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第十二話「ネクロマンサーのグリーンハンズ」

 跳躍の魔法の助力を得て、スヴェンを乗せたセキトバ号は対岸の島にそびえ立つ石造りの建物の屋上に着地した。


「ハイヤッ!」


 スヴェンはそのまま屋上から石畳の路上まで馬を飛び降りさせる。

 跳躍の魔法は短い時間しか効かないが、着地の衝撃を軽減する効果もあるのである。

 普段は生きた人間や駐在する兵士たちで賑わう通りである。

 だがすでに、彷徨うアンデッドの集団と、戦いに敗れ朽ちかけの兵士の死体で埋め尽くされていた。


「駆け抜けろっ!」


 スヴェンは馬を走らせて、次々と襲い来るスケルトン戦士やゾンビ化した兵士の攻撃をかわしながら突き進む。

 立ち止まってしまえば瞬く間に取り囲まれて、アンデッド特効能力のあるハルバードで抗っても押しつぶされて死亡するであろう。

 だがここ2年の間、地上やダンジョン内を問わずに駆け回り、より狡猾な悪党を狩り続けてきたスヴェンは独特の状況把握感覚を身に着けていた。

 通りの奥、石の橋に繋がる場所には直径50メートルほどの円状の広場がある。

 そこを埋め尽くすように、まるで集会のようにぎっしりと集まったスケルトン戦士の集団が見え始めた。


「あそこがグリーンハンズの本陣か!」


 スヴェンは馬の勢いを止めることなく、スケルトンの集団の外周を回りながらハルバードで何体かのスケルトンを打ち砕く。

 スケルトンメイジやアーチャーのファイヤーボールや矢が飛ぶが素早く動くスヴェンを捉えることが出来ない。


「あいつか!」


 戦いながら馬上から観察していたスヴェンは、アンデッド達の丁度中央にいるローブに包まれた男の姿を発見した。

 だが魔法を撃つには絶妙な距離、射程外である。

 ローブに包まれた男は話通りの緑色の両腕を高く上げると聞いたことのない呪文を唱える。

 すると広場の端に積まれていた死体の山がモゾモゾと動き始め、先ほどディスペルで倒したのと同じ、フレッシュゴーレムとなってゆっくりと起き上がった。

 そしてスヴェンを待ち構えるようにスケルトン集団の外周の一角に佇む。

 スヴェンは短く呪文を唱えて片手に魔力を込めると待ち構えるフレッシュゴーレムへと突撃した。

 グリーンハンズは片手から赤く輝く光を放ちながらフレッシュゴーレムのコントロールに集中している。

 スヴェンはハルバードを振り上げ、フレッシュゴーレムへと振り下ろす、と見せかけて離れた場所にテレポートした。


 フレッシュゴーレムは轟音をあげて炸裂し、異臭とともに半径5メートルに居るスケルトン達を巻き込んでクレーターを作った。

 グリーンハンズはつぶやく。


「ちっ……読まれていたか……」

「対岸の島で戦った時、俺を面倒な敵とみて作戦を変え、フレッシュゴーレムを捨てるつもりでおびき寄せて居たな! そういう事だろうと思っていたよ」


 スヴェンはゴーレムの爆発でスケルトン集団の護衛が薄くなった場所へと馬で突撃し、ハルバードで1体のスケルトンを打ち砕く。

 グリーンハンズは両腕で空中に印をきって呪文を詠唱する。

 瞬く間に二人の間にいる5、6体のスケルトンの体がバラバラに分解し、骨の柵が作られた。

 グリーンハンズは巨大なクロスボウを持ち上げ、スヴェンは呪文を詠唱する。

 そしてそのクロスボウから重い金属音と共に矢が放たれた。

 だがスヴェンが前へ伸ばして広げた片手の平のすぐ前で細かく振動し、高速回転しながら矢が空中で停止する。

 アンチミサイル・プロテクションの魔法である。

 スヴェンは片手で魔法を発動し続けた状態で左右から襲い来るスケルトンをハルバードで打ち砕く。

 グリーンハンズはその腕の細さからは信じられないような怪力で、ヘビークロスボウの鋼鉄の弓を引き、次の矢を装填する。

 そして二発目の矢を放った。

 だがまだ辛うじて効力を残していたアンチミサイル・プロテクションの魔法によって矢は再び空中で勢いを失い、魔力の消滅と共に二本の矢が地面に落ちる。

 スヴェンは一旦その場から後退し、馬を走らせて広場から立ち去った。

 グリーンハンズは懐から怪しく輝く赤いオーブを取り出して胸の前にかざし、片手を上げながら命令する。


「我がしもべ共よ、防陣を組め!」


 盾持ちのスケルトンが外周を取り囲むようになってグリーンハンズを中心とした円形の陣を組んだ。

 周囲をキョロキョロとみて警戒しながらグリーンハンズがつぶやく。


「威力偵察……、奴め、ガキの分際で戦い慣れしてやがる。

 急造したスケルトンアーチャーやメイジの攻撃精度の低さを確認し、私のクロスボウの装填速度を計っていたな?

 良いだろう。

 次現れた時が、貴様の最後だ。

 さぁ……いつでも来るが良い」


 突如、周囲を警戒していたスケルトンメイジの一体が反応し、それに気づいたグリーンハンズがその向き先に目をやる。

 広場に隣接する3階建ての石造りの旅館の屋上にセキトバ号の鼻先がのぞく。


「ふふふふふ……見つけたぞ。私を取り囲むスケルトンの護衛を抜けないと判断し、高台から跳躍して直接私を攻撃するつもりだな?」


 グリーンハンズはオーブを再びかざしながら、静かに広場の反対側へと後退した。

 そして旅館との間にスケルトン達の護衛を厚く取る。

 馬の顔が勢いよく屋上から覗き、セキトバ号の蹄が屋上の縁のブロックを音を立てて叩いた。

 スケルトンアーチャー達が一斉に屋上への射撃を開始、グリーンハンズのヘビークロスボウも発射される。

 だがセキトバ号は再び後ろへと下がる。

 グリーンハンズは短い詠唱をして両手に魔力を蓄えて微笑む。


「さぁ来い、私のヘビークロスボウの再装填まであと3秒はかかる。飛びかかるなら今だぞ。

 浅はかな知恵で私に挑んだ事を、空中で串刺しになりながら後悔するがよい!」


 グリーンハンズの両手から魔力が解放され、左右に居たスケルトンの体が分解してバラバラの骨となる。

 そしてその一本一本がねじ切れるように割れて、二つの尖った矢と変化した。

 無数の骨の矢が天高く打ち上げられる。


 だがスヴェンが飛び出す様子は無い。

 代わりにこんどはセキトバ号の尻が現れ、尻尾を振りながら馬糞を下へとまき散らした。


「そん……な……、グォッ!」


 グリーンハンズの背後に徒歩のスヴェンの姿があった。

 振り下ろされたハルバードはグリーンハンズの体を右肩から左わき腹まで両断していた。

 そして背後からの斬撃は、同時にグリーンハンズの持つオーブをも打ち砕いていた。


「俺のセキトバ号は、囮になる訓練も積んでいるんだよ。観察力が足りないな」


 周囲のスケルトン達が次々と崩れ落ち、あちこちにガラガラという音が響き渡る。

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