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第十一話「恐怖の肉の巨人」

 スヴェンは激戦を繰り広げる兵士とスケルトンの隙間を駆け抜けて奥へと進んだ。

 この島は城塞島であると同時に一つの町でもある。

 高い城壁に囲まれた内部にはいくつもの建物、宿屋や飲食店、酒場、そして駐屯する兵士たちの訓練場まである。

 だが今は、その全てが戦場であった。

 あちこちでスケルトンと兵士が血みどろの戦いを繰り広げている。


「うおぉぉ! 来るんじゃねぇ!」

「いやぁぁーー!」

「神よっ!我々を救いたまぇ」


 石造りの大きく広い訓練場から緊迫した叫び声が聞こえ、スヴェンはセキトバ号を走らせて中へと駆け込んだ。

 中では30メートル四方ほどの空間の壁際に訓練用のダミー人形が立ち並ぶ。

 そして普段兵士たちの練習試合が行われる場所、中央の広い空間には人の2倍はありそうな人の形をした肉の塊の化け物が立っていた。


「畜生! 離しやがぇ!」


 一人が片足を化け物に掴まれて引きずられ、振り回された挙句、投げ飛ばされて壁にぶち当たって絶命する。

 怪物は死体に歩み寄ってこぶしを振り上げて叩き潰すと、それを両手でつかんで自分の胴体へと押し込むように食らう。

 部屋の隅には避難していた給仕の女性数人と、もうまともに立ち上がれない包帯に包まれた負傷兵が後ずさっていた。


「いやぁぁ、誰か、誰かぁーーー!」

「神様、神様ぁーー」


 スヴェンは入り口近くに居た3体のスケルトンをハルバード3振りで破壊した。

 入り口の異変に気付いた怪物が振り向き、スヴェンのほうへと向き直る。

 その体はまだ新しい血肉を寄せ集めて作られていた。

 体の各所に死んだ兵士の苦悶に歪んだ白い顔が埋め込まれている。

 想像を絶する悪夢のような光景にさすがのスヴェンも動悸が高鳴り、恐怖が体を一瞬支配する。

 負傷兵が叫んだ。


「気を付けろっ! そいつはグリーンハンズが俺たちの仲間の死体を一定数集めるごとに作って送り込んでくるフレッシュゴーレム!

 痛みも恐怖も、躊躇も慈悲も無い! 捕まれば怪力で引きちぎられるぞ!」


 スヴェンは馬を静止させてから降りた。

 そしてフレッシュゴーレムに向き合うとハルバードを目の前で構えて集中しながら叫ぶ。


「皆、下がってて下さい!」

「無茶はやめろ兄ちゃん! 逃げるんだ!」

「行くぞっ!」


 スヴェンは素早く前進した。

 部屋の隅で震える人々はこの少年が自分たちと同じように恐怖した事も、それを何度も行ってきたかのように目の前で振り払って打ち消した事も敏感に感じ取っていた。

 まっすぐ近づくスヴェンにフレッシュゴーレムは右手のスウィングを合わせる。

 だがスヴェンは直前で横へと飛んで転がり、紙一重でかわしてから立ち上がる。

 そして斜め後ろへ回ってゴーレムの脇腹にハルバードの一撃を食らわせた。

 肉と血しぶきが爆発とともに飛び散り、ゴーレムの脇腹はごっそり削れて向こう側が見える状態になる。

 だがニュルニュルと血肉がその隙間を埋めて再生し、ゴーレムはこちらを向き直った。

 ゴーレムはしばしスヴェンを見つめたが、近くの机を持ち上げると、部屋の隅の人々へ投げようと構える。

 スヴェンは何かを感じ取り、その場に静止してディスペル・マジックの呪文を詠唱してゴーレムへと放った。

 するとゴーレムはその場でドロドロの肉塊となって崩れ落ちた。

 スヴェンは負傷兵達の元へと駆けつける。


「驚いたよ、あれはディスペルマジックだろう? スケルトン達には通用しないのにどうしてあのゴーレムには効くと分かったんだ? 」

「多分フレッシュゴーレムは今まで、1体ずつしか襲ってこなかったんじゃないかな?」


「言われてみればそうだ」

「産まれたばかりでまともな知性もあるか疑わしいゴーレムが、僕のハルバードの攻撃と素早さを見て作戦を変えました。

 あなた達を囮にして僕を近くにおびき寄せるか、あわよくば机をぶつけてダメージを与えようとしたんです。

 これは多分、命を与えられたスケルトン達と違い、土のゴーレムと同じように視野を共有して魔導士が一人で一体操るタイプの召喚生命体です。

 強大な魔力を持つ敵、おそらくグリーンハンズが直接コントロールしていたんでしょう。

 なのでディスペルで魔力のリンクを断ち切りました」

「なんと! つまり偵察でもあったわけか……そういえば思い当たる事もあったな……」


「僕はこれからグリーンハンズを倒しに行こうと思います。

 奴がいるのはこの先ですね?」

「ああ……この先には対岸のもう一つの島へと続く大きな石の橋がある。

 そこを越えた先に大量のスケルトン達に守られながら居るはずだ。

 だが橋を超えることができてもその先で包囲されて死ぬぞ」


 スヴェンは口笛を吹いてセキトバ号を呼び、その背に跨る。

 負傷兵は背後の入り口の光が後光のように照らすスヴェンの姿を見て続けた。


「……だが、あんたならやれるのかもな。

 俺たちが絶対に無理だと諦めて、恐怖に抗う事を捨てた状況でもあんたは勇気を振り絞って道を開いた。

 期待してるぞ、兄ちゃん。グリーハンズをぶっ潰してきてくれ」


 スヴェンは馬を走らせて時折スケルトンを一刀で打ち砕きながら石の橋の前へとたどり着いた。

 まっすぐに伸びる橋を次々とスケルトン戦士が盾を前に構えて屈みながら歩いて進軍してくる。

 対岸には無数のスケルトンメイジが密集するのが見えた。


(確かにさっきの負傷兵の言う通り、ここを突き進むのは自殺行為だ)


 タートルフォート島は二つの並ぶ島で構成されている。

 海砦はその両方にあり、島の間を石の橋が繋いでいる。

 スヴェンは対岸の島の、橋の右に連なる陸地を眺める。

 一か所両方の島の同じ位置に石造りの建物がせり出して並ぶ箇所があった。


(あそこからなら行ける)


 スヴェンは馬を走らせて建物の元へたどり着き、スケルトン達を打ち砕きながら階段を上って屋上へと出た。

 そして跳躍の呪文をセキトバ号に向けて唱え、掛け声をかける。


「行くぞ、思い切り飛べ!」


 セキトバ号は建物の屋上を走り、海に突き出た石畳の上でジャンプする。

 スヴェンはセキトバ号の背で中腰になりながら、島から島へと飛び移った。



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