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第三十四話「それぞれの動き」

 シャドウ・キングの率いるアンデッドに追いやられた人類の逃れる新天地として、タートルフォートの魔法陣から異世界へと旅立った開拓部隊。

 それを率いるリーダーは二匹の若きドラゴンを引き連れた元ARCCのウォーテイマーにして弓の達人のロック。

 レンジャーチーフであるビクトルに剣士隊率いるオマール。

 そして自然の中でのサバイバルに長けたホワイト・トリオムの経験豊かなレンジャー達である。

 さらに魔法を扱う専門家兼戦闘時の補助としてスタグランドからはナーバと数名の魔法使いが付き従っていた。

 うっそうと茂る未知の木々で覆われたジャングルの中、先頭を進むオマールが背中を向けたまま片手を上げて叫ぶ。


「皆止まれ! またあの蛇が居る。こんどのは大きい」


 オマールの20メートルほど先には直径1メートル程はありそうな太さ、長さは10メートルに届きそうな大蛇がとぐろを巻いてこちらを見つめて居る。

 全身はまるで磨かれた鋼のような銀色の金属光沢を放ち、その姿で明らかに近寄ってはならない危険な存在だと主張していた。

 ナーバがロックの横に歩み出る。


「我々の出番ですかな?」

「いや、あの蛇は自分に迫る敵への攻撃性が極めて強い。

 それに元の世界のベノム・サーペントに匹敵する猛毒を持っている。

 蛇に人間が攻撃を受ければ必ず犠牲者が出る。

 俺がドラゴンをぶつけて注意を引く。

 魔法使い達はサポートの方を頼む。

 a! アタック!」


 ロックが率いる2匹のドラゴンはそれぞれ5代目となるa、bという名が与えられている。

 普通の人間ならばもっと愛着のある名前をペットに付けるものだが、ロックは二つの理由でこの無機質な名前を付けていた。

 一つは緊急時、目まぐるしく移り変わる戦場で的確に素早く呼び、指示を出せるようにする為。

 もう一つは常に死と隣り合わせにある戦場にて情を断ち切るため。

 優れたテイマーは動物を深く愛するがゆえに動物からも愛される。

 ロックにとって後者の理由が機能しているか怪しい物ではある。


 aと呼ばれたドラゴンがノシノシと歩み出て道を塞ぐ巨大な蛇へと襲い掛かる。

 だが蛇が即座に反応して自分の数倍はあろうかという巨体のドラゴンの方へ突進し、前足を締め付けるように絡みついて胴体に牙を立てた。

 興奮したドラゴンが雄叫びを上げて蛇に噛み付くが、鋼のような鱗はドラゴンの牙をも通さない。

 注入された毒でドラゴンが唸り声を上げる。

 それを見たナーバが魔法使い達に号令した。


「皆! あのドラゴンに絶え間なく解毒と治癒魔法を!」


 ナーバを含めた5人の魔法使いが全力でドラゴンを支援した。


「やはり……通常の解毒魔法が通用しない。なんてバケモノだ」

「最高位解毒と回復を絶やすな!」


 ドラゴンは見ている者が冷や汗を流すようなギリギリの激闘を続け、ようやく蛇を噛み殺し、止めにブレスでその身を焼いた。

 ナーバが汗を拭きながら呟く。


「ドラゴンですら手こずるとは……本当にこの世界に避難して大丈夫だろうか?」

「まだaもbも経験が浅く未熟だ。一代前のであれば一分あれば自分で弱点を見つけて噛み砕いていただろう」




 一方、城塞都市カーグレイルさらに中にある騎士団が駐屯する石造りの城塞にて、カゲヒサやモーガス、数名の将軍が大きな机を囲んで座り、配下の騎士からの報告を受けていた。

 中央に置かれた周辺の地図を示しながら騎士隊長が説明をする。


「カルフ三又を通り、正面から王都へ向かわせた小隊5名、壊滅です。

 海岸沿いを通り、王都へ向かった小隊5名、道中のアイカスタ村に駐屯していたネクロマンサーとの闘いになり、骨馬に乗ったアンデッド騎兵の執拗な追撃を受けて4名死亡、1名が重傷で帰還しました。

 ホワイト・トリオム寄りの森林を通って王都へ向かわせた小隊5名、道中の谷間を通ろうとした際にアンデッドアーチャーとメイジの奇襲を受けて3名死亡、1名重症、残り1名が重傷者を同じ馬に載せて帰還しました」


 カゲヒサは腕を組み、黙って地図を見つめる。

 モーガスが立ち上がり、騎兵隊長を時折見ながら指示をする。


「明日の……こんどは深夜、同じ場所に各5名ずつのチームで出撃させろ」

「……はい?」


「聞こえなかったか?」

「……いえ……、了解……致しました……」


 部屋の入り口付近の壁際に立ち並んでいた十数人の負傷した騎兵がぼやく。


「あんのモーガスの野郎……。何回無意味な自殺特攻させるんだ」

「無能だよ……無能」

「前線で死にゆく兵士の身になってみろよ……」


 それを仁王立ちで後ろで手を組み、背中で聞いていた女騎兵隊長が振り返って叱りつける。


「貴殿ら! 口を慎め! 将軍達には深い考えがあって行っている作戦だ。無意味なことは一つも無い!」


 黙っていたカゲヒサが机の中央の地図を見つめながら口を開く。


「アイカスタ村に駐在するネクロマンサーは挑発に乗りやすい傾向があるな……。

 反面ホワイト・トリオム側は動きが鈍い……」

「しかし正面から戦って人が勝てる相手ではないとの事。

 ラード王からの最後の指令。

 機会が来るまで耐えしのげとの事だが……はたしていつまで持つのか……」


「アンデッド軍全員が人知を超えた力を持っているわけではない。

 シャドウ・キングが城壁を一人で粉砕するほどの魔力を持っていたとしても、その身を分裂させてあちこちに送るわけにはいかないのだからな。

 我々は我々で相手の姿を明らかにして、知られたくない弱点を探り、機会とやらが来るまで最大限戦いを引き延ばして抵抗するのだ」




 マイナーズ・ヴィレッジ。

 完全に防護され、あちこちにトラップが張り巡らされた城塞となった町の周囲をグリムがマリアを引き連れて見回っていた。

 ある場所を見てグリムが足を止める。


「あそこの障壁。金属プレートの防護を外してくれ」

「何故です? 障壁の防護が薄くなれば簡単にとはいかないまでも破壊されてしまいますよ?

 それに弱い箇所があれば狙われて集中攻撃を受けてしまいます」


「その通り。あそこを何度も行き来してもらいたいのだよ。攻める時も撤退するときも。敵さんにね」

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