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第二十八話「髭もじゃパンツ一丁の酔っぱらい老人」

「カゲヒサさん、ボブさんお世話になりました」

「そうか、ウシャドナへの旅を再開するのか。寂しくなるなぁ」

「カゲヒサさんもこれから忙しくなって寂しいなんて言ってる暇は無くなると思うわ。新しいお仕事頑張ってね」

「この街は赤猫旅団やオーク軍と戦う最前線だし、戦いはまだまだ終わらないだろうけど、カゲヒサさんが将軍として駐在しているなら安泰だぜ」


 カゲヒサはアゴをさすりながら遠くを見るように語る。


「ウシャドナは武芸の極限を志す者が集い、色んな理由で力を欲する者を受け入れる駆け込み寺のような場所と聞いている。

 戦闘と戦略を司る神を崇拝するモンク達が生活する秘境だそうだ。

 何人もの歴史に残る武将を生み出し、小さな街であるにも関わらず、赤猫旅団でさえ恐れて手を出さない。

 そこは君達にとっての最後で最大の試練となるであろう。

 だがそれを超えれば君達は赤猫旅団を倒せる力を持つことになるだろう。

 私が保障する。

 君達は筋がいいし、君達ならやれるだろう。

 君達が赤猫旅団を撃退する勇者として活躍するのを聞く日を楽しみにまっておるぞ」


 道具屋店主のボブがふと思いついて店の奥に入っていく。

 しばらくガサゴソ何かを探していたが、一冊の本を持って戻ってきた。


「スヴェン君。ちょうどいい物があったので選別に渡しておくよ」

「これは……魔法書ですか?」

「この街のギャンブル狂の魔法使いがあちこちで借金を断られて俺に金を借りに来た時に置いていったものだ。

 まったく家は質屋じゃねぇっての。

 金が返ってくるあてはもう無いだろうから君にあげるよ。

 この店で埃をかぶっているよりはマシだろう」

「ありがとうボブさん」


 スヴェン達はカゲヒサとボブに別れを告げるとカーグレイルの街を後にした。

 スヴェンは魔法書を眺めて興奮していた。


「凄いよこれ、ほらここ見て。リンが使ってた稲妻ボールの魔法もスタグランドでレディー・エンゼルが使っていた炎の魔法も、ゴーレム召喚やデーモン召喚も全部載っているよ」

「へぇーー。でも俺は魔法使えないからなぁ。

 才能が無いのはスタグランドで生活して直ぐに分かったよ。

 お前が一週間でエリィの魔法を次々覚えたの、あれ実は凄い事なんだぜ?」

「よし、まずはこの稲妻ボールの魔法を練習しながら行こうっと。

 これさえあればもう最強だよ」


 スヴェンは魔法書をしばらく見て暗唱すると、呪文を詠唱した。

 しかし黒い煙が出て失敗した。


「まぁ……高位魔法だからそう簡単には出来ないよなぁ……」

「ところでスヴェン。そんなにその魔法使いたかったんならリンに教えてもらえば良かったんじゃないか?」

「あっ……」

「別にぃ。特に聞かれなかったし?」

「リン、コツを教えてくれよ」

「リン先生と呼びなさい?」



 3人は何日もかけて街道を進んだ。

 周囲は亜熱帯のジャングルが広がる。

 スヴェンは黒い煙を常に噴出させながら馬に乗って進む。

 山賊よりもワニや蛇を警戒しながらキャンプする日が続いた。

 一週間目。


 スヴェンの手から発射された稲妻のボールが街道脇の木に命中し、木は大きく揺れた。

 幹の命中した箇所は焦げ跡が付いている。


「やったよ! 遂に僕にも安定して撃てるようになったよ!」

「成功率7割ってとこね……。」

「おい、この街道が続いている先、あの山の麓に街が見えないか?」

「おおっ! 遂にウシャドナに着いたんだね。」


 スヴェン達はウシャドナの街へと到着した。

 人里離れた秘境と聞いていたとおりで、急な山の斜面にいくつもの苔むした石を積み上げた民家が建っていた。

 大きな寺院と思われる建物が一番奥の高所に一つだけあった。

 その屋根の上には古びた彫像が載っている。

 彫像は剣と宝珠を両手に持ち、仮面をつけてフードを被った姿をしていた。

 おそらくここに住むモンクの崇拝する戦闘と戦略の神であろう。


「うりゃあ!」

「ぐふあ」


 剣のぶつかり合う音、魔法の発生する音、人々のうめき声などが響いている。


「あっちの方から聞こえるよ。行ってみよう」


 スヴェン達は騒がしい音を立てている場所へ向かうと、少し広い平地のような場所へと出た。

 そこには一辺が10メートルほどの木の柵で囲われただけの簡素な闘技場が4つ並んでいた。

 その内2つの闘技場では1対1の戦いが行われていた。

 柵の外側には街の人と思われる人が数人、モンクのような姿の人達が数人、戦いを観戦している。

 空いていた闘技場に観戦者の内二人が入っていった。


「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 二人は一礼すると一人が魔法を唱え、二人の間に魔法の石の壁が出現した。

 二人は戦闘態勢に入り、武器を構える。

 魔法の石の壁が消えるとともに一人は突進して武器を振り回し、もう一人はそれをかわすと魔法を詠唱して直撃させる。

 スヴェンはその柵に近寄り、隣で観戦している人に尋ねた。


「これは何をしているのですか?」

「デュエルしてるんだよ」

「あの石の壁は何なんですか?」

「試合開始の合図だよ。フライングして先に魔法が命中しちゃったら不平等だろ? だからああやって視線を遮った状態から始めるのさ」

「誰でも参加出来るのですか?」

「闘技場が空いてたら自由に使っていいよ。対戦相手が居たらね」


 闘技場の二人は激しく中を駆けまわり、数々の魔法を唱え、武器を振り回す。

 長々と戦っているが決着は付かない。

 細かく回復魔法で回復しているからである。


「ああっ! 危ない!」


 一人が瀕死の状態になった。

 だが攻撃をかい潜り、細かく魔法を放ちつつポーションを飲み、回復魔法を挟んで復帰した。


「あの人は達人級の魔法剣闘士だ。達人は倒されそうに見えて倒されないもんじゃよ」


 気付くとスヴェンの隣に首が見えないほどの髭もじゃで白髪のお爺さんが柵に持たれ掛かって立っていた。

 なぜか知らないが全裸でパンツ一丁である。

 しかも酒臭い。


「スヴェン、俺達もやろうぜ!」


 シェイドが誘い、スヴェンは緊張しながら開いた闘技場の一つに入っていた。

 さっきの老人がスヴェン達の入った闘技場の方へ様子を見に来て柵にもたれ掛かる。


「えーと、どうだったかな? ちょっと待って」


 スヴェンは魔法書を取り出すと石の壁の魔法を確認しながら詠唱した。

 スヴェンとシェイドの間に石の壁が出現する。


「頑張れ魔法の夜! 頑張れシェイド! 面白い試合を待ってるわ!」


 柵の外でリンが叫ぶ。

 石の壁が消滅し、スヴェンとシェイドは駆け寄った。

 スヴェンは剣を打ち付ける。

 シェイドは盾で受け流すとスヴェンに刀を振りかぶる。

 スヴェンは剣で払い、再び斬りつける。

 シェイドは盾で受け流すとスヴェンに刀を振りかぶる。

 スヴェンは剣で払い、再び斬りつける。

 闘技場の真ん中で二人は足を止めて地味に斬り合っていた。


「なんだか餅つきしてるみたいね」

「ダメダメじゃの……ヒック……」

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