第二十七話「決着、カーグレイル襲撃」
サムロは八相の構えから少しだけ身を屈めると姿を消した。
スヴェンとシェイドにはそう見えた。
だが距離5メートルほどは離れていたはずのカゲヒサに大太刀を打ち込んで金属音を響かせていた。
カゲヒサはサムロの連撃を丁寧に刀で払って捌く。
別の方向からは悲鳴が聞こえる。
「ひぃぃぃ!」
内政府の役人達が立てこもる石造りの建物が徐々に破壊され、壁がすこし破られて中の人々が怯える顔が覗く。
「シェイド! 僕たちはあいつらを止めるぞ!」
「おう!」
スヴェンは馬を走らせ、松明を投げ入れようとしていたオークに接近すると松明を切り落としてからオーク本体を切り払う。
シェイドも壁が破られそうになっている場所のオークを切り捨てた。
二人は次々とオークを切り捨てていくが、オークの数が多すぎる。
未だ総勢100匹を超すオークは一匹10秒ほどで葬っているスヴェン達でも倒しきれるものではない。
建物はすでにあちこちに穴が開き、二人のカバーが追いつかなくなっていった。
騎士団の教官を決める試合を仕切っていた役人、デイモンドは自分の眼の前の壁が崩れてオークが姿を見せたので怯えていた。
オークは隙間から蛮刀を突っ込んで振り回す。
遂にデイモンドの眼の前の壁が崩れてオークが蛮刀を振り上げて突入しようとした時、横から現れたスヴェンがその背後からオークを切り捨て、狼の喉の動脈を切って殺す。
スヴェンはデイモンドに叫ぶ。
「机と椅子でバリケードを作ってここを守れ!」
デイモンドは頷くと机を倒して隙間を塞ぎ、荷物入りの箱を引きずってきて抑える。
デイモンドが外に見たのは目にも留まらぬ速さの攻防をサムロと繰り広げるカゲヒサの姿であった。
二人の刀は速すぎて既に常人には見えず、刀身が光を反射する煌めきが滝壺の水滴のごとく散らばって見えるのみ。
モーガスが見せた連撃の比では無かった。
カゲヒサは隙を見て斬りこむが、サムロは正確に捌いてカウンターを試みる。
一進一退を繰り返すサムロとカゲヒサに割って入れる者など居ない。
デイモンドは確信していた。
もしここでカゲヒサが敗れれば、もう誰もオークを止められない。
無意識にデイモンドはカゲヒサに頭を下げていた。
「おい! あそこだ! 皆加勢しろーー!」
街の男達がスヴェン達を指をさし、後ろから10人前後が連なって駆け寄ってくる。
その手には兵器庫で手に入れた武器が握られていた。
男たちは建物を破壊するオークを攻撃し始めた。
遠くで火矢が天高く打ち上がり、サムロはカゲヒサとの戦いの中それをちらりと見た。
街のさらに街路2箇所からそれぞれ10人ずつ武器を手にした男たちが駆け寄ってくるのが遠くに見える。
サムロは激しい戦いを続けながら叫んだ。
「ワージッ!」
オーク達は一斉に攻撃を止めて集合しカーグレイル北門に向けて隊列を組んで疾走し始めた。
スヴェンとシェイドは、カゲヒサとサムロの左右を挟む位置に移動し、距離をおいて見守っていた。
二人共この戦いが手出し無用なのは理解していた。
「えぃやっ!」
カゲヒサの渾身の斬り下ろしがサムロの胸を裂く。
しゃがみ込みその場に片手をついたサムロにカゲヒサが刀を振り上げて止めの斬撃を行おうとした。
突如サムロから天へと続く光の柱が発生し、魔法の結界がサムロの周囲を覆う。
カゲヒサの刀は結界で弾かれた。
2、3度刀を打ち付けて、破壊できる物ではないのをカゲヒサは確認すると、刀を鞘に収めた。
片手を地面に、片手を血が滴る腹に添えたサムロは肩で息をしながら結界を挟んで至近距離でカゲヒサを睨みつけていた。
サムロはカゲヒサを指差して呟いた。
「……カゲヒサ……」
さらにスヴェンとシェイドを指差す。
「……スヴェン……シェイド……」
微笑みとともにサムロは光りに包まれて空へと消えた。
スヴェンとシェイドはカゲヒサに駆け寄る。
「あんなものは初めて見るが、どうやら撤退魔法の一種のようだの。攻撃は一切受け付けない様だ」
「残党のオークを追いましょう!」
「その必要はない。奴らは全員一目散に撤退するだろう」
カゲヒサの言葉通り、隊列を組んだオーク達は人間には一切興味を持たず、戦いを避けながらカーグレイル北門から撤退していった。
しばらくするとカーグレイルの西門からモーガス達騎士団が馬を走らせて帰還した。
内政府の建物にたどり着いたモーガスは部下たちに指示する。
「散開して街の様子を見て来い!」
「了解! 皆5名ずつに別れて街のパトロールだ!」
「了解!」
「了解!」
デイモンドはモーガスに尋ねる。
「早かったなモーガス。カーグレイル西砦は大丈夫だったのか?」
「既に壊滅していた。攻城戦を覚悟したが赤猫旅団の奴らは全員撤退済みだったのだ。そこで陽動だと悟り慌てて帰ってきた」
「そうか……ご苦労であった」
「それよりよくこの街は持ちこたえたな。俺は殺戮と死体の山を覚悟して門を潜ったのだぞ」
「そこのカゲヒサ殿の指揮と、弟子二人の活躍でこの街は落ちずに済んだのだ。まったくこの情けない奴めっ!」
デイモンドは隣りにいた衛兵隊長の頭をはたいた。
デイモンドは続ける。
「カゲヒサ殿はオークの将軍、サムロと一騎打ちを行い、その間二人の弟子がこの建物を破壊するオークを次々と打ち倒したのだよ。
我々はまさに死の手前だった。
カゲヒサ殿には感謝してもしきれぬ。
そして教官の選別試合の時の事を謝罪しなければならなぬ」
「サムロ……あのサムロと一騎打ちをしたというのか!
なんて男だ……。
カゲヒサ殿……そなたの勇気と力には敬服致す。
そして街を救って頂いた事には心より感謝致す」
デイモンド、衛兵隊長、モーガスはカゲヒサにお辞儀をした。
カゲヒサは恥ずかしそうに頭をかいていた。
デイモンドがさらに続ける。
「今回の件で、この街にはまだ駐在すべき将軍の数が足りないことを実感した。
モーガス殿と共にカゲヒサ殿に兵団の将軍になっていただけるように上に推挙しようと思うが受けていただけるだろうか?」
「身に余る光栄、謹んでお受け致す」
カゲヒサと共にスヴェン達は自分たちの拠点だった道具屋へと街路を歩いた。
道行く人々がカゲヒサを見ると全員お辞儀をして尊敬の言葉を述べた。
「偉大な騎士、カゲヒサどのに栄光あれ」
道具屋ではリンが店主について周り、店の修理を手伝っていた。
「ただいま。ボブさん店を開けちゃって悪いね」
「カゲヒサさん、あんた凄いね。サムロと戦ったんだろ?
街中の噂だよ。俺も鼻が高いよ」
「えーー、わたしもそれ見たかったなーー。悔しぃ! しっかり付いて行くべきだったわ」
「カゲヒサさんは何と、将軍に大出世ですよ!」
「ひええぇ」
「ボブさんには世話になり申した。軍需物資の調達の際には、この店を贔屓にさせて頂こうかな。ハーッハッハ」
「頼みますよカゲヒサさん。ハッハッハ」




