第一話「ギルド『スキッピングベア』」
最新話辺りは書いては見なおして推敲が入ることが多々あるかもしれませんが長い目でお願いします。
元々スヴェンははるか遠くの異国の人間であった。
スヴェンによると彼がこの地に来たのは彼が14歳の頃である。
スヴェンの故郷にあるとき一人の老人が行商で訪れた。
その時老人が見せた魔法に大勢の人々が驚嘆する。
その街では魔法など見たことがない者がほとんどであったそうである。
目を輝かせながら最前列で見ていたスヴェンは老人に尋ねた。
その老人ははるか遠くの孤島にある魔法学校で学んだと言う。
スヴェンはその魔法学校に行くために両親を言いくるめ、半ば家出のように出てきたのだ。
そしてスヴェンはその孤島に辿り着いた。
ここの孤島はスタグランドと呼ばれている。
緑の森に島の大部分が覆われている。
そこには多数の鹿と、幾つかの狼のグループが生息している。
孤島故に大きな都市はないが、魔法学校と小さな街があるのが特徴である。
魔法学校と言えども学校が生徒をたくさん入学させて育てているわけではない。
多くの人達はこの街の住人として自活しながら、心得の有る魔法使いと仲良くなって個人的に教えてもらうことを目的としている。
魔法の知識は間違いなくこの周辺の国々の中で一番集積される。
スヴェンはバックパック一つだけの荷物を持ってこの地の街を訪れた。
この街で一番人が集まる大通りに出て物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回していた。
スヴェンが憧れ、夢に見た魔法使いの街は見るもの全てが彼にとって新鮮だったのだ。
そばに暇そうにベンチに腰掛けた貴婦人が居た。
背後には巨大で真っ白なドラゴンが鎮座する。
貴婦人は首をもたげるドラゴンに手を添えて優しく顔を撫でると、取り出したハンカチで汚れを拭う。
スヴェンは白いドラゴンに驚きながら、恐る恐る貴婦人に話しかける。
「あのーすいません」
「はい、なんでしょう?」
「ここは魔法を学びたい人々が集まる街、マジシャンズヴィレッジですよね?」
「はい、そうですよ」
「その動物は何ですか? 怖くないの?」
「私の飼ってるホワイトドラゴンのホワイティよ。
大丈夫よ、大人しい子だから突然噛み付いたりなんてしないわ。
でも本当はすっごく強いのよ」
「へぇ……これがドラゴンかぁ……やっぱり話通り恐ろしいや。
ところで魔法を学びたい人々が大勢訪れてここで生活していると聞いたのですが、貴方も魔法使いですか?」
「ええ、そうよ?あなたも魔法使いになりたいの?」
「僕は魔法剣士になりたいんです。かっこいいじゃないですか」
スヴェンは顔を少し赤くして答えた。
貴婦人はクスリと笑って言う。
「実は貴方と同じことをいう人は大勢いるのよ?
そして私はいつもこう応えるの。
『魔法剣士は実は中途半端で一番弱いのよ?』」
「弱いんですか?」
「人間が持つ能力は限界が決まっているの。
魔法使いは魔力を鍛えて追求する。
戦士や剣士は肉体と技を鍛えて追求する。
それぞれの得意分野については彼らが一番強いの。
欲張って両方を身につけようとする魔法剣士は、両方の力を中途半端にしか身に付けられない。
モンスター相手でも人間相手でも最後はただの役立たずになると決まっているのよ」
スヴェンはうなだれる。彼が夢見たヒーロー像は街に到着して数時間で終わってしまったのである。
そんな彼を見て貴婦人はフォローするように言った。
「……でもね、特殊な例だけど魔法と剣術の両方を身につける人達は居ます。
彼らは魔法剣闘士と呼ばれ、人と人との戦いの極みを目指す、戦いの求道者達よ。
その中でもタンクメイジソードマンと呼ばれる流派の人達はウィザードハットを被って魔力を増強しながら、強力な魔法を使いこなし、大きなハルバードで敵を一刀でなぎ倒す。
極めれば人対人との戦いでは最強と呼ばれているわ。
彼らの極まった戦闘技術の前では素人の兵隊なんて数十人束になっても敵わないってね。
……まぁそう簡単になれるものでもないけどね。
最初は両方目指してもいいけど貴方もどちらかの道を選ぶことになるでしょうね」
「へぇ……。ここではみなどうやって生活していくんですか?」
「どこかのギルドに入ることね。そうするとギルドのサポートを受けられて生きやすくなるわね。実は私もそういうギルドの勧誘員なの。
私のギルドに来る?」
「お願いします」
彼女はかばんに手を入れて小さなメモを取り出すと、同じくかばんから仮死状態で眠っていた鳥を取り出す。
鳥の足にメモを付けていると鳥は飛び起きた。
「カッコウ!」
小鳥の鳴き声が森にこだまする。
貴婦人の手を離れると飛び去った。
この時代で一般的な通信手段である。
「付いていらっしゃい。ホワイティ! カモン!」
貴婦人が立ち上がると白いドラゴンが雄叫びを上げて立ち上がり従った。
スヴェンは彼女の後に従う。
同じく着いて来るドラゴンをなんども振り返り、ドラゴンと目が合って慌てて目をそらすのを繰り返す。
森の中の小さな小屋に到着するとピエロの帽子を被った男が手を振って出迎えた。
「アリスちゃーん。おっつ、おっつ。新しいギルドメンバーってのは隣の彼かね?」
「ええそうよ」
「キミキミ、中に入り給え」
スヴェンはピエロ帽の男に従い、中に入る。
「ようこそ、ギルド『スキッピング・ベア』へ。
私はギルドマスターのナーバです」
「スヴェンと言います。よろしくお願いします」
「キミのことを歓迎するよ?
アリスちゃんから聞いていると思うけど、この街で生活するには大勢が助け合ったほうが良いよね。
ここもそういう目的のギルドの一つ。
皆と仲良くして協力しあうこと。
いいね?」
「はい」
「じゃあキミのギルド称号をつけるけど希望はあるかな?」
「はい! マジックナイトでお願いします!」
「おっけ、おっけ」
ナーバはプレートにカリカリと文字を掘り始めた。
「出来たっ! うちのギルドのタグだから見えるところにちゃんと付けてね」
「はい!」
スヴェンは貰ったプレートを胸の上に付けた。
「手続きはこれで終わり。アリスちゃーん!
彼を今日のお出かけ会に連れて行ってあげて」
「はーい」
アリスは入ってきてスヴェンのタグを見てクスリと笑った。
「MAGIC NIGHT。
魔法の夜…………。
ロマンチックな称号ね」
「え?……え?……」
「さぁ、いきましょう」
スヴェンは彼女に従って小屋の外に出る。
「お出かけ会???」
戸惑いながら彼女の後を見失わないように追いかけるのであった。