第二話「わたしを殺すとカルマが下がるわよ!」
アリスに連れられてスヴェンは街の広場に着いた。
「ギルドメンバーが集まるまでここで待っててね」
スヴェンは近くに捨てられて転がっていた椅子を拾い、それに座る。
近くの路上で賑やかな声が聞こえた。
身長50センチほどの羽の生えた妖精と、安っぽい防具に身を包んだ冒険者が言い争っている。
「てめぇ!! 俺の財布をスっただろ! 返せよ!」
「取ってないわよ! ねぇねぇ衛兵さん、こんなの言いがかりよね?
貴方は私が財布を盗むところ見た?」
衛兵は口をへの字型にして沈黙する。
「お前が持ってるその財布は俺のもんなんだよ!」
「わたしが元から持ってたのよ!」
「てんめぇ、お前の体でそんなデカイ財布持ち歩けるわけねーだろ!
もう、あったま来た! ぶち殺してやる!」
「いいの? わたしはフェアリーよ? 殺したらカルマが下がるわよ?」
遠巻きに見ていた人々の囁きが聞こえた。
「あいつ絶対カルママイナスだよ……」
「俺、おとといあのフェアリーが森の動物に襲われているのを見たぜ?
フェアリーって森の妖精で動物と仲良しじゃねーのかよ……」
冒険者がロングソードを振り回してフェアリーを追い回す。
フェアリーは逃げまわり、ロングソードの斬撃をかわす。
冒険者が未熟なのか、フェアリーがすばしこいのか分からないが、一発も当たらない。
「こんちくしょー! 許さねぇ!」
冒険者はバックパックから火炎瓶を取り出すとフェアリーに投げつけた。
火炎瓶は地面に当たり、炎がその周囲に燃え上がる。
再び取り巻きから声が漏れる。
「あーあー…………。やっちゃった……」
フェアリーは衛兵の方をちら見すると足先を出して炎にちょっぴり当てた。
「熱っ! 正当防衛!!!」
フェアリーは魔法を詠唱し、その両手から冒険者に稲妻のボールが飛んだ。
「ぎゃぁあああ!」
冒険者は直撃を受けてぶっ倒れて動かなくなった。
フェアリーは倒れた冒険者のそばに駆け寄るとバックパックを漁る。
取り巻きはささやきながら解散した。
「可哀想に…………」
「あいつずっと悪さしてるけど捕まらねーもんな。ある意味スゲーわ」
スヴェンは他人事だから少しホッとしていたが、緊張で手がぐっと握られていた。
「とんでもないカオスな所だなここは…………」
「スヴェンくーん! 皆集まったわよー? 早くおいでー」
「あ、はい」
スヴェンはギルドメンバーの集まりの場所へかけ出した。