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第六話「力無き者共よ、滅びの時は一瞬だ」

 スヴェンがギルド「スキッピングベア」で楽しい時を過ごして一週間ほどが経つ。

 今日も年長者のアリスと、スヴェンやシェイド、エリィといった若者たちと共に、墓場で訓練をしていた。


 墓の内部には馬に乗って羽つき帽子を被った見知らぬ婦人が居た。

 スケルトンが歩み寄ると、その婦人は呪文を詠唱する。

 スケルトンは即座に燃え上がって炭となった。


「あの女の人、今日も居るね。」

「ああ、彼女はレディー・エンゼル。何が楽しいのか知らないけど、よくここに顔を出すんだ。

 彼女はもう魔法を極めているから、もっと強いモンスターを倒せるはずなんだけどね。

 でも悪い人じゃないみたいだよ」


 レディー・エンゼルは終始真面目な表情であり、何かを楽しんでいるようには見えなかった。

 緊張とともに墓場の青二才共を見守っている。


 突如、墓場の柵の内側で青い光が発生し、グワンと広がって異空間の口が開いた。

 空間から猫耳の付いた被り物をつけた少女が飛び出して叫ぶ。


「怪盗ネコキャット参上!!」


 スヴェンやシェイドを含め、そこに居たギルドメンバーは何が始まったのか分からずに唖然としていた。

 ただ一人、レディー・エンゼルだけは即座に懐から紙を出すと何かを記し、仮死状態の小鳥を取り出す。


「カッコウ!」


 紙を括りつけられた小鳥は飛び立った。

 怪盗ネコキャットと名乗る少女は近くに居たギルドメンバーの女の子二人に強烈な火の玉を放つ。


「きゃあああ!」

「あああぁぁ!」


 5秒も立たずに二人が死亡した。

 異空間から彼らの仲間が二人、三人と人が出現し始めた。

 ギルドメンバー達はようやく事態を理解した。


「逃げろー! 赤猫旅団が来たぞぉー!」


 スヴェンと同じ程度の男の子が慌てて墓地の入り口の門に走って逃げる。

 門に辿り着くより早く、石の壁が出現して行く手を塞いだ。

 石の壁に阻まれて立ち往生した男の子に背後から稲妻のボールが轟音を立てて命中し、息絶えた。

 墓場の中に閉じ込められたギルドメンバー達は大パニックである。

 異空間から出現した殺人鬼達は5、6人ほどになった。


「熱いぃぃ!! 助けて……」


 エリィの体が燃え上がり、数秒で倒れて動かなくなった。


「ホワイティ! あいつをやっちゃいなさい!!」


 アリスが声を張り上げて巨大なホワイトドラゴンを殺人鬼にけしかける。

 ドラゴンの向かう先には二人の殺人鬼がいた。

 一人はハゲ頭の筋肉質の男、もう一人は赤い革製のビキニアーマーを来た女である。


「おい! お前が釣れ!」


 ビキニアーマーの女はハゲ男を背中から押して突き飛ばすと魔法を詠唱し始めた。


「あだだっ! マリーさん勘弁してくださいよ。 ……へっへっへ。 おーい! こっちこっち! カモン!」


 突き飛ばされた男はマリーと呼ばれた女に愚痴った後、踊ってケツを叩きながらホワイトドラゴンを挑発する。


「いけない! 竜を引きなさい! 早く!」


 レディー・エンゼルがアリスに叫ぶがアリスは従わない。


「行けぇ! ホワイティ!」


 ホワイトドラゴンがハゲ男に噛み付こうとした瞬間、ドラゴンの足元に青い光が現れて広がり、異空間の門が開く。

 ホワイトドラゴンは異空間に飲まれて消失した。


「ホワイティ! ホワイティ! 何処に行ったの?」


 アリスが狼狽える。

 ビキニアーマーの女、マリーが答える。


「あんたのドラゴンはゲートを潜っていったのさ。

 永久にお別れしたくなければ早く追いな!」


 すかさずレディー・エンゼルが叫ぶ


「入ってはいけない! 貴方のドラゴンはもう既に死んだ! 諦めなさい!」

「ホワイティ! ホワイティーーー!」


 アリスはドラゴンを追って異空間に入った。

 すかさずマリーが魔法を詠唱すると異空間の門が消滅した。

 手下の男はその跡地に飛び乗って両手を水平に広げて楽しそうに笑う。

 着地成功で10点と言いたそうである。


 レディー・エンゼルは首をふって溜息をつく。

 反対側ではシェイドが近くの旅団の大男に斬りかかっていた。

 しかし片手であしらわれた挙句、爆発の魔法を受けて吹っ飛び、うめき声を上げるのみである。

 スヴェンは何も出来ずに立ち尽くしていた。

 恐怖で体が震えているのが分かる。

 スヴェンの前にマリーがまっすぐ歩いて向かってきた。

 スヴェンは震える手でバイキングソードを構えたまま震える声で話しかける。


「アリスさんをどこへやった!」

「ん?アリス? ああ、さっきの馬鹿か。今頃は地獄の毒蜘蛛や蛇に囲まれてドラゴンと一緒に死んでるさ。

 大丈夫、坊やも会えるようにしてやるよ。」


 マリーがスヴェンに向かって手を突き出す。

 刹那、レディー・エンゼルの手から放たれた稲妻のボールがマリーに命中する。


「てんめぇ! おい! あいつを殺せ!」


 マリーは手下の男を従えてレディー・エンゼルの方へ駈け出した。

 レディー・エンゼルは素早く馬で後ろに下がる。

 スヴェンは緊張と興奮と怒りと混乱で朦朧とする意識のまま、フラフラと近くの半分開いた棺桶の中に逃げ込んで、蓋を閉じて隠れた。


 暫くの間、馬の駆けまわる音、強力な魔法の轟音、叫び声や怒鳴り声が響いていた。

 相手は強者揃い、スキッピングベアの最年長のアリスは行方不明で後はスヴェンとどんぐりの背比べの実力者のみ。

 時間の感覚が分からないが、もう全員殺されただろう。

 レディー・エンゼルは強いが、たった一人であの人数にかなうはずがない。

 何よりも、この蓋を開けられた時は自分が死ぬ時である。


「頼む……気づかないでくれ……」


 スヴェンは真っ暗闇の中で祈り続けた。

 どれほどの時が経っただろうか……。

 辺りは静かになった。

 スヴェンは勇気を振り絞って蓋を開けて外に這い出た。

 目の前にはギルドメンバーの死体が点々と横たわっていた。

 

「貴方生きていたのね……。お友達が殺されている間何をしていたのかしらね」


 レディー・エンゼルは冷たく言い放つと、倒れているシェイドの元へ歩み寄り、回復魔法をかけていた。

 スヴェンはうつむいて唇を噛み締めている。

 何も出来なかった。

 誰も救えなかった。

 十分自覚しているが彼には勇気も力も無かった。

 突如近くに青い異空間の扉が開き、斧を持ったドワーフが叫びながら走り出てきた。


「赤猫旅団はどこだーー!」

「もう撤退したわよ」


 異空間の扉から、今度は傷だらけの巨大なレッドドラゴンを2匹従えた男が馬に乗って歩み出る。


「a 俺を守れ! b 哨戒だ!」


 一匹のドラゴンが男の体を隠すようにトグロを巻いて座り、もう一匹が臭いを嗅ぎながら周囲を歩いて警戒する。

 男は弓を構えて周囲を見回していたが、状況を察したのか弓を下ろした。


「手遅れだったようだな…。エンゼル、無事か?」

「私は無事よ。時間を稼ぐので精一杯だったけどね……」

「ひどい状態だな。死体はこれで全部か。」

「一人異空間に誘拐されたわ。多分いつもの場所ね。もう生きていないでしょう」


 ドワーフの男が戻ってきて斧を構える。


「俺が見てこよう。ロック、魔法のフルブーストを頼む」

「気をつけろよグリム。運が悪けりゃお前でもアウトだぞ」


 ロックと呼ばれたドラゴン使いは何度も魔法を詠唱し、ドワーフの男の体が何度も様々な光を発した。

 最後にロックは異次元の門を開く。


「おおおおらぁああ!!」


 ドワーフのグリムが斧を構えて雄叫びを上げながら駆け込んだ。

 一分ほどして全身傷だらけのグリムがアリスの死体を担いで飛び出す。

 ロックが回復魔法のフルコースをグリムにかけた。


 地面に寝かされたアリスの死体は、全身がズタズタに爪で引き裂かれた跡があり、猛毒で変色していた。

 そして切断された白いドラゴンの指を両手で固く握っていた。


「手間取ったぜ。このお嬢ちゃんはホワイトドラゴンに寄りかかって死んでたんだが、なかなかその指を離してくれなくてな。

 仕方がないので、ぶった切って持って来た」


 アリスの死体とホワイトドラゴンの指をしばらく見たロックは言った。


「このお嬢ちゃんにホワイトドラゴンを売ったのは俺だ」


 レディー・エンゼルが口を挟む。


「貴方の副業だったのね。どうりで……。この未熟さで自力で入手するのは無理だと思っていたわ」

「このホワイトドラゴンは体色が薄汚れてたから捨て値で売ったんだが……。

 こんな真っ白な体をしていたんだな……。

 なんにせよ、命よりも大切なものなら外に持ち出すほうが馬鹿だ。

 テイマーにとって猛獣もモンスターも全て消耗品だ。

 そこに情を込めるのは愚かだよ。

 a! b! 行くぞ」


 ロックは背中を向けて振り返らずに離れていく。

 ホワイトドラゴンの指に鼻先を近づけて臭いを嗅いでいた傷だらけの二匹のレッドドラゴンはロックの後に従った。

 一匹はロックの前に回って不思議そうにロックの顔をしばらく眺めながら去っていく。


「なんてこと言うんだ! アリスさんを侮辱するな! 彼女はホワイトドラゴンを物凄く大切にしていたんだぞ!

 お前に彼女の事が分かってたまるか!」


 叫ぶスヴェンの肩にグリムが手を置く


「あいつはテイマーだ。お前なんかよりもずっと理解してるさ……」


 スヴェンは溢れる涙が止まらなかった。

 墓場の柵の外側にはいつのまにか人だかりが出来ていた。


「駆逐してやる! 赤猫旅団を一人残らず駆逐してやる!」


 スヴェンは大声で叫んだ。

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