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第十四話「大都会の洗礼」

「リン、申し訳ないけど頼みがあるんだ」

「なぁに?」


 スヴェンとリンはこの大陸一番の大都市、王都カルフンガリアの城壁の門の前にいた。

 この街は周囲を城壁で囲まれた城郭都市である。

 そして中にはラード二世の住む城がある。

 ラード二世はこの大陸と周辺の島々を治める君主であり、この街はその中で最大の都市である。


「掲示板に僕の似顔絵が貼ってあるか見てきて欲しいんだ。

 この街でも指名手配されているようなら街に入れないよ」

「ここは王都でラード二世のお膝元よ?

 流石に辺境の島のように赤猫旅団にやりたい放題させてないと思うわ。

 でも仕方がないから見てきてあげるわ。

 これは貸しね」


 リンは街の中へと飛んで消えていった。

 スヴェンは壁にもたれかかって空を眺める。

 この旅は一時の激情と叫びから始まったが、時には冷めることもある。

 もちろん唯一無二の仲間たちを失った事は、何年たっても、回復魔法でも癒えることのない傷をスヴェンの魂に刻んでいる。

 何者にも負けない武力は自分と仲間を守るために必要なのだ。

 ……それが必要な一時だけは……。

 スヴェンは暫くの間思いにふけっていた。

 城壁の中、遠くから微かに声が聞こえる。


「おーーい! 気をつけろスリが出たぞーーー!」

「あいつだ! あいつ巧妙に衛兵の目を盗んで取りやがる!」

「ちっくしょうやられたぁ!」


 (スリが居るのか……大都会は物騒だな……俺も気を付けよう)

 リンが城門から出てきてスヴェンのところへ飛んでくる。


「魔法の夜! 大丈夫よ、ここの掲示板に貼って指名手配をされているのは、赤猫旅団の幹部のキャット一家と女首領メリッサ・キャットよ?

 街は明らかに赤猫旅団を排除しているわ」

「そうか、ありがとう。じゃあ僕も入ってみるよ」

「私は一稼ぎしてくるね?」

「一稼ぎ? …………あ、ちょっと……」


 リンは飛び去っていた。


「やっべ、僕蛮族の一味とたいして変わらないかも……」


 頭を抱えながらスヴェンは街の中に入っていく。

 流石に大都会、街中が人で溢れている。

 鍛冶屋、裁縫屋、料理屋、図書館や良くわからない役所、様々な建物が立ち並ぶ。

 ハンマーの看板が下げられた鍛冶屋の前で全身フルプレートでバシネットを被った男が声をはりあげている。


「武器や防具を無料で修理するよーーー! サービスだよーー!」

「無料!」


 スヴェンは自分のライトプレートとバイキングソードを見た。

 数々の戦いであちこちが凹み、つなぎのチェーンが外れて垂れ下がっている箇所もある。

 剣もボロボロで、刃のいたるところが欠けていた。

 バシネットの男が着ている鎧は綺麗に整備され、「believe(信頼)」の刻印が入っている。


「あ、あの……僕はスヴェンと言います。無料で修理してくれるというのは本当ですか?」

「本当だよーー! 私の事はニコと呼んでね?」

「貴方の付けている鎧は、貴方が作ったのですか?」

「そうだよーー!」


 スヴェンは本来ここで気が付かなければならなかったのである。

 誇りある鍛冶屋が、ディスプレイにする鎧に、自分の名前の刻印をしていないのはおかしいのだ。


「よろしくお願いします」

「剣と鎧ね。確かに預かったよ。キミ服もボロボロだね。一緒に修理してあげるよーー」

「本当? 無料ですか?」

「無料だよーー」


 スヴェンは服も脱いでニコに渡した。

 パンツ一丁である。

 ニコは預かった剣と鎧と衣服を店の裏に持って行き、暫くの間姿をけした。


 (……ん? この鍛冶屋の建物、扉に鍵が掛かっているぞ? Closed?)


 しばらく後にニコは再びスヴェンの前に出てきた。


「武器や防具を無料で修理するよーー! 無料だよーー?」

「あ、あの……。僕の武器と防具の修理は終わったのですか?」

「ん? 僕の武器? 大丈夫。ちゃんと売ったよ?」


 店の裏から荷馬車を連れた人相の悪い商人が歩いて去っていく。

 スヴェンは慌てて追いかけた。


「あの! 僕の武器と防具なんです! 騙されて取られたんです! 返して下さい!」

「ふざけんな小僧! 俺はちゃんと金を払って購入したんだ。それを取るっていうならお前のほうが強盗だぞ! 衛兵呼ぶぞ!」


 スヴェンは戻ってニコに掴みかかる。


「衛兵! 衛兵! いわれなき暴力をうけそうだぁ!」


 二人の衛兵がスヴェンに近寄ってくる。

 スヴェンは悔しそうに手を離した。

 ゴロツキのリンと付き合っていたせいか、この戦いの結末が予想出来たのである。


 パンツ一丁のスヴェンは再び街を歩き、せめて衣服を購入しようとバザーの開かれている場所へ向かった。

 財布やバックパックが取られていないだけまだ救いがある。

 どうせボロボロの武具と服だったんだ。

 マリアさん達と戦った時に分前として貰った金がそこそこあるのだ。

 もっと良い物を買えばいい。


 バザーを歩きまわっていると、ルーン文字の書かれたロングソードを売っている旅人がいた。

 スヴェンは歩み寄って尋ねる。


「凄いね、それ魔法の武器なの?」

「ああ、物凄くレア物の魔法の武器だよ。

 一番強力な付与魔法、バンクイッシュマジックがかけられている最高級品さ。

 遥か遠くの火山地帯の遺跡で手に入れたんだよ」

「値段はいくらなの? 書いてないけど」

「キミはいくら持ってるの?」


 スヴェンは財布を取り出して中身を数えた。


「1322ゴールドかな」

「本当はこれ、2000ゴールド以上の価値があるんだけど、特別に1322ゴールドで売ってあげてもいいよ?

 ただ、他に何か付けてくれるならね」


 スヴェンはバックパックを開いた。

 旅人も中を覗きこむ。


「へぇーー、このバックラーとかワンド付けてくれるならいいよ?」

「これは流石に駄目なんだよ……大切な思い出の品だからね。

 このロッキングチェアも売ったらリンに殺されるしなぁ……」

「……仕方がない。それ以外の全部の荷物と1322ゴールドだ。

 それと君の履いている靴。

 それでこの魔法のロングソードを売ろう」

「……ちょっとまって、僕服も買わないといけないんだ……」

「駄目なら交渉決裂だけどいいの? こんなチャンスは二度とこないよ?」

「……OK! 1322ゴールドとバックラーとワンドと椅子以外の全ての荷物で交渉成立だ」


 スヴェンは交換品と金を一つのバックパックに詰めると旅人に片手で突き出しながらロングソードを手に取ろうとした。


「ちょっと待った! キミが先に荷物を渡すんだ。 ロングソードはその後だ!」

「いやいや、こういう取引では同時に交換が常識だろう?」

「いや! 信じられるか! これはとても高価な品なんだぞ? 君がロングソードだけ持って逃げるかもしれないだろ?」

「そんなことしないよ。 同時に交換すればいいじゃないか」

「嫌だね。信用しない! なんならもうこの取引はやめたっていいんだ」

「……なんて頭の硬い頑固な奴なんだ。取らないって言ってるじゃないか。

 いいよ、先に受け取れよ」


 スヴェンがバックパックを渡すと旅人は魔法のロングソードを掴み、全力で走って逃げた。


「このやろう! 信じられねぇ!」


 スヴェンは追いかけるが旅人はマキビシを地面に巻き、スヴェンはそれを踏んづける。


「いてぇ!」


 旅人は視界から消えてしまった。

 スヴェンはトボトボと近くのベンチに座ってうなだれる。

 蛮族じゃなく、詐欺師達に身ぐるみ剥がされて無一文になってしまった。

 スヴェンは寝込んでしまいそうなくらいに弱り果てて落ち込みうなだれる。。

 一時間ほど動く気も出ず座り続け、既に空は夕焼けに染まっていた。

 その眼の前をリンが大きな袋を担ぎながらホクホク顔で通り過ぎようとした。

 だがスヴェンを見つけると無表情で二度見した後、

 スヴェンから顔を逸らしながら近づいてスヴェンの隣に座る。

 袋から梅干しサイズのリンゴを取り出すと食べ始める。

 スヴェンはリンの顔をちら見した。

 今まで見たことがないくらい、顔を真っ赤にして笑いを堪えてニヤニヤしている。


 グーーーー


 スヴェンの腹がなる。


「食べる?」


 リンがスヴェンに食べかけのリンゴを見せる。

 相変わらず可愛い顔が完全に崩れるほど、目が超笑っている。


「けっ……泥棒の施しは受けないよ!」


 リンは吹き出すのを堪えて非常に苦しみ、自分の中で戦っていたが、スヴェンが心底弱っているのは感じ取っていた。

 心の癒やしが必要である。


「魔法の夜、銀行前で変わった人達が通行人、旅人誰でも歓迎のパーティーを開いてたわよ?

 そこに行ってみたら?

 食べ物くらいにはありつけるわ」

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