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第十八話「御神木『大精霊の木』の加護」

 ラード王がレリック探索隊の為に用意した船と船員達が待つという港町、リエポート。

 その町へ続く薄暗い森の道を一行は進んでいた。


「なんだろう? この道はこんなに寂しいものだったかな? 以前はもっと通行人が居たような気がする」


 周囲を伺いながら馬に乗って歩くスヴェンの後ろに荷車を引いたイヴァリスが続き、その側を沈痛な面持ちのラナが無言で歩く。

 リンが後ろ向きに飛びながらラナの真正面に回って顔を覗き込んだ。


「ラナさん大丈夫? 具合が悪かったら言った方がいいわよ?」


 しばらくラナの方を見ていたイヴァリスが荷車からオレンジ色の液体の入った小瓶を取り出してラナの顔の前に差し出した。

 イーアの村名産の希少な薬用ニンジンをすり潰し、ハチミツと混ぜた栄養ドリンクである。

 それを見たラナは顔を覆って泣き始めた。


「あーあ、イヴァリスが意地悪するからラナさん泣いちゃった」

「いえ、違うんです。グズッ。イーアの薬用ニンジンドリンクは私が風邪をひいたり、病気になった時に母が良く作って飲ませてくれたんです。

 それを思い出してしまって……。グズッ。すいません」


 アモイがハンカチで額の汗を拭いながら言った。


「ラナさん、この人たちも別に悪気があるわけじゃないんだよ。彼女たちなりの気遣いなんだよ。

 ラナさんの苦しみが分かるとはとても言わないけども、オイラ達皆で支えるからさ、困ったことが有ったら何でも言ってよ」

「ありがとうございます。大丈夫です」


 スヴェンは背を向けて無言で聞いていた。

 自分もラナさんの気持ちが少しは分かる。

 そしてそれが完全に癒える事が無いことも。

 そういう人間を増やさない為の誓いと共に、自分が魔法剣闘士となり、悪人を刈り取る賞金稼ぎとなったことを今再び思い出していた。


「ラナさん。僕達は貴方の村を襲った魔法学校評議会の連中も、今カルフンガリアを襲っているシャドウ・キングの軍勢も全て滅ぼして見せる。

 約束するよ」


 ラナは顔をあげて、スヴェンの後ろ姿を見上げた。

 ふとラナは周囲を見渡して声をあげた。


「皆さん、少し待ってください!」

「どうしたの?」


「そこの道端にある石の祠、それが目印なんです。道からそれて奥へ十数分歩いた場所に私達マーヤ教徒にとっての神聖な聖地、大精霊の木があるんです。」

「こんなところに? どう見ても獣道しか見えないけど」


「大精霊の神聖な土地を人の創造物で汚さない為、信仰心の無い者を無用に近寄らせないためにあえて道を作らないんです。

 お願いします。そこへ立ち寄らせて下さい。

 私は大司教様と約束したのです!」

「オイラ、一度だけ行ったことあるけども、片道15分くらい掛かったと思うよ?」

「えぇぇ、こんな藪の中をいくのぉ?」


「リンちゃん森の妖精だろう……」

「私は都会っ子なの!」


「僕もラナさんが大司教様と約束をしているのをその場で聞いていたんだ。止めることは出来ないよ。

 そしてこの周辺にはグリズリーだって生息しているはず。

 一人で行かせるわけにはいかない。

 皆で行こう」

「えぇぇ」

「賛成」

「……同意」


 こうしてスヴェン達は一旦道を外れて森の中へと入り、藪をかき分けながら進み始めた。


「お、あそこに珍しい小鳥がいるよ。赤と黄色の綺麗な羽をしたトロピカルバードだね」

「はい。大精霊の木の周辺でよく見かけます。マーヤ教徒の間では精霊の木の守護者とも呼ばれています」


 トロピカルバードはリンの姿をしばらく見つめた。

 不穏な空気を感じたリンが背を向ける。

 だがトロピカルバードは急降下して枝から飛び降り、逃げようとするリンの背中に飛び乗って何度かつついた後素早く逃げた。


「あいたたたっ! こんの糞鳥!」

「はははは、リン、神聖な鳥に手出ししちゃだめだぞ」

「ぷっ」


 ラナはその姿を見て噴き出した。



 数分後、スヴェン達の見守る前で、ラナは一際巨大なご神木『大精霊の木』の前に跪いて目を閉じ、祈りを捧げ続けた。

 彼女の祈りは静かに延々と続く。

 スヴェンやアモイは静かな森の中、小さな花の咲き乱れる下草の上に座って終わるのを待った。

 イヴァリスとリンはお菓子を食べながら雑談を続けていた。



 同じ頃、森の中の街道、石の祠の隣を何百というゾンビやアンデッドが行進していた。

 幅10メートルほどある道を埋め尽くすアンデッドの行列ははるか後方まで続く。

 行列の途中からは腐りかけて骨の露出した馬に跨る巨大な騎士が20人ほど並び、彼らが肩に担いだ巨大なランスの先には衛兵や町民が無残に串刺しにされていた。

 その内何人かはまだピクピクと痙攣を続ける。

 さらに行列が続き、中ほどには宝冠を被り、鎌を携えた何体ものリッチが歩く。

 そして中央には巨大な冥界の馬、サイプレスに跨り、漆黒の鎧で身を包んだシャドウ・キングの姿があった。


 カルフンガリア方面から地面をすべるようにしてやってきたゴーストがシャドウキングの隣に並んでお辞儀をする。


「シャドウ・キング様、カルフンガリアに送った先発部隊ですがさすが王都というだけあり、多くの騎兵や衛兵の攻撃を受けて苦戦しております」

「予想していた事だ。だからこそこの俺が自らやって来たのだ。

 それよりも……人間は豊富に居るか?」


「ははっ、それが昨日まで居たはずの大勢の町民、スタグランド避難民達の姿が影も形もありません。

 おそらく我らの襲撃を察知して、ゲートを使ってどこかへ逃したと思われます」

「そうか、厄介なものだ。数万年前はそのような魔法を使える人間などほんの一握りだったが、今ではありふれたものになっている。

 人間の探求心というものは思った以上に脅威かもしれんな」


「それにしてもシャドウ・キング様、リエポートから来られたようですが、リエポートはすでに制圧を終えた形でしょうか?」

「本命はあくまでもカルフンガリアとその王城、無駄な時間を割くことは出来ぬ。

 通行の邪魔になった人間共を蹴散らしただけだ。

 残党狩りはスケルトン共に任せておる。

 なぁに、例え壊滅したところで、カルフンガリア制圧後に取り戻せばよいだけの事だ」


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