第七話「ギルドマスターの偽りの言葉」
スヴェンは小川で涙の跡を洗い流し、しばらく心を落ち着けた。
涙でぐしゃぐしゃのみっともない顔がなおった頃に、街に戻って門をくぐった。
街に入ると、慌てた様子で周囲を見回していたギルドマスターのナーバがスヴェンを見つけて駆け寄る。
「スヴェン! 赤猫旅団を潰すと言ったというのは本当か?」
スヴェンはギルドマスターの予想外な最初の言葉に戸惑いながら答える。
「ああ、本当だ。スキッピングベアのメンバーが大勢殺されたんだ。
あいつら許さねぇ。
ぶっ潰してやるさ!」
「スヴェン! 軽率な発言をしてしまったな…………。
お前は赤猫旅団を分かっていない。
連中はキミを指名手配したんだ。
街の掲示板にも衛兵が貼り付けた犯罪者の似顔絵の上からキミのものが貼り付けてある。
衛兵連中は怖くてそれを剥がせないんだよ。
赤猫旅団は反乱分子は蟻だって許さないんだよ。
今もキミを探して街中を捜索している」
「何を言っているんだ。
赤猫旅団の肩を持つのか?
あんたの言っていることが信じられないよ!
それがアンタの本心か?
アンタそれでもスキッピングベアのギルドマスターか!」
「ああ、そうだよ! 本心さ。
……スヴェン。まだ生きているギルドメンバーが大勢いるんだ。
キミ一人の軽率な言葉で皆を危険に晒したんだよ。
残念だがキミは今日からギルドを出て行って貰う」
「上等だ! こんな薄情なギルドマスターだとは知らなかったよ!
出て行ってやるさ!」
スヴェンは棍棒で頭を打ちのめされた様な精神的ショックを受けていた。
目の前の風景が揺れて現実感が失せている。
ナーバは声を張り上げていった。
「スヴェン! お前はたった今からギルド追放だ! 二度と戻ってくるな!」
周囲がざわつき、哀れみの声と、ナーバを批判する声があちこちから聞こえる。
ナーバは背を向けるスヴェンの肩に手をおいて顔を近づけると囁く。
「島の南端、綿花のある小屋の近くの海岸に小舟を容易してある。
そこから島の外へ逃げろ」
一瞬留まったスヴェンは、それを聞いていたが、振り返らず、返答もせずに手を振り払って走り去った。
スヴェンが姿を消した直後に人相の悪い大男が人混みをかき分けて現れた。
ナーバを見つけると駆け寄って胸ぐらを掴み上げる。
「スヴェンのガキが来たそうだな。
何処へ行った? 匿うと許さんぞ!
お前のちっぽけな初心者ギルドなど簡単にぶっ潰してやる」
「いえっ! 本当に申し訳ございませんでした!
私もあいつには腹を立てているのです!
たった今あいつをギルドから追放いたしました。
どうかお見逃し下さい」
「ガキは何処へ行った!」
「よく見ていませんでしたが、多分魔法学校の方にいると思います。
あいつはあの辺りをよくうろついていたので、隠れ場所にも詳しいでしょう」
「よーし。………いいか! 今回は見逃してやるが、俺達に楯突くようなバカな真似は今後一切するなよ!」
「ありがとうございます。寛大な扱いに心から感謝致します」
この騒動からしばらく後、遠出から帰ってきたローラは街の噂で初めて事態を知った。
「え? エリィ達が……そんな……」
「気の毒だけど私達には何も出来ないわ。ごめんね。
あと赤猫旅団をぶっ潰すと叫んでたって事で、スヴェンって少年が旅団の指名手配にされたそうよ?
おたくのギルドマスターがその子を皆の前でギルドから追放してたけど、可哀想だったわぁ……」
「スヴェンくんが……、なんてことを……、酷い! あたし抗議してきます!」
ローラは街を出てギルドハウスの小さな丸太小屋の前に立っていた。
怒りで大喧嘩覚悟でドアノブに触れた時、中から恥ずかしげもなく大声を上げて泣き続けるナーバの声が聞こえた。
ローラを含めてギルドメンバーはその日、誰もギルドハウスの扉を開けることは出来なかった。
アリスを筆頭に死亡した多くのメンバーは翌日に葬られた。




