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第四十八話「祝杯」

 一週間後、スタグランドのスキッピングベアギルドハウスの表に広がる野原には多くの椅子と机が並べられ、賑わっていた。

 スヴェンとシェイドとリンを中心に、スキッピングベアのギルドメンバー達が取り囲む。

 HaPのギルドマスターのマリアが職人たちに足りない椅子や机を作らせる。

 周囲にはマリアの連れてきたギルドメンバーの子どもたちがはしゃいで走り回り、ローラが対応に追われている。

 カルフンガリアからはジャーラやアメリア、路上ティーパーティーの常連たちがやって来てお茶と茶菓子を机に配って回っている。

 ウシャドナからはウエゾ老師が駆けつけ、酒を浴びるように飲んでいた。

 スキッピングベアのメンバーの女の子たちがスヴェンとシェイドに尋ねる。


「ねぇ、今頃王城ではARCCのメンバーや騎士団員達が勲章の授与式に参加してるんでしょう?

 スヴェンもシェイドも赤猫旅団の幹部を倒したし、スヴェンなんて首領のメリッサを一騎打ちで打ち倒したのよ?!

 きっと特大の勲章を貰えるはずよ?

 サボっちゃってよかったの?」

「ははは、マサイアスさんに怒られるかも知れないね」

「大丈夫大丈夫。うっかりしてましたとしらを切ったらいいんだよ」

「シェイドは相変わらずね」

「実際の所、赤猫旅団を倒したのは僕達だけの力じゃないんだよ。

 ARCCの人々、王国の軍隊の人々や衛兵の人々、そしてここに居る皆の力が赤猫旅団を撃退したんだ。

 確かに僕はメリッサ・キャットを直接討伐したけど、僕は目に見えない多くの加護を得て、代表者として役割を委ねられたに過ぎない。

 僕だけが特大な勲章を貰うなんておかしな話さ」


 ナーバが泣きながらスヴェンに寄り掛かる。


「スヴェぇぇン……本当にすまんかったのう……。

 追い出したくなんて無かったんだ……」

「ナーバはスヴェンが居なくなって1ヶ月後くらいから、スヴェンを呼び戻すために旅に出てたのよ」

「仕方がないさ。それが宿命だったんだ。

 そのおかげで僕はここに居るリンに出会い、マリアさんに出会い、ジャーラさん、ウエゾ老師、その他大勢の人々に出会って色々なことを学んだんだ。

 そしてシェイドと共に赤猫旅団を討伐することが定められた道だったんだよ」

「スヴェン……よくぞ敵を取ってくれた!

 よくやってくれたぁ……」

「ほーらまた泣き出した」


 遠くから大勢の人々が歩み寄る。

 マサイアス、レディー・エンゼル、ロック、グリム、カゲヒサ、アモイにイヴァリス、そしてビクトル、ヨハナお婆さんにアンソニー老人、スヴェン達の出会った多くの人々が近づいてきた。

 マサイアスが言った。


「スヴェン、シェイド、よくもサボってくれたな」

「ご、ごめんなさいマサイアスさん」

「まぁ今回は特別に見逃そう」

「見事赤猫旅団を滅ぼしたな。ワシは二人ならばやってくれると確信してたぞ」


 その夜、本来は王城で祝いの晩餐会が行われる予定であった。

 しかし殆どの主賓がギルドスキッピングベアのギルドハウス前に集合してそこがパーティー会場と化し、人々は歌い踊り酒を飲んで騒いだ。

 遂にはラード国王と宰相達が自らギルドハウスへ訪問し、ナーバが大慌てで緊張しまくりながら応対するはめになったのである。


 夜も更けた頃、ヨハナ婆さんは水晶球を取り出し、ウエゾ老師の暇つぶしに付き合って占いを行っていた。

 ヨハナはしばらくの沈黙の内に語った。


「スヴェンとシェイドにはまだ、最後の試練が待ち構えておるの」

「最後の試練とな? だがもう赤猫旅団は滅び去った。

 デスクレセント島は海軍が掌握し、法律に従う街へと変わりつつ有る。

 また何か起こるというのかね?」

「それは今夜じゃ。

 祝いの席でこんな事は言いたくはないが、場合によっては二人の師であるあんたには辛く悲しい結果になるやも知れぬ。

 だがそれが宿命と受け入れるしか無い」


 夜が更けて満点の星空が空に広がり、パーティー会場から子供や女性達が一人、また一人と姿を消していった。

 ウエゾ老師は小さな丸テーブルを囲むスヴェンとシェイドのそばに立ち、

 二人の前の杯にエールを注いだ。


「二人共よく頑張った。

 ワシはお前たち二人を弟子に持った事を誇りに思う。

 もはやワシが教えられることは全て教えた。

 そしてお前たち二人は既にワシを超えた。

 免許皆伝じゃ。

 これからは己の道を築き上げていくのだ」

「ウエゾ老師本当にありがとう」

「超えたかなぁ……」

「これから二人共どうするんじゃ?

 マサイアスが言っておったがARCCは目的を果たした為、解散するそうだ」


 スヴェンは空を見上げながら言った。


「僕はしばらくここに留まってから、放浪の旅に出ようと思います。

 まだまだ助けを求める人々が居る。

 そんな気がするんです」

「そうか、シェイド、君はどうかね?」

「まだどうするか決めてません。

 ただ……なんとなく……海を見たいです」

「海とな? まぁ慌てることでも無かろう。

 それにしても夜も更けた。

 そろそろパーティーはお開きかの」

「僕はちょっと立ち寄りたい場所があるのでそこへ行ってから眠ることにします」

「海を見に行ってきます」


 二人は丸テーブルを後にした。

 ウエゾ老人は一人で酒を飲み思い出にふける。


 スヴェンはリンと出会った森の小道へ向かった。

 街の入り口を出てリンの後押しで初めて人に剣を振るった場所。

 自分の運命の分かれ道。

 赤猫旅団の大男にバイキングソードで勇気を振り絞って戦った場所に立つ。

 ふと遠くから人が歩いてくるのが見えた。

 近づく男の顔が満月の明かりで微かに見える。

 すれ違いざまに男の顔を間近でみてスヴェンは全身の血が沸き立った。


「まてっ!」


 男は振り向いた。

 マリー・キャットの手下であり、アリスのホワイトドラゴンを挑発し、アリスを死に追いやった男である。


「な、なんだよ?」

「忘れたことはない。この近くの墓場での出来事。

 お前が、お前達がアリスさんを理不尽に殺したんだ!」

「ま、待て、もう赤猫旅団は解散したんだ!

 俺はもう赤猫旅団を辞めた。

 改心したんだよ!」

「改心しただと?!

 お前にとってはその程度の事だろうな」


 スヴェンは稲妻ボールの魔法を詠唱、男に発動した。

 男は魔法を受けて地面に転がった。

 男は怯えきり、スヴェンに片手のひらを向けて、片手で頭を守り、泣きながら命乞いを始めた。


「ゴフゥ! ま、待ってくれ! 本当に悪かった!

 あんたのギルドメンバーにした事は謝るよ!

 頼む!

 見逃してくれぇ!」


 スヴェンは倒れる男の前に立ちはだかり、無言でハルバードを高々と掲げた。


 一方、シェイドは海へと向かう道を歩いていた。

 遠くの切り株に大男が腰掛けて空を眺めていた。

 シェイドは何気なくその男の横を通り過ぎる寸前に月明かりに照らされた男の顔を見た。

 シェイドは歩みを止めて赤い宝玉の剣を抜き、不思議そうに見上げる大男の喉元に向ける。


「お前の顔、忘れたことはない。

 この島の墓場での出来事、お前たちの仕打ち。

 今でも時折夢に見て腸が煮えくり返る」

「ま、待て!

 赤猫旅団は解散した。

 おれももう悪事をしないと誓ったんだ」

「誓っただと?

 簡単なもんだな。

 加害者というものは」


 シェイドは大男に向けて剣をスウィングした。

 鎧を付けていない大男の胸に大きな傷が付けられ、服が血に染まる。


「か、勘弁してくれぇ!」


 シェイドは再び剣を振る。

 大男の胸にクロスの傷が付けられた。


「悪かった! 本当に悪かったよ!

 本当にもう悪事はしない。

 お願いだよ。

 助けてくれよ」



 一人酒を飲むウエゾ老師は酔っ払って席を立とうとして机を蹴ってしまった。

 机が大きく揺れ、スヴェンとシェイドのグラスがエールを大きく波打たせながらグルグルと揺れ始めた。


「あ、危ない、落っこちる」


 グラスは今にも机から転げ落ちそうに揺れる。

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