第二十五話「ゴルガン・スペラの痕跡」
暗い海の上、穏やかな波に揺られながらいくつもの小舟がブラッド・ピーコック号の周囲を漂っていた。
そのうちの一隻にスヴェンとアモイ、そしてベラ船長の部下の船員二人が乗って釣り竿を持ち、釣り糸で海の底を探っている。
アモイは海を眺めながら隣で釣り竿を振るスヴェンに沈んだ声で話しかけた。
「スヴェンくん。いつも散々なトラブルに巻き込んでしまってすまないね。
今度はもっと平和な冒険だと思ったんだよ」
「はっはっは。気にしないでくれよ。これくらい刺激があったほうが僕は楽しいね」
「そうかぁ……スヴェン君は強いんだなぁ……。
オイラは……本当はセルバゼイの一件で懲りてたんだ……。
それに大勢の無実の村人を犠牲にしてしまったし……。
でも今回のシャドウキングの出現はひょっとしたらオイラが売りさばいた宝物が関係しているのかも知れない。
聖ジャーギィの伝説と同じことが起こっているからね」
「おっ、何か掛かったぞ?」
スヴェンは釣り竿の糸を引き上げた。先端の針には古びた長靴が引っ掛かっている。
「はずれだ」
「……オイラの今回の仕事の動機は以前のような冒険心じゃない。贖罪なんだよ。
オイラは意図せずに多くの人々を傷つけ、巻き込んで命まで落とさせてきた。
今回の一件も……オイラのせいかも知れない……不安でしょうがないんだ……」
背中を向けて釣り竿を投げる二人の船員は黙って聞き入っていた。
アモイが続ける。
「だからオイラは絶対にエキドナ・キューブを見つけなければならない。
オイラの身に変えても……この災厄をおさめるつもりなんだ」
「なんだ。結論は出ているじゃないか」
スヴェンは再び竿を振り、海に釣り針の付いた糸を投げる。
「そうやって悩みながらでもアモイさんは迷わず一直線に、今この場まで来た。
その行動と結果がアモイさんの……魂の意志さ。
そして、僕はアモイさんを守り、助けてこの旅の目的を果たし、人々にとっての剣となってシャドウ・キングと……フォールン・エンジェル、その組織を打ち倒す。
そして再び愛すべき人々の手に世界を取り戻す。
利害が完全に一致したね」
アモイの釣り竿がガツッと反応した。
「ん? 魚じゃないな。根がかりしたかな?」
「持ち上がりそうにない? ちょっと貸してみてよ」
スヴェンはアモイの釣り竿を受け取って引き上げる。
「根がかりはしてない……これは大物……のガラクタだよ多分」
スヴェンは糸を引き上げる。
「あ、上がって来たよスヴェン君。何か板みたいなものが……。よし、掴んだよ」
アモイは水面に浮上してきた板のようなものを掴み、船に引き上げた。
それは高さ1メートル、幅60センチくらいはある大きな額縁である。
「額縁に入った肖像画だよこれ。どれどれ……?」
アモイは額縁に張り付いた海藻を取り除いて両手で持ち、目の前に掲げる。
スヴェンが船に置いてあったランタンを近づけた。
「肖像画かな? 額縁に名前が彫り込んである。……そうか、これはランドルフ王、昔の王様の肖像画だよ」
「おいっ、こっちも何か掛かったぞ」
背後で船員が糸を引き上げ始めた。
針に引っかかり水面にまで浮かび上がってきたのは……陶器製の枕であった。
「なんだこれ? 枕か? ひんやりして丁度良さそうだし貰っておくか」
「おい、その枕中からカラカラと音がしないか?」
「お、本当だ。ここに蓋が付いてるぞ。開けてみるか」
船員が陶器製の枕のふたを開けて振ると小舟の床に小さなナイフが転がり落ちた。
アモイは何気なくそのナイフを見てから顔をそらし、今度は目を見開いて二度見する。
「ちょ、ちょっと! それをオイラに見せてくれ!」
アモイはナイフを拾うと、グリップの端を捻る。
「ゴルガン・スペラは陶器の枕を愛用してたんだ。
そしていつもその中には護身用のナイフを入れて眠っていた。
さらにそのナイフの柄には細工がしてあって……」
キュルキュルと音を立てて蓋が外れ、グリップの空洞から小さな万年筆が転がり落ちる。
「彼はいつも万年筆をここに入れていた!」
「アモイさん、この肖像画、裏に手紙が挟まってたよ?」
アモイはスヴェンから額縁を受け取ると額縁の裏ぶたに張り付いた手紙を見る。
「……カルフンガリアの由緒正しき貴族の名門スペラ家の当主にして最も高名なるトレジャーハンター、ゴルガン・スペラ。
そなたの上納した数々の歴史的遺物や資料を精査した結果、そなたの語るレリックにまつわる話が真実だと確信するに至った。
そなたの要求通り5000万ゴールドの資金と3隻のガレオン船、200人の乗組員を任せる。
必ずや世界の始祖にまつわる偉大な聖遺物を持ち帰るべし。
しくじればそなたが自分で申したように、帰国後断首の最後が待つと心得よ。
ランドルフ歴68年 8月1日 ウルフ・ランドルフ
…………ゴルガン・スペラ……あんたという奴は……」
「やったね、確定だ! ベラ船長に伝えよう!」
スヴェンはランタンを持ち上げて掲げると、なんどか光を瞬かせてブラッド・ピーコック号に合図を送った。
それを見ていた船員の一人が慌ててランタンを奪い取って下へ隠す。
「この馬鹿っ! 合図を送るときは船以外の方向には見えないように布で隠すもんだっ!」
ブラッド・ピーコック号の見張り台の男は合図を確認してラッパのような受話器の付いた銅の管に向かって叫ぶ。
「見つけたみたいですぜっ! 8時の方角にいった船からだ」
「よし! 錨を上げてその位置に移動しろ。他の船は引き揚げさせるんだ!」
「アイアイサー!」




