第三十一話「秘薬屋ギルドの情報網」
タートルフォートの秘薬屋の建物の中。
スヴェンは近くにあった丸椅子を持って移動する。
そしてコナーの向かいの棚の前に置き、座った。
「まずはここの状況から教えてくれないか?」
「君がグリーンハンズを倒してタートルフォートを取り戻してから、この町にも魔法兵が呼ばれて配置された。外で見かけなかったかい?」
「そういや王国軍の紋章を付けた軽装の人がちらほら居たね」
「彼らは全員がディスペルを扱える。フレッシュゴーレムはもうこの町では無力になったんだ。
そして王国唯一の港基地、さらには異世界への入り口として護衛の兵士も増やされた。
お陰で君が去った後2回襲撃を受けたが難なく撃退に成功している」
「異世界? みんな知っているのか?」
「私がこの町の内政官に報告し、それが政府へと伝わったんだよ。
いざという時の人々の避難先とするために、今は開拓部隊が派遣されて人々が住めるエリアの探索、候補となる土地の簡易要塞化を進める計画だそうだ。
未知の動物の調査と調査隊の護衛も兼ねて元ARCCの猛獣使いレンジャーのロックも若いドラゴン二匹を連れて付いて行っている。そうやすやすとは危険な動物にやられないだろう。
……そしてこの島は今では只の港では無い。
異世界へ人々が逃げ込む入り口となった。絶対に守り抜かなければならなくなったんだ」
「魔法学校評議会の動静は?」
「シャドウ・キングの通過後、一時的に平安を取り戻していたリエポートに評議会の紋章付きローブで全身を覆い、馬に乗った200人ほどの集団がなだれ込み、制圧した。
シャドウ・キングを避けて避難していた船が一斉に港に集まったタイミングだったが全部拿捕されたそうだ。
今ではスタグランド同様に音信不通だ」
「……人々を逃がすべきだった……。畜生、判断を誤った」
「自分を責めるな。それは結果論。誰にも予想など出来なかったさ。
人目を盗んで逃げだした人の報告だが、そこには何か国王から密命を受けた船もあったらしい。
船長も捕えられて洗脳を受け、即座に数隻の船が海へと出港していったそうだ」
「アマード……」
「知っているのか? この事を聞いた数少ない人々は国王の重要な作戦が洗脳によってまるまる筒抜けになったことを危惧している」
「スタグランドにリエポート、王国の東がどんどん落ちているのか……。
……マイナーズ・ヴィレッジは!? ギルド『Hammer and Pincers』の拠点のマイナーズ・ヴィレジは大丈夫なのか?」
「そこの秘薬屋とも連絡は付いている。魔法学校評議会の小規模な襲撃が2回ほどあったそうだが、あらかじめ警戒して町を要塞化していたので退けたそうだ。
しかもその指揮は元ARCCの師団長の一人、ドワーフのグリム。
そうやすやすとは落ちないさ」
「グリムさんが……」
「出身地だからね。後、緊急事態ということで石工、大工、細工師やからくり師総動員で今でも町そのものの要塞化を進めている。魔法のゲートでの行き来は可能だから、いざという時は私も含めて大勢加勢にいくつもりさ」
「カルフンガリアは? 何故陥落を?」
「ラード王が親衛隊以外の加勢を断ったらしい。デスクレセント島の情報を入手していたせいか、物量で勝てる相手ではないと知っていたそうだ。
活路を開くには多くの犠牲が必要だと、身をもってそれを国民たちに示したのさ。
シャドウ・キングが城壁を得体の知れない魔法で破壊した後に乗り込み、親衛隊達は考えられる策略を尽くして戦ったが壊滅した。
残されたのはいくつかの早馬で伝えられた情報のみ。
それはカーグレイルに届けられて分析されている。
そうそう、さっきも言ったけどラード王は裏で秘密の作戦を進めていたらしい」
「モンスター達はシャドウ・キングや魔法学校評議会と繋がる様子はあるのか?」
「無いね。シャドウ・キングにとっても、フォールン・エンジェルにとっても、人間と同じ、モンスターはモンスターさ。今のところはね」
「カーグレイルの将軍のカゲヒサさんは言っていた。
『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』
カゲヒサさんの故郷の言葉だそうだ」
「君本当に凄い知り合いばかりだね」
「僕たちは戦っている相手の情報を知らなすぎる。
グリーンハンズが使っていた魔法も初めて見たし、スタグランドの狂信者達の洗脳魔法も初めて見た。こんな状態で戦うのは危険すぎる」
「魔法学校評議会については噂がある。
ピッテナー島というところに邪教を信仰する未開の部族がいて、誤って上陸すれば生贄にされたり、現地の人に食べられてしまうというのを聞いたことがあるかい?」
「ああ、少し前に聞いた気がするよ」
「3年前、嵐で難破してその島に上陸してしまった商船があったそうだ。
命からがら逃げかえったのは屈強な船員一人と11歳くらいの少女だけ。
船員の話では他は全員人食いと生贄の犠牲になり、少女を背負う船員だけが奇跡的に脱出した。
だが大陸に帰還した後、少女には悪魔が取り付いていると噂され始める。
少女の周囲の人々があり得ない頻度で、次々と死んでいくんだよ。
親代わりの船員はあちこちのエクソシストに少女を見てもらうが、ことごとくエクソシストが大勢の見守る前で、不思議な力で惨殺されるか発狂してしまう。
これは手に負えないということでスタグランドの魔法学校に移送された。
丁度君達のギルドハウス前が大騒ぎのパーティーしている時だね。
それかららしい。
レディー・エンゼルが彼女の親友の顔を思い出せなくなったのは」
「ピッテナー島に、狂信者達のルーツがあるかも知れないと言う事か」
ブラッド・ピーコック号にイヴァリスとリンとラナが両手と荷車いっぱいの買い物を抱えて戻って来ていた。
ふと船を見ると、甲板ではアモイが服を干すためのロープを引っ張り出して無数のスクロールを吊るして寝転がっている。
「何してるのかしら?」
「行ってみましょう」
船室に荷物を置いた3人が甲板に上がり、アモイに尋ねた。
「アモイさん、何やってるの?」
「引き上げたゴルガン・スペラの宝箱に入ってたスクロール類を乾かしてるんだよ。
インクが溶けて殆ど文字が消えているものもあったけど、タートルフォートの古物商に聞いて、錬金術師に作って貰った溶液に付けて復元してるんだ」
「凄いですね。一体何が書いてあるんです?」
「旅の記録、オイラにとっちゃ金銀宝石よりも重要なお宝さ。例えばこれ、見てみてよ」
アモイは吊るされた紙の一つを丁寧に取ると、皆に見せた。
「ピッテナー島の地図さ。あの島は昔から危険な島でね。
ゴルガン・スペラの冒険物語でも散々な目に合ってる。
火山の溶岩の隙間を進み、遺跡に潜り、邪教を信じる原住民に捕まり、命からがらの脱出をした。
その時手に入れていたお宝を、ここに埋めてからね」
地図には島の全体図、火山の配置や遺跡の場所、そしてアモイの指し示す先には×印が記載されていた。




