第九話「異世界からの帰還」
スヴェンはセキトバ号を走らせて鬱蒼と茂るジャングルを進み、二人の秘薬屋店員は手懐けた二足歩行の草食恐竜の背に乗って後を追う。
既に日は地平線の彼方の山に隠れ始めていた。
「スヴェン君。……スヴェン君! 今日はもうこの辺が限界だよ。真っ暗になる前にキャンプをはろう」
「そうだよ、コナーさんの言うとおり、無理に頑張ってどうなるもんでもないよ」
「……仕方が無い。じゃぁここでキャンプにしよう。僕が柱代わりになりそうな木と蔓を集めてくるよ。クリフさんとコナーさんは薪とシダの葉を集めて来て」
3人は騎乗動物から降りると散開する。
スヴェンは手頃な細い木をハルバードで切る。
日が沈んで辺りが暗闇に包まれる頃、木の骨組みにシダの葉をいくつも被せて作ったテントの前で3人は焚き木を取り囲んでいた。
クリフが恐竜の前に幾つもの色とりどりの木の実や葉を並べる。
恐竜はいくつかの鮮やかな赤や青の果実を無視して他のものにかじりついた。
「これとこれは食べられそうだな……」
「近くに生えてたやつだな。もっと取ってこよう」
「……酸っぱい……」
現地の恐竜に毒見させて選んだ果実に3人はかじりつく。
得体が知れないが栄養はありそうである。
「それにしてもあっという間に一日が終わっちゃったよ。元の世界では10日経過か……、ナーバと街の皆は無事に逃げられただろうか?」
「悩んで気に病んだら解決するものでもないよスヴェン君」
「コナーさん。本当にこっちで大丈夫なの?」
「私だって分からないよ。未知の世界だもの。
ひょっとすると世界中がこのジャングルで覆われているかも知れない。
でも記録には万が一の場合でも戻れるように、真っ直ぐ北に、北に向かったと書いてあった。
そして一定距離の探検を終えると、別拠点として転移の魔法陣を作ったそうだ」
「そんなことよりこの巨大な豆、焼いたら中々旨いぜ。
あっ、こっ、こらっ、これは俺のだ」
クリフの手から恐竜が豆を奪おうとしている。
恐竜とクリフの綱引きの結果、30センチほどある巨大な豆の乾いた鞘が弾け飛ぶ。
豆は周囲に散らばり、2匹の恐竜とセキトバ号があっという間に食べてしまった。
「あはははは、やられたね」
「ちっきしょう。まぁいい。まだこっちの果実が……こ、こらっ!」
恐竜との餌の取り合いとともに食事を終え、3人はテントで眠って次の日の備えた。
恐竜もセキトバ号も近くの木に繋がれた状態で休む。
翌日、3人は朝日とともに目覚め、さらに北へ、北へと移動した。
そして3時間ほど馬と恐竜を走らせた後、遂に密林地帯を抜けだした。
目の前に広がるのは一面の砂漠。
そして所々に突き出た岩山である。
「詰んだ……さすがに砂漠に行くのは自殺行為だ。もうこうなったら引き返してスタグランドへ戻って……」
「……いや! この道で正解だ!」
「正解?」
コナーは右前にそびえ立ち、煙を立ち昇らせる巨大な火山を指差した。
「思い出したよ。巨大な尖った火山。
あの火山に調査隊は向かったんだ。
そして火山の麓にある洞窟を新規の拠点とし、転移の魔法陣を作ったと書いてあった」
「やった! よし、行こう。それほど遠くないぞ」
「スヴェン君、街の皆が心配なのは分かるが冷静になれ。
砂漠にこのまま突っ走っても熱と渇きで倒れてしまうぞ。
昨日食べた水分たっぷりの瓜、あれを森でもっと集めてから向かおう」
3人は砂漠との境界に近いジャングルの中で水と食料になりそうな果実を集めた。
1時間後、3人はそれぞれ5、6個の瓜を蔓草で繋いで馬と恐竜の背に積んで砂漠を進む。
「クリフさんストップ!」
スヴェンは馬に乗ったままクリフの前へと歩み出る。
そしてハルバードの先端の槍で地面を突いた。
砂の中からキィキィという音を立てて人ほどもある巨大なサソリが姿を表して暴れる。
二度目の突きでサソリを昇天させたスヴェンは看破の呪文を詠唱して周囲を見回した。
「あちこちの砂の下にサソリがうじゃうじゃ居る。全員こっちを狙ってるよ」
「危なかった……こんな特大の針で突かれて毒を注入されてたら一発だったよ。……よく気付いたね」
「いや、コナーさんのお陰だよ。
コナーさんの言葉で……老師に教えられて忘れてしまっていた事を思い出したんだ。
僕は冷静に敵と状況を観察する事を忘れてしまっていた。
野生動物相手でも戦いの世界に慈悲も手加減も慣れ合いも無い。
砂の下をサソリが這った不自然な跡に気が付かなければやられていた。
皆、後ろへ下がって」
スヴェンは召喚呪文を詠唱した。
少し離れた地面に火花を伴う小さな竜巻が発生し、無数のダガーやシミターなどの刃物の霊が現れて竜巻にのってグルグルと回る。
剣の精霊の召喚である。
スヴェンは連続して2体、剣の精霊を召喚した。
そして精神を集中して3体の剣の精霊を同時にコントロールし、行く手を阻む全てのサソリを細切れにした。
「凄いな、3体同時操作か……さすがは街の英雄だ」
「よし、片付いた。先へ進もう」
3人はさらに火山へ向かって進んだ。
そして火山の麓をぐるりと回り歩き、正午を過ぎた頃、遂に洞窟を発見し、その中へと進む。
洞窟の中は広く、奥へと続く道の隣には切り立った崖があり、その下を溶岩が流れている。
猛烈な熱気に耐えつつ溶岩の谷に沿って進むと、石造りの建物に辿り着いた。
扉は無く、中には大きな魔法陣の彫刻された石版が敷かれている。
「やったよ! 間違いない。ここだスヴェン君」
「ついに元の世界へ帰れるのかぁ……」
「よし、急ごう」
3人は魔法陣の中央に立った。
ふと遠くを見ると全身に炎を纏った虎が道に歩み出て地面を嗅ぎ、こちらを見た。
そしてこちらへと走ってくる。
熊ほどの巨体、大きな牙、目的は捕食以外にない。
「や、やばい!」
「コナーさん! 早く帰還の言葉を」
虎は途中から速度を上げて全力でこちらへと駆けて来る。
「ラムゼルク!」
スヴェン達の目の前に全身から炎を上げる巨大な虎が跳びかかり、食い付かれる寸前で3人の周囲を光が包んだ。
再び元の世界へと舞い戻る。




