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黒龍神話  作者: 小池 洋子
第1章 永望帝 梨花
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1-7話 妖つき(3)

 新年が過ぎ、ようやく春らしい日が差すようになったある日、白龍の公子がはしかにかかった。

「光栄公子は大丈夫だろうか・・・。」

 一の妃は光栄公子の心配をしていた。白龍公の公子とは一緒に過ごしている時間も多い。

「はしかは、よく子供がかかる病気ですから・・・。そんなにご心配なさらなくても・・・。」

 采女官はそう言ったが、内心では非情に心配していた。白龍公の公子は元々、虚弱体質なせいか、中々回復に向かわず、高熱が続いている。医官らが慌しく出入りしているのが気になってはいた。

 王様も状態は良いらしいのだが、病状は確実に進んでいるのだという。二の妃も宮に入ってから寝たり起きたりを繰り返している。

 宮の中には色々な噂が飛び交っていた。二の妃の妖が何か悪さをしているのではないかとか、どこからか病気の元を持ち込んだ者がいるのではないかとか、赤川の兵の亡霊の仕業だろうなどという物だった。

 ソクリは落ち着いてはいたのだが、新年早々から梨花の具合が悪くなり、少し回復の様子は見せているものの、御医はいつまで持つかという話を口にするようになっている。

 そこに白龍の子供の病気、二の妃も寝たり起きたりの繰り返しで、気持ちが休まる時間は全くない。唯一元気なのは光栄公子だけでだった。

 数日後、白龍の公子は回復せず、そのまま亡くなってしまった。


 葬儀の席で白龍の妃はソクリに何故、二の妃を寄こしてくれなかったのかと食って掛かり、そのまま気を失った。隣に居た、白龍も同じ視線をソクリに向ける。昔によく感じていた悪意の視線は、ソクリを暗い気分にさせた。


 葬儀の最中、ソクリは光栄の具合が悪いという連絡を受けた。自分は中座する事はできなかったが、妃はすぐに光栄の元に向かった。

「はしかでございます。妃様。」

 診察していた張医官が妃の顔を見て言う。

「ああ、そんな・・・。」

 妃は泣き崩れた。

「妃様、そんなに心配はいりませぬ。公子様は確かにはしかでございますが、症状は重くありません。」

「そうなのか?」

「はい、数日で回復されましょう。」

「本当に大丈夫なのか?」

「はい、熱も高くはございませぬ。」

 張医官は薬を処方し、妃に光栄公子の食事について注意をした。回復するまでは、肉、魚に卵などは避け、雑穀の粥だけでにするようにという事だった。

「精のつく食べ物が必要ではないのか?」

「熱が下がれば、そのように致しますが、発心が出ている間は、食事は雑穀の粥だけにして下さい。」

「山菜やわかめなどは、どうだろうか?」

「そういうものは大丈夫です。それと、妃様ははしかは掛かっておられますか?」

「子供の頃に・・・。」

「でしたら、ここにお出でになっても大丈夫です。大人がかかると重篤になりますから、女官などもかかっていない者はここには入れぬ方がいいでしょう。」

「分かった。そうする。張医官、子供の病気について詳しく書かれた書物が読みたいが、書庫にはあるか?」

「采女官がお持ちでしょうから、ご相談なすって下さい。我の所にもございますが、専門的な内容なので、難しいです。」

「分かった。」

 駆けつけてきたのが張医官だったのが気になる所ではあったが、宮医は皆、白龍の公子の看病で皆疲れが出ていて、休んでいるからという事だった。


 妃は医女と女官に光栄の世話を頼み、自分の宮に帰ると、采女官の持ってきた本を読む。確かにそれにも、はしかは体に精のつく物を食べると重篤になる事が多いと書かれている。

「今、光栄の所へ寄ってきた。」

 夕方になるとソクリが姿を見せた。

「そうでございますか。張医官によると、光栄のはしかはさして重くはないという事でございます。」

「心配しておるのか?」

「それは、そうでございます。」

「まあ、だが、光栄の様子は白龍の公子とは大分違うからな。」

「そうで・・・ございますか?」

 光栄公子がはしかに伝染するといけないというので、妃は一度も白龍の公子の部屋には見舞いに行っていない。

「白龍の公子は、最初から何と言うか・・・。様子がはしかとも思えなかった。」

 ソクリは一日に一度は様子を見に行っていたのだが、初日の夜中にはひきつけをおこして失神し、その後はぐったりしてしまって、粥も満足に食べられなかった。

「医女がついておるし、そう心配するな。」

「はい。」

 ソクリは妃が読んでいたのが医書だというのに気づいた。

「では、行く。」

「これから二の妃の所へ行かれるのですか?」

 一の妃ははっとして、口に手をやる。

「今夜は泊まらぬよ。白龍の公子が病気になってから、ずっと寝込んでおるので、様子を見るだけだ。」

「そうで、ございますか。養生するようお伝えください。」

「分かった。」

「あの、一つだけ聞いてもよろしゅうございますか?」

「何だ?」

「白龍公は二の妃を、お呼びになられたと聞いておりますが、本当でございますか?」

「ああ、二の妃に伝えはしたのだが・・・、光栄の魂が呼んでおらぬので行けぬと・・・。」

「そうでございますか。」

 一の妃の寂しそうな視線を背中に感じながらも、ソクリは二の妃の宮に歩いて行った。

<私には光栄がいる。>

 一の妃は心の中で何度も繰り返しながら、震える手で本を押さえていた。


 二の妃は連絡を受け、起きてはいたのだが、顔には血の気が感じられない。

「寝ておればよいのに。」

「殿下がいらっしゃるのに、寝てなどいられません。」

「気にするな。」

 そう言いながら、体を抱き、暫くそうしていた。

「梁公とも話しをしていたのだが、少し、実家で静養した方がよくないか?」

「大丈夫です。神官様もそう言っておられたではありませぬか。」


 新年になってすぐ、王様は神官に王室の今年の運勢を占わせた。それによると、今年は王様が運勢の良くない三年の最後の年に入り、白龍も同じ年運、ソクリは運勢その物は悪くはないのだが、気持ちが乱れる年になるという。白龍の妃はやはり気持ちが乱れる年となり、運勢が良いのはソクリの妃と二の妃だけとなるというのだ。

 しかし、二の妃は宮に入った途端に体調が優れなくなった。それについて神官は、魂の中で変革が起きているからだと説明し、今年中には変革が終わるはずだと予言した。

「この頃、神官の予言やら、天の言葉やらに、やたらに振り回されている気がするぞ。」

「今までは、お耳に入ってもすぐに抜け出てしまってただけの事。殿下は今までも、何となく、それに従ってはこられたのです。」

「そうか。」

「殿下は顔色が随分と良くなりました。」

「そうだな。」

 二の妃が来てから、ソクリの食事事情は一変した。

<宮を護衛なしで抜け出そうとするから、問題になるのですわ。>

<では、どうしろと?>

<堂々と正門からお出になればよろしいのです。>

 抜け出すのが大変だと二の妃に言うと、適当に誰かを誘い、飲みに行くと出かければ何も問題は起きないはずだと、くすくすと笑いながら言った。

 本当にそうかと試してみると、以外にも簡単だった。流石に護衛兵は酒を飲まないが、食べるのは一緒でも構わないらしい。黄凜も一人で抜け出されるよりマシだという所で、文句も言わない。

 こんなに簡単な事だったかと、ソクリも笑いが出る位だった。


 翌日の朝、張医官は光栄の診察をする。解熱の薬を処方したにも関わらず、前日より随分と熱が上がってしまっている。はしかならそういう事はないはずで、他の病気を疑ってみる必要があると感じた。

「昨日より熱が出ている気がするのだが、どうじゃ?」

「確かに、お妃様のおっしゃる通りです。他の医官とも相談致します。」

「他の医官に相談せねばならぬ程、悪いのか?」

「はしかに間違いはないと思いますが、私は軍医ですから、専門は傷の手当なのです。お妃様。また、王室のお子様方の手当てにもあまり慣れておりません。」

 張医官は昨日は一般的な薬を処方したのだが、薬は種類があるし、症状や順番、与える時間によっても効き方も違うのだと説明した。

「そうか。そういう事もあるのか。」

 張医官は他の病気を疑っているという事は妃には言わなかった。張医官は医務官の執務室へ急いだ。宮医に症状を説明し、意見を求める。

「はしかと、水疱瘡は初期症状が似ているが、水疱瘡ではないのか?」

「水疱瘡ですと、発心に膿が出ますが、公子様の発心には膿みはありません。」

「そうか。では、少し様子をみるしかないな。大人と違って、あまり強い薬を使う訳にもいかない。」

「そうですね。」

 そもそも張医官が光栄公子を診察したのは、他に医官がいなかったからで、余宮医が担当する事にし、宿直明けの張医官は帰宅した。


 翌日、張医官が出仕すると、医務官の執務室は緊張官に包まれていた。光栄公子の熱は昨日は下がらず、夜に飲ませた薬を戻してしまい、夜中にはひきつけを起こし、そのまま気を失ったという。

 ひきつけに関しては鍼で対処し、今は症状は出ていないが、王様の診察に行った御医がそのまま光栄公子の宮で診察しているという事だった。

 御医は診察から戻り、張医官に光栄公子を担当するようにと静かに言った。

「私の処方に何か間違いがありましたでしょうか?」

「いや、特にこれという事はないが・・・、公子様の粥に卵を入れるように言ったか?」

「はい、それが何か・・・。」

「あまり知られてはいないのだが、体質にもよるが、はしかに卵は良くない。その事を妃様はご存知で・・・。信用を失ってしまったようだ。そもそも、光栄公子様の元に駆けつけるべきは張医官ではなかったはずだ。」

 それはその通りだった。しかし、余宮医は他の宮医と共に白龍公の公子の看病をしていたせいで、疲れがたまっていた。光栄公子の具合が悪いと女官が呼びに来た時、余宮医は頭痛がして、張医官がいた薬房で少し横になっている所だった。張医官が行ってくれるというので、そのまま代わって貰ってしまった。

「人だからな、体調が悪い時もある。しかし、今回はまずかった。妃様の信頼を失ってしまったぞ。」

 信頼を回復するまでは、子供の手当てに慣れていない張医官の補佐をしながら、光栄公子の看病をするようにと御医は命じた。

 他の病気を疑っていた張医官は御医もはしかで間違いないと言ってくれるとほっとした。しかし、薬に関しては他の処方の方が良さそうだという意見で、張医官は早速、その薬を処方すると、光栄公子の宮へと運んだ。


「来てくれましたか。張医官。」

「薬をお持ちしました。」

 張医官が薬を飲ませる。大分ぐったりしている様子が気になったが、今が峠というのが見て取れる。

「熱が下がらぬ。」

「はしかの熱は最低でも三日は続きます。」

「そうなのか?」

「はい。」

 妃は張医官に説明を求めた。張医官は一般論としての説明をすると、納得したようだった。余宮医もはしかに卵はあまりよくないと知ってはいたのだが、粥も量を召し上がれぬでは体力が持たないのではと、少し粥に入れてみたのだった。

 ひきつけを起こした後に妃にそれを問い詰められ、ちゃんと自分の意見を言わなかった事と、事前に相談しなかった事が問題だったらしいと張医官は感じた。

「光栄公子を失ったら、私は生きては行けぬ。」

 光栄公子の手を握りながら、妃は涙を流す。

「今が峠でございますから、私がついております。」

 妃も体が弱っているように感じた張医官は、ちゃんと食事をして、少し眠るなりした方が良いと言うと、妃は乳母だった女官に連れられて、光栄公子の部屋を出た。

「はしかにしては、少し重篤に思えるが・・・。」

 采女官が張医官に言う。

「確かに・・・。はしかでここまで熱が上がる事は少ないです。しかし、御医によると、王室のお子様方は熱が出やすいとか・・・。」

「何か理由があるのかの?」

「すぐに手当てして貰えるので、賤民などより、自己回復力が弱いと言っていました。その理論からすると、この熱は普通だとか。」

「そうか。それならばいいが・・・。白龍公の公子様もお亡くなりになられた事だし、王様も神経質になっている。頼むぞ。」

「はい。」


 その日、真夜中を回った頃、二の妃は夢の中で緑色の光を見た。その淡い光はふわふわと自分の周りにまとわりつき、何かを訴えてるようなのだが、言葉は聞こえない。

 緑の光は二の妃の側を離れると、かなたに見える白い光に向かって飛び始めた。

<光栄公子を助けて。>

 白い光から一の妃の声がして、二の妃ははっと目覚めた。

「誰か、着替えを持って来て。」

 真夜中ではあるが、外には女官の美和が控えていた。二の妃は急いで着替えると、光栄公子の宮へ向かった。


 光栄公子の宮の中で付き添っていた張医官は、何故こんな時間に二の妃がここに現れたのか、不思議だった。

「一の妃様も、もうすぐ参られる。」

 女官は張医官の隣に椅子を運ぶ。

「何故です?」

「私がお呼びした。」

 一の妃は着替えもせず、寝巻きの上に羽織物をした姿で光栄公子の宮に姿を現した。ひどく取り乱している。

「おお、光栄公子。どうしたの?」

「大丈夫です。一の妃様。お呼びしたのは私です。」

「何があったの?」

「光栄公子様が私をお呼びになりました。ですが、私では力が足りないので、一の妃様をお呼びしたのです。」

「どうしたらいいの?」

「光栄公子様の手を握っていて下さい。」

 二の妃は光栄公子の頭を抱くように寝台に自分の頭を乗せた。暫くすると、光栄公子の周囲の蝋燭の炎が揺らめきだす。張医官は少し離れた場所の椅子に座っていたが、めまいがするように周囲がゆらめいていると感じていた。

「張医官、外に出ておってもよいぞ。」

 近くで立っている采女官が耳元でささやくように言う。

「二の妃様は何をしておられるのでしょう。」

「恐らく、魂の世界で何かしておられるのよ。この部屋の中は今、あの世とこの世の両方に存在しておるのかもしれぬ。」

「はあ。」

 采女官はよく真っ直ぐに立っていられるものだと張医官は感じたが、その場を離れたくなかった。人でない力を間近に見る機会など、もうないかもしれない。


 その時間はひどく長く感じたが、実際には一時間も掛かってはいなかった。

「もう、大丈夫です。お妃様。」

 蝋燭が一瞬消え、また光だすと二の妃が一の妃に言う。

「張医官、診察をお願いします。」

 二の妃は椅子を立ち、その椅子に座って張医官は光栄公子の脈を取った。先ほどより、随分と安定している。熱も下がりだした。

「そうか。ありがとう。二の妃。そなたが来てくれなかったら、どうなっていた事か・・・。」

 一の妃が二の妃に向かって言った途端に二の妃が気を失った。外にいた二の妃の女官を呼ぶ。

「目を覚ますのです。二の妃。」

「大丈夫です。一の妃様。術をお使いになって疲れがでたのでしょう。」

 今夜の事は内密にしてくれと女官は言い、自ら背負って二の妃の宮殿へ戻って行った。


「何があったか言えっ。」

 二の妃についている女官の美和は、ソクリの怒鳴り声で耳が割れそうになった。今まで、こんなに怒られた事はない。怒らせると怖いと聞いてはいたのだが、予想以上で、背中に変な汗が出て止まらない。

「ですから・・・先ほども申しましたように、二の妃様は光栄公子様を見舞われたのですが、長い時間ついておられたので、お疲れになったのでございます。」

「もう、丸一日以上だぞ。疲れただけではないだろう。」

「お疲れになっただけでございます。」

「嘘を言うなっ!」

 怒鳴り声は部屋の外まで響いていた。采女官から連絡を受け、駆けつけた梁公は、怒るのも無理はないかとため息を着きながら、内官に殿下と面会したいと伝える。

 内官も怖いのか中には入らず、外から梁公がお見えになっていると大きな声で言う。

「入れ。」


 梁公は部屋に入ったが、ソクリの体から黒い炎のような物がゆらめいているように見え、一瞬足が止まった。

「殿下、私が詳しい話を聞いてまいりましたので、女官はお返し下さい。」

「梁公、聞いた話を聞きたいのではない。聞きたいのは事実だけだ。」

「以前にもあった事でございます。」

「以前にもあった?」

「はい、大きな声では申せない事でございますが・・・。」

 ソクリが内官に視線をやると、内官は外にでて扉を閉めた。外からは女官に下がるよう言っている声が聞こえる。

「兵も下がれ。」

 ソクリは外に向かって言う。兵が遠ざかる足音がわずかに聞こえた。

「これでよいか?」

「はい、女官を下がらせてもよろしゅうございますか?」

「それならなぬ。まだ聞きたい事がある。」

「分かりました。殿下、二の妃様が光栄公子様に呼ばれて、見舞いに行ったというのは事実でございます。」

「それは分かっている。護衛の兵が真夜中に二の妃が光栄公子の宮に行ったといっていた。」

「恐らく、小さな魔を祓ったのでございます。小さな魔は二の妃に憑いている妖の餌になるようで・・・。腹いっぱいになったので、満足して眠っているという事でございましょう。」

「妖が満足して眠っておるので、二の妃が目を覚まさぬというのか?」

「はい、以前にもございました。ですから、あまりご心配なさりませんよう。それに、もうすぐ、目を覚まします。」

「何故分かるのだ。」

「女官が食事の用意をさせておりますゆえ。」

「まだ、眠っているのに・・・か。」

「もうすぐ起きると思ったのだろう。」

「はい、旦那様。」

「そうか・・・。」

「女官を下がらせてもよろしゅうございましょうか?」

「ああ、もう良い。」

「あの、殿下、お伝えしたい事がございます。」

 女官が小さな声でソクリに言う。

「何だ?」

「二の妃様は御医の診察が必要に思います。」

「どこが悪いというのだ?」

「あの・・・恐らく、ご懐妊かと・・・。」

「懐妊・・・なのに、二の妃がはしかを患っている光栄公子の元へ行こうとするのを止めなかったのかっ!」

「お怒りを、鎮めて下さい。殿下。美和、行ってよい。」

 女官は礼をすると、逃げるように出て行ってしまった。

「二の妃は病にはかかりませぬ。」

「それも妖の力だというのか?」

「はい、普段は二の妃の体に入り込もうとする病魔を餌としているのだとか・・・。」

「ふーん、病魔を餌ねえ、皆にそういう妖がついておれば、病気になどならぬのかもしれんな。」

「良い事ばかりでもございません。二の妃が宮に入ってから寝たり起きたりという事をしていたのは、妖が原因でございます。宮は色々な思惑を持った人の心が渦巻き、妖が暴れるのだそうで・・・。夜になるとよく眠れないので、昼寝をしていたのでございます。」

「本当にそれだけか?」

「食欲が出ないのもございますが・・・。」

「ふうっ、そういう事なのか・・・。昼間に行くと、いつも眠そうな顔をしていて。そうだ、あの女官、あの娘も力を持っているという事だな。」

「そうでございます。」

「人外の力など持つ者がそうそういるとも思えぬが・・・。」

「殿下が思われているより、数はおります。ありていに言えば、我が家の使用人は全員、何がしかの力がございます。」

「全員? そういう者を探して雇っているという事か?」

「いえ、まあ、そのような力を持った者というのは、親にも嫌われたり致します。理解してくれぬ者らの中では普通に生活できぬので、子供の頃に引き取ってそのまま務めております。」

「ふーん。二の妃の女官として宮に入れたのは、何か意味があるのか?」

「宮に入れるというのは、思ってもおりませんでしたが、僧をしております私の兄が、あの子は二の妃様の側に置くようにと、そう言っておりましたので・・・。」

「分かった。しかし、二の妃がそういう力を持っているのは、知っておる者も多いだろう。さほどに隠さねばならぬ事なのか?」

「力で病を治せるなどと思えば、大勢の人が群がるやもしれませぬ。小さな魔を祓ってやれば直る病人がいるなら、そうしてやれば良いと思われるかもしれませぬが、妖は魔を食べて成長するのです。大きな力を持つ妖となれば、体を欲して二の妃の魂を乗っ取るやもしれませぬ。それに、二の妃様の妖は小さき物にて、大きな魔は食べられませぬ。食われてしまえば、二の妃様が命を落とします。」

「分かった、十分気をつけよう。」

「ご理解いただき、安堵致しました。」

「残る問題は、懐妊という事だけだな。どう思う?」

「さあ、どうなる事やら・・・。」

「白龍の立場が弱くならねば良いが・・・。」

「林公とも色々話し合っておきます。」

「そうしてくれ。」


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