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第十一話「巨大ギルド『Hammer and Pincers』」

 スヴェンはダンジョンから抜けだして森の中を進みながら2回ほどキャンプを張った。

 日中にジャングルの中を蔦や草を剣で切り分けながら真っ直ぐ進んでいく。


 【スヴェンは基礎体力が若干上がった】


 上空を飛んでいたリンが何かを見つけたのか、スヴェンのところへ降りてくる。

 リンはスヴェンの頭に座りながら言った。


「街道を見つけたわよ。このまま真っ直ぐに進みなさい。

 あと200メートルほどいけば道に出るわ」

「そうか、リンが居てくれて本当に助かるよ」

「そうそう。その気持を忘れちゃ駄目よ?」

「ただ、せめて横向いて座ってくれないかな。前が見えないよ」


 スヴェンは数分後、ようやく森を抜けて大きな街道に出た。

 地面は整備されているわけではないが、多くの人の足と馬車の車輪で踏み固められて草も生えていない。

 大勢の人々が日常的に行き来している証拠である。

 近くに手頃なサイズの切り株を見つけると疲労の溜まっていたスヴェンはそこに座って休むことにした。

 街道の片方から多数の人の声が近づいてくる。

 スヴェンは見ず知らずの土地、しかも人里離れたジャングルで、知らない人達と出会う事に若干不安を感じていた。

 しかし近づいてくる集団が大人も子供も男も女も混じった賑やかな集団だと分かり、安堵した。

 簡単な武器や鎧を身に着けては居るが、蛮族では無さそうだ。

 全員がハンマーとヤットコがデザインされた印章を身につけており、職人系のギルドの集団であろうことが分かる。


「おや? 誰かあそこに座っているよ?」

「本当だ」


 集団は切り株に座ったスヴェンの周囲を取り囲む。

 一人の前掛けを付けたおばさんが歩み出た。

 スヴェンは緊張しながら声を出す。


「ハーイ」

「初めまして。私は職人ギルド『Hammer and Pincers』のギルドマスター、マリアよ。

 そして彼らはそのギルドメンバーね」

「どうも。スヴェンと言います。頭の上のはフェアリーのリンです」

「若いのに二人だけで旅をしているの?」

「ええ……まぁ色々と事情がありまして……」

「何処へ向かっているのかしら?」

「大陸のはるか西にある魔法剣闘士の集うと言う聖地へ……」

「へぇーー。それとんでもなく遠い場所よ?

 一ヶ月以上はかかるわね」

「知っているんですか?」

「エメラルドマウンテンの麓にあるウシャドナの街ね。

 あなたは見た感じ剣士さんかしら?」

「魔法剣士です」

「まぁ……。私達はこれからギルドの催しでダンジョンへ向かっているところなんだけど、一緒に参加していただけないかしら?

 行く方角は大体同じですし、魔法剣士さんが居てくれると心強いわ。

 催しの後は戦利品を皆で分けるのでお小遣い稼ぎにもなると思うわ。

 それに旅はそんなに慌ててするものじゃないわよ?」

「じゃあ参加しようかな? ただ、今疲れててちょっと休みたいんだ」

「よーし! みなさ~ん! 今から少し休憩にしましょう!

 大工の方々は椅子と机を準備して頂戴!」

「あいよっ!」


 何人かの男が斧とのこぎりをもって森に入り、木を切り倒す音、のこぎりを引く音が即座に聞こえ始める。

 瞬く間に簡易の机や椅子が道に並べられ、ギルドメンバー達が座る。

 机にはいつの間にか皿やコップが置かれて食べ物と飲み物が並べられた。

 スヴェンの眼の前の机にも鳥の丸焼きやエール入りのコップが並ぶ。


「あ! 妖精さんには特別な椅子が必要ね? ちょっと待ってて頂戴」


 マリアは近くに転がっていた余り物の木切れを拾うと、木槌とノミを使って瞬く間にスヴェンの頭ほどの大きさの小さなロッキングチェアを作成した。


「可愛い妖精さんが座るもの。可愛い装飾が有る方がいいわよね?」


 マリアは彫刻刀で目も止まらぬ速さで椅子に優雅なデザインの模様を掘り上げると、ポーチから細かな金属や皮を取り出す。

 瞬く間に芸術的で歪み一つない、リッチなロッキングチェアが完成した。

 まさに「売れる」レベルである。

 技術を極めた熟練職人とは凄まじい物だとスヴェンは感心した。


「ありがとう! わたしこの椅子気に入ったわ!」


 机の上に置かれたロッキングチェアに座ったリンは上機嫌である。

 ……なお、この後ずっとスヴェンがこれを運ばされる事になるのである。

 鳥の丸焼きを頬張りながらスヴェンは尋ねる。


「『Hammer and Pincers』って凄く大きなギルドなんですね。

 こんなに大勢のギルドメンバーが集まるなんて凄いですよ」

「ここに居るメンバーは全体の1割くらいね。

 このギルドは太古の職人の集まりから始まった古い歴史のあるギルドなのよ。

 だから今も昔も当たり前に存在する街の伝統のような存在なの。

 街のみんなが自然と集まっていつの間にか大きくなったのよね」


 森に遊びに入っていた子供が泣きながら出てくる。


「痛いよーー! ハチに刺されちゃったよーー!」

「まぁ大変! ごめんねちょっと見てくるわ!」


 マリアは荷物の中から塗り薬を取り出すと、泣いている子供の所へ走っていった。

 反対側ではスヴェンより少し下の子供二人が棒きれで剣の試合の真似事をしている。

 棒きれが一人に思い切りぶつけられて喧嘩になり、マリアが駆け寄って仲裁する。


「魔法の夜。ギルドマスターって大変なんだね」

「……そうだね。僕には彼女のようなことはとても出来ないな」


 語りながらスヴェンは何故か心の奥がキュッと痛くなる気がした。


「僕は絶対に強くならないといけないんだ…………」

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