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第三十六話「ジャングル行軍」

 ピッテナー島の入り江にブラッド・ピーコック号が錨を降ろした翌日。

 ベラ船長の読みは当たり、嵐は過ぎ去り、雲は晴れ、青空が広がっていた。

 幸いにもまだこの島の住民、邪教徒達の姿は無い。


「そ、それでは皆さん! 南東山脈の裏手にある遺跡へ出発しましょう!」

「おう」

「私、頑張ります!」

「あんたこんな森の中でも荷車引っ張って進むつもり? 魔法の夜がやってた修行より過酷なんじゃないの?」

「……これは商人にとって体の一部……。我が家の伝統だから……」

「ベラ様! お宝見つけたら伝書鳥をすぐに送りますぜ!」


 遺跡探索チームのメンバーはアモイ、スヴェン、ラナ、リン、イヴァリスにお目付け役のベラ船長の部下の船員一人である。

 アモイが遺跡の有る島の南まで船で行くことを主張したが、嵐であちこち破損した船の修理の為、波の無いこの入り江を動けないとベラ船長に却下された。

 仕方なく島を横断するルートを陸路で行くこととなったのである。

 スヴェン達を見送った後、ベラ船長はダミアンを呼びつけた。


「ダミアン、これから丸一日は船の修理を行う。その間に船員を何人か連れて、北の岬にあるという邪教徒の本拠地とやらを偵察してこい。

 今は戦いになると厄介だ。敵に見つからないように頼む。

 道中の判断は全てお前に任せる」

「イエッサー、ベラ様。甲板担当の船員を何人か連れて向かいます」

「頼んだぞ」


 ダミアンは甲板へ出て何人か選ぶと武装させ、船を降りて北の岬へ向けて森の中に消えた。



 スヴェン達一行は森の中を進んでいた。

 生える木々の密度はそれほど高くなく、時折すき間から海岸線や遠くにそびえる火山が見える。

 ラナが突然道をそれてしゃがみ込み、地面を触り始めた。


「どうしたの? ラナさん」


 スヴェンが駆け寄ってみるとラナは先端がグルグルと巻いた10センチほどの高さの植物の芽を摘んでいた。


「ワラビが生えてます」

「ワラビ?」


「はい。灰汁抜きしたら食べられるんですよ」

「そうなんだ。どれどれ……? にがいっ!」


 ワラビを齧ったスヴェンは顔をしかめた。


「だからちゃんと水に一晩付けて灰汁抜きしないと……、あっ、あそこの地面、パープルエッグっていうキノコが生えてます。あれもいい出汁が取れて美味しいんですよ?」

「……あれ食べれるのか。僕もキノコはたまに取るけど、毒キノコが怖いからブラウンマッシュルームとホワイトマッシュルームしか取らないや。

 ラナさんこういうの詳しいんだね」


「はい。私は畑と野山の中で植物と野菜に囲まれて生きてきたので……。あ、あそこの木になっているのはナツメの実ですよ!」


 リンが飛び上がってラナの指さした赤い実を摘み取り、噛り付く。

 そして顔をしかめた。


「酸っぱい……、てか渋い」

「そのままではあまり食べない果実なんですよ。干したりとか……、あっ! あんな所に野生のパイナップルがっ!」


 そこには高さ1メートルほどの小さなヤシの木のようなものが生え、天辺にパイナップルの実を載せるようにして実らせていた。

 お目付け役の船員、マーチンがその木に歩み寄り、パイナップルの実をシミターで切り取って担ぎながら言った。


「お前ら! 道草食ってるんじゃないぞっ! 俺達の目的は食料採取じゃねぇ、遺跡探索だ。

 早く進まないとあっという間に日が暮れちまうぞっ!」


 スヴェンは爆炎の魔法を詠唱した。


「てっ! てめぇっ! やる気かぁっ!」

「早くっ! 前へ飛んで伏せろっ!」


 マーチンがスヴェンの方を向いたまま前へとジャンプし、地面へと伏せる。

 丁度その体の上に首を横に向けて大口を開けたワニが勢いよく飛び出した。

 そして空中でスヴェンの魔法を受けて燃え上がり、黒焦げになって絶命してマーチンの上にドサッと落ちる。


「どはっ! な、なんだこりゃっ!」

「この森にはワニが徘徊しているようだ。これからはもっと注意して進まないといけないね」


 イヴァリスは慌てて荷車からフランベルジュを取り出し、慎重に周囲を警戒し始めた。

 そして顔をキョロキョロ周囲に向けて警戒を続けながら近くに生えていた3本のパイナップルの木からパイナップルを採取して荷車へと詰め込む。


「わ、私も……」


 ラナもイヴァリスの荷車に駆け寄ってワラビとキノコを積むと、代わりにレイピアとソードブレイカーを取り出して両手に持って構え、周囲を見回す。

 リンがスヴェンの肩に座り、ラナを見て呆れながら腕組みする。


「魔法の夜……今更だけど、よりによってなんであの子にあんな……ゴロツキの路上決闘用武器を教えたの?」

「いや、なんか消去法でさぁ。最初は女の子だし薙刀なぎなたとかのポールアームを勧めたんだけど、かさばって持ち歩けないじゃん?

 冒険には向かないと言う事で却下」


「あんたのそのハルバードはどうなのよ?」

「僕は本職が賞金稼ぎだからこういうイカツイ物持って町をうろついていてもいいんだけどね……。

 まぁそれで、片手サイズの刀剣にしようと言う事になって、イヴァリスならともかく、ラナさんじゃ重い物を振り回せないでしょ?

 そうなると護身具としての実用性を考えると必然的に使われる金属の少ないレイピアに……」


「それで盾じゃなくソードブレイカー?」

「イヴァリスにお勧めされてさ。だってあれ、包丁としても使えるし、コルク抜きだって出来るし、ステーキ用の肉叩きにも使えるんだよ? 盾なんてかさばるし、盾にしか使えないじゃん?」


「まぁ……そっちの用途のほうが多いかもね。彼女の実力はどうなの?」

「うん……。トカゲとかだったら殺せるよ」


「……」

「まぁまだまだこれからだよ。じゃ、そろそろ進もうか。アモイさん、道は合っているよね?」


 アモイは地図と方位磁石を取り出した。

 そして木々の隙間から遠くに見える山の位置を見ながら確認する。


「合ってる。このまま真っすぐだけど、ここからは火山地帯になるはずだよ。

 ゴルガン・スペラの日誌によると野生のドラゴンが生息しているらしい」

「ドラゴン!? そいつはまずいなぁ」


「とてもフランベルジュやレイピアで戦える相手じゃない。出来るだけ見つからないように隠れながら進むしかないね。

 それに事前偵察も重要になる。

 リンちゃんの出番だね」

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