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第三十話「トレジャーハンター・アモイ」

「……ヒック……リンちゃん、スヴェンとシェイドは何処かね?」


 梁の雑巾がけをしていたリンが答える。


「スヴェンは薪を取りに山へ芝刈りに、シェイドは夕食のために川へ魚釣りに出かけたわよ。

 多分もうすぐ帰ってくると思うわ?」

「そうか……ヒック……よく頑張ってくれてるし、今日は稽古をつけてやるかのう……彼らが戻ったら裏の空き地に来るように伝えておいてくれ」

「分かったわ」


 数十分後。

 裏の空き地でスヴェンとシェイドはウエゾ老師の前に並んで話を聞いていた。


「よいか? 君達は剣闘士として色々な物が欠けておる。

 戦いの技術を教える以前にスタート地点にすら到達していないのだ。

 まずは魔法抵抗力だ。

 魔法は人の思念の伝播によって生み出されて実体化する。

 だがこれは人の思念によって抵抗し弱めることも可能なのだ。

 この力がなければ達人の魔法を受ければその度に大ダメージを受け、弱いものであれば即死する。

 毒やパラライズといった状態変化魔法を確実に受けてしまう。

 これでは勝負にならん。

 二人共そこから動くなよ?」


 ウエゾ老師は魔法を詠唱した。

 二人の足元が燃え盛る火の海と化す。


「あっつ!」

「あちちち」

「耐えろ! 心頭滅却すれば火もまた涼しい。毎日これを1時間は続けろ」

「ぐおおおお!」

「言ったはずだ。この道は修羅の道だとな」


 1時間後、二人は回復魔法のお陰で後遺症は残らないがぐったりした状態で食事を食べた。

 ウエゾ老師が口を開く。


「よいか二人共。君達はかなりの達人に剣の手ほどきを受けたと見える。

 もはや技術は限界まで上がっていると見た。

 残りは経験じゃ。

 剣技では攻撃を敵よりも僅かでも多く回避し、僅かでも多く命中させる事が重要じゃ。

 その差が大きいほど勝負にならなくなる。

 食事の後は面白い場所へ連れて行ってやろう。ふふふ」


 食事後、二人はウエゾ老師に着いて平原をしばらく馬で移動した。

 そして石造りの建物がいくつも並んだ小さな街へと到着した。


「変だな。この街は人の気配がしないぞ?」

「ここには高名なロードの率いる百戦錬磨の伝説的な騎士団が駐屯したのだよ。

 その数100人以上。

 全員が各々の武器を極めた達人だ。

 だがこの街に封印されていたレリック(聖遺物)を侵した為に全員が呪われた。

 250年前の話じゃ……」


 スヴェン達の周囲にプレートメイルを付けて様々な武器を持った骸骨達があちこちの建物の角や中から現れ、近寄ってきた。


「彼らは永久に死ぬ事を許されない。そして生きる者を全力で襲い続けるのだ」


 スヴェン達の近くまで来た騎士の骸骨は雄牛の構えを取った。

 恐るべき速度でスヴェンに突進する。

 スヴェンはロングソードで剣を払いながらかわす。

 騎士の骸骨はモーガスと同じ連撃をスヴェンへ繰り出した。

 反対側ではシェイドがウォーハンマーをもった騎士の骸骨に飛び込み攻撃を受けていた。

 スタグランドの墓場の骸骨の比ではない強さである。


「これから毎日2時間はここに篭って生き延びろ」


 数時間後ウエゾ老師の家の納屋で二人はぐったりと倒れこんでいた。

 そこへウエゾ老師が顔を覗かせる。


「起きろ! 夕食の材料の解体を手伝え」

「……は、はい老師」


 ウエゾ老師に連れられて家の裏に来ると大きな石畳の上に巨大なバッファローの死体が寝かせてあった。

 ウエゾ老師は巨大なナイフで切り込みを入れて皮を剥がし、丁寧に解説する。


「戦いをするには敵を知らねばならん。人や動物の体がどんな構造をしているのか、どこが弱いのかを常に学べ。

 よいか、ここが全生物の最大の急所、心臓じゃ。

 刃を通すにはこの肋骨が邪魔じゃのう……。

 そしてここがレバー……」


 二人は異臭とグロい光景に耐えながら聴き続けた。

 またある時は格闘技術を教えられた


「二人共剣闘士である以上、戦いの最中にポーションやマジックアイテムを使うために素手の状態にならざるをえない状況が発生する。

 この時、無防備に攻撃されてダメージを受けては戦いにならない。

 素手での武器や攻撃の捌き方を知ることは必須じゃ」


 スヴェンとシェイドはウエゾ老師に投げられ、打ち倒され、地面を転がされ、技を極められ続けた。


 ウエゾ老師の教えは個人個人の特性に合わせて行われる事もあった。

 魔法の手ほどきを受ける際、スヴェンは老師と向かい合った状態で座禅を組んで座り、その場を動かず魔法のみの撃ち合いの対話を続けていた。

「稲妻ボ・・」

「甘い」

「ぐふっ」

 もちろんスヴェンが勝ったことは一度もない。

 ウエゾ老師はこれを禅問答と呼んでいたが、これほど荒っぽい禅問答などどこにも無いであろう。


 シェイド相手の場合は荒っぽい打ち合いが行われた。

 打ち合いと言ってもシェイドの装備は両手にバックラーのみである。

 滅多打ち状態で倒れたシェイドの体を使って包帯治療のテクニックが伝授された。


 傍目から見れば苛烈な虐待にしか見えない修行は2週間続けられ、二人はそれに耐え続けた。


【スヴェンとシェイドの魔法抵抗能力が極限に達した】

【スヴェンとシェイドの剣での戦闘技術が極限に達した】

【スヴェンとシェイドの生体知識が医者レベルに達した】

【スヴェンとシェイドの素手での戦闘能力、回避能力が極限に達した】

【スヴェンの魔法能力、集中力、持続能力が魔道士レベルに達した】

【シェイドの医療技術、盾を使った回避能力が達人レベルに達した】


 スヴェンとシェイドは今日も骸骨騎士に囲まれたハーレムの中で戦う。


「はぁ……はぁ……あのじじい鬼だよ、鬼」

「はぁ……はぁ……そうだね。まったく容赦も慈悲もない目だね。アハハハ。

 でも赤猫旅団と戦うってのはそれだけ苛烈な道だって事さ」

「ああ……ウエゾ老師には感謝しているさ」


 突如遠くの方から叫び声が上がった。


「た、助けてくれぇ!」


 スヴェンとシェイドが骸骨騎士を振り払って声のする方へと駆けつける。

 海賊船長が被るような三角帽子を被った男が大慌てでこちらへ走って逃げてくるのが見えた。

 その後ろを2体の巨大なデーモンが追いかけている。


「スヴェン! なんでこんな場所にあんなのが居るんだ? 召喚魔法か?」

「いや、召喚魔法独特の魔力を感じない。あれは実体だ」

「とりあえず行くぞ」

「おう!」


 二人は各一体のデーモンを相手にして剣を振るった。

 デーモンは様々な魔法を放ち、巨大な剣を振るうが今の二人にとって致命的な攻撃ではなかった。

 二人同時にデーモンを打ち倒す。

 だが更に後ろから2体のデーモンが遅れて現れた。

 それを二人は再び相手にする。

 逃げてきた男は背後からスヴェンとシェイドにグレーターヒールをかけて支援した。

 デーモンを倒し終わると男が二人に近寄って肩に手をおいて親しみを見せた後、合掌してヘコヘコしながら感謝の言葉を述べた。


「ありがとう! 助けてくれてありがとう!

 危うく人里離れたこの僻地で孤独に死ぬ所だったよ!」

「あんた何者だ? こんな場所で何してる?」

「なんでデーモンに襲われてたの?」

「オイラはトレジャーハンターのアモイ。

 ここでお宝を探してたんだよ。

 古い地図を頼りにようやく遺跡を見つけたんだけど、古代の秘法で守られた墓場を暴いた途端にコイツラに襲われたんだ。

 雇っていた人夫が全員あっという間に殺されちまった。

 命からがらここまで逃げてきたのさ」

「その遺跡の様子を見に行ったほうがいいか?」


 進もうとする二人をアモイは両手で止める。


「いや……ぶっちゃけもう近づくだけでヤバい状態になってる。

 目的のものは手に入れたし残りは諦めよう」


 アモイはポケットから巨大な宝石を中心に、無数の小さな宝石が散りばめられたネックレスを取り出してブラブラさせた。


「こりゃぁ……相当な値打ち物と言うか……これ取ったからデーモンが出たんだろ?」

「リンとは違うベクトルで恐ろしい人だな……」

「それより君達。こんなものはまだ前座なのだよ。

 もっと凄いお宝の遺跡の場所の目星が付いているんだ。

 遺跡発掘を手伝ってくれないか?

 君達は相当強い。

 君達が手伝ってくれたら怖いものなしだ。

 礼もはずむよ」

「遠いの? それ」

「遠い……けど、魔法のゲートで飛べるように記憶してある。

 オイラはこれに掛けてるんだ。

 何年も前から調査し、文献を読み、準備をしてきたんだよ」

「ウエゾ老師とリンに相談してからだな」

「そうだね」

「……遂に出会えるぞ、待っていろ、伝説の処刑人ジャーギィ……が封印したお宝達よ」


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