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第三十二話「石橋の上の厄介者」

 秘薬屋のコナーと別れ、スヴェンはタートルフォートの港へと向かっていた。

 後はタートルフォートの二つの島を跨ぐ石橋を渡り、もう一つの島に停泊しているブラッド・ピーコック号へ戻るのみ。

 だがその石橋の前に大勢の人が集まって騒いでいる。

 スヴェンは人込みの一番外側に居た男に尋ねた。


「どうしたんです? こんなに人が集まって……何かあったんですか?」

「困った奴が居るんだよ……。俺も船に戻らないといけないのに……」


「困った奴?」

「石橋の真ん中で通せんぼしてるんだよ。恰好からして多分異国のモンクだと思うんだけどさ、通りたければ自分を倒せと言いながら皆を足止めしてるんだ。兵士が何人も立ち向かったがことごとく錫杖しゃくじょうで打ち倒されて武器を奪われて逃げ帰ってる。もう1時間誰も通れないんだよ」


「ふぅん。でもさ……まともに相手する必要はないだろう。魔法兵5人がかりとか、兵士10人がかりでさくっととっちめてしまえばいいだろぅ?」

「それがさ……強いの。超強いの。魔法兵5人同時の魔法に耐えるし、兵士10人の集中攻撃を跳ね返したあげく、海へ次々投げ込んじゃうの」


「仕方がない。僕も早く帰らないといけないんだ。何とかしてみよう」

「無理だと思うよ? まぁ頑張って」


 スヴェンは人込みをかき分けて前へ出た。

 話通り石橋の中央に錫杖を持ったモンクがおり、二人の兵士に左右から挟まれた位置で構えていた。

 片方の兵士がロングソードで切り付けるがその刃を錫杖で素早くはじくと兵士に向かって飛び上がる。

 そして素早く錫杖を2回転させて兵士の頭に2回打ち据えた。

 兵士はそのまま意識を失って倒れる。

 反対側の兵士が刃先を向けて突撃するが、モンクは足を大きく広げて地面に踏ん張ると、カウンターで錫杖の石突を兵士の銅に打ち付ける。

 驚いたことにプレートアーマーの胴鎧が大きくへこみ、兵士はふっ飛ばされて石橋の手すりに体を打ち付けて動かなくなった。


「手ごたえの無い奴めっ! 出直せぃっ!」


 モンクは倒れた兵士の首根っこを掴み、一人ずつ投げて返した。

 見物していたスヴェンの左右に兵士達が滑り込む様に飛んで来て転がり、呻き声を上げる。


「次だぁっ! もっと腕っぷしの強い奴! かかってこんかいっ!」


 スヴェンは左右の兵士達をさっと眺めた後、一歩前に出てハルバードの石突をコンと置いて叫ぶ。


「君、一体何が目的だ? 迷惑行為はやめろよ!」

「強者を探して世界を渡り歩いているのだっ! 今回はここで100人打倒のぎょうを行うことに決めておるっ!」


「別の所でやれよ」

「ここでやると俺が決めたからには必ず成し遂げる。それまで俺は雨が降ろうが槍が降ろうがここを動かぬっ! ……ふんっ。お前も戦士の端くれならば実力で押し通ってみたらどうだっ!」


「そうさせて貰おう」


 スヴェンは爆炎の魔法を詠唱した。

 モンクはスヴェンに向き直って足を開き、腰を落として構えた。

 そして片手を口元にかざして印を切り、剃り上げた坊主頭に血管を浮き上がらせながらブツブツと呪文のようなものを唱え始める。


「耐魔護身っ!」


 叫びの直後にスヴェンの爆炎の魔法が命中した。

 だがほとんど通用していないのが明らかである。

 モンクは挑発する。


「どうしたっ? 口だけか? 俺がさっきまで打ち倒した25人の魔法兵と変わらんぞ!」


 スヴェンはモンクの方へと一直線に駆け出した。

 そしてフェイントを交えながらハルバードを打ち付ける。

 モンクは少し戸惑ったものの、辛うじて対応し、錫杖でハルバードを防いだ。

 かすかにハルバードの刃先がモンクのふくらはぎをかすめて血が滲んでいる。

 そのまま駆け抜けて5メートルほどの距離を取ったスヴェンが語り掛ける。


「大体分かった。お前はまだ未熟だ。弱者相手にいい気になっているだけだな」

戯言ざれごとは俺を倒してからほざけぃっ!」


 モンクは再び片手を口元に寄せて印をきる。

 そして全身を真っ赤にして血管を浮かせながら呪文を唱えた。


「硬化鉄身!」


 スヴェンが再びすれ違いざまにハルバードを打ち付ける。

 だが今度はモンクは回避をしなかった。

 ハルバードの命中の瞬間にモンクが気合の叫びを上げる。


ぁぁぁ――っ!」


 鎧すら付けていない筋肉隆々の腕にハルバードの刃が命中したが、まるで石でも殴ったかのような音を立て、まったく傷が付いていない。

 モンクは防御行動を犠牲にして迷わずスヴェンに錫杖を素早く回転させるように二回振るった。

 だがスヴェンは通り過ぎながら涼しい顔で一発目を身をかがめてかわし、二発目をハルバードの柄で弾いてかわす。

 モンクはゆっくりと振り返り、再び距離を取ってハルバードを慣れた手つきでクルリと回しながら向き直るスヴェンを見た。


「ほぉぅ。この状態の俺を切りつけて刃こぼれしないとは良い武器を持っているな。

 お前を打ち据えた後でそれを貰う事としよう」


 周囲を取り囲む群衆の中の何人かがスヴェンを見て指さし声を上げる。


「お、おいっ! あの少年はスヴェンだぞっ! グリーンハンズを単独で撃ち破ってこのタートルフォートを救ったスヴェンだっ!」

「本当だっ! 英雄のスヴェンだっ!」

「彼が来たなら……やってくれるかも知れないぞ!」

「いいぞぉ――! そのアホ坊主をぶちのめせぇ!」


 周囲を見回して声援を聞いていたモンクの顔に隠しきれない笑みが広がる。


「ほぉう。お前がこの町で名高い魔法剣闘士スヴェンか! まさに御仏のお導き! この阿毘羅王あびらおう、喜びで体が震えるわっ!

 覚悟めされぃっ! お前にこの石橋を舐めさせてくれよう!」

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