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Guitarist Bobby

ちょっと感傷的になったクリスの前に立つ人影があった。ティーンエイジャーの少年とその母親らしい女性だった。

知り合いではなかったがクリスの鼓動は早まった。


「パパ?」


その女性と40年前、妻に抱かれて無邪気に小さな手を振って別れた幼い娘の姿が重なった。


「ドロシーか?」


別れた妻に今回のライブの招待状は送っていた。だけど返事はなかった。


「パパ、会ってみたかったわ」


状況が判断できないクリスは化石のように固まっていた。


「パパ、ステキだったわ。この子がね、友達とロックバンドやってるの。ママからライブの話を聞いてからずっとボビーは動画サイトでロートレックを見ていたわ」


「ボビー? ボビーっていうのか?」


「この子が生まれたとき、ママが『パパの大好きな名前だから』ってすすめてくれたの」


クリスは孫のボビーの顔を見つめた。はにかんだシャイボーイがうつ向きながらつぶやいた。


「バンド仲間に自慢したんだ。俺のおじいちゃんはロートレックのボーカルなんだぜって」


恥ずかしそうに孫は上目づかいで彼のおじいさんを見た。


「ボビー、バンドでは何をやってるんだい? ボーカル?」


「いいえ、ギターです。いつかおじいちゃんみたいなプロになりたいんだ」


「ボビーっていうのは天才ギタリストになれる可能性のあるすばらしい名前だよ」


そう言いながら、クリスは若いギタリストのボビーをハグした。

そして娘をもっともっと強くハグした。


『ありがとうリタ、そしてすまなかった』


別れた妻に感謝し、そして謝罪するクリスだった。


伝説のロックバンド、ロートレックの一夜限りのライブは集まった世界中のファンを40年前にタイムスリップさせ、5人のメンバーの心を再び結束させた。

そしてクリスを、愛する娘ドロシーと孫のボビーにめぐり逢わせてくれた。


ほどなくインターネット上に事務所非公認のロートレックファンサイトが開設された。

「ロートレックの次回ライブを実現させるサイト」管理人はKING ARTHURと名乗っていた。


「パパったらアーサー王を冒涜してるわね」


シンディがあきれたように肩をすくめた。


「いいじゃないか、確かに1回限りでやめるのはもったいないよ」


とイーサンが笑った。


オフィスでクリスも「ロートレックの次回ライブを実現させるサイト」を苦笑いしながら見ていた。

かなりの賛同するコメントが続いていた。

その中のひとつにクリスの目が釘づけになった。


「おじいちゃんのかっこいいライブをもう一度見たい」Guitarist Bobby


思わずクリスの顔がほころんだ。音楽事務所の社長の顔ではなく、バンドのリーダーのそれでもなく、ひとりの普通のじいさんのしわくちゃの笑顔だった。

そしておもむろにスマホを取り出すと電話をかけた。


「Hello、 ジョーイ。レイクにも伝えて欲しいんだ。僕たちまだまだ演れると思わないかい?」


思いっきりビジネスに私情をはさむ気まんまんのクリスからの電話にジョーイは吹き出した。


「クリス、キミって最高!」



END



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