へ派遣して探し出すのだ! 手懐けたドラゴン共も全て放て! 船のような巨大なものはそう簡単に隠しきれるものでは無い!」
「アガレス様、ベリル様がおっしゃるには、アモイ達がこの島に来る目的が不明だが、レリックに関わる物として考えられるものの一つがこの遺跡だということです。ここへの進入の可能性も……」
「こうして我々の話を深淵の子達に交じって聞いているとでも言うのか? ハッハッハ。エビルハウンドや数々のトラップを抜け、ここへ到達出来るとは思わぬが一応備えさせよう」
スヴェンとアモイは邪教徒達の背後を、邪教徒達に紛れ込みながら進んでいた。
そしてリンの言っていた、ホールから繋がるもう一つの通路へと進む。
「それとベリル様が、船の厩舎に紛れ込んだ密航者を捕えました」
「密航者だと?」
「モンクのような男で、船の中で大暴れしたそうです。特に重要な人間ではないが厄介な奴なので警備の行き届いた頑丈な牢屋を開けておくようにとの事です」
「生贄としては元気な方がよかろう」
もう一つの通路を進んでいたスヴェン達は突き当りにあった扉を開けた。
中は無人の個室になっており、使われている調度品の質の高さから比較的身分の高い人間の私室であることが見て取れる。
一通り部屋の中を調べて回ったアモイがスヴェンの方を向いて首を振る。
「もう一つの通路、あのアガレスとかいう奴の背後の通路か……」
「戻って隙を伺うしかないわね」
スヴェン達は再び通路を戻り、ホールの邪教徒の人だかりの隅っこの紛れ込んだ。
「アガレス様ァ――! アガレス様ァ――!」
2、3人の邪教徒が上層へと繋がっていた通路から走り出て壇上にいるアガレスの元へと駆け寄る。
そしてアガレスの前で這いつくばり、息を切らしながら報告した。
「この遺跡の中に、し、侵入者が居ます。変装の魔法を使って我々に紛れ込んでいますが、一階で大暴れしたあげく番犬と我々を部屋に閉じ込めて外から魔法のロックを掛けたのです!
その男は片手に銀色に輝くハルバードを持って居ました!
ひょっとするとベリル様から数日前知らせの有ったアモイの一行……」
スヴェンは静かに部屋の隅で魔法のゲートのマーキングの呪文を唱えた。
アガレスは顔色を変えて邪教徒達に叫ぶ。
「全員看破の呪文を唱えて遺跡内を捜索せよ!」
邪教徒達が揃って看破の呪文を唱えようとしたとき、パチパチという音と共に何人かの邪教徒達が悲鳴を上げた。
スヴェンがチェインライトニングの魔法を放ったのである。
アモイは部屋の隅、壁に張り付いた状態で顔面蒼白で消え入りそうなかすれた声で呟く。
「スヴェンくぅ~~ん……何してくれちゃってるの……」
スヴェンは銀色に輝くハルバードを目立つように掲げると近場に居た邪教徒に振り下ろした。
「ガフッ!」
「あいつが侵入者だ! 一斉にかかれぃ! 捕えるのだ!」
邪教徒達が一斉にスヴェンの方に注目し、何人かは魔法を詠唱し始める。
スヴェンは魔法の石壁を出現させ、呪文を唱えていた邪教徒達からの視線を遮り、今度はアガレスに向けてスピットファイアの魔法を詠唱。
命中させた。
「全員……あいつをぶち殺せぇ!!」
スヴェンは邪教徒達に背を向けると、先ほど確認した個室へと続く通路を走る。
邪教徒達と共にアガレスもその後を追った。
スヴェンは放たれる魔法やクロスボウの矢を辛うじて回避しながら個室に飛び込んで頑丈な扉を閉め、マジックロックの魔法で施錠する。
邪教徒達はカンカンになって外から扉をガンガンと叩く。
一方、項垂れて額に手を当ててため息をついていたアモイの目の前に青い異空間の門が開いた。
そこからスヴェンがヒュルンと飛び出して着地する。
スヴェンは背後の様子を見てから言った。
「どうやら待ち望んだ『隙』が出来たね。今がチャンスだよ。先へ進もう」




