第二十六話「疾風の襲撃、オーク騎兵団」
それはモーガス率いる騎士団がカーグレイルの街を出て援軍に出撃してから僅か5分後の出来事であった。
街の見張り兵が再び土埃を上げて近づいてくるオーク集団を発見した。
巨大な狼に跨ったオーク騎兵団である。
数はおよそ200、松明を掲げるオーク、巨大なハンマーを持つオーク、巨大なナタを持つオークが入り混じっている。
先頭を走るのはひときわ巨大な指揮官らしきオークである。
ヒゲを生やして大太刀を背に装備している。
「オーク兵が来るぞーー!」
「ちきしょう! なんでこんな時に!」
警報を伝える街の鐘が鳴らされ、人々は青ざめた顔で避難に向かう。
街のあちこちでパニックが発生、所々で子供の泣き声も響く。
オークの襲撃スピードは早く、町の人々が警報を聞いてから1分も経たない間に既に街に侵入していた。
大通りでは腰が抜けた老人が地べたに這いつくばっている。
近くでは子供が逃げ遅れて転んで泣き、母親が手を引いて必死の形相で引っ張りあげていた。
オークの騎兵団はその老人と母子の間を隊列を組んで駆け抜けていく。
隊長も部下も民間人に一切興味を示さずに無視して通り過ぎた。
たまたま居合わせたカゲヒサは老人の手を引き、背負いながらオーク騎兵団の通り過ぎる様を見ていた。
近くでは街の衛兵を束ねる衛兵隊長がブツブツ呟いている。
「落ち着け……落ち着け……、なんとかしないと……」
カゲヒサは衛兵隊長に叫ぶ。
「街の兵器庫に衛兵を集めて守れ! 奴らの狙いはそれだ!」
「え、衛兵共ーー! 近くの兵器庫に集結しろーー!」
カゲヒサは青ざめる人々に向かっても叫ぶ。
「女、子供は民家に避難しろ! そこなら襲われない!
男は兵器庫へ行って武器を取り、厩舎、鍛冶屋、道具屋、食料庫を守れ!」
「お、女と子供は全員民家に避難だぁーー!」
少し離れた街の一角から悲鳴が上がり、火事が発生した。
鍛冶屋のある場所である。
カゲヒサは老人を避難させると自分の働く道具屋へ急いだ。
道具屋ではスヴェン、シェイド、リンが留守番のバイトをしていた。
スヴェンがカウンターで頬杖を付いて半分眠り、シェイドは近くの椅子にもたれ掛かっている。
リンはカウンターに置いた自分の椅子を揺らしていた。
「スヴェン、また警報が鳴ってるぞ」
「ほんと次から次へと今日は騒がしいわね」
リンが飛び上がって玄関から顔を覗かせる。
だが右側を見て仰け反り、慌ててスヴェン達のところへ戻ってきた。
「こ、こっちに狼に乗ったオークの集団が駆けて来るわ!」
スヴェンとシェイドはとっさに武器を取って襲撃に備える。
玄関付近にオークの集団が到着すると店を打ち壊し始め、幾つかの松明が投げ入れられた。
「なんだなんだ! スヴェンあいつら店を壊してるぞ」
「こういう時に店を守るために雇われているんだ。いくぞ」
スヴェンとシェイドは玄関から同時に外に出てオークに斬りつけた。
店内ではリンが冷凍魔法で必死で消火をしている。
「おらぁっ!」
「このっ、店を壊すのをやめろ!」
スヴェンとシェイドを相手するのは攻撃されているオークのみ。
他のオークは黙々と破壊を継続する。
だが腕を上げたスヴェンとシェイドはしばらくの戦闘の末に一匹ずつオークを打ち倒した。
残りのオークに狙いを定めた時、オーク騎兵を率いる隊長と思われるオークが二人の前に現れた。
身長2メートルほどの大柄なオークで大太刀を構えている。
隊長オークは大太刀を振り回し、スヴェンとシェイドの二人に交互に連続攻撃を仕掛けた。
その連続攻撃はあまりにも早く、重い。
2対1であるにも関わらず二人共防戦一方で攻撃をする隙が一瞬も無い。
「ぐっ!」
「いてっ!」
既に達人級の技術を手にした二人が押され続け遂には手傷を追い始めた。
消火を終えたリンが今度は二人への回復魔法を交互にかけ続け、ようやく二人は命を保っていた。
「グオォォ!」
少し離れた場所でオークの悲鳴が聞こえ、ドサリと地べたに落ちる音が響いた。
カゲヒサである。
隊長オークはその姿をしばし見ると声を張り上げた。
「ラーステー! チーナー! ラーステー!」
オーク騎兵達は破壊を止めると道具屋を後にして一斉に別の方向へ狼を走らせる。
オークの隊長と共にスヴェン達を置いて通りを駆け抜けていった。
「皆無事か? よくぞ耐えた。
モーガス率いる騎兵団は全員カーグレイル西砦に援軍に向かっていて街には衛兵くらいしかいない!
戦える我々が街をと良民を守らねばならない。
今すぐ馬を準備するのだ!」
「はい!」
「はい!」
スヴェンとシェイドは道具屋の裏に繋いであった各自の馬、セキトバ号とカンケツバ号に乗った。
遅れて店から槍を手にして出てきたカゲヒサも自分の馬に乗る。
「戦場では1秒1秒の行動の素早さが勝敗を分けると心得よ!
オーク騎兵達を追うぞ! ついてこい!」
カゲヒサを先頭にスヴェンとシェイドの3人が街路を疾走する。
地元故に地の利があったのか、3人は疾走するオーク騎兵集団の末尾の姿を捉えた。
オーク騎兵団は街の兵器庫を見つけて速度を上げた。
しかし十数人の衛兵が裏側から湧いて出るのを見るとオーク隊長が声を上げて司令を出し、即座に諦めて別の場所へ向かう。
今度はカーグレイル騎兵団の使う厩舎を見つけるとオーク騎兵達は群がり、馬を惨殺、建物を破壊、放火を行った。
駆けつけた衛兵と共にスヴェン達もオークに攻撃を仕掛けるが、攻撃を受けているオーク以外は破壊に没頭している。
遂に厩舎が崩れ落ちるとオーク騎兵団が再び狼を疾走させて走り去る。
徒歩の衛兵たちは追いつけず、取り残された。
カゲヒサが叫ぶ。
「今やあのオーク共を仕留められるのは我々だけだ。ゆくぞ!」
3人は馬の速度を上げてオーク騎兵団に追いついた。
カゲヒサは槍を右手に、左手に持ち替えつつ最後尾のオークを立て続けに3匹ほど急所を付いて打ち倒す。
スヴェンはセキトバ号を疾走するオークに横付けさせるとロングソードで斬りかかる。
セキトバ号はオークの血しぶきが顔に掛かったが気にせずにグイグイと体をオークに寄せた。
「くらえ!」
スヴェンの攻撃でオークが致命傷を受けてよろける。
セキトバ号はそれを見ると首を曲げてオークの頭に噛みつき、狼から引きずり落として平然と疾走を続けた。
反対側ではシェイドがオークを追い上げる。
カンケツバ号は指示されたわけでもなくオークの左側に体を寄せる。
シェイドは右手の刀でオークに攻撃を行った。
巨大な狼はカンケツバ号を睨んで唸り、威嚇するが馬は平然と走っている。
余所見をしていた狼は足を躓かせてオークが前に投げ出された。
グチッ!
カンケツバ号は投げ出されたオークを踏み潰して疾走を続ける。
二人の様子を後ろで見ていたカゲヒサが感心する。
「二人共、相当な名馬に乗っているようだな。うらやましいわい」
オーク騎兵団は石造りの建物にたどり着くと包囲して破壊を始めた。
中から悲鳴が上がる。
どこかで聞いたような声も聞こえる。
スヴェン達が破壊に勤しむオークを攻撃しようとすると、オークの隊長が明らかに殺意を持って目の前に歩み寄った。
カゲヒサが呟く。
「どうやら内政府の役人達が最終目標だったようだな」
スヴェンとシェイドは動きが止まっていた。
いや、本物の豪傑の殺気を前にして動けなかったのだ。
カゲヒサが槍を捨て、馬を降り、刀を正眼で構えて声を上げる。
「やあやあ、我こそは東洋の騎士カゲヒサ!
貴殿に1対1の勝負を申し出る!
尋常に勝負せぇ!」
オークの隊長は狼の背をポンと叩く。
狼はオークをその場に跳ね上げると前へ進んで離脱する。
地面に降りて大太刀で八相の構えを取ったオークは初めてスヴェン達が知っている単語を語った。
「…………サムロ…………」




