第十九話「死霊の行軍の痕跡」
ラナの祈りが終わり、大精霊の木から街道へ戻って来たスヴェン達。
一行はリエポートへと続く道を再び進み始めた。
2時間はたっただろうか、アモイが道端に転がる大岩に座り込む。
「スヴェン君、ちょっと休憩しようよ、もう足が限界だよ……」
イヴァリスの荷車に乗っていたリンが尋ねる。
「それにしてもイヴァリス、あなた凄いパワーあるわね。いつもこんな重い荷車引いてるのにピンピンしてるし」
「肉体派だから……」
イヴァリスは片手で力こぶを作る。
「うっわ、いつも衣装で隠れて見えないけど、凄くない? アモイさん、イヴァリスに襲われたら完全に勝てないわよ?」
「イヴァリスちゃんに襲われるならオイラは無抵抗を貫くよ。もうマグロになっちゃう」
「……生ものは取り扱ってないです……」
「あぁ……アモイさんそういう下らないジョーク言う人だったんだ……。
私の中でのイメージが崩れていくわぁ……。
それより魔法の夜! リエポートでは魔法のゲートの記憶してない……から歩いてるのよね?」
「そうだよ? リンは?」
「記憶してないわ。アモイさんは?」
「自分の家や首都くらいで、あとは長い間行かなかったから忘れちゃったよ」
「じゃぁこのまま進むしか無いわね」
「あと1時間くらいだと思うよ。じゃぁ、そろそろ出発しようか」
「待ってくれよぉスヴェン君。もうちょっと休もうよぉ。君は馬に乗ってるからいいけど、徒歩は辛いんだよぉ……」
「仕方がないなぁ……じゃぁ、ここから先はセキトバ号にもう一人載せて進むことにするよ」
「スヴェン君!(感涙)」
「ラナさん、次から馬に乗って僕に掴まっててね」
「ありがとうございます」
「スヴェン君……」
イヴァリスがニンニク入りのスタミナポーションを肩を落とすアモイに渡した。
再び街道を歩いて1時間ほど経った頃、小高い丘を登り切ると、遠くに立ち上る幾筋もの煙が見えた。
スヴェンの表情が厳しくなり無言で町の様子を眺める。
スヴェンの背に掴まるラナもその様子を一目見た後、硬く目を閉じて俯いた。
「……想定はしていた……。皆、戦いになるかも知れない、覚悟を決めて準備をしてくれ」
「船は無事なんだろうかねぇ?」
イヴァリスは荷車の奥をガサゴソ探り、平たい木箱を取り出してふたを開けた。
そしてその中に入っていた長さ1メートルくらいの炎のように刀身のうねった幅広のフランベルジュを取り出して腰のベルトに装着する。
フランベルジュは燃え盛る炎のようなデザインで真っ赤な色をしていた。
「凄い剣だね。イヴァリスって戦えるの?」
「魔法の夜は見たこと無かったんだっけ? この娘強いわよ。
以前ワイルドボアーの親子連れに取り囲まれたとき、あの剣振り回して、ぶん殴って全滅させてたもの」
「……総額5000ゴールドになりました」
「…………、そういや……イヴァリスってデスクレセント島で助けられる前に自分で酒場の海賊全部ぶちのめしてたよなぁ? 言われてみればあれは……気のせいなんかじゃなかったんだよなぁ?」
「……いきましょう」
一行は町の門をくぐった。
左右に並ぶ大きな二階建ての家々は全て扉が閉じられている。
あちこちにシミターを持ったスケルトンが徘徊し、所々で衛兵や町の住人が戦っている。
そして通りのいたるところで死体が転がっていた。
周囲を見回しながら歩いていたアモイが何かを蹴飛ばして躓きそうになる。
「いてっ、なんだよ危な……うわぁあああああ!」
アモイは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
先ほどけった物体、人間の千切れた足がコロコロと石畳を転がっていた。
突如スヴェン達の左横の家の二階の窓が開き、現れた婦人が玄関の扉に切り付けていたスケルトンの頭上に植木鉢を落っことす。
スケルトンは一瞬たじろいだが再び攻撃を再開した。
スヴェンが馬を寄らせてハルバードでスケルトンを粉々に打ち砕く。
すると窓から覗いてた婦人が上から見下ろしながら叫んだ。
「ありがとう、助かったよ坊や!」
「大丈夫ですか? 一体何があったんですか?」
窓にもう一つの顔が現れた。
婦人よりも背が低く、背伸びしてやっとこちらを覗けている子供のようである。
「シャドウ・キングだよ! シャドウ・キングの軍隊が通ったんだ!」
「こらっ! 危ないから隠れてなさいといったでしょ!」
「シャドウ・キングがですか? どのくらいの戦力ですか?」
「今生き残ってる連中は皆怖くて隠れてたから分からないよ」
「シャドウ・キングが黒くて大きな、タコの足をした馬に乗ってたよ。
腐った大きな馬に乗ったオーガみたいに大きな騎士達が何十人もいた。
海で魚を突くように、出会ったまちの人達や衛兵を串刺しにして運び去ったよ!
冠を被って大きな鎌を持ったガイコツも何十人も居たよ!」
「恐ろしい! 貴方も殺されたかもしれないのよ! もう窓から顔出しちゃダメ!」
スヴェンは無意識にハルバードをくるりと回転させて持ち直した。
「シャドウ・キングだって? 皆、ごめん、ラナのことを……」
「魔法の夜! 今のあなたは勝てないわよ!」
スヴェンは自分の隣で飛び、窓の方を見上げるリンの顔に振り向く。
そして黙り込んだ。
「リン……、君の眼力に僕は何度も助けられた。君が相手が強いか、弱いか、厄介か見通す力は確かだ……。だが、会っても居ないのに分かるのか?」
「牢屋に居た時に、デスクレセント島の壊滅での唯一の生き残りだっている罪人の取り調べを聞いていたわ。
今の魔法の夜が駆けつけても、手も足も出ないで、無抵抗の子供と同じようにあっという間に殺されるわ。
手を出していい相手じゃない、私のカンがそう言っているわ」
「じゃぁ、せめてこの町のスケルトン達を……」
「スヴェン君! オイラ達が今最も優先するのは、エキドナ・キューブを手に入れる事。
その為に港に居るはずの船を一刻も早く見つけ出して出港することだ。
この町のスケルトンはこの町の男に任せるべきだ。
オイラ達が遅れるほどに……被害は大きくなる」
スヴェンはアモイの方を振り向く。
その言葉にいつものアモイにはない、重さを感じて黙り込む。
スヴェンの後ろからリンやアモイを眺めていたラナは、大司教の言葉を思い出していた。
(この人たちが……悪魔と死霊の軍勢に放たれた神の矢……)




