第十四話「王の依頼」
スヴェンとアモイは魔法のゲートを潜り抜けてカルフンガリアの町、衛兵の駐在所の建物裏へと降り立った。
ゲートは人通りのない場所に開く暗黙のルールがある。
魔法のゲートが人通りの多い場所に開くと、目の前に突然現れたゲートにうっかり入る事故が発生するためある。
「スヴェン君、オイラはちょっと服を直して貰ってから王城に行くよ」
「分かったよ。僕は町で情報を集めようと思う。」
アモイは足早にその場を立ち去る。
スヴェンはフラフラと銀行前、いつもこの町で最もにぎわう場所へと歩く。
(なんだか今日は人が少ない気がするな……。どことなく人々の表情も硬い気がする……)
「スヴェンくん、お久しぶりね」
今日も銀行前に机と椅子を並べてティーパーティーが開かれていた。
ティーポットを持ったジャーラがスヴェンに気が付いて話しかける。
「ジャーラさん、こんにちわ」
スヴェンは椅子に座った。
ジャーラが即座にカップをスヴェンの前に置いて、紅茶を注ぐ。
「こんにちわ、スヴェンくん。
スタグランドが危険な団体に制圧されたと聞いて心配してたのよ?
スヴェンくんは無事だったのね?
本当によかったわ」
「魔法学校評議会の連中です。
島全体を魔法で封鎖して閉じ込められ、洗脳魔法をかけられそうになりました。
……そうだ、スタグランドの町の人々200人以上が逃げようとしていたはずなんです!
僕とははぐれてしまいましたが、ナーバ達が率いて逃げたはず……。
スタグランドから逃げた人々について何か知りませんか?」
「安心してスヴェンくん。
貴方の所属ギルドのマスター、ナーバとギルドメンバー達、そして一部の町の人々は無事よ」
「本当ですか?」
「ええ、彼らは何隻もの小舟にのってこの町の港へ逃げてきたのよ。
町の外の広場に臨時で作られた避難所で暮らしてるわ」
「そうか、無事に逃げれたんですね。ほっとしました。後で会いに行こうと思います。」
スヴェンは自分の所へと走り寄る人影に気が付いた。
ガラガラと音を立てて大きな荷車を引いている。
「イヴァリス! イヴァリスじゃないか、どうしたんだ?」
「リン……、リンが……、牢屋」
イヴァリスは必死で手真似で鉄格子を表現して訴える。
出会った時よりは多少ここの言葉を覚えたが、まだ複雑な言葉、特にこういう異常事態を伝えるのは難しいようである。
しばらく必死に訴えるイヴァリスを見ていたスヴェンは言った。
「どうやらリンがまた悪さ、多分お得意のスリと魔法攻撃をして、ついに捕まって牢屋に入れられたらしい。
多分イヴァリスを庇ったんだね」
ジャーラが驚きながら言った。
「そんな事一言も言ってなかったのにどうして分かるの?」
「庇ったんじゃなきゃ……リンは捕まるようなヘマはしないよ。
イヴァリス、多分保釈金が必要になると思うけど……なんかリンのせいで申し訳ないけど……僕今お金が無くて……」
スヴェンは金を示すサインを手で示す。
イヴァリスは頷いて片手で自分の胸を叩く。
「よし分かった。僕がなんとかしてみるよ。」
「おーい、スヴェン君!」
アモイが手を振りながら駆け寄る。
どうやら服の修繕は終わったらしく、引き伸ばされたボタンの紐は見えなくなっていた。
それだけでなく服のサイズも変わっているようである。
「スヴェン君、王城に君も一緒に来てもらうように言われたんだ」
「僕も?」
「そう、国を救った英雄の力を借りたいってね。大丈夫かな?」
「ああ……、そうだイヴァリスも連れて行っていい?」
「隣の女の子かい? 大丈夫だろう。君の知り合いなら断らないだろう」
「分かったよ。ちょっと準備する」
スヴェンは銀行でマジックエーテルやポーション類の補充を行った。
そしてジャーラに別れを告げる。
「それじゃぁ行ってきます。ケーキ今日も美味しかったよ。また」
「またねスヴェンくん」
スヴェンとアモイとイヴァリスは王城の門へとたどり着いた。
門番の兵士は3人の顔を見て即座に片手を上げてサインし、城壁の上に居る兵が跳ね橋を降ろす。
3人は跳ね橋を渡って王城へと入ると目の前に城内の警備兵の隊長と思われる武装した兵士が現れた。
「アモイさんに、スヴェンさん、そちらの方は……交易商人のイヴァリスさんですね。お待ちしていました。どうぞこちらへ」
3人は城内の赤いカーペットを歩く。
そしてイヴァリスの重そうな荷車が容赦なくカーペットに車輪の跡を残していくが咎められる様子は無い。
しばらく歩いた後、二人の警備兵が守る扉を開き、大きな会議室のような場所へと通された。
議長席にはラード王が座り、周囲をこの国の大臣達や将軍が席を並べる。
3人は大きなテーブルの末席に、アモイを中心に並んで座る。
ラード王が口を開いた。
「よく来てくれた。我が国最高のトレジャーハンターのアモイ、英雄スヴェン、そして……誰だっけ?」
大臣がイヴァリスを見ながらヒソヒソ王様に耳打ちする。
「……そう、異国の交易商人のイヴァリスよ。
汝らを歓迎する。
君達を呼んだのは他でもない。シャドウキング率いる死霊の兵団、フォールンエンジェル率いる悪魔の教団にかかわる事だ」
「世界各地で侵略を進めているという勢力ですか?」
「そうだ。君達もいろいろ噂は聞いているだろう。
まずはそれに関して王国の把握している真実を話そう。
二週間前、全身を黒い鎧で覆ったシャドウキングと名乗る騎士が無数のアンデッドの兵士と得体のしれない魔法を使うリッチの軍団を率いて、デスクレセント島を数時間で侵略、制圧したのだ。
デスクレセント島には駐在する兵士や衛兵、腕に覚えのある住民が多くいたが、圧倒的な物量と術により成す術なく壊滅した。
そして彼らはアンデッドの兵団へと組み込まれたのだ。」
イヴァリスは荷車から餅を取り出してモグモグ食べ始める。
「そしてシャドウキングは1日に島一つのペースで次々と占領を繰り返した。
あまりの素早さに我々は情報を集めるので精一杯であった。
そして現状、……スヴェン君、報告は私の耳にも入っているが……、
君が今日救ったタートルフォート海砦を除いて我が国の支配地の島、全てが占領された。
君が今日倒したネクロマンサーのグリーンハンズ、あれが我々生きた人間陣営の初めての勝利だ」
アモイとイヴァリスが驚いた目でスヴェンを見る。
イヴァリスは一瞬モグモグを止めたが再び王様に向き直って続けた。
「そして君も知っているであろう10日前のスタグランド。
フォールンエンジェル、元ARCC魔法兵部隊のリーダー、レディ・エンゼルの率いる魔法学校評議会が人々を捕縛して洗脳し、勢力を拡大し始めた」
「待ってください! それは本当ですか? レディ・エンゼルが……」
「残念ながら確かだ。
レディ・エンゼルとしての自我が残っているのかは不明だがな。
魔法学校評議会はスタグランドを制圧した後、大陸をも侵食し始めている。
彼ら教信者とシャドウキング率いるアンデッド軍団が戦っているのを見たという証言がある。
彼らはお互いに敵対しているようだ」
「僕には未だに分かりません。レディ・エンゼル達は一体何をしようとしているのでしょうか?」
「マーカス……」
王様は横に座る宮廷魔導士のほうを向いて呼びかけた。
茶色いローブで身を包んだ宮廷魔導士マーカスは話し始める。
「彼らは人間ではありません。
今はまだ侵略の初期段階のため、人間の器を利用して偽装しているだけなのです。
彼らは我々が禁術として封印してきた悪魔召喚術でアクセスする魔界のさらに奥深くにある地獄界、そこに住む太古のデーモン達です。
通常の手段ではお互いに出会うことは出来なかったはずの存在です。
彼らの目的、欲望は一つ。この人間界の掌握です」
ラード王が再び話し出す。
「彼らは我々に要求を突き付けてきたのだ。
博物館で管理しているレリック、ヘカトンケイルの目を寄越せとな」
「あのレリックを……何故です?」
王様は黙ってアモイを見る。
アモイはしばらく考え、口を開いた。
「アンデッド撃退能力……」
「そうだ。我々はデーモン達が自分にとって邪魔なシャドウキングの軍団を一網打尽にするために使おうとしているのだと見ている」
「そうか! あのレリックがあれば、シャドウキングの軍団を撃退できる!
何故それを使わないんですか?」
アモイはうつむきながら言った。
「スヴェン君、実はあれ以来、発掘したとき以来、一度もヘカトンケイルの目が動いたことが無いんだよ。
いろいろ試したし、細工技術のグランドマスタークラスの職人にも見てもらった。
でも再び光を放ち、浮遊することは無かった。
今ではただの置物なんだよ」
「そんな……」
王様はマーカスに目配せし、マーカスは一旦その部屋を立ち去った。
「そして、再びシャドウキングの軍団の話に戻る。
我々はスタグランドの住民だけでなく、このカルフンガリアの住民も全て、避難させることを検討している。」
扉が開き、マーカスが大きなクリスタルの球体を持って現れた。
クリスタルの中では何か煙のようなものがのたうち回っている。
それは叫び続けていた。
それを見たイヴァリスを餅を喉に詰まらせそうになってせき込む。
「出せぇ! ここから出しやがれ! この糞共が!」
マーカスが席についてクリスタルを机に置いたのを確認し、王様が話し始めた。
「シャドウキングは死霊を操る不死の軍団。偵察にゴーストを利用しているのだ。
昨日マーカスの部下が偵察ゴーストを偶然発見してクリスタルの中に捕えた。
マーカス……」
「ははっ」
マーカスは懐からルーン文字がびっしりと刻まれた小型のナイフを取り出すと短く呪文を唱えた。
ナイフのルーン文字が発光して熱気を放ち始める。
マーカスはそのナイフをクリスタルに近づけた。
すると中で浮遊していたゴーストが叫ぶ。
「や、やめろぉ! それを近づけるな! わ、悪かった!
ぎゃあああぁぁ!
分かった! 分かったからやめろぉ!
何でも話す!」
「お前は何故この町を偵察していた?」
「な、何度も言ったじゃねぇか! ぎゃぁぁぁぁ!
わ、分かったよ。
シャドウキング様は今日、この町と城を取りに来る。
王自らだ。
その下調べさ。
ケケケケケケ、お前らなんざ束になっても勝てねぇぜ。
ぎゃぁぁぁぁ!」
「もうよいマーカス」
「ははっ」
マーカスはクリスタルを持って再び部屋から立ち去った。
「残念ながらシャドウキング本体と直属のリッチには、今まで集めた情報から察するに、人間が勝てるものではない。
レリック、ヘカトンケイルの目と、それと同じように伝えられる別のレリック、エキドナキューブこそが唯一、か弱き人間が対抗出来る手段なのだ。
君達はヘカトンケイルの目を持ってここを抜け出し、アモイ、伝説のレリックを発掘してみせたその腕で、神をも抹殺するレリック、エキドナキューブを見つけ出してほしい」
「エキドナキューブですと!?
おとぎ話に登場するアイテムを探すようなもんですよ?」
「アモイよ。君はすでにそのおとぎ話に登場するアイテムを一つ見つけたではないか」
「そりゃぁ……自分でも驚きましたけども……。
それより手がかりはあるのですか?」
「博物館の奥に関連しそうなもの、手がかりになりそうなものを集めてある。
君たちが我々人類の最後の砦なのだ。
引き受けてくれるね?」
イヴァリスが銭のマークを手で示す。
「可能な限りの報酬を与えよう。我々が生き残れたらね」
しばらく黙っていたアモイが顔を上げた。
興奮しているのがスヴェンとイヴァリスにも伝わる。
この窮地において、彼はトレジャーハンターとして血が騒ぐのを抑えきれないでいた。
「やってみましょう」
二人の様子を見ていたスヴェンが王様に向き直る。
「僕もアモイさんを手伝います。でもその前にお願いがあります」
「何でも聞こう」
「僕たちにはもう一人、戦力が必要です。2年前に共に旅した……凄腕のシーフです」




