第七話「転送魔法陣発動」
街の門を入った場所で立ち尽くす浮浪者の周囲を狂信者となった人々が取り囲む。
しばらくすると人々を搔き分けて馬に乗ってフードを被った魔法学校協議会のエリート狂信者、ジーロット・リーダーが歩み出た。
「町の人々の居場所を知っているのか? 何人ぐらい居る?」
「皆一緒だ。200人以上だ。……ヒック」
「案内しろ」
「ちょっと待った。……ヒック……只でと言うわけにはいかねぇ。
取引といこうじゃねぇか。
……ヒック……、俺が案内したら何をくれるんだ?」
「金だろうと家だろうと女だろうとくれてやる」
「いいだろう。だがその前に手付金代わりだ。
最高級の酒と焼き鳥でも貰おうか」
即座に人々の後ろから狂信者の村人が酒瓶と焼き鳥の乗った皿を持って現れた。
「約束だ。案内してもらうぞ」
「よぉし。じゃあ全員で来な。相手は200人以上の魔法使いの島、スタグランドの住民。
攻撃魔法で戦える奴も一杯いる。
しかも全員自分たちが狙われているのを知って戦う気構えが出来ている。
大勢で圧倒しないといけないからな……ヒック……」
少し離れた倉庫の裏で見ていたナーバ達にもその話し声は聞こえていた。
「なんて奴だ。命を救われていながら我々を売り渡すとは……」
「あんのヤロォ、インプに殺されてれば良かったんだ。
見た目がゴミなら心の芯もゴミクズだったんだな」
「どうする、私達で勝てるか?」
「相手は得体が知れない……それに狂信者になった人々の中にも沢山魔法使いがいるぞ……」
だが狂信者達を引き連れた浮浪者は自分が入ってきた南門とは別の方向、街の東門へ歩き始めた。
「お前は南門から入ってきただろう。何故東門へ向かうんだ?」
「まぁまぁ……信じて付いて来てくれ」
スキンヘッドの浮浪者は酒を飲み、焼き鳥を食べながら森の道を歩く。
そして何故か名残惜しそうに周囲の森の木々を見回し、道の脇に落ち半分朽ちかけた、真っ二つに割れた倒木に座り込んだ。
「いい加減なことを言うと許さんぞ。なぜこちらの方角なのだ?」
「俺は聞いたんだ。
町の人々は全員で脱出計画を練っていた。
そして東門を出てさらに島の北端へ向かった先にある秘薬屋の中に設置された魔法陣、そこから異世界へ抜けるルートがあるらしい。
それを使って逃げようとしている」
「……そうか、たしかにその秘薬屋の魔法陣の話は聞いたことがある。
魔法学校の図書館の資料に残された記述……おそらくパラレルフィールドへの転送方式のもの……確かにそこは今も使えるだろう。
完全に忘れていた。
フッフッフ……お手柄だ。
しかしお前に良心の呵責と言うのは無いのか?
自分を浮浪者に貶めた町の人々を憎んでいるのか?」
「俺は元赤猫旅団。根っからのワルだ。
良心なんて欠片もねぇよ……ヒック……」
「そうかそうか、よかろう。今そなたに特別な褒美をやろう」
ジーロットリーダーは浮浪者に手をかざし、攻撃魔法を放った。
浮浪者は遠くを見つめた笑顔で無防備にそれを受け、地面を転がって息絶えた。
2年前、自分が命を拾った場所で。
一歩ナーバ達は街を見て驚き、ざわめいていた。
浮浪者が狂信者全員を引き連れて東門から出て行ったため、街は無人状態になったのである。
「……街から狂信者達が消えたぞ! 行ける! 今なら街の奥の港まで行ける!」
「……あの浮浪者……」
「行くぞぉ! 皆港まで走れぇ!」
人々は無人の街を駆け抜けて港まで走った。
そして放置された幾つもの船に乗り込んで一斉に町の外へと漕ぎだす。
魔法の結界をくぐり抜け、無事にスタグランドを脱出したのである。
その頃、スヴェンは道中で救出した秘薬屋の店員を連れて島の北端の秘薬屋へと向かっていた。
「スヴェン君、たしかにこの島にインプがいっぱい居るのはおかしいが、未だにそんな事が起こっているなんて信じられないよ」
「信じて着いて来てくれ。あとは北端の秘薬屋で全部だな?
マジシャンズ・ヴィレッジの外で営業している店は」
「ああ、そうだが」
森に続く道の角を曲がると目の前に2階建ての大きな建物が現れた。
スヴェンは馬に乗ったままドアを開けて中に入る。
中に居た店員が驚いて言った。
「お、おい! 馬に乗ったまま店に入ってくるなよ!」
「聞いてくれ! 今直ぐこの島を脱出しなければならないんだ!」
スヴェンは説明をした。
だが当然ながら信じてもらえない。
時間だけが刻々と過ぎていった。
だが連れてきた別の秘薬屋の店員が窓の外の異常に気が付いた。
「なんだ? いっぱい人が来るぞ」
「なんだって?」
窓に駆け寄って外を眺めると、ジーロット・リーダーが何十人もの狂信者を引き連れてこちらに向かってきていた。
スヴェンが叫ぶ。
「看破の魔法で見てみろ!」
店員たちは一斉に看破の魔法を唱えて眺めて腰を抜かす。
「に、逃げよう!」
「どうやって? ここへ来る道は一本道、完全に防がれているぞ。
俺もさっきからゲートの魔法を詠唱してるがスヴェン君の言うとおり発動しない」
店員が腰につけた鍵束から鍵を一つ取り出し、店の奥の扉を開けた。
「皆早くこっちへ!」
奥には薄暗い石造りの部屋があった。
そして床石の上には部屋全体に広がる魔法陣が彫刻してある。
「何代か前の店主、元魔法学校の校長が研究の一貫で作った魔法陣だ。
この島の住民でも知っている者は少ないが、とある呪文を唱えると驚くべき事が起こる。皆中央へ集まってくれ」
スヴェンと2人の秘薬屋店員が魔法陣の中央に寄り集まった。
店員が短い言葉を発した。
「ライムザック!」
魔法陣に彫刻された数々の文字や図形が光を放ち、部屋に光の粒子が充満し始めた。
そしてスヴェン達は光りに包まれる。
「うおおぉぉ! 何だぁ!?」
「皆気を付けろよ! これはもう十何年も使っていないし、転送先が今はどうなっているかも分からない!」




