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第三十九話「殺伐のハーレム」

「スヴェン、そっちはどうだった?」

「海賊しか居ない。ハズレだ」


 スヴェンとシェイドは人気の少なくなった街の外周を周り、手分けして建物の中の様子を一つ一つ探っていた。


「人が来るぞ、スヴェン頼む」


 スヴェンはシェイドと自分に透明化の魔法をかける。

 二人は建物の窪みに透明状態で張り付いてやり過ごす。

 マサイアスが魔法使いと戦士のペアを組ませて潜入させたのは、魔法使いがこういう工作に向いているからであった。

 鼻先をかすめるように海賊二人が通り過ぎた後、スヴェンとシェイドは安全な路地へ素早く移動する。


「はぁ……ヒヤヒヤするぜ。心臓バクバクだ」

「あの建物、怪しくないか? 重要な施設っぽい雰囲気がする」

「あの3階建ての塔か? 確かにそうだが入り口も大きくて警備が居そうなんだよなぁ」

「2階の窓が開けっ放しだ、しかも人影がない。

 あそこから潜入しよう」


 スヴェン人目の届かない暗がりで自分とシェイドに浮遊の魔法を掛けた。

 二人はフワリと浮き上がって塔の開けっ放しの窓から中に音も無く潜入した。

 そこは塔の1階層を丸々使った広いフロアになっており、隅にはいくつかの丸椅子が置いてあった。

 壁には一面を覆うほどの巨大な掲示板があり、カルフンガリアの地図が貼り付けてあった。

 そこには幾つもの記号や矢印が描かれており、日付が大きく走り書きされて二重の下線が引いてある。


「なんだこれ、カルフンガリアだぞ。襲撃作戦でも立ててたのか?」

「カルフンガリアの襲撃作戦? ちょっとまってくれ。

 そういう事をやる人間っていうと……」

「俺達えらい所に入り込んだかも知れないな」


 シェイドは部屋の隅にあった小さな机から書類をとってパラパラとめくる。


「これ議事録だぞ、発言者のイニシャルか?

 Me・C、Ma・C、N・C」


 スヴェンが駆け寄って書類を覗き、束になったものの下半分を抜き取って読み始める。


「……カルフンガリア陥落を目指す総攻撃の作戦だってよ……」

「こっちには赤猫旅団の全戦力を集結する場所が書いてある。

 オーク将軍サムロ全軍の軍事拠点がカルフンガリア近くの山脈の洞穴に巨大な規模で作られているそうだ。

 そして赤猫旅団は寒地の孤島内の大規模ダンジョン内に集結するらしい」

「最後の紙はこれか……決行日は、一週間後、あの地図の走り書きの日だ」

「持って帰るか?」

「そんな余裕はない。今の任務は交易商人の救出だ。

 ここに居る可能性は高い。

 僕は上階を覗いてみる。シェイドは下階を覗いてみてくれ」

「分かった」


 スヴェンは階段を登って塔の上へ登り、シェイドは部屋の逆サイドの階段を降りて下の階を見に行った。


「曲者だ!」

「誰だ!」


 塔の1階と3階で同時に声が響いた。

 スヴェンとシェイドは慌てて2階に駆け戻る。

 二人の後を追うように赤猫旅団の幹部御一行様が部屋の両サイドの階段から走り出た。

 スヴェンとシェイドはお互いの背をカバーするように部屋の中心に立つ。

 赤猫旅団の幹部8人がその周囲を取り囲んだ。

 メリッサ・キャットが笑いながら口を開いた。


「おいおい、笑える状況じゃないか」

「お前ら、良く来たニャ。歓迎するニャ」

「サンドラが世話になったな。貴様ら楽に死ねると思うなよ?」

「一体何しに来たんだ? こいつら」

「首を捧げに来たんだろう」

「多分、交易商人が目的だろう。こいつらはARCCに入団したと聞いている。そいつらが今活動する理由はそれしかない」

「なるほど、あの軍艦は陽動って訳か。だろうと思った」

「あのガキ今何処へやってる?」

「酒場でアタイの手下に見張らせてるよ。

 今頃手下が何やってるかは知らねーが、殺すなとは言ってある」


 スヴェンとシェイド、絶体絶命である。

 幹部の一人は抜け目なく探知魔法の込められたワンドを取り出してスヴェン達の周囲に浮遊する光の粉を発生させ、透明化魔法の対策をしている。

 幹部達は次々と光物を抜き始めた。


 (とんだハーレム状態だな。どうしたものか)

 (こりゃ魔法の集中攻撃を食らったら終わりだな)


「おい、てめぇ大人しく武器を捨てな」


 マリー・キャットがスピットファイアを詠唱し、スヴェンの頬に命中、スヴェンは殴られたような衝撃とともに頬に火傷を負った。

 よろけたスヴェンの足元で床がきしんで音を立てる。


 (シェイド、僕の腰にお守り代わりに魔法反射のバックラーを吊り下げている。君の盾とそのバックラーで10秒間、僕の詠唱をカバー出来るか?)

 (10秒か、やるしか無い、やってやるさ。だが何をするつもりだ?)

 (一か八かだ、床をぶち抜く。 隙を見て一気に逃げるぞ)

 (分かった。 しかしこんな凶悪な猫共を相手にすることになるなんて想像すらしなかったぜ)


 スヴェンは魔法の詠唱を開始した。

 シェイドは自分の剣を素早く鞘に収めると、スヴェンの腰のバックラを引剥して2盾で構える。


「こいつっ! 何かする気だ!」

「死ねニャ」


 周囲から一斉に無数の魔法がスヴェンへと発射された。

 シェイドはすさまじい速度でバックラーを操り、全ての魔法を部屋の床や壁面や天井に乱反射させる。

 スヴェンはまだ魔法の詠唱を続けている。


「ぶっ殺せぇええ!」


 遂にはクロスボウの矢が飛び、長槍が魔法に混じって突き出される。

 シェイドは全ての魔法をバックラーで反射し、片手のスモールシールドでクロスボウの矢と長槍を弾く。


 遂にスヴェンは詠唱妨害を受けること無くアースクエイクの魔法を発動させた。

 塔が轟音を立てて揺れ始め床に亀裂が走る。

 狙い通りスヴェン達の足元の老朽化した床が抜け、スヴェンとシェイドは塔の1階に落っこちた。

 だがそれで終わりではなかった。

 瓦礫が二人を押しつぶそうと伸し掛かり、さらに1階の床も抜けた。

 二人は地下の洞窟に落下した。

 洞窟内の足元には僅かに水が流れており、地下水が枯渇した影響で出来た自然の空洞のようである。


「スヴェン、大丈夫か!」


 シェイドが瓦礫をかき分けてスヴェンを救い出し、二人は洞窟の中を急いで走った。

 赤猫旅団は追ってくる気配がない。

 偶然にも瓦礫の山が地下へと抜ける穴を塞いで隠し、二人が押しつぶされたものと幹部達は勘違いしていた。


「ありがとうシェイド、助かったよ」

「それより酒場だ。早くこの洞窟を抜けて酒場を探すぞ」

「ああ、急ごう」


 デスクレセント島の湾内の軍艦ではハーヴィー公爵が額から血を垂らしながらサーベルを掲げて必死で指揮にあたっていた。

 軍艦に横付けされた海賊船からは次々と海賊が乗り移り、海軍兵達は大勢の犠牲を出しながら剣や斧を振るう。

 海軍魔法兵達も船の高台から稲妻ボールを乱射し、何人かは投げられたトマホークを受けて倒れこむ。

 海軍達が時間を稼げるのはもうすぐ限界である。

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