第四十二話「スニーキングミッション」
王都カルフンガリアに集められて忍び歩きの選抜試験をクリアしたリンとその他7人は、王城にて宰相達から作戦を聞かされていた。
「このオークの基地のある洞穴の近くまでは魔法兵が魔法のゲートで君達を送る。
そこからこの洞穴にオーク達に気付かれない様に潜入し、オーク将軍サムロの部屋を探すのだ。
そしてこの猛毒をなんとかしてサムロに飲ませるか、食べさせるか、直接注入する。
決して戦おうと思うな。
我が軍の精鋭が手も足も出ない猛者だ。
目標達成に至る手段は君達に任せる。
厳戒態勢の警備の中のこの城のラード国王の寝室に忍び込むという試験をクリアした人間離れした能力を持つ君達のことだ。
我々よりも手段を考える能力には長けているであろう」
リンを含め8人の暗殺者には猛毒入りの小瓶が渡された。
暗殺者の一人、シルクハットを被って片眼鏡を掛けた男、ポルポが尋ねる。
「我々が毒を盛ってサムロの暗殺に成功したとしよう。
どうやってそれを確認するんだね?
誰の手柄か分からないだろう」
「君達が役目を終えて戻ってきた時、その活動の報告、洞穴内部がどういう状況だったか、どこにサムロの部屋があり、どうやって毒を盛ったか詳細まで報告してもらう。
そして他の者の報告と付き合わせて信ぴょう性を確認する。
複数名が毒を盛るのに成功し、サムロが死んだら両方に達成者としての賞金を支払おう。
王国はそこまで追い詰められているのだ」
「他に質問は無いかね? ……それでは解散。
各自準備を整え、夕刻太陽が沈む前にラード城の城門前に集合すること」
その日の夕方、リンと7人の暗殺者達は王国魔法兵により、オークの基地のある洞穴から500メートルほど離れた場所に魔法のゲートで送られた。
ポルポは服を脱ぎ捨てると全身をオークの皮膚と同じ色でペイントし、鞄から取り出したゴム製の精巧なオーク顔のマスクを被る。
高身長のひょろ長い体格の男、カダルは土色の作業服を着てから両手足に金属製の鉤爪を装着した。
異国から来たという忍者、ムラサキは合掌して怪しげな呪文を唱えると、大きめなネズミの姿になって洞穴へと駆けていく。
元ゲリラ兵だと言う逞しい体の男、スネークは体が入るほどの木箱を被ってヒョコヒョコと歩いて行った。
リンはホワイトウッドランドのレンジャーにもらった絵の具で全身をペイントし、洞穴へと向かった。
【洞穴の入り口、フォステル騎士団壊滅フロア】
リンは飛び上がって天井近くの壁の窪みに身を潜めながら移動する。
時折通り過ぎるオーク達は気が付いていないが一緒に侵入した暗殺者達はお互いの位置をおおよそ把握し合っているようである。
ポルポはオークの変装のまま平然と歩く。
至近距離をオークが通り過ぎる際は背中を向けて作業している振りをしていた。
カダルはリンに一番近い場所、天井に金属の鉤爪を立てて張り付きながらゆっくり移動している。
こういう高い天井は死角なのである。
スネークは木箱から下半身をだして歩き、オークが来たらしゃがんで置いてある箱の振りをする。
オークの知性が低いせいかまったく疑われていないようである。
ムラサキはネズミの姿でチョロチョロと地面を進んでいた。
だが歩いていた重装オークが素早くしっぽを踏みつけた。
ジタバタと暴れるムラサキの尻尾をつまんで持ち上げて、大口を開けて飲み込もうとする。
慌ててムラサキは变化の術を解いた。
「イントルーダ! イントルーダ!」
重装オークはびっくりして叫んだが、持っていた大鉈でムラサキに斬りつけた。
「ぎゃあああぁぁ!」
ムラサキは駆けつけたオーク達に取り囲まれ、斬りつけられて絶命した。
離れを歩いていたポルポは無言で十字を切っていた。
【オーク兵の寝室が立ち並ぶ回廊】
縦横に通路が繋がって碁盤の目のようになっており、それぞれのブロック内に穴があいてオーク兵の寝室などが作られていた。
リンはテレキネシスで音を立てて入り口で立ちふさがる歩哨の注意をそらして中に入る。
回廊内は綺麗に整理されているとはいえず、箱やバケツ、様々なものが散らかっているため、体の小さいリンが身を隠すものは豊富であった。
少しずつ移動して身を隠し、時には透明化の魔法で凌いで進む。
カダルも平然とオークの歩哨の頭上2メートルほどの天井を張り付いて通り過ぎる。
洞穴内部の明かりは頼りない篝火しか無い為、全体が薄暗く天井を這うカダルは気付かれ無かった。
ポルポは入り口の歩哨の横を通り過ぎようとしたが、槍で足止めされていた。
オークの歩哨は自分の胸を指差してバッジを見せている。
どうやら身分証が無いと通れないようである。
ポルポは引き返して岩場の影に隠れると、木の板と彫刻刀とペンを鞄から取り出し、あっという間に偽造バッジを作成した。
その後偽造バッジを付けたポルポは平然と歩哨の隣を通り、回廊を歩いて進むのであった。
スネークは入り口の歩哨の前で少し思案して木箱から出ると、入り口から少し離れた場所まで匍匐前進で移動した後、洞穴の壁をコンコンとノックした。
音を不思議がった歩哨は歩いてその位置に移動する。
スネークは素早く木箱の位置に戻ると、木箱をかぶり直して歩哨の背後をすり抜けて回廊に入った。
しばらく順調に回廊を進んでいたが、一箇所が牢屋になっており、鎖に繋がれた人間が囚われていた。
頭の悪そうな婦人である。
スネークの存在に気づいた婦人は大声で叫ぶ。
「助けてーー! 私をここから出して下さい! このままでは食べられてしまいます!」
スネークは木箱から顔を覗かせ、シーと黙れというサインを送る。
「助けてぇえええ! 見捨てないでぇ!! 置き去りにしないでぇ!!」
オーク達が続々と集結し、重装オークが木箱を蹴ってスネークの姿が顕になった。
「ぎゃあああぁぁぁ!」
スネークはオークに取り囲まれて槍で突き回されて倒れた。
【オークの厩舎】
一本の幅広な通路になっており、巨大で獰猛な狼達が左右に並ぶ小部屋に繋がれていた。
だが番犬の代わりを兼ねているのか、5匹ほどの狼は鎖に繋がれずに通路の真ん中で伏せている。
リンは天井付近を飛びながら移動していた。
だが一匹の狼がリンに気付き、唸り始める。
リンは慌ててサイレンスの魔法を詠唱し、狼を沈黙させた。
狼は声の出ない状態で何度も荒ぶってジャンプし、リンに食いつこうとするが届かない。
周囲の狼は呆れた顔でその狼を眺めていた。
ポルポは平然と中央の道を歩いていた。
だが鎖に繋がれていない狼が居ることに気が付き、ビクッと足を止める。
見張りのオオカミ達は唸り声を上げながら立ち上がり、ポルポの周囲を囲んだ。
オークは騙せても、狼の嗅覚を騙すことは出来ない。
オオカミ達は一斉に跳びかかった。
「ぎゃあああああ!」
ポルポは狼に食い殺されて臨時のおやつとなった。
その間、カダルは天井を這ったまま通り過ぎた。
【オーク軍司令室前回廊】
ここも碁盤の目状の回廊になっていた。
しかし今までの回廊とは違い、綺麗に整備された平坦な天井、壁、床である。
しかも通路が狭く、人間同士が通り過ぎた場合も体が触れる様な状態である。
カダルは天井に張り付くことが出来ないので地面を歩いていた。
だが見張りの歩哨が歩いてくるのを察知し、置いてあった木箱の影に隠れる。
しかしカダルの足先がはみ出て見えてしまっていた。
精鋭重装オークの歩哨はひと目で敵を察知し、ナタを振り下ろした。
「ぎゃあぁああぁ!」
カダルの叫び声を聞きながらリンは回廊を無音で歩いている。
目の前に歩哨が迫ってきたため通路脇の箱に身を隠した。
だがその歩哨の背後に、さきほどカダルを殺した歩哨が駆け寄って何かを囁く。
歩哨は頷いていた。
カダルを殺した歩哨が引き返すと、今度は今まで以上に用心深く周囲をチェックしながら歩いてくる。
木箱を見るたびにその裏まで入念にチェックしているようである。
しかもナタをクイクイと動かして確認し、透明化の魔法まで警戒している。
ついに歩哨がリンの隠れる木箱に迫った。
リンは床に転がる小石を弾いて天井にぶつけて音を立てる。
オークの歩哨がつられて上を見る瞬間に木箱の影から静かに走り出て歩哨の背後へと回った。
歩哨は再び木箱の裏を入念にナタを動かして確認し、立ち上がると不意に後ろを振り向く。
リンは素早く歩哨の前に出て視線をかわしていた。
再び歩哨が前を向いて通路を進んでいく中、リンはスリ取った鍵を持って逆方向に歩き始めたが、カンが働いたのか素早く木箱の反対側の影に飛び込んだ。
同時にオークの歩哨は再度振り向いて後ろを確認していた。
だが何もないと確信したのかそのまま歩哨は去っていった。
リンは遂にサムロの部屋と思われる場所に辿り着いた。
先ほどスリ取った鍵を使って開けると中に入り、中から鍵をかけた。




