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第四十九話「祭壇の上の大波乱」

 イヴァリスはアモイのピッキングでようやく両手両足が自由になり、リンがテレキネシスで運んだフランベルジュを受け取る。

 そして周囲を見回し、その光景に一瞬気が遠のいた。

 生贄の祭壇をびっしりすき間なくドラゴンが取り囲み、壇上の生贄、自分達にいまにも襲い掛かりそうな状況である。

 そんなイヴァリスに阿毘羅王あびらおうが叫ぶ。


「おいそこの娘! わしの縄も解け! そこの豚! お前は手枷と足枷を外すんだ!」


 イヴァリスはフランベルジュを使い、まずラナを拘束するロープを切った。

 その次にマーチン、そして阿毘羅王あびらおうと短髪の女性のロープを切断する。

 アモイはラナの足枷の解錠作業中である。


「豚とか言われて素直にはいと聞く訳がないだろ。おとなしく待つか自力で取ってくれ」


 ***


 一方、スヴェンはアガレスとの戦闘中であった。

 身長5メートルほどの黒い巨体のデーモンと化したアガレスは右左と鋭い爪の付いた腕をスウィングする。

 その威力は常人であれば即死する力とスピードだが、スヴェンは的確に見切り、バックステップを繰り返して後退しながらかわしつつ隙を見てハルバードを打ち据える。


「小賢しいガキめ! 食らえ!」


 アガレスは爆炎の魔法を詠唱し、スヴェンの体が火に包まれる。


「ぐおぉぉぉおお!」


 両手で顔をガードしながら全身から立ち上る炎にスヴェンは耐えた。

 だがすぐにレッサーヒールを挟んで回復する。


「わしの魔法に耐えるか……相当な魔法耐性を身に着けているようだが、いつまで持つかな?」


 ***


 祭壇の周囲を取り囲むドラゴン達は、イヴァリス達にちょっかいを出して楽しみ始めていた。

 一匹ずつ長い首を伸ばして口を大きく広げ、噛み付きを試みる。

 慌てて回避したイヴァリスが、まだ口をパクパクさせてるドラゴンの鼻先をフランベルジュでガンガンと叩き、首を引っ込ませる。


「ラナ!」


 狼狽えて棒立ち状態のラナにイヴァリスが飛びつき、腕で抱えてジャンプしながら滑り込むとそのすぐ背後を別のドラゴンの首が通り過ぎる。


「アモイさん……このままじゃ……そんなに持たない……」

「リンちゃんが呼んで来てくれるはず……頑張るんだ! ああぁ!」


 アモイは3匹のドラゴンが首を少し後ろへ反らし、息を大きく吸い込んでいる姿を見た。


「もう……駄目だぁ……」


 ドラゴン3匹の首から猛烈なブレスが吐き出され、逃げ場のない津波のような業火がアモイ達に迫る。


おん 阿毘羅あびら 吽欠うんけん 娑婆訶そわか! 水鬼よ水の石垣を築けぃ!」


 瞬間的に磯の香りが周囲に立ち込め、イヴァリス達の周囲に空中から水が出現してバシャァと石畳の上で跳ねる。

 そして見る見る盛り上がった水は取り囲む壁となり、ドラゴンのブレスを跳ねのけた。


「や、やるじゃないか……助かったよ」

「ふんっ、だから早く解けと言ったのだ!」


 阿毘羅王あびらおうは自分を拘束していた柱を持ち上げると、それを振り回して襲い掛かるドラゴンの首を打ち据える。


「ん?」


 アモイは祭壇に大きな影が降り周囲が暗くなったのに気が付き、辺りを見回した。

 ラナが上空を指さして震えている。


「物凄く大きいドラゴンが来ます!」

「な、なんだありゃぁ!」


 通常のドラゴンの3倍はあろうかというほどの巨体のドラゴンが凄まじい風を巻き起こしながら祭壇の入り口の階段付近へ舞い降りた。

 祭壇の上でスヴェンと戦いながらアガレスがニヤリと笑う。


「ついに来たか、この島で何千年も生きる太古のドラゴン、古来より数え切れぬほどの生贄を食らい続け、怨念の塊、悪魔の器と化した災いのドラゴンだ!

 奴がお前等と、そこのラナを生きたまま食らう事で我々の力が増す。

 元々わしの産みの親とも言える存在。

 取引に正午を選んだのはこのためだ!」

「まともに取引に応じるわけが無いとは思ってたよ」


 スヴェンは横から不意打ちで顔を出すドラゴンをジャンプしてかわし、頭を踏み台にして飛び上がるとアガレスにハルバードで切り付ける。

 だがアガレスも開いた傷口を即座に魔法で塞ぐ。


「いずれにせよ、お前等はここで終わりだ」


 アガレスはスヴェンの方へと一歩踏み込んだ。

 突如パキィィンという音が響き、スヴェンとアガレスがそちらに目をやると地面に落ちた鎖付きの手枷と足枷がジャラジャラと音を立てて転がっていた。


「ホゲェッ!」


 気が付くとアガレスは側頭部から猛烈な回し蹴りを食らっていた。

 凄まじい威力にフラフラと横へ倒れ、手を付いて起き上がる。


「な、何者……」


 アガレスが振り向いた先に立っていたのはイヴァリス達と一緒に捕らえられていた短髪の女性であった。

 女性の顔は恐怖の表情のまま不気味に歪み、口が裂けたかのように大きな笑みを作っている。

 女性は頭を後ろへ仰け反らせると、小さなスクロールを口から吐き出した。

 そしてそれを開いてアガレスに見せる。

 そこには精巧な女性の似顔絵があった。

 年齢は17、8。

 高貴な身分であろうアクセサリを耳や髪に付けている。


「ど、どこかで見たような……」

「ピッテナー島の邪教の司祭アガレス……お前は『恐怖の申し子』に魅入られた。

 お前にはもう『明日』は無い。

 残されたのは『恐怖』と『苦痛』と『終焉』だ」


「ふん、この状況、この場所で、この深淵の王を前にしてよくもそんな口を……」


 短髪の女性は両手をグーにして胸の前でクロスさせた。

 突如横から大口を開けて飛び出したドラゴンの口撃をかわすと脳天に一発パンチを打ち込む。

 女性の拳はドラゴンの脳天を貫通し、肘あたりまでが潜り込む。

 女性がゴリッと手を動かすと、ドラゴンは目玉をグルグルと回し、眉間を痙攣させながら動かなくなった。

 そしてまるでドラゴンの生気を吸い取ったかのように、女性の体を魔法の力が包む。


「なんだと……」


 別のドラゴンが女性に襲い掛かるがこれもかわして再び拳を打ち込む。

 ドラゴンは死に、女性の体を覆う魔力の密度がさらに高まった。


「難破した輸送船に乗っていた娘……たしか王族の娘を生贄にしたがその復讐……、貴様はアサシン……」


 アガレスが全てを言い終る前に女性の体は消えた。

 そしてアガレスの後頭部に出現し猛烈な威力の蹴りを放っていた。

 蹴りはアガレスの後頭部をえぐり、黒い肉と緑の血が周囲に飛び散る。


「き、貴様ァ!」


 アガレスは魔法で傷を治癒すると短髪の女性の方へと向き直る。

 スヴェンは驚きながらその様子を見ていたがすぐにアモイ達の方へと向き直る。


「なんだか良く分からないがチャンスだ。今の内に皆を助けなくては!」

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