第三十三話「タートルフォート出港」
阿毘羅王と名乗るモンクは再びスヴェンの方へ向き直り、錫杖を両手で構えて飾りの金属の輪がいくつも付いた先端をスヴェンへ向ける。
スヴェンは再び阿毘羅王の方へと一直線に駆け出した。
そして間合いの直前でハルバードを上空に投げ上げる。
「何っ? 何のつもりだ」
阿毘羅王は一瞬躊躇したがそのまま突進してくるスヴェンへ向けて錫杖を振りかぶる。
スヴェンはそのまま阿毘羅王の右脇へ滑り込む。
そして振り下ろされた錫杖を両手で掴んで捩じり、自分の体を回転させて巻き込む様にして奪った。
そのまま後ろへと走り抜け、左手に錫杖を持ったまま、落ちて来る自分のハルバードをキャッチする。
「ぬぬぬ。不覚を取ったわ。だがこの阿毘羅王、徒手空拳での戦いも……」
スヴェンは稲妻ボールの魔法を放った。
阿毘羅王は正面からもろに受ける。
魔法耐性強化の術は時間切れで剥がれており、ダメージを受けてフラフラしつつも立ち直る。
「この程度の手傷、地母神大……」
「それはさせないよ」
スヴェンはスピットファイアの魔法を放った。
阿毘羅王は法術の為の集中を阻害されて失敗する。
スヴェンは阿毘羅王に背を向けて港のある対岸の島へと歩き始めた。
「おのれ……、まだ勝負は……」
阿毘羅王の背中、帯にいつの間にか挟み込まれていた大火力爆発ポーションの導火線が根元まで燃え尽き、大爆発した。
「ぐふぁっ!」
その場につんのめって倒れた阿毘羅王にスヴェンが振り向いて話す。
「僕は忙しくてね。君の相手ばかりしてられない。
これからピッテナー島に向かわなきゃいけないし……。
君の錫杖は港にある衛兵駐在所に預けておく。
しっかりと罪を悔い改めて……謝ってから返して貰え」
周囲で見守っていた人々は歓声を上げた。
タートルフォートの港にて。
スヴェンは大慌てでブラッド・ピーコック号の停泊している場所へと走っていた。
だが辿り着いた頃には、既にブラッドピーコック号は錨を上げて出港しようと準備している最中である。
甲板の上から不安そうに港を眺めていたアモイがスヴェンを見つけ、大声で叫ぶ。
「スヴェンくん! 急げ! 置いてかれてしまうよ――!」
「うっは、ちょっと遅れただけなのに……ベラ船長酷いな」
スヴェンは跳躍の魔法を詠唱し空中へと大ジャンプをすると、動き始めた船の甲板に飛び乗った。
アモイが駆け寄る。
「ヒヤヒヤしたじゃないか。一体何してたんだよ」
「ちょっとトラブルがあってね……まぁ解決したさ。それより次はピッテナー島だよね? どのくらいかかるんだろう?」
「ここから一週間くらいの長旅になるそうだよ」
「一週間かぁ……。海の上じゃ景色眺めてるくらいしかやることが無いよなぁ」
「オイラはゴルガン・スペラの沈没船から引き揚げたスクロール類を解読する作業が残ってる。多分一週間なんてあっという間だね」
「そうだ、リンやイヴァリスやラナさんは?」
「船室に居るよ。スヴェン君も荷物があるんだろ? 一旦船室に戻ろうか」
ブラッド・ピーコック号が大海原へと進み始めた頃、タートルフォートの商店街では全身を覆い隠すローブを纏った二人の男が聞き込みをしていた。
相手は古物商の店員である。
「ほぉう。この古びたネックレスと宝石を売りに来たフェアリーと二人の若い女性が居たと?」
「はい。金属部分が若干錆びてましたが間違いなく本物の宝石、時間さぇ頂ければすぐに修理してみせます。お買い得ですよ?」
「……どこで手に入れた物かが気になるな……」
「ご安心ください。これは盗品ではありません。沈没船から引き揚げたお宝だそうで、私の鑑定でも200から300年は海の底に沈んでいた昔の物。所有権は正当に引き上げた者達にあります」
「その女性たちはどこから来たとか……どこへ行くとか言っていたかね?」
「お客さんも疑り深いですね……。まぁこれだけ高価な物となると仕方がないですけどね。
たしかリエポートから船で来たとか言ってましたね」
「リエポートか……」
「なんでもトレジャーハンターと一緒に旅してて、もっと大量に手に入る予定だからその時もよろしく頼むとか……ふっふ。そんな簡単にお宝が手に入ったら苦労しませんけどね」
「……」
「次はピッテナー島に行くとか言ってましたねぇ……。いえ、一応私もそこがどんな場所かは噂で聞いて知ってましたから忠告はさせて頂きましたけどね」
「間違いない……」
「うむ」
「どうしたんです? ご購入されます?」
二人の男は店員を無視して店の外に駆け出すと、止めてあった二頭の馬へと飛び乗った。
そして港へと並んで走る。
「間違いない……アモイ率いるレリック探索隊だ」
「ここへ立ち寄ると言う、ベリル様の読みは当たりましたね」
「……人前ではその名で呼ぶな」
「失礼しました……アマード船長。しかし何故奴らはピッテナー島へ向かうのでしょう?」
「分からぬ。少なくともレリックはあそこには無い。だが我々にとっては好都合だ。インプを飛ばして魂の収集者、アガレスへ伝えて備えておけ。」
「畏まりました」
二人の男は港に着くと停泊していた一隻の大型船の中へと駆け込んだ。
直後に背中に籠を背負い、火箸のようなものを持って港のゴミを拾っていた阿毘羅王が立ち寄った。
出港の準備をしていた船員に尋ねる。
「出港するのか? この船はどこへ向かうんだ?」
「ピッテナー島だ。死にたい奴以外には用のない島だ」
「お主の運び込もうとしているそれは何だ?」
「只の牧草だ」
それを聞いた阿毘羅王は船員に背を向けると小さな木彫りの人形を取り出し、短い呪文を唱えた。
そしてそれを船員の隙をついて気付かれない様に牧草の中へと突っ込む。
直後に衛兵が阿毘羅王を見つけて怒鳴りつける。
「こらぁ! サボってるんじゃないぞ! お前は本来なら牢屋行きなところ、衛兵隊長の温情で奉仕活動三ヶ月間で済ませて貰ってるんだ!
身の程を知れ!」
「あ――あ――! 分かっておるわっ!」
阿毘羅王は再びゴミ拾いを再開した。




