第二十五話「オークのカタパルト」
スヴェン達がカーグレイルに留まって一週間程が経つ。
カゲヒサは道具屋の裏方で内職をしていたが、空き時間を見つけてはスヴェン達に剣術を教えてくれた。
今日もスヴェンとシェイドは道具屋の裏の広場で教えを請う。
「カゲヒサさん。僕はもっと積極的に攻撃出来るようになりたいんだ」
「よく見ておけよ、スヴェン、シェイド」
【カゲヒサの教え方はうまく、古典的な技から新技まで、ていねいに教えてくれた】
カゲヒサは異国では剣術家だったらしく、磨き上げられた技術は超人の域に達している。
彼に習って二人の剣の技は急激に成長し、今ではそこいらの戦士など相手にならないほどになっていた。
カゲヒサが仕事で忙しい時はシェイドとスヴェン、お互いがライバルとして競い、切磋琢磨する。
「シェイド、ちょっと手合わせを願えないか?」
「もちろんだ! 俺は一人でも稽古は欠かさない。
最近はカタナに凝ってるんだ」
「では木刀で手合わせ願おうか」
スヴェンとシェイドは木刀持ってお互いに一礼し、打ち合う。
【前にも増して、シェイドは腕を上げていた。スヴェンは彼から大いに学ぶことが出来た】
雲一つない青空の中、太陽が真上に登る。
街の中の大通りは今日も商人達、旅人、休憩中の兵士が往来し、活気があふれていた。
カーグレイルの城壁の一角にある見張り台では、眠気を堪えてアクビしながら見張り兵が周囲を見回していた。
見張り兵は遠くに土煙のようなものが上がっているのに気が付いた。
目を凝らしてよーく見ると、大勢の小さな人が荷車のようなものを引っ張ってこちらに駆けて来るように見える。
しばらくその集団がカーグレイルの街に近づくのを確認していた見張り兵は、それがオークの集団だということに気が付いた。
慌てて警報を伝える鐘を鳴らす。
カーン、カーン、カーン、カーン
見張り兵は音につられて様子を見に来た兵士たちに叫んだ。
「オーク軍が攻めてきたぞ! 急いで戦いの準備を!」
街中の鐘が鳴り響き、招集された兵士たちは武器を手に広場に集結する。
一般市民達は建物内へと避難した。
オーク達はカーグレイルの城壁から200メートルほどの位置で荷車の被せ物を取って杭を地面に打ち込んで固定し始める。
カタパルトである。
街の北門に3台のカタパルトと十数匹のオーク、街の西門側にも3台のカタパルトと十数匹のオークが集結する。
「カタパルトだーー! 皆気を付けろーー!」
見張り兵の叫び声を合図に遠くから木と石と動物の骨や腱の擦れて軋む音が鳴り響き、次々と大岩が降り注ぐ。
「こんな連携を取れるオークは珍しいぞ」
「あいつら何か企んでやがる」
「弓の射程外だ!」
岩が次々と街の北と西の門に命中し、木の扉は破壊され、その扉を両側から支えるタワーが削られていく。
本来カウンターのカタパルトやバリスタを用意すべきだが、オーク達の行動は統率され、訓練され、あまりにも早かった。
遂に北と西の門が同時に破られて外から街の中が見える状態になった。
「出撃して直接叩くしか無い! 兵団よ、私に続け!」
モーガスが先陣を切って騎士たちを率いてオークとカタパルトを目指して出陣した。
本来のここの兵団の長はカルフンガリアに公務で出かけて留守であった。
狙いすましたタイミングである。
騎士団が街の門から出撃してくるのを見たオーク達は即座にカタパルトの固定を外して撤退し始めた。
騎士団はオーク達の元へ突入すると次々とオークを葬り、カタパルトを破壊していく。
流石に鍛え上げられた王国の誇る兵団だけのことはあり、あっという間にオーク達を壊滅させた。
仕事を終えた騎士団はカーグレイルの城壁内へと得意気に凱旋する。
だが兵士たちが休む間もなく、早馬に乗った伝令が矢を背に2、3本受けた状態で騎士団の集まる広場に駆け込む。
「カーグレイル西砦が赤猫旅団の賊共の襲撃を受けて陥落寸前だ!
駐屯兵士達は全力で戦っているが30数名中半数は死亡した。
残りは今生きているか分からない。
落ちるのは時間の問題だ!
至急援軍を求む!」
「旅団はどのくらいの数いるんだ?」
「百は下らないだろう。砦から見渡した時に地平線が埋め尽くされていた」
伝令は叫ぶとその場に崩れ落ちる。
モーガスは声を上げる。
「オーク共を全滅させたついでだ。カーグレイル西砦を救いに行くぞ!
腰抜け以外は着いて来い!」
「しかし教官殿! 勝手に軍を動かしてはまずいのでは?」
「街ががら空きになるぞ!」
モーガスは剣を手に叫ぶ。
「街を襲う部隊は我々が既に壊滅させた。
もうここを襲う敵は暫くの間は居ない。
我々は最強の兵団だ。
全員で馬を走らせて全力でカーグレイル西砦を襲う旅団を潰し、1時間以内でここへ戻る。
中途半端な戦力では事態を悪化させるだけだ!」
モーガスは騎士団を率いて隊列を組み馬を走らせて出撃した。
街に取り残された人々がその姿を見てざわめく。
「彼らは最強よ。きっと大丈夫だわ」
「いくら赤猫旅団でもあの数の鍛え上げられた騎士団を相手にしたら歯が立たないだろう」
「あの伝令、良く赤猫旅団の包囲網から逃げ切ってここまで来れたわね」
「おいおい、このオーク兵の紋章、これオーク将軍サムロの軍だよ……」
老人が風通しの良くなった門から町の外を眺めながら呟く。
「ふぅむ……。これはマズイ予感がしますよ……」




