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第二十九話「弟子入り」

 闘技場でしばらく戦っていたスヴェンとシェイドだったが、周りの闘技場の戦いの華やかさやギャラリーの盛り上がりに比べ、自分たちがあまりにも未熟であることを思い知らされた。

 なんだか冷めてしまった二人は闘技場の外へ出る。

 入れ替わりに先ほどの髭もじゃパンツ一丁の酔っぱらい老人が小さな袋を腰に下げ、六角形の棒を持つと闘技場の中へと入っていった。


「……ヒック……、君達は基本がなっとらん。まずはそっちの君、入って来なさい」

「僕ですか?」


 スヴェンは再び闘技場の中に入った。


「君達はさっきの戦いで少しお互い遠慮してただろう?

 本気で掛かってきたまえ。

 君の持つ最大の技、最大の魔法をワシにぶつけてみろ。

 遠慮はいらん。

 私はハンデとしてこの棒と低級魔法だけで戦おう」

「じゃあ…よろしくお願いします」

「うむ」


 スヴェンは再び石の壁の魔法を唱えた。

 石の壁が消えると同時に覚えたての魔法、稲妻ボールを詠唱した。


「ほいさ」


 老人はスピットファイアを詠唱し、スヴェンの詠唱は中断されて終わった。

 しかも只のスピットファイアなのに威力が高くスヴェンにダメージが蓄積する。


「せいやっ」


 スヴェンの渾身の斬撃が老人に命中する。


「ほぅ。なかなか良い型をしておるな。剣術はなかなかの物じゃの」

「いてっ!」


 老人はスヴェンから距離を取りながら棒でスヴェンの頭を叩く。

 間髪入れずにスピットファイアが再度スヴェンに命中した。


「ほらほら、畳み掛けるように攻撃しないと何時までたってもワシを倒せんぞ?」


 老人はレッサーヒールを詠唱し傷を若干癒やす。

 スヴェンが再び斬りかかるが、今度はかわされてから棒で叩かれる。

 スヴェンがもう一度稲妻ボールを詠唱するが、スピットファイアで詠唱を潰された。

 老人は二度目のレッサーヒールを詠唱、全快した。


「スヴェン! いい加減回復しないと危ないぞ!」


 シェイドの声を聞いて思い出したようにスヴェンはグレーターヒールを詠唱する。

 再度スピットファイアがスヴェンに命中し、回復呪文が潰された。

 そのままスヴェンは地面へと倒れた。

 歩み寄った老人はスヴェンに回復魔法をかけながら言った。


「こういう至近距離のデュエルで大魔法を使える瞬間など滅多に来んよ。

 大魔法を連発するのはパーティーで戦士に守られた魔法使いがやることだ。

 魔法剣闘士は詠唱の短い低級魔法をよく使う。

 グレーターヒールよりもレッサーヒールを使うように心がけるべし。

 そして短時間で畳み掛けるようにダメージを集中させなければ絶対に魔法剣闘士は倒せんさ。

 次、戦士の君の番だ。掛かってきなさい」


 スヴェンと入れ替わり、シェイドが闘技場に入った。

 今度は老人が魔法を詠唱して石の壁を出現させる。

 壁が消えた瞬間シェイドは老人に突撃した。

 老人は即座にポイズンの魔法を詠唱、シェイドは毒に侵された。

 シェイドはフラフラと距離を取る老人に必死で張り付いて攻撃を続けるが、老人は隙を見てはレッサーヒールで回復する。

 しばらく戦いは続いたが、老人が倒される見込みが全然無いのは明らかであった。

 老人は袋から小さなワンドを取り出すと、シェイドに向けてエンチャントされたファイヤーボールを3連射ほどする。

 最後は爆発ポーションを取り出して投げつけ、炸裂と同時にシェイドの頭を棒で叩いた。

 シェイドはその場にぶっ倒れる。

 老人は回復魔法をかけながらシェイドに言った。


「戦士は魔法が使えない分を装備とアイテムで補え。

 最高の武器を使い、最高の鎧を着て、惜しみなく魔法のアイテムや各種回復ポーション、攻撃ポーションを使うんじゃよ。

 その装備の差が命を失う者と拾う者を分けるのじゃ。

 そもそも戦いの場において解毒ポーションすら持っていないと言うのは舐めすぎじゃぞ?」


 スヴェンとシェイドとリンは老人から少し離れた場所で集まりヒソヒソと話し合いをした。

 リンは腰に片手を当ててなにやら二人に指導しているようにも見える。

 話し合いを終えるとスヴェンとシェイドは同時に老人の元へ行き頭を下げた。


「お願いします。僕達に戦いの技術を教えて貰えないでしょうか?」

「……ヒック……悪い癖じゃ……いらんお節介を焼いてしまったわい……。

 あいにくワシは弟子は取ってないよ。それに人を養う余裕も無いわい」

「そこを何とか……突然訪れて初めて会った人にこんな事を頼むのは申し訳ないと思っています。

 どんなことでも手伝いますし、ご迷惑をかけないように最大限自分達のことは自分達で何とかします」

「何故そんなに強くなりたいのかね?」

「僕達の所属ギルドのギルドメンバーが大勢赤猫旅団に殺されてしまったんです。

 僕達は仇を取るためと、さらにこれ以上同じ思いをする人を増やさない為に赤猫旅団を倒すことを誓い、はるばるこの地を目指して旅してきたのです」

「赤猫旅団……そうとう厄介な相手だが……、君達が敵う相手じゃないぞ?

 幹部のキャット一家は全員魔法剣闘士としても最高峰の実力を備えていると聞いている。

 自殺をしに行くようなもんだぞ?」

「ご老人と戦って思ったんです。この方ならば私達が赤猫旅団に立ち向かえるようにご指導してくださる力を持っていると……今の私達には貴方にすがるより他に道が浮かびません。デュエルの基本だけでもよいのでご指導頂けないでしょうか?」

「まぁ……基本だけなら……」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「ここには宿屋も無いしなぁ……仕方ない……家の納屋ならまぁしばらく泊まってもいいよ。

 ま、代わりに色々働いてもらうぞ?

 あとワシの事はウエゾと呼ぶが良い」

「ありがとうございます!ウエゾ老師」

「ありがとうございます!ウエゾ老師」


 老人はスヴェン達をを連れて自宅へと歩きながら、スヴェン達の後ろから着いて来るリンを見て誰にも聞こえない声で呟いた。


「やれやれ……たいしたもんじゃ。あれが彼らの親代わりか」

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