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第四十話「美少女交易商人イヴァリス」

 デスクレセント島の酒場は相変わらず軍艦の砲撃による轟音や振動の中、大盛況であった。

 その奥に拉致された女性交易商人が捕らわれている事など入り口から見れば誰も想像しない日常風景である。

 酒場の海賊の一人が新品のシミターを取り出してぼろきれで拭いていた。


「ふんふんふーん」

「お、お前シミターを新調したのか。

 つーかその柄、なんだそのファンキーな絵柄は。

 デコシミターかよ」

「ああ、真珠貝の殻で模様を作ってんだぜ」

「こないだの商船襲って臨時収入が入ったしな。

 皆くっだらねー事に使ってるな」

「くだらねーとは何だ。イカしてるだろ」


 酒場に一人の海賊が駆け込んで叫んだ。


「おい! 大姉御からの通達だ。

 ラード王国の態度が悪いので身代金取引は中止。

 そこの人質の女はもうお前らの好きにしろだとさ」


 酒場は一気に静まり返り、海賊たちの目が荷車を背にへたり込んで嗚咽する女性商人に一斉に集中した。

 一人の海賊が机と椅子を酒場の隅に移動させ始めると、他の海賊たちもそれに続いて広い空間を確保する。

 筋肉質なスキンヘッド海賊が少女に歩み寄った。


「だとさ。 じゃぁまず俺は何をして貰おうかな?」


 少女は地面を這うように海賊から逃げて荷車の後ろに隠れる。

 危険な殺気をプンプン漂わせながら海賊たちは少女を取り囲み、外からは少女の姿が見えなくなった。


「もっと泣き喚け! 命乞いをしてみろ!

 お前まともにしゃべらねーからツマンネーんだよっ!」


 スキンヘッド海賊がデコシミターを少女の頭に打ち下ろそうとした。

 少女は身を小さくして怯える。

 必然的にデコシミターの前に突き出されたウンコ付き帽子が目に入り、

 海賊は寸前でデコシミターを止めた。


「あぶねぇ。 俺の新品のデコシミターにウンコが付くじゃねぇか!」


 海賊は少女の隠れる荷車を思いっきり蹴った。

 ガキッと音がして床に金属製の小さなコルク栓のようなものが転がり落ちた。

 焦げ臭い匂いが漂ったかと思うと荷車の横、海賊が蹴った場所から強烈な火を噴射し始めた。

 少女は慌てて荷車を抑えようと掴まる。

 だが噴射は強まり、遂には次々と並んだ別の容器に引火した。

 荷車とそれに掴まる少女はグルグルと回転を始め、その回転は加速していく。


「ぐおっ」

「たはっ」


 一人二人と荷車が海賊を跳ね飛ばして部屋の壁に叩きつけていく。

 だが勢いは衰えず、もはや少女と荷車は小さな竜巻のようになって取り囲んでいた海賊たちを尽く吹き飛ばしていった。


「うぉっ」


 酒場を見つけて窓から中を覗こうとしていたシェイドは慌てて身を屈める。

 窓から2、3人の海賊が吹き飛んでいった。


「一体何が起こってるんだ?」


 スヴェンが酒場の入り口から顔を覗かせる。

 海賊が一人飛んできて慌てて身を引いたスヴェンの前を通り、隣の家の壁に叩きつけられた。

 しばらく経って海賊たちの叩きつけられて呻く声が聞こえなくなるとスヴェンとシェイドはチラリと中を覗いた後酒場へ駆け込んだ。

 大勢の気を失った海賊たちの中心に手で顔を抑えて嗚咽する少女が荷車を背に座り込んでいた。

 顔には鼻眼鏡、頭にはトグロをまいたウンコの載った帽子をかぶったままである。


「あんたがイヴァリスだな?」


 少女ははっとスヴェンとシェイドの方を向き、頷いた。


「ターゲット確保だ。しかしここからの脱出が問題だよ。

 赤猫旅団の司令部から逃げるときにマジックエッセンスを失ってしまった」

「俺もポーションを使いきったぜ」


 イヴァリスは荷車から商品を取り出して荷車の上に並べて、値札を置いた。


 【大回復ポーション:在庫2 価格650ゴールド】

 【マジックエッセンス全種セット:在庫1 価格1200ゴールド】


「た、高いな」

「これはあれだ。ダンジョン価格ってやつだぞ」

「仕方ない。マジックエッセンスのセットを売ってくれ」


 スヴェンはマジックエッセンスセットを購入した。残金15ゴールド。

 シェイドは自分の財布を見た。

 残金1340ゴールド。

 シェイドは悩んだ。


「うーん。高いし、2個じゃ心もとないなぁ……」


 イヴァリスは商品を回収し、再度ポーションと値札を置き直した。


【中回復ポーション:在庫4 価格335ゴールド】


「くっ……こいつ……俺の財布の中を透視でもしてるのかよ!

 仕方が無い。買うぜ」


 シェイドは手持ちの全財産を叩いてポーションを購入した。

 一人の海賊が目を覚まし、強打した片腕を庇ってうめき声を上げながら体を起こした。

 すぐさまシェイドが海賊の喉元に剣を突きつけた。

 イヴァリスは荷車に自分がかぶっていたウンコ付き帽子と鼻眼鏡を荷車に起き、値札を付けた。


【口に出すのも汚らわしいアレ:在庫1 価格2万3千500ゴールド】

【鼻眼鏡:在庫1 価格10ゴールド】


 それを見たシェイドが海賊の頭を踏みつけながら言った。


「だとさ。もちろんご購入頂けますよね?」

「そ、そんなに金を持ってねぇ」

「多分、この部屋の海賊全員の財布から抜けば有るんじゃないかな?」

「ひ、ひぃ……、わ、分かった、分かったぜ」


 海賊は倒れている海賊たちの財布を一つ一つ漁って金を集めた。

 背後では常にスヴェンとシェイドが目を光らせている。


「これで全部です、2万3千530ゴールド」


 イヴァリスは金を受け取ると海賊にウンコ付き帽子を被せて、鼻眼鏡をつけた。

 最後に20ゴールドのコインをバチコーンと海賊の顔面に勢い良く投げつけた。

 海賊は鼻に打ち付けられた金の痛みで涙を滲ませた。


「よし、じゃあ逃げるぞ」

「イヴァリス俺達の後を付いて来な。急げ」


 3人は酒場を出ると急いで森へと撤退した。

 幸いなことに誰にも気づかれること無く海岸までたどり着き、荷車の重さで沈みそうな状態の手こぎボートを漕いで沖合へと離れ、ARCCの母船へと戻ることに成功した。

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