第二十三話「次の目的地決定」
アモイの語る神話に聞き入っていた船員達は、アモイの掲げるヘカトンケイルの目に注目し、全員が驚嘆の声を漏らす。
しばらくして船長のベラが片手で頬杖をついたまま話を戻す。
「それで? これから我々はどこへ向かえばいいんだ?」
「まずはゴルガン・スペラの足取りを追うのです。
ゴルガン・スペラは200年前に……我々と同じく王の命を受け、大船団を組んで失われたエキドナ・キューブの探索の為、カルフンガリアの港から出発しました。
そしてデスクレセント島の西を抜け、タートルフォート島を抜けて辺境の火山島、ピッテナー島にある遺跡を探索し、そこで発見した石板の記述で神話の歴史の実在を確信するのです」
周囲で聞いていた船員達がざわめく。
「ピッテナー島? 悪魔崇拝の邪教徒が住んでるヤバい島だぞ。漂着した船の船員が全員生贄にされた事件もあるし、火山や猛毒の大蛇、巨大ワニまでいる辺境のジャングル島だから王国も放置している島だ」
「スタグランドの魔法学校評議会の教信者と関係しているって噂もあるぞ」
「いや、それ以前にデスクレセント島の西を抜けるのも今はヤバい。
シャドウ・キングの本拠地だ」
「シャドウ・キング……それにしてもベラ様はおっかねぇよな。
船の縁から望遠鏡を持ってシャドウ・キングの上陸を見守ったままよ、撤退もせずに港に待機命令だぜ……町の衛兵たちが次々とアンデッド騎兵に串刺しにされている状況でだ。
俺はもう死を覚悟してたぜ……」
赤ワインを少し口にしたベラがグラスを置き、船員達は再び沈みかえる。
「そこには……絶対に行かなければならないのか?」
「はい、ゴルガン・スペラは日誌を残し、それは出版されて多くの人々が読んでその冒険を知っています。しかし探索の結果得た細かな情報類は一切が伏せてあるのです。
ゴルガン・スペラが掴みかけたエキドナ・キューブ。
その同じ場所まで辿り着くには、彼らが冒険で得た情報をオイラ達もトレースする必要があるのです」
「そうか……ところで、エキドナ・キューブ以外にお宝はあるのか?」
「お宝ですか? もちろん神話や伝説の遺物は各地の太古の王や皇帝、権力者が収集し守って来た歴史があります。
ゴルガン・スペラは一流のトレジャーハンター。
冒険の過程でいくつもそういうものに遭遇しています。
しかし彼の目は常にエキドナ・キューブを見据え……」
「決まりだ。進路を西へ取れ、海流に乗りデスクレセント島の西を抜ける」
航海士ダミアンが立ち上がった。
そしてその場にいた船員達に大声で叫ぶ。
「お前ら、全員上へ上がれ、進路を変更する準備だ!」
「へ、へいっ!」
「了解しやしたっ!」
ダミアンと船員達が部屋から消え、スヴェンは思い出したように懐からビンを取り出す。
「そういえばアモイさん、スタグランド沖で漁師のアンソニーさんがシーサーペントを釣り上げたんだけど」
「シーサーペント? 釣り上げた!? まさか!?」
「いや、本当だって。それで僕が仕留めたんだけどその腹から……」
「仕留めた? 冗談を……」
「錆びてボロボロの鎧や武器と一緒にこの瓶が出てきたんだ。僕には読めなかったけど、アモイさんなら分かるかなと思って」
アモイはスヴェンからビンを受け取ると栓を抜き、中に丸めて入れてあった紙片を取り出した。
そして机の上に広げる。
「これはシュメク語、太古の昔に使われていた神聖文字だよ。今では本来の形でこの文字を使う人たちは居ない。
書いたって読める人が殆ど居ないからね。
歴史家や魔術結社に所属する魔術師が暗号替わりに使うくらいさ。
えーと……」
アモイはバックパックを開いて小さな辞書を取り出した。
そして辞書をパラパラめくって見比べながら紙片を読む。
「ランドルフ78年12月17日……ランドルフか……大体200年くらい前だね。
これを拾った物はデスクレセント島のジャン・モーラ船長に届けろ……
聞いたことが無いな……」
キセルをふかしていたベラが答える。
「200年前の大海賊だ。サメの歯のジャン・モーラ。
当時この辺りの海を支配した最大勢力の海賊。
私の祖先だ」
「ひぇ……まさか、貴方の名前は……」
「ベラ・モーラ」
「……(おっかねぇ……)……まぁ、続きを読もう。
ゴルガン・スペラ! まさかゴルガン・スペラの文字を見ることになるとはこれは奇跡か!
えーと?
ゴルガン・スペラが持ち帰った宝物類の……強奪計画の……内通者として潜入していたが……。
長旅と嵐で船がボロボロな上に追い打ちで凶暴で強大な海の化け物、シーサーペントの襲撃を今受けており……船が沈むのは時間の問題……。
は、ははっ!
そうだよ、ゴルガン・スペラは一番最後カルフンガリアに帰る途中でシーサーペントに襲われて船が粉々にり、バックパックとその中に入れていたメダリオンだけを持って板切れに捕まり、三日間漂流して救われたんだよ!」
「続けろ」
「え、えーと、今が晴れた夜だったのが幸いだ。私は羅針盤と六分儀を使い、船の位置を割り出した。
もはや私が生き延びる事も絶望的だ」
「見せてみろ」
アモイは冷や汗を流して引きつった笑いを浮かべながらベラ船長に紙片を渡す。
「ちょうどいいな。デスクレセント島の西、これから向かう先だ」
一方、リエポートの街を襲うスケルトン達は粗方町の男たちによって倒され、町は穏やかさを取り戻しつつあった。
沖に退避していた何隻もの船が再び港に乗り付ける。
そのうちの一隻から一人の男が港に降り立ち、衛兵たちの元へ駆け寄ると息を切らしながら尋ねる。
「君達! ここにこんな顔の人物が来るのを見なかったか? 何人かお供を連れている。
一人はハルバードを持った魔法剣闘士で、一人は荷車を引いた少女で商人で」
衛兵は渡された似顔絵を見て首をかしげる。
「うーん。俺たちも必死だったからなぁ……ところであんた誰だい?」
「俺はラード王の指名で、国の命運の掛かったレリック探索隊を乗せる予定の船の船長、アマードだぁ!」




