第五話「異世界ライフを謳歌する手段としての修業の日々」
「アリスさん! あれ出してよ! 頼むよぉ!」
「しょうが無いわねぇ。一回だけよ」
街の広場でシェイドがアリスに何かをねだっていた。
アリスは立ち上がって町の外へ移動する。
「おい! スヴェン! お前もついてこいよ。面白いものが見れるぜ!」
スヴェンはシェイドとアリスに付いて町の外に出た。
アリスは道端で両手を広げると長々と魔法を詠唱する。
30秒間ほどにおよぶ詠唱の後、アリスの目の前の地面が動き始めた。
土の中から泥で出来たゴーレムが頭を覗かせ、周囲の土を徐々にかき分けながら這い出てくる。
立ち上がると相当大きい。
身長2.3メートルはあるだろう。
スヴェンが驚いているとシェイドがゴーレムに剣で斬りかかった。
ゴーレムはゆっくりとした動きで腕で剣を払う。
アリスは両手を広げて持ち上げたまま集中を続ける。
ゴーレムをコントロールしているのである。
「これ……最上級魔法だからマジックエッセンスとマナの消費が大きいし、なにより疲れるのよね……」
「スヴェンも来いよ! 剣の練習になるぜ」
スヴェンもバイキングソードで斬りかかる。
ゴーレムは多少の斬撃はまったく通じない。
しかし何度も斬りかかる内に、力の込め方、威力の出る振り方が身についた気がした。
【スヴェンは剣術のスキルがそこそこ上昇した】
しばらくの間二人の見習い剣士が延々斬りつけていたせいで、ゴーレムの体は徐々に破壊されて崩れていき、最後には土に戻って崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……。貴方達、剣術の稽古をしたいなら墓場に行きなさい。
私はこれ以上はもう無理……」
「スヴェン! 墓に行こうぜ! 面白い場所だぞ!」
シェイドがスヴェンを誘うと一気に駈け出した。
まだ剣を振り回した疲れで息の上がっているスヴェンは必死でシェイドの後を追う。
森の小道をしばらく進むと鉄の柵で覆われた墓場のある広場に出た。
柵の内側では骸骨が立ち上がって歩いている。
その内2、3匹は鉄の柵に並んで外側に手を伸ばしていた。
柵を挟んで骸骨の向かい側に見覚えのある少女たちがいる。
ギルドメンバーのエリィ達である。
エリィが魔法を詠唱すると小さな火の玉が手のひらから飛び出した。
柵の中の骸骨に命中し、骸骨は仰け反ったが再び柵から手を伸ばす。
「あら、シェイドにスヴェンくんじゃない。スヴェンくんも修行に来たの?」
「はい。僕にもその魔法を教えて下さい」
「俺は先に行ってるぞスヴェン。気が向いたら中に入って来な」
魔法を見て目を輝かせるスヴェンを置いてシェイドは扉を開けて墓の中に入っていった。
ゆらゆらと襲いかかる骸骨に剣を振り下ろす。
「マジックエッセンスは持って来たかしら?」
「はい、全種類集めてます。教えてもらった魔法店で精製してもらいました」
「じゃぁスピットファイアの呪文を教えるね。よーく覚えてね」
エリィは唱える呪文と手で作る印章、集中の仕方をスヴェンに伝授した。
スヴェンは教えられたとおりに魔法を唱えるが、黒い煙が軽い爆発とともに出るだけである。
何回繰り返しても出ないのを見てエリィが言った。
「まだスヴェン君には早かったかも知れないわね。
今日魔法を使い始めた初心者がそう簡単に出来るものでもないわ。
落ち込まないでね。
これならどうかしら?一番簡単な魔法よ?」
エリィが短い魔法を詠唱すると左手が緑色に染まった。
その手で骸骨を指差すと左手の緑色が徐々に消えて、骸骨が一定時間おきに痙攣を始めた。
よく見ると骨の割れ目から緑色の液体が流れ始めている。
「最下級魔法のポイズンよ。相手に軽い毒を注入するわ」
エリィに再び呪文とアクション、集中のコツを教えてもらったスヴェンは柵の中の骸骨に何度も魔法を詠唱する。
5回くらい繰り返した後、ついにスヴェンの左手が緑に染まった。
「やった! やったよ!」
「やったわね。それで骸骨を指差すのよ」
スヴェンが柵の中の骸骨を指差すと骸骨が一定時間おきに痙攣を始めた。
しばらく眺めていたスヴェンだがエリィと他の女の子たちを振り向いて目を輝かせながら言った。
「よーし! 止めを差してくるよ!」
スヴェンは墓場の門を潜るとバイキングソードを何度か骸骨に打ち下ろした。
骸骨はバラバラになってその場に散らばった。
「スヴェンくん、すごーーい!」
「やったね!」
「スヴェンくん、かっこいい!」
【スヴェンは魔法のスキルが若干上昇した】
【スヴェンは幸福度が大きく上昇した】
【スヴェンはこの幸福が永遠に続くことを根拠なく確信した】




