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Bobby

イーサンはシンディという申し分のないパートナーを得た。いつか二男のエヴァンも素晴らしいガールフレンドを連れてくるんだろうなとその頃のレイクはひそかに期待していた。

しかし、エヴァンが結婚したいと連れてきた恋人はマッチョな黒人男性だった。

エヴァンの勇気あるカミングアウトをきっかけに、ついにレイク自身のバイセクシュアルであった過去も家族の知るところとなった。

そしてロックバンド、ロートレックの再結成に向けてレイクは40年ぶりに元のボーイフレンドであるドラマー、ジョーイと一緒に暮らし始めた。


という事実をシンディから知らされたアーサーは驚かなかった。


「パパは知ってたの? レイクとジョーイさんのこと」


「そりゃあ僕は自称、最も熱心なファンのひとりだからね。ベルリンでのジョーイの転落も事故じゃないことは当時のファンの一部は知っていたよ」


「そうだったの。私よりパパの方が詳しそうね、レイクのこと」


「レイクはサポートメンバーに抜擢される前からロートレックのメンバーと行動をともにしていたんだ。裏方という言い方は失礼だがスタッフとして。そしてジョーイとの関係はバンド内では公認だったんだと思う」


20代だったレイク・ギルバートはボーイフレンドのジョーイが属するロートレックのスタッフとしてバンドと行動をともにしていた。

もともとギタリストだったレイクはボビーの代理演奏を任される機会が多くなった。もちろん表にでることはなく、あくまでも「ゴースト」という立場でのプレイだったが。


ドラッグのヘビーユーザーだったボビーは日によって神がかった演奏を披露することもあったが、ドラッグが切れかかると一日中眠り続けたり、激しい脱力感や不安感に苛まれることが多くなった。ミーティングやレコーディングをすっぽかすことも度重なった。

リーダーのクリスやメンバーからもドラッグをやめるように常に言われていたが簡単にやめられないのがドラッグで、その魔力はボビーの心と体をどんどん蝕んでいった。

実際、ドラッグの力を借りたボビーの早弾きは神か悪魔が乗り移ったようだった。


「パーフェクトな成果のためなら命さえ惜しまない」という、ミュージシャンやアスリートが陥りがちな危険で自己中心的な信念がボビーからドラッグを切り離すことを拒んでいた。


「ボビー、最後通告だ。ドラッグから足を洗ってくれ。ドラッグなんかに頼らなくてもキミのギターは素晴らしいことはみんな知っている」


クリスがレコーディングに穴を開けたボビーに告げた。


「レコーディングは最高の状態でやりたかった。頼むクリス。僕は今以上の高みを目指したいんだ。現状では満足できないんだ」


ボビーが苦しそうに言った。


「ドラッグはやめてくれ。社会的にも許されない。メジャーになれた今、ジャンキーなメンバーを排除するという決断を僕にさせないでくれないか? 専門施設での治療が必要なら僕たちは待つよ」


クリスの説得にもボビーは耳を貸さなかった。


「僕を追放してレイクを入れたいんだろ? ルックスもいいし、なんてったってジョーイのお気に入りだからね」


「ボビー!! いい加減にしてくれ!」


「あはは、ジャンキーでいろんな意味で邪魔な僕を追放するんだな。そしてbaby faceのギタリストを入れてアイドルグループでも目指すのかい? そんなロートレックなんてごめんだね。こっちからお断りだ」


その夜、ボビーが運転するスポーツタイプの車が街路樹に激突クラッシュして若き天才ギタリストは夭逝した。ドラッグのオーバードゥーズ(過剰摂取)による事故と見なされたが、自殺説もささやかれた。


ドラッグをやめるかバンドを去るかという最後通告がボビーを追い詰めたという自責の念は、その後リーダーのクリスを苦しめることになるのだった。そしてその事実はサポートメンバーとしてバンドに参加することになったレイクに知らされることはなかった。



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