第三十二話「不思議なマッシュルーム」
人夫達は、切り倒した木々を一箇所に纏めて積み上げ、一部を薪に変える。
スヴェン達は周囲の散策と食料の調達を行った。
人夫が仕事を終える頃には既に日が落ちかけており、アモイ探検隊一行はキャンプを設営し、夕食の準備に入った。
木々を寄せ集めて作られた簡素なテーブルの上には、持参した携帯食料が載せられている。
アモイと人夫が机の周囲に集まっていると、木々をかき分けてスヴェンとシェイドとリンが現れた。
シェイドが背中に担いでいたイノシシを机の上にドシリと置く。
「身の程知らずのイノシシを狩ってきたぜ」
スヴェンが籠にぎっしり入った大量のキノコを机の上に置く。
「人がまったく通らないせいか食用キノコが豊富だったよ」
リンがスヴェンに言った。
「ねぇ魔法の夜、あれを机に置いてくれるかしら?」
「分かったよ」
スヴェンが10羽ほどの鳥の死骸を蔦で繋いだものを机に置いた。
どの鳥も既に調理された焼き鳥状態で、苦しんで暴れた形跡が伺える。
「生意気な鳥を10羽ほど狩ってきたわ」
よく見るとリンは鳥につつかれたような跡か体中にあった。
「不思議だよなぁ……なんでリンだけ鳥に襲われるんだ?」
「動物は本能で見分けるんだろ? ……悪者を」
「シェイド、イノシシに襲われた貴方に言われたくないわ」
「いやいや大したもんだよご馳走だよ。3人共グッジョブ!
携帯食料は保存性優先で味気ないものばかりだからね」
スヴェンとシェイドは手慣れた様子でイノシシを解体し、肉はキノコと共に複数の鍋に入れられた。
アモイは複数の鍋を行き来してアクをとったり火加減を調整している。
料理が出来上がった頃には辺りは既に真っ暗の夜になっており、満天の星空が見えるほどになっていた。
焚き木を囲んで一行は鍋から取り分けられた料理を食べた。
スヴェンは自分の持つお椀に入ったキノコをスプーンですくい上げた。
巨大なマッシュルームに見えるが上から見ると渦巻状の不思議な模様と星空のような斑点が散らばって付いている。
「ん? なんだこのキノコ、見たことがないキノコだな。僕こんなの採ったかな?」
「わたしが見つけて籠に入れておいたのよ」
「大丈夫かな、毒キノコだったりしない?」
「虫が喰ってるキノコだもの大丈夫よ」
「まぁ、いざというときはジャーラさんの解毒ポーションでも飲めばいいか」
スヴェンはキノコを口に運んだ。
「……うん。美味しいねこれ。熟成された味わいがあるよ」
「アモイさん、今更だけど本当にここにあるって確証あるの?」
「間違いない……はずさ。
伝承には封印を手伝った人の証言もある。
石造りの巨大な地下施設に封印したっていうね。
恐ろしくて途中で逃げ出した人のだけどね。
聖ジャーギィはいきなり巨大な地下神殿を作って宝物とアンデッドの死骸を埋めたんじゃない。
人数と時間的に早過ぎて辻褄があわないんだよ。
実は元々この地に巨大な地下霊廟が有ったはずなんだけど、その記録が聖ジャーギィが宝物を封印して以降一切無いんだ。
発見者すら一人も居ない。
実は聖ジャーギィが一時的に住んだ隠れ里、それはセルバゼイなんだよ。
そして聖ジャーギィが宝物を持って姿を消し、戻ってくるまでの日数から計算すると地下霊廟の記録と一致するのさ。
ここへ来るときに見た祠、あれが紛れもない地下霊廟の証拠さ。
はるか古い記録によるとオイラ達の足元近くに地下へと潜る石造りの螺旋階段があるはずなんだよ」
「ちょっとまって、なんか今鳥の鳴き声聞こえなかった? カッコウって」
「気のせいだろ? 俺は聞こえなかったぜ。 アモイさん続きを聞かせてよ」
「……皆、ごめん……なんだか腹が膨れたせいか猛烈に眠くなってきたので僕は先に寝てるよ」
スヴェンはテントに入りそのまま横たわって眠り始めた。
スヴェンはまるで現実のようにリアルな夢を見ていた。
石造りの巨大な回廊の中、壁に一定間隔で取り付けられた松明だけが薄暗く周囲を照らす。
その中を多くの石の棺を運ぶ人々が歩いている。
時折棺の蓋がゴトゴトと音を立て、隊列に付き沿う数人が慌ててそれを押さえつけ、後ろの方から駆け寄ったローブを着た魔術師が呪文を唱えて沈静化させる。
隊列が回廊のT字路にたどり着くと停止し、後ろから二人の男が歩いてきた。
一人は片手に輝くハルバードを持っており、もう一人は背中から羽を生やした人間ほどの背丈の獣人である。
獣人は羽ばたいて飛び上がり、3メートルほどの高さの天井の窪みに手を突っ込む。
ハルバードを持った男は壁に彫刻された彫像の口に手を突っ込む。
そして3人ほどの戦士がT字路の壁に駆け寄ると、彫刻の施された壁の床付近の隙間に手を入れて持ち上げる。
壁はスライドして持ち上がり、奥へと続く道が現れた。
二人の筋肉隆々とした戦士が壁を支えている間に、石の棺を運ぶ一行、扉を開ける仕掛けを動かした二人が奥へ入る。
最後に壁を支えた二人の戦士も中に入り、石の壁は閉じられた。
風景がぼやけて消え、同じ回廊の何処か別の場所が見えた。
小さな部屋で出口は一つのみ。
幾つもの輝く宝物が置かれた祭壇がある。
ハルバードを持った男と背中に羽を生やした獣人がその部屋を立ち去ろうとしていた。
だが男は立ち止まって振り返りしばらく沈黙する。
二人が話す言葉がスヴェンには一部を除いて聞こえた。
「どうした?」
「これで終わりではない。そんな気がする」
「安心しろ。ここを出たら入り口は埋めて隠すし、人夫の記憶は私が全て消そう」
「我々はあの忌まわしき力を滅する事が出来なかった。
レリックを見つけられなかった。
先送りにせざるを得なかったのだ」
男は祭壇に歩み寄り、自分の持っているハルバードを置いた。
「この呪いの封印が解かれて世に出る時、同時にこの力も必要となるだろう。
この……は常に……と共に有るべきだ。
私は……がそう語りかけているのを感じる」
そして男は獣人と共にその部屋の出口へと向かう。
部屋の入り口は石の扉で閉じられた。
「スヴェン! 起きろ!」
スヴェンは眠そうに目をこする。
もう既に日が登り、テントの外では人夫たちが人の背丈ほどの大穴を掘っていた。
「うぉっ! もう昼じゃないか。起こしてくれたっていいだろう」
「起こしたさ。揺すっても叩いても起きないから皆心配してたんだぞ」
「魔法の夜、ようやく起きたのね?」
「うーーん。やっぱ昨日のキノコ、あれが原因だったんじゃないかな」
近くに居た人夫の一人、白髪交じりの男がそれを聞いてスヴェンに聞く。
「どんなキノコだった?」
「渦巻状の模様と星空のような斑点の付いた巨大なマッシュルームみたいな……」
「あーー、それ、もの凄~く稀に見つかるゾーンマッシュルームっていうキノコだよ。
強烈に眠くなってしばらく寝っぱなしになって、鮮明にそのキノコの生えてる周辺の夢を見るんだよ。
娯楽用に凄く高く売れるんだよ。見知らぬ土地の観光が出来る魔法のキノコってね」




