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第二十八話「危機脱出」

 ズシンという大きな振動が船全体に響き、乗っている全員がつんのめる。

 ブラッド・ピーコック号の船尾にアンデッド船が追突したのである。

 それと同時にアンデッド船の甲板から武装したスケルトン兵が列をなして次々とジャンプして飛び移りなだれ込む。

 その数は100以上、まるで襲い来る土石流のような勢いである。


「乗り込んできたぞぉ――! ぶち殺せぇ――!」


 甲板の上に居る船員達は甲板の上でシミターを振り回しながらスケルトン兵を迎撃する。

 イヴァリスも船員に交じってフランベルジュを振り回し、リンは空中を飛びながら魔法で応戦していた。

 スヴェンはハルバードを振り回して次々と撃破を続け、周囲にスケルトンを近寄らせない。

 アモイはスヴェンの後ろから攻撃魔法で援護を行っていた。

 だが甲板に無数のスケルトンが群がり、隣からアモイに斬りかかる。


「ひぃっ!」


 アモイはとっさに地面に落ちていたウッドシールド(死んだスケルトン兵の落とした物である)を拾い上げてガードする。

 横目でそれを見ていたスヴェンは襲い掛かっていたスケルトン兵を打ち倒し、アモイに浮遊の魔法を掛けた。


「アモイさん、マストの横木に乗って皆の援護を頼む!」

「わ、わかった。任せてよ……」


 アモイは空中を泳ぐようにメインマストの横木へと移動する。

 ベラ船長は次々と襲い掛かるスケルトン相手にシミターを振り回し、時には魔法を放ちながら甲板の縁へと移動していた。

 赤猫旅団と張り合っていたと言うだけあり、魔法を交えた戦闘に関して腕に覚えがあるようである。

 縁から海面を見下ろしたベラ船長が叫ぶ。


「気を付けろ! 小舟を出して囲んでいるぞ!」


 叫び声とほぼ同時に甲板の左右4か所にフック付きの縄梯子が投げ上げられ、そこからもスケルトン達が登って侵入を始めた。

 ベラ船長は素早く縄梯子を上ってきたスケルトンの頭部をシミターで切り落とし、胴体を蹴って海に落とすと、縄梯子を切断する。

 今度は戦いながら船の反対側、右舷の縁へと移動し、縁から海を覗き込む。

 そして隣で縄梯子を切り落としている船員に手を向け人差し指をクイクイと動かした。


「モリを持って来い! 早く!」


 船員は頷いて船室へと駆け込んだ。

 そして船内の廊下を走りながら叫ぶ。


「モリはどこだ――! モリを探せぇ――!」


 船室で祈りを捧げていたラナはそれを聞き思い出したように部屋の隅を見た。

 部屋の角に3本の三角形の鋼の刃の付いたモリが立てかけてある。

 慌てて立ち上がり、3本のモリを抱えて廊下へ飛び出す。


「船員さぁん! モリがありました!」

「よし、寄こせ!」


 船員はモリを持って駆け戻る。

 甲板で海をじっと見据えたまま、船員からモリを一本だけ奪うように取ったベラ船長は片手で握って振りかぶり、勢いよく海へと投げ込んだ。

 直後に聞き覚えのある船全体を揺らす唸り声が水の中から響く。

 ベラ船長はもう一本モリを掴み、振りかぶって投げおろす。

 しばらくの沈黙の後、近くにあったアンデッドの小舟に巨大な触手が巻き付き、真っ二つに折りながら海中へと引き込んだ。

 3本目のモリを振り上げて構えたベラ船長は何かを察知し、とっさに下がって伏せた。

 直後に黒い水柱が船長の立っていた場所に吹き付けられ、フォアマストの中段の帆を空中へと吹き飛ばす。

 最初の唸り声を聞き、黒い水柱を見た全員が最悪の状況を察する。


「クラーケンが生きてるぞぉ――! 右舷後方にしがみ付いている!」


 右舷後方甲板に2本の触手がヌルヌルと伸び、巨大なクラーケンの頭が再び船をよじ登る。

 ハルバードを振り回して戦っていたスヴェンは近くの船員の背中側へ移動して尋ねた。


「クラーケンって……イカだよね?」

「知らねぇよっ! あんなもん出会った奴は噂でしか聞いたことがねぇし、俺だって生まれて初めて見たんだっ! ……こいつっ! 死ねっ! 死ねっ!」


 襲い来るスケルトンを切り伏せる船員に再びスヴェンが尋ねる。


「イカだよね?」

「うるせぇなぁっ! イカだよっ! イカ! このドロドロのきったねぇ墨はイカだっ!」


 スヴェンはスケルトンを1体打ち倒した後、一旦後ろに引いてマストを背にする。

 そして筋力強化の魔法を詠唱した。

 その間もクラーケンは船を登り続け徐々に頭が甲板からのぞき始める。

 スケルトンの量も減る様子が無く、船室に侵入しようとしたスケルトンに気付いたアモイが石の壁の魔法を唱えて入り口をとっさに封鎖する。


「クラーケンが登って来たぞぉ!」

「右舷6番! クラーケンを撃てぇ!」


 轟音と共に砲撃を受け、クラーケンは少したじろぐが再びよじ登る。


「おぃ、お前何するつもりだ!」


 スヴェンは甲板から見えたクラーケンの顔へ向けてハルバードを振り上げて突き進んでいた。

 そして直前でジャンプし、その勢いを合わせてハルバードを目と目の間に振り下ろす。

 ゴキィという音が響き、見る見るクラーケンの右半身の皮膚が白く染まる。


「あいつ……締めやがった……」


 筋力強化の魔法が効いている状態のまま、スヴェンは再びハルバードを振り上げ、クラーケンの額に思い切り打ちおろした。

 こんどはクラーケンの左半身の皮膚が白く染まる。

 そのままクラーケンは力を失い、海へと転げ落ちた。

 その様子を見ていたベラ船長が操舵室に叫ぶ。


「今だ。アンデッド共を振り切るぞぉ!」


 船は風を受けて加速し始め、徐々にアンデッドの船が船尾から離れていく。

 ダミアンは海図と羅針盤、暦の表を素早くチェックする。

 そして背後から襲い掛かる生き残りのスケルトンを片手でつかみ取ったメイスで後ろを向いたまま破壊すると、南へ向かう海流へ向けて舵を取った。

 

 

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